はさ)” の例文
旧字:
だからとなごとのうちにも、かみのお言葉ことばがあり、ものがたりのうちにも、かみのお言葉ことばはさまれてゐるもの、とかんがしたのであります。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
一生に比べて見れば六箇月は僅かなやうなものヽ、その間を私の子の肉体から霊魂までも疑ひをはさまずにおつやさんに預けてきました。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
この一節が失望の語と失望の語の間にはさまれあるため、これをヨブの言と見ずして、次章のビルダデの語の誤入と見る学者がある。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
次第に扮装ふんそううまくなり、大胆にもなって、物好きな聯想れんそうかもさせる為めに、匕首あいくちだの麻酔薬だのを、帯の間へはさんでは外出した。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼の机の上には比較的大きな洋書が一冊せてあった。彼は坐るなりそれを開いて枝折しおりはさんであるページ目標めあてにそこから読みにかかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
水道がちょろちょろ出ているのであった。ふとその時、めいが東照宮の避難所で保護されているということを、私は小耳にはさんだ。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
御仏名おぶつみょうの又の日の描写」、「頭中将とうのちゅうじょうに関する自伝的描写」、「則光のりみつに関する自伝的描写」をはさんで、物語られているのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
十数畳の大広間片側に金屏風をめぐらし、十四、五の少女一枝の牡丹をり来りてこれを花瓶かびんはさまんとすればしきりにその名を呼ぶ者あり
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
人なき折、解いてみると、書物の間には、国元の直義から右馬介あてに来た書簡二通と、また、彼自身の詫び状がはさんであった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と言ひ言ひ、何気なくそばにあつた『現代人物帖』を取り上げてみると、その第一頁目にくなつたルウズヴエルト氏の写真がはさんであつた。
「けれども、」と私はくちはさんで、「けれども其の一種の性格が僕等の特長とくてうなんぢやないか。此の性格がうしなわれた時は、すなわち僕はほろびたのだ。 ...
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
そこはおせんが着物の裾を帯の間にはさんで、派手な模様の長襦袢ながじゅばんだけ出して、素足に庭下駄を穿きながら、草むしりなぞを根気にしたところだ。
刺繍 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
狂言は大概のうの間にはさんでやるものであるが、時によると狂言ばかりを催おすことがある、それを狂言会というのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
只大臣の服には、控鈕ぼたんあな略綬りゃくじゅはさんである。その男のにはそれが無い。のちに聞けば、高縄の侯爵家の家扶が名代みょうだいに出席したのだそうである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
で、熊岡警官はそれ以上追究ついきゅうしたり、また今とりつつある上官じょうかんの処置に異議いぎはさもうという風でもなく、事実その問答はそこで終ったのであった。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
夫人はさすが年紀としの功、こは癈疾かったいと棒ちぎり、身分に障ると分別して、素直に剰銭つりださるれば、丁寧にかずを検し、繻子しゅすの帯にきゅっとはさみぬ。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
天下に嘖々さくさくたる若林博士が、九大医学部長の職権を利用しつつ、念を入れ過ぎる位に念を入れて仕上げた仕事ですから誰が疑点をはさみ得ましょう。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そのとたん、かの女がからだをささへようとした右の手が義雄と爐をさしはさんで相對してゐる雪の屋の膝にとまつた。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
刺身さしみの一と皿位は独り占めにベロリと平らげてなお飽足らずに、首を伸ばして主人がはしはさんで口まで持って行こうとするのをやにわに横取りをする。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
もっと濃い情愛をそそがれたかったはずなのに、それは存外ひややかで、時としてはお互いの心と心との間に鉄をはさんだような隔てが出て来るように感じ
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
食卓テーブル對端むかふには、武村兵曹たけむらへいそうほか三名さんめい水兵すいへい行儀ぎようぎよくならび、此方こなたには、日出雄少年ひでをせうねんなかはさんで、大佐たいさわたくしとがみぎひだりかたならべて、やが晩餐ばんさんはじまつた。
常住不断じょうじゅうふだんの雨が降り通している中に自分の短い生涯がちょっとはさまれているものででもあるように降っている。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その父親からの手紙が来て、いよいよ帰ると決まったら、娘たちはやいやいいいましたが、結局父親が言葉をはさんで今いったとおり、帰ることにしました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
