かの)” の例文
かの尖帽宗カツプチヨオの寺の僧にフラア・マルチノといへるあり。こは母上の懺悔を聞く人なりき。かの僧に母上はわがおとなしさを告げ給ひき。
かの「怙を喪つて久からずして」退隠したと云ふ説は、斟酌して聞くべきである。わたくしは後に至つて又此問題に立ち帰るであらう。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かの時妾目前まのあたり、雄が横死おうしを見ながらに、これをたすけんともせざりしは、見下げ果てたる不貞の犬よと、思ひし獣もありつらんが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
けだしトルストイ伯の所見は、此点に於てかのフレンド派が唱道するところと符合せり。唯だ伯は之を露国の農民に適用せしのみ。
トルストイ伯 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
業平の生活は、小説だといふ訣で、伊勢物語からひき放して考へようとしても出来ないまで、かの書が完全に其一生を伝奇化して了うてゐる。
お村が虐殺なぶりごろしに遭ひしより、七々日なゝなぬかにあたる夜半よはなりき。お春はかはや起出おきいでつ、かへりには寝惚ねぼけたる眼の戸惑とまどひして、かの血天井の部屋へりにき。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
きゝ成程なるほど何時いつ迄當院の厄介やくかいなつても居られず何分にも宜しくと頼みければ感應院も承知なして早速さつそくかの片町の醫師方へゆきみぎはなし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
もし文学的趣味を具有して、大喝采を博する者あらば、これを以てかの非文学的の作に代へんこと、けだし歌人の職務なるべし。(五月十二日)
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
依之増修ぞうしうせつに於て此事はかの書に見しとおぼえしも、其書を蔵せざれば急就きうしの用にべんぜず、韈癬べつせんするが多し。かつ浅学せんがくなれば引漏ひきもらしたるもいと多かるべし。
依之増修ぞうしうせつに於て此事はかの書に見しとおぼえしも、其書を蔵せざれば急就きうしの用にべんぜず、韈癬べつせんするが多し。かつ浅学せんがくなれば引漏ひきもらしたるもいと多かるべし。
卯平うへいかのぼんやりしたこゝろ其處そこつながれたやうに釣瓶つるべ凝視ぎようしした。かれしばらくしてからにはつた。かれそのくせしたらしながら釣瓶つるべけた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
印度洋のかの不可思議ふかしぎな色をして千劫せんごう万劫まんごうむ時もなくゆらめくなぞの様な水面すいめん熟々つくづくと見て居れば、引き入れられる様で、吾れ知らず飛び込みたくなる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
薩州よりわかのイロハ丸の船代、又その荷物ニモツの代おハライ(ママ)候得バ、ゆるして御つかハし成度(なされたし)と申候間、私よりハそハママわ夫でよろしけれども
かの国民の眼に映ずるものは単に君主政体のみであって、共和政体の如きは彼らの夢想だもせざりし所であります。
流れ行く歴史の動力 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
遮莫さもあらばあれ斎藤緑雨さいとうりよくうかの縦横の才を蔵しながら、句は遂に沿門※黒えんもんさくこくはい軒輊けんちなかりしこそ不思議なれ。(二月四日)
如何様の事にても、仮令たとい臙脂屋を灰と致しましても苦しゅうござりませぬ、何卒かのしな御かえし下されまするよう折入って願い上げまする。真実まことの通り……
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
日月じつげつは地におち、須彌山すみせんはくづるとも、かの女人によにんほとけらせたまはん事疑なし。あらたのもしや、たのもしや
とまれ尋常の沙汰ではないぞ、と私が瞬間感じたのは、かの野々村君の平素と云うのが、こうした青年達のそれとはかけ離れて、至って平々凡々へいへいぼんぼんたるものであったからだ。
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
聖人板敷山という深山を、つねに往返したまひけるに、かの山にして度々相待つといへども、更にその節をとげず、つらつらことの参差しんしを案ずるに、すこぶる奇特のおもひあり。
加波山 (新字新仮名) / 服部之総(著)
かの石棒をもつて古史に所謂いはゆるイシツツイなりと爲すがごときは遺物發見はつけんの状况に重みをかざる人のせつにして、苟も石器時代遺跡せききじだいゐせきの何たるを知る者は决して同意どういせざる所ならん。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
戦ふのにいつも相手の背に釣り合ふやう身体をくの字に曲げて相撲すまはねばならぬからかの怪物はいつも、身体の半分の力しか使へぬやうに見える。出羽ヶ嶽星取表——○●●●○
去る程に此寺の住持なりしの和尚は、もと高野山より出でたる真言の祈祷師にて御朱印船に乗りて呂宋ルソンに渡り、かの地にて切支丹の秘法を学び、日本に帰りて此の廃寺を起し
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かの灑掃応対進退の節と説き、寡妻にのっとり、兄弟に及ぶと云い、国を治むるのもとは、家を治むるにありと云い、家整うて国則整うと云い、其の家庭の問題を如何に重大視したか
家庭小言 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
名奉行と聞えた根岸肥前守の随筆「耳袋」の中にも「池尻村とて東武の南、池上本門寺より程近き一村あり、かの村出生の女を召仕えば果して妖怪などありしと申し伝えたり、実否を ...
