)” の例文
旧字:
かくなん思ふと言ひければ、放免然らばさもよと云ひければ、男家に死人を持て行きたれば、妻此れを見て其れは何ぞと云へば
放免考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
虹汀聞き果てゝ打ち案ずる事稍久ややしばし、やがて乙女をたすけ起して云ひけるやう。よし/\吾にすべあり。今はさばかり歎かせ給ふな。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
口上はいよいよ狼狽して、ん方を知らざりき。見物はあきれ果てて息をおさめ、満場ひとしくこうべめぐらして太夫の挙動ふるまいを打ちまもれり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さらぬだに寂寞せきばくたる山中の村はいよ/\しんとして了つて、虫の音と、風の声と、水の流るゝ調べの外には更に何の物音もぬ。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
眠るでも無く、考へるでも無く、丁度無感覚な人のやうに成つて、長いこと身動きもずに居たが、やがて起直つて部屋の内を眺め廻した。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
これはぬ事とも云われぬので、お幸はそれもそうかと思わぬでもなかったが、しかし、又何となく合点の行かぬ節ありと見ぬでもなかった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
芝居で云へば性根場しやうねばといふところになつた。将門は一塩つけられて怒気胸にふさがつたが、如何ともかたは無かつた。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
私にはあなたがハズミに乗って機械的にられたと思う外、ドウもあなたのお心持が分かりません。全く正気の沙汰とは思われかねるのです。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
見れば伝馬町てんまちよう三丁目と二丁目との角なり。貫一はここにて満枝をかんと思ひ設けたるなれば、彼の語り続くるをも会釈ずして立住たちどまりつ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私は筆を執っても一向気乗りがぬ。どうもくだらなくて仕方がない。「平凡」なんて、あれは試験をやって見たのだね。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
最後に「信」の重要性を説いた章と、三代の「礼」の恒久性を説いた章と、「其のに非ずして祭るはへつらうなり、義を見てざるは勇なきなり」
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
なんだか見無いでもいものを見る様な気が為て、こはく成つたが、思切おもひきつて引くと、荒い音もずにすつと軽くいた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
然るを、われの留守にて、むなしく還すはつれ無し。世上、年に一度の釣をもぬ人多し。一日二日の辛抱何か有らん。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
顧うにその弟子が、彼が骨冷なる後に至るまで、なおなみだを垂れて松陰先生を説くもの、にその故なしとんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
うたはせて舞はせて人のぬ事して見たいと折ふし正太にささやいて聞かせれば、驚いてあきれておいらは嫌やだな。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
とうとう日は暮れて四方八方黒白あやめも分らぬ真の闇、しかし海はおかと違いまして、どのような闇でも水の上は分りますが、最早もはや三人ともこん絶え力尽きて如何いかんともすべなく
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
垂乳根たらちねはは手放てはなくばかりすべなきことはいまだなくに 〔巻十一・二三六八〕 柿本人麿歌集
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
上は則ち乾霊あまつかみの国を授けたまふうつくしびに答へ、下は則ち皇孫すめみまたゞしきを養ひたまひしみこゝろを弘めむ。然して後に六合くにのうちを兼ねて以て都を開き、八紘あめのしたおほひていへむこと、亦からずや。
二千六百年史抄 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
「ああエルサレム、エルサレム、予言者たちを殺し、つかわされたる人々を石にて撃つ者よ、牝鶏めんどりのそのひなを翼の下に集むるごとく、我なんじの子どもを集めんとしこと幾度いくたびぞや」
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
三日ばかりって夜分村長は富岡老人をうた。機会おりを見に行ったのである。然るに座に校長細川あり、酒が出ていて老先生の気焔きえんすこぶすさまじかったので長居ながいずにかえって了った。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
知っていなかったとすれば尚おのこと、知られたくなかったのだが、う斯う突き止められた上に、悪戯いたずら岡妬おかやきの強い人間と来ているから、此の形勢では早晩いずれ何とかずにはいまい。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
若しに落ちんことがあるなら、どういうわけでそうにゃならんのか、分りませんちゅうて、教えて貰いんされえ。わしはこれで帰る。土曜には待っとるから、んされえ。あはははは
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
アダムの二本棒にほんぼう意地いぢきたなさのつまぐひさへずば開闢かいびやく以来いらい五千ねん今日こんにちまで人間にんげん楽園パラダイス居候ゐさふらふをしてゐられべきにとンだとばちりはたらいてふといふ面倒めんだうしやうじ〻はさて迷惑めいわく千万せんばんの事ならずや。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
さてイエス聖霊に導かれ悪魔にこころみられんために野に往けり、四十日四十夜くらうことをせずのちうえたり、試むるものかれに来りていいけるはなんじもし神の子ならば命じてこの石をパンと
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