柱の状挿じょうさしには、おもに東京から入って来る手紙や電報が、おびだたしくはさまれてあった。米屋町の旦那のような風をしたその主人を、お島は不思議そうに眺めていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
う云って父は一息いた。市郎も余りに奇怪なる物語に気を呑まれて、何ともことばはさむ勇気が無かった。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ユウゴオを記念する小博物館として大抵の遺作、遺品、故人の著作にはさんだ絵の下絵、著作の広告に用ひた絵、其他そのた故人に関係ある雑多の物が陳列されて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ト云う声が忽然こつぜん背後うしろに聞えたのでお勢が喫驚びっくりして振返ッて視ると、母親が帯の間へ紙入をはさみながら来る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
これには三つのを付けて、大小三個の丸餅をその穴にはさみ、これを振回して餅を投げ飛ばすのである。
そして、紙箒はたきを持って兄の机の上のほこりを払いながら、書物の間にはさんである洋紙を覗いて、まずい手蹟で根気よく英字を書留めているのに、感心もし、冷笑を浮べもした。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
ええとそうして民弥と云ったっけ……おかしいなあ、おかしいや、弁才坊と民弥とが、人形をはさんで話し込んでいるぜ。民弥め別嬪だなあ。家の姐ごよりずっと綺麗だ。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
是より一行又かはさかのぼり、れて河岸かはぎし露泊ろはくす、此日や白樺の樹皮をぎ来りて之を数本の竹上にはさみ、火をてんずれば其明ながら電気灯でんきとうの如し、鹽原君其下そのしたに在りて
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
しかしてこれらの絵本はいづれも当時著名の狂歌師の吟咏ぎんえいを画賛となせり。狂歌集『狂月望きょうげつぼう』及『銀世界ぎんせかい』にはさみたる歌麿の山水は今日こんにち欧洲人の称賛してかざる逸品なり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「でも、万里子さん。」と僕は言葉をはさんだ。「あなたの方の為事しごとは大へんでしょう?」
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そのもっとも希望するところの職業の自由が得られましょうか。飲食店を始める、旅館を開く、筋肉労働者となる。それについて世間の何人ももはや異議をはさむものはありますまい。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
なに忘れてッたのじゃアえ、コウ見ねえ、魚肉なまぐさへえってる折にわざ/\熨斗のしはさんであるから、進上というのに違いねえ、独身もので不自由というところを察して持って来たんだ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
大方玩具屋おもちゃやですが、絵草紙屋えぞうしやなどもありますし、簪屋かんざしやも混っています。絵草紙は美しい三枚続きが、割り竹にはさんで掛け並べてありました。西南戦争などの絵もあったかと思います。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
その昼すぎ、女中のきよはぶつぶついいながら、掃き出していました。たった一枚松につるの絵のカルタが、縁先の飛石とびいしの下にはさまったまま、そののちしばらく、雨風にさらされていました。
祖母 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ものも言わずに会釈えしゃくしあうだけであったが、いつか死という問題について初代さんと男生との間で議論を闘わしているのを傍で聞いていた私が、つい口をはさんだのが始めであったように思う。
高き鼻に鼈甲縁べつこうぶちの眼鏡をはさみて、かどある眼色まなざしは見る物毎に恨あるが如し。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
青木は急いでテーブル・クロスを引めくると、丘子の胸元にはさんだ。
妙に奥歯に物のはさまったような微笑を浮べて、腰を浮かします。
着物の裾を両足の間にはさみ込み、煙草を吸ひ居る。
それに煤けた見出しの紙札がはさんである。405
その間にはさまる使徒らの書翰しょかんは「霊的実験の提唱」ともいうべく、「教理の解明」とも称すべく、または簡単に「教訓」ともなづくべきである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
ところが妙な事はこの滑稽こっけいはさんだために今までの凄愴せいそうたる光景が多少やわらげられて、ここに至って一段とくつろぎがついた感じもなければ
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
句読点コムマが一つはさまつて、“Foreign fruit, plant”となつて、そのまゝ世間に公布せられてしまつた。
むしろ「鯨のいた汐が雨となつた」と言ひはなす方よろしかるべく候。この人往々この種の句をはさんで雄壮なる歌をだいなしにするくせ有之候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
色紙を用いるならば祝詞祝句と随筆類との中間にはさむかまたは他の文と募集句との中間に挿むかしてその上は募集句広告ばかりにてものせたし。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
大きなつくえを真中にして、お新も瀟洒さっぱりとした浴衣のままくつろいだ。山本が勧める巻煙草を、彼女は人差指と中指の間にはさんで、旅に来たらしく吸った。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
調べ室は金モールのまぶしい主脳しゅのう警官と、人相のよくない刑事連中の間に、京ぼんをはさんで場面はいとも緊張している。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)