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幾重
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いくえ
ふりがな文庫
“
幾重
(
いくえ
)” の例文
今御覧の通り
幾重
(
いくえ
)
にも幾重にも
展
(
の
)
して焼いたものですから横から見てちょうど紙を幾百枚も
累
(
かさ
)
ねたようにならなければいけません。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
川音がタタと
鼓草
(
たんぽぽ
)
を打って花に日の光が動いたのである。濃く
香
(
かぐわ
)
しい、その
幾重
(
いくえ
)
の
花葩
(
はなびら
)
の
裡
(
うち
)
に、
幼児
(
おさなご
)
の姿は、二つながら吸われて消えた。
若菜のうち
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
あの船や鴎はどこから来、どこへ行ってしまうのであろう? 海はただ
幾重
(
いくえ
)
かの
海苔粗朶
(
のりそだ
)
の向うに青あおと煙っているばかりである。……
少年
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
霜
(
しも
)
に焼けたつつじの
植
(
う
)
え
込
(
こ
)
みが
幾重
(
いくえ
)
にも波形に重なって、向こうの
赤松
(
あかまつ
)
の森につづいている。空は青々と
澄
(
す
)
んでおり、風もない。
次郎物語:05 第五部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
一度
途切
(
とぎ
)
れた
村鍛冶
(
むらかじ
)
の音は、今日山里に立つ秋を、
幾重
(
いくえ
)
の
稲妻
(
いなずま
)
に
砕
(
くだ
)
くつもりか、かあんかあんと澄み切った空の底に響き渡る。
二百十日
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
▼ もっと見る
わがよろこび誠に筆紙のつくすべき処ならず
幾重
(
いくえ
)
にもよろしくとてその日は携へ来りし草稿『
簾
(
すだれ
)
の月』一篇を差置きもぢもぢして帰りけり。
書かでもの記
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
奥様の方では、少しも御存じのない男から、突然、
此様
(
このよう
)
な
無躾
(
ぶしつけ
)
な御手紙を、差上げます罪を、
幾重
(
いくえ
)
にもお許し下さいませ。
人間椅子
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
まず
関鎖
(
かんさ
)
幾重
(
いくえ
)
の難関を無事に
踰
(
こ
)
えた喜びの余りに、
仏陀
(
ぶっだ
)
の徳を感謝するその思いの強いために非常に寒かった事も忘れた。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
みな、涙ぐみながら、てんでに毛布やクッションを持ち出してきて、
幾重
(
いくえ
)
にも梓さんの身体に巻きつけて『着ぶくれ人形』のようにしてしまった。
キャラコさん:02 雪の山小屋
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
「そういうことに致しましょう。これはどうも飛んだ失礼を致しました、そそっかしいことでお恥かしうございます、
幾重
(
いくえ
)
にもお許し下さいまし」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
その地図の上に、なにやら盛んに線が引張ってある。赤鉛筆で書いた大きい輪が、室町の辺に
幾重
(
いくえ
)
にも
重
(
かさな
)
っていた。
地中魔
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
二人のあとをつけて来たのは千枝松ばかりでなく、鎧兜を着けた大勢の唐人どもが弓や
矛
(
ほこ
)
を持って集まって来て、台のまわりを忽ち
幾重
(
いくえ
)
にも取りまいた。
玉藻の前
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
「のう
太夫
(
たゆう
)
。お
前
(
まえ
)
さん、
詫
(
わび
)
はあたしから
幾重
(
いくえ
)
にもしようから、きょうはこのまま、
帰
(
かえ
)
っておくんなさるまいか」
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
それも打っている人はまだ
好
(
い
)
い。それを
幾重
(
いくえ
)
にも取り巻いて見物して居る連中に至っては、実に気が知れない。
青年
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
そのうちに、
風
(
かぜ
)
が
吹
(
ふ
)
いてくると、
糸
(
いと
)
は、きりきりと
風船球
(
ふうせんだま
)
のまわるたびに、
幾重
(
いくえ
)
にも
枝
(
えだ
)
にからんでしまって、もはや、どんなことをしても
離
(
はな
)
れませんでした。
風船球の話
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
主人の
足裏
(
あしうら
)
も
鯊
(
さめ
)
の
顋
(
あご
)
の様に
幾重
(
いくえ
)
も
襞
(
ひだ
)
をなして口をあいた。あまり
手荒
(
てあら
)
