)” の例文
でっぷりえた中年の人間が——倉庫係のおじさんだ——ぼくたちのぎっしりまっているボールばこを手にとって、ふたを明けたのだ。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
それが、日数ひかずがたつにつれて、それらの野菜やさいは、ふとったり、また、まるまるとえたり、大粒おおつぶみのったりしましたからね。
公園の花と毒蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
日頃はその汗をすらかくことのない生活に馴れているので、体は贅肉ぜいにく脂肪しぼうに富み、四十を過ぎてからは、目に立ってえていた。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
室に入りて相対して見れば、形こそもとに比ぶればえてたくましくなりたれ、依然たる快活の気象、わが失行しっこうをもさまで意に介せざりきと見ゆ。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
君長は卑弥呼を見ると、獣慾に声を失った笑顔の中から今や手をのばさんと思われるばかりに、そのえた体躯たいくを揺り動かして彼女にいった。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
汝の願ひの一部は滿つべし、そは汝けづられし木を見、何故に革紐かはひもまとふ者が「迷はずばよくゆるところ」と 一三六—一三八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
少しづつさうした眼力がえてゆく事も淋しいとも思はずにゆき子は高見に立つて、富岡を見くだしてゐる気位を示してゐた。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
そのころの人たちは、この湖が、えたゆたかな平野を大きく占領せんりょうしているので、その水をしてしまって、そこにはたけをつくろうとしました。
出て来たのを見ますと、その署長というのはえた、薄い髪の、むっつりとした人物で、——つまりこんな場合にいちばん剣呑けんのんなしろものなんで。
花茎かけいは一株から一、二本、えた株では十本余りも出ることがある。そして濃紫色のうししょくの花が、いつも人目ひとめくのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
彼女の性格を朧気おぼろげながら見抜くように、彼の批評眼がだんだんえて来た時、彼はそれもまた彼女の空想から出る例の法螺ほらではないかと考え出した。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しんぶつにきがんをかけましたせいか、いや、あながちに、そのせいばかりでもござりますまいが、そのころおくがたはおい/\におえあそばされ
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私はあぶらぎってえていた先生の体格が、この強い確信を燃えたたしめる素質となっていたのだと思っている。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
三坪程の木小屋に古畳ふるだたみを敷いて、眼の少し下ってあぶらぎったおかみは、例の如くだらしなく胸を開けはだけ、おはぐろのげた歯を桃色のはぐきまで見せて
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「何だ失敬な、社会のとみを盗んで一人の腹をやすのだ、の煉瓦の壁の色は、貧民の血を以て塗つたのだ」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
びっくりするほどよくやした上、今は兄のものになっている井筒屋の田地のうち、小作をさせない分の土地を本当にめるように大事に耕していたのです。
背が低い上に、肉が垂れ下る程もデブデブえ太っていて、その上傴僂で、背中に小山の様なこぶがあるのだ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
天高く馬ゆといった注文通りに、一方には海闊うみひろくという偉大な景物を添えているのだから、二人の気象も、おのずから昂然として揚らざるを得ないような有様です。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
元来、病弱なその同僚も、近頃はえてしんから健康になったと自分事のように自慢してきかせた。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
さるいしの渓谷は土えてよくひらけたり。路傍に石塔の多きこと諸国その比を知らず。高処より展望すれば早稲わせまさに熟し晩稲ばんとう花盛はなざかりにて水はことごとく落ちて川にあり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
えたるあご二重ふたへなるなど、かゝひとさへあるにてれは二心ふたごゝろちてむべきや、ゆめさら二心ふたごゝろたぬまでも良人をつと不足ふそくおもひてむべきや、はかなし、はかなし
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「あれは満州の阿片アヘンでしこたまもうけた。軍を使って、阿片の密培地をおさえさせて、砂馬はそれで私腹をやしておきながら、しかも軍から信用されている。あいつはずるいやつだ」
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
だが、あとで手間を取らないように、君はそのあいだに餌を掘っていたらいいよ。ミミズは土にやしがまるでやってないこの辺ではなかなか見つからないよ。ほとんど根だやしだ。
この機会きかいに乗じてみずから自家じかふところやさんとはかりたるものも少なからず。