いにしへの印旛の神があひの蘆谷のこもり今も為るかも
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
引かるる思ひぬは無し。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
以テ正確ニシテ従フベキト為サズ反覆討尋其正ヲ得テ以テ時ニ或ハ書説ニ与シ時ニ或ハ心ニ従フ故ヲ以テ正ハいよいヨ正ニ誤ハますます遠カル正ナレバ之ヲ発揚シテ著ナラシメ誤ナレバ之ヲしりぞけテ隠ナラシム故ニ身ヲ終ルト雖ドモ後世ニ益アリ是レ書ヲ以テ家屋トズシテ書ヲ友トナスノ益ニシテ又植学ヲ修ムルノ主旨ハ則チ何ニ在ルナリ
堪へがたい不快にも、余り眠かつたから手で払ふこともず、顔を横にすると、蠅はすべつて、頬のあたりを下から上へぢむとる。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
けれども三人はまたたき一つず、身動き一つ出来ず、只黒光りする鉄の死骸の、虚空を掴んだ恐ろしい姿を、穴の明く程見つめて立っていました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
貫一はあやしみつつも息を潜めて、なほ彼のんやうを見んとしたり。宮は少時しばしありて火燵に入りけるが、つひやぐら打俯うちふしぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こうなると半田屋九兵衛、気にずにはいられなくなった。首をチョン切られた上に、二本松の刑場へ晒されるか。褒美を貰った上に士分にまで取立てられるか。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
しかりといえども東洋孤島のうちり、三十歳の生涯にして、彼が如き業を成し、彼が如き痕跡を留め、彼が如き感化を及ぼしたる者、た多からずとんや。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
石鹸シャボン泡沫ほうまつ夢幻むげんの世に楽をでは損と帳場の金をつかみ出して御歯涅おはぐろどぶの水と流す息子なりしとかや。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
釈迦牟尼しゃかむにの其生の初にられた処をされねばならなかったか? 世間は誰しも斯く驚きあやしみました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「いざせ」の「いざ」は呼びかける語、「せ」は「」で、この場合は行こうということになる。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
と見る丑松のわきを、高柳は意気揚々として、すこし人を尻目にかけて、挨拶もずに通過ぎた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
成るといつたらうそは無いが、なるべく喧嘩はぬ方が勝だよ、いよいよ先方さきが売りに出たら仕方が無い、何いざと言へば田中の正太郎位小指の先さと、我が力の無いは忘れて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
放蕩費はうたうひを借りようとして居るのだが、誰もあんな無法者に金を貸して、抵当として家屋敷を押へた処が、跡で何んな苦情を持出さぬものでもないと、恐毛おぞけ振つて相手にぬので
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
んがいじゃないか? 敢てするなら、たれの前も憚らず言うがいじゃないか? 敢てしながらはずるとは矛盾でないか? 矛盾だけれど、矛盾と思う者も無いではないか? 如何どういう訳だ?
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ああエルサレム、エルサレム、予言者たちを殺し、つかわされたる人々を石にて撃つ者よ、牝鶏めんどりのそのひなを翼の下に集むるごとく、我なんじの子らを集めんとしこと幾度ぞや、れど、汝らは好まざりき
駈込み訴え (新字新仮名) / 太宰治(著)
吾が父や浜の小浜の行き還り何さすらむ白き髯見ゆ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
物をしみな
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
我を可憐いとしと思へる人の何故なにゆゑにさはざるにやあらん。かくまでに情篤なさけあつからぬ恋の世に在るべきか。疑ふべし、疑ふべし、と貫一の胸は又乱れぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そうしてその懐中ふところには、悪魔を見たらば直ぐにも注ぎかけるために、別に一ツの薬瓶を用意して、その夜通しまんじりともずに過ごしました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
客は手持無沙汰てもちぶさた、お杉もすべを心得ず。とばかりありて、次の襖越ふすまごしに、勿体らしいすましたものいい。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
去年使ふてやつた恩も忘れ上人様に胡麻摺り込んで、たつ此度こんどの仕事をうと身の分も知らずに願ひを上げたとやら、清吉の話しでは上人様に依怙贔屓えこひいき御情おこゝろはあつても
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
うして、働けば働ける身をもつて、なんにずに考へて居るといふことは、決して楽では無い。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
華美はでの中に華美を得ぬ彼は渋い中に華美をやった。彼は自己の為に田園生活をやって居るのか、そもそもまた人の為に田園生活の芝居をやって居るのか、分からぬ日があった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かしらの家は大屋さんで御座りますからとてしほれるをすかして、さらば門口かどぐちまで送つてる、叱からるるやうの事はぬわとて連れらるるに四隣あたりの人胸を撫でてはるかに見送れば
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おほならばかもかもむをかしこみと振りたき袖をしぬびてあるかも」(巻六・九六五)、「高山のみね行く鹿ししの友を多み袖振らず来つ忘ると念ふな」(巻十一・二四九三)などである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)