い攻撃に、虎伏す野辺までもと
跟
(
つ
)
いて来た
糟糠
(
そうこう
)
の
御台所
(
みだいどころ
)
も、ぽろ/\涙をこぼす日があった。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
斯
(
か
)
く
認
(
したゝ
)
め
終
(
をは
)
りし
書面
(
しよめん
)
をば
幾重
(
いくえ
)
にも
疊
(
たゝ
)
み
込
(
こ
)
み、
稻妻
(
いなづま
)
の
首輪
(
くびわ
)
に
堅
(
かた
)
く
結
(
むす
)
び
着
(
つ
)
けた。
犬
(
いぬ
)
は
仰
(
あほ
)
いで
私
(
わたくし
)
の
顏
(
かほ
)
を
眺
(
なが
)
めたので、
私
(
わたくし
)
は
其
(
その
)
眞黒
(
まつくろ
)
なる
毛
(
け
)
をば
撫
(
な
)
でながら、
人間
(
にんげん
)
に
物語
(
ものがた
)
るが
如
(
ごと
)
く
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
幾重
(
いくえ
)
にも
張廻
(
はりま
)
わしてある厳重を極めた警戒網を次から次に大手を振って突破して、一直線に福岡県庁に自首して出た時には、全県下の警察が舌を捲いて
震駭
(
しんがい
)
したという。
近世快人伝
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
なおなお
幾重
(
いくえ
)
も目出度く存じ
奉
(
たてまつ
)
り候。相替らず拝正の儀、東西御奔走と察し奉り候。さて今朝
雑煮
(
ぞうに
)
を食い、
遣
(
や
)
りきれぬ事、山亭にての如し。これ
戯謔
(
ぎぎゃく
)
の初め、初笑々々。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
光ったり
陰
(
かげ
)
ったり、
幾重
(
いくえ
)
にも
畳
(
たた
)
む
丘々
(
おかおか
)
の
向
(
むこ
)
うに、
北上
(
きたかみ
)
の野原が
夢
(
ゆめ
)
のように
碧
(
あお
)
くまばゆく
湛
(
たた
)
えています。
河
(
かわ
)
が、
春日大明神
(
かすがだいみょうじん
)
の
帯
(
おび
)
のように、きらきら銀色に
輝
(
かがや
)
いて
流
(
なが
)
れました。
種山ヶ原
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
の陣に陣を、山陽道に
沿
(
そ
)
って、
幾重
(
いくえ
)
にも置いていたのであった。——いや義貞をして、もっとてこずらせたのは、ややもすれば、後方を突いて来る
乱波
(
らっぱ
)
(ゲリラ)であった。
私本太平記:11 筑紫帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
黄金丸はややありて、「かかる義理ある中なりとは、今日まで露
知
(
しら
)
ず、
真
(
まこと
)
の
父君
(
ちちぎみ
)
母君と思ひて、
我儘
(
わがまま
)
気儘に
過
(
すご
)
したる、無礼の罪は
幾重
(
いくえ
)
にも、許したまへ」ト、
数度
(
あまたたび
)
養育の恩を謝し。
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
幾重
(
いくえ
)
にも勘弁して下されと三ツ四ツ頭を下げれば済んでしまうことだわ、案じ過しはいらぬもの、それでも
先方
(
さき
)
がぐずぐずいえば
正面
(
まとも
)
に源太が喧嘩を買って
破裂
(
ばれ
)
の始末をつければよいさ
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
この度の議会解散とが国民の政治的自覚を
幾重
(
いくえ
)
にも刺戟したことであるから
鏡心灯語 抄
(新字新仮名)
/
与謝野晶子
(著)
小生らにおいても御厚意を奉体つかまつらざる場合に落ち行き、苦慮
一方
(
ひとかた
)
ならず、この段
御宥恕
(
ごゆうじょ
)
なし下されたく、尊君様より皆々様へ厚く御詫び申し上げ候よう
幾重
(
いくえ
)
にも願いたてまつり候。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
親たる父に
未
(
ま
)
だ孝の道も
尽
(
つく
)
さずして先だつ不孝は
幾重
(
いくえ
)
にも済まぬがわたしは一刻も早くこの苦しい
憂世
(
うきよ
)
を去りたい、
妾
(
わたし
)
の死せる
後
(
のち
)
はあの夫は、あんな人
故
(
だから
)
死後の事など何も
一切
(
いっせつ
)
関
(
かま
)
わぬ事でしょう
二面の箏
(新字新仮名)
/
鈴木鼓村
(著)
幾重
(
いくえ
)
にも折り重なった
遥
(
はる
)
かな山の
峡
(
かい
)
から吉野川が流れて来る。
吉野葛
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「お供することに致しましょう。ご貴殿ご熟達の木太刀の妙法、まだまだ会得出来ませぬ故このままお別れ致すことは拙者にとっても残念
至極
(
しごく
)
、是非どこへなとお連れくだされてご教授
幾重
(
いくえ
)
にもお願い申す」
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
「先刻の非礼、
幾重
(
いくえ
)
にもお詫びつかまつる」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
緑色の
薄紗
(
ヴェール
)
が
幾重
(
いくえ
)
にも
垂
(
た
)