池袋の怪 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
白峰よりかの鳥を奪わば、白峰は形骸のみとならんとまで、この頃は飽かず、眺め居候おりそうろう、……白峰の霊を具体せるものは、誠にこの霊鳥の形に御座候、前山も何もあったものにあらず
雪の白峰 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
それがし答て、我は掃部頭かもんのかみ士某、生年十七歳敵ならば尋常に勝負せよと申。かの士存ずる旨あれば名は名乗らじ、我は秀頼の為に命を進ずる間、首取って高名にせよと、首を延べて相待ける。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
遂に同氏の紹介にて岡崎氏に面会致し候。その仁は五十前後とも覚えられ、職人膚を帯びたる温厚の人物に見受け申し候。今小生の問うに応じてかの人の答えたる一斑を左に申上げ候。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
かの岩見は、白の縞ズボンに、黒のアルパカの上衣、麦藁むぎわら帽に白靴、ネクタイは無論蝶結びのそれで、丁度当時のどの若い会社員もした様な一分の隙もない服装で、揚々としてふくらんだ胸
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
其口上にころもをかけ、御ひゐき願ふ天家寿は、今唐桟の新見世ながら、御得意多く売込んで、かの古渡の老舗におとらず、幅広はゞびろならぬ手狭裏家へ、表をこして御来駕ある、御馴染様の御註文に
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
ケムブリッヂは学問の府として遠くわがくににも聞えたれば、そのいづれにかおもむかんと心をわずらはすうち、幸ひケムブリッヂにある知人のもとに招かるるの機会を得たれば、観光かたがたかの地へ下る。
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
すなはち地にも倒れつべし、されども秀郷、天下第一の大剛の者なりければ、更に一念も動ぜずして、かの大蛇のせなかの上を、荒らかに踏みて、しずかに上をぞ越えたりける、しかれども大蛇もあへて驚かず
しかもかの所謂逐語訳は必らずしも忠実訳にあらず。
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
かの(三五)西山せいざんのぼり、其薇そのびる。
巨勢はわたの如き少女が肩に、我かしらを持たせ、ただ夢のここちしてその姿を見たりしが、かの凱旋門がいせんもん上の女神バワリアまた胸に浮びぬ。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
ナポリの旅と當時の記憶とは、なつかしく美しきものながら、今はその美しさのかのメヅウザに逢ひて化石したるにはあらずやとおもはれたり。
(元禄時代にいはゆる不易流行なる語はややこの意に近しといへども、かの時代には推理的の頭脳を欠きし故曖昧あいまいを免れず)
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
幼君えうくんこれを御覽ごらうじて、うれしげにえたまへば、かのすゝめたる何某なにがし面目めんぼくほどこして、くだんかご左瞻右瞻とみかうみ、「よくこそしたれ」と賞美しやうびして、御喜悦おんよろこび申上まをしあぐる。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かくくるしめる事是皆露顯ろけんの小口となりかの道十郎の後家お光がはからずうつたへ出る樣に成けるは天命てんめいの然らしめたる所なり
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
いつもの停車場で下りて、一同は車をつらねてかのおかの上の別荘に往っていこい、それから本宅に往った。お馨さんの父者人、母者人と三度目の対面をした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
普通の作家の如くぎやうの奇跡を以て伏姫の業因を断たしむることなく、かへつてかの八行の珠玉を与へて、伏姫の運命の予言者とならしめ指導者とならしめたるもの
まといの要素たるばれんや、張り籠の多面体が、後の附加だとすれば、愈かの自身たて物と近づくので、旗の布を要素としない桙の末流らしく、益考へられて来る。
まといの話 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
かのゲエテの希臘ギリシヤと雖も、トロイのたたかひの勇士の口には一抹いつまつミユンヘンの麦酒ビイルの泡のいまだ消えざるを如何いかにすべき。歎ずらくは想像にもまた国籍の存する事を。(二月六日)
かの国の及第は大臣宰相にもなるの径路であるから、落第は非常の失望にもならうが、我邦で検非違使佐や尉になれたからとて、前途洋〻として春の如しといふ訳にはならない。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ただかの牛のみ、車の次第に軽くなるに、いぶかしとや思ひけん、折々立止まりて見返るを。牛飼はまだ暁得さとらねば、かへつて牛の怠るなりと思ひて、ひたすら罵り打ち立てて行きぬ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
散髪などを強いられ済したかの野々村君は無理義理やりに、青年の美しい衣服を着せられ、教養ある富裕な青年として、その風采に必要なもの、例えば、正確な型のソフトや、銀の懐中時計や
自殺を買う話 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
そうして午前十時頃かの岩見は彼の下宿で難なく捕えられた。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
この頃国勝手くにがっての議に同意していた人々のうち、津軽家の継嗣問題のために罪を獲たものがあって、かの議を唱えた抽斎らは肩身の狭いおもいをした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
さてまたこれらの歌がわれらの歌と相似たるやに評する人も有之候由承り候に付、かの歌に対する愚見を述べてそのしからざるを明かに致したく存候。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かのうづたかめるくちなはしかばねも、彼等かれらまさらむとするにさいしては、あな穿うがちてこと/″\うづむるなり。さても清風せいふうきて不淨ふじやうはらへば、山野さんや一點いつてん妖氛えうふんをもとゞめず。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
内の白とかの黒とがトチ狂うて、与右衛門の妹婿武太郎がはたけの大豆を散々踏み荒したと云うのである。如何してれるかと云う。仕方が無いから損害を二円払うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)