銀座か新宿——もっとも当時の新宿は甲州街道で、お百姓と馬方うまかたやし車と蠅の行列だったものだが——とにかく女給かダンサーにでもなって華やかな日を送りたいという心掛けだから
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
色黒くまゆ薄く、鼻はあたかもあるが如く、くちびる厚く、まなじり垂れ、ほゝふくらみ、おもてに無数の痘痕とうこんあるもの、ゐのこの如くえたるが、女装して絹地に立たば、たれかこれを見て節婦とし、烈女とし、賢女とし
醜婦を呵す (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ほおのあたりがえて、眼にはやさしい表情があった。けれど清三の心はもうそれがために動かされるほどその影がこくうつっておらなかった。ただ、見知みししの女のように挨拶あいさつして通った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
豊かにえたかたをむきだした洋装の、だぼ沙魚はぜみたいなお嬢さんが、リイダア格で、「サインして下さいよう」とサイン帳をつきだすと、あとは我も我もと、キャアキャア手帳をつきつけます。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
『愛のこもれる草の食事は、憎惡のじれるえたる牡牛をうしのそれにまさる。』
チベットに居た時分は余程えて体格も丈夫であった。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
老爺ぢいさん、此頃このごろ莫迦ばかげてえた
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
ひるの御飯はえるやうに食べる
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「まあ、お前はえたねえ。」
三十三の死 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
真白ましろなる大根の根のゆる頃
一握の砂 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
やしたのによ
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
丁度ちょうどそのときであった。金博士の頭を目がけて、一匹の近海蟹がざみのようによくえた大蜘蛛おおぐもが、長い糸をひいてするすると下りてきた。
狐狸こりのわざにはあらず。からにしたものは三ぺいなり。うま、留守ばんにあずけおく。こんど通過の折まで、よく草を喰わせてやしおくべし。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たがやすのにもってこいの、よくえた土地で、山というようなものは、ほとんどない。見わたすかぎりが、平地なんだ。
汝はさきにわが「よくゆるところ」といひまた「これと並ぶべき者生れしことなし」といへるをあやしみ 二二—
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
私は、彼等の一人一人を、その容貌の代りに、肌触りによって識別することが出来ます。あるものは、デブデブとえ太って、腐ったさかなの様な感触を与えます。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
悪い番頭が勝手にそんなものをこしらえて、自分の懐をやしていたのを、何にも知らない俺達の親父とお袋が罪を背負わされ、いかさま枡は罪が深いというので
水仙は花にとものうて、通常は四枚、きわめてえたものは八枚の葉が出る。草質そうしつが厚く白緑色はくりょくしょくていしているが、毒分があるから、ニラなどのように食用にはならない。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
おおきなこいは、しろはらして、盤台ばんだいなかよこになっていました。こいは、よくえていました。
千代紙の春 (新字新仮名) / 小川未明(著)
奴国なこくの宮の鹿と馬とはだんだんとえて来た。しかし、長羅ながらの頬は日々に落ち込んだ。彼は夜が明けると、やぐらの上へ昇って不弥うみの国の山を見た。夜が昇ると頭首こうべを垂れた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
とうちゃんはえてはりますさかい、単衣ひとえのべべをお召しになると、おいどを切られまっせ」
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あさこゝろそこはかとられまするうち御厭おいとはしさのたねまじるべし、かぎりもれずひろちてはみゝさへさへたま道理だうり有限あるかぎりだけのいへうち朝夕あさゆふものおもひのらで
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
外国人は矢ツ張り目がえて居りますのネ、ゼームスつて洋琴オルガンを寄附した宣教師さんがネ、米国くにへ帰る時、ぜんの奥様に呉々くれぐれも仰つしやつたさうですよ、山木様は余り悧巧りかうだから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
上って二十四丁目の黒門、ここへ来ると鼻の先に本山のいただきが円くえて、一帯に真黒な大杉をかぶり、その間から青葉若葉が威勢よくり上って、その下蔭ではうぐいすの鳴く音が聞えます。
「人間は食うわりふとらんものだな。あいつはあんなに食う癖にいっこうえん」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
病気の為に信心して幸にゆれば平気で暴利をむさぼって居る者もある。信徒の労力を吸ってえて居る教師もある。然しこのせちからい世の中に、人知れず美しい心の花を咲かす者も随処ずいしょにある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)