れ下って行く。
なよたけ
(新字新仮名)
/
加藤道夫
(著)
空はここも
海辺
(
かいへん
)
と同じように曇っていた。不規則に濃淡を乱した雲が
幾重
(
いくえ
)
にも二人の頭の上を
蔽
(
おお
)
って、日を
直下
(
じか
)
に受けるよりは蒸し熱かった。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
しかし、着物は剥ぎ取られましても、この心にはまだまだ我慢邪慢の
膿
(
うみ
)
のついた衣が
幾重
(
いくえ
)
にも
纏
(
まと
)
いついておりまする。
大菩薩峠:24 流転の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「明智さん、父に一言お伝え下さい。不孝の罪は
幾重
(
いくえ
)
にもお許し下さいましって。そして、不二子は、恋しい黄金仮面の悪魔を救う為に、自殺しましたって」
黄金仮面
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
諸処方々
無沙汰
(
ぶさた
)
の不義理重なり中には二度と顔向けさへならぬ処も
有之
(
これあり
)
候ほどなれば何とぞ礼節をわきまへぬは文人
無頼
(
ぶらい
)
の常と御寛容のほど
幾重
(
いくえ
)
にも
奉願上
(
ねがいあげたてまつり
)
候。
雨瀟瀟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
彼は
国境
(
くにざかい
)
を離れると、すぐに一行に追いついた。一行はその時、ある
山駅
(
さんえき
)
の茶店に足を休めていた。左近はまず甚太夫の前へ手をつきながら、
幾重
(
いくえ
)
にも同道を懇願した。
或敵打の話
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
バターの方は一度一度に塗りますがケンネ脂は最初に包むばかりで
跡
(
あと
)
はそれを
幾重
(
いくえ
)
にも展します。
食道楽:冬の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
西
(
にし
)
の
方
(
ほう
)
の
山々
(
やまやま
)
は、
幾重
(
いくえ
)
にも
遠
(
とお
)
く
連
(
つら
)
なっていて、そのとがった
巓
(
いただき
)
が、うす
紅
(
あか
)
い
雲
(
くも
)
一つない
空
(
そら
)
にそびえていました。まったく、あたりはしんとして、なんの
声
(
こえ
)
もなかったのです。
おおかみと人
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
町の
小児
(
しょうに
)
らが河に泳いでいると、或る物が中流をながれ下って来たので、かれらは争ってそれを拾い取ると、それは一つの瓦の
瓶
(
かめ
)
で、厚い
帛
(
きぬ
)
をもって
幾重
(
いくえ
)
にも包んであった。
中国怪奇小説集:05 酉陽雑爼(唐)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
王様。私はこのように
安堵
(
あんど
)
致した事は御座いませぬ。夜分にお邪魔を致しましていろいろ失礼な事を申し上げた段は、
幾重
(
いくえ
)
にも御許し下さいまし。
最早
(
もう
)
夜が明けて参りました。小供達を
白髪小僧
(新字新仮名)
/
夢野久作
、
杉山萠円
(著)
峠は
幾重
(
いくえ
)
にもかさなっていて、前後の日数も覚えないくらいにようやく北国街道の
今庄宿
(
いまじょうじゅく
)
までたどり着いて見ると、町家は残らず土蔵へ目塗りがしてあり、人一人も残らず逃げ去っていた。
夜明け前:02 第一部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
……川柳にさえあるのです……(細首を
掴
(
つか
)
んで
遣手
(
やりて
)
蔵へ入れ)……そのかぼそい遊女の責殺された幻が
裏階子
(
うらばしご
)
に
彳
(
たたず
)
んだり、火の車を引いて鬼が駆けたり、真夜中の戸障子が縁の方から、
幾重
(
いくえ
)
にも
雪柳
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「まさか城内の者が深夜あのような異装を作って徘徊いたすはずもなし、そうかと申して、
要害無双
(
ようがいむそう
)
なこの千代田城のあの
幾重
(
いくえ
)
の
濠
(
ほり
)
や石垣や諸門を越えて入り込むことは
人間業
(
にんげんわざ
)
ではできないことじゃ」
江戸三国志
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
近江
(
おうみ
)
の空を深く色どるこの森の、動かねば、その
上
(
かみ
)
の幹と、その上の枝が、
幾重
(
いくえ
)
幾里に
連
(
つら
)
なりて、
昔
(
むか
)
しながらの
翠
(
みど
)
りを年ごとに黒く畳むと見える。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
底光りのする空を縫った老樹の
梢
(
こずえ
)
には折々
梟
(
ふくろ
)
が啼いている。月の光は
幾重
(
いくえ
)
にも
重
(
かさな
)
った霊廟の屋根を銀盤のように、その軒裏の彩色を
不知火
(
しらぬい
)
のように
輝
(
かがやか
)
していた。
霊廟
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
一つのお願いの儀がござりまするが、
幾重
(
いくえ
)
にもお聞届けのほど願わしうござりまする——と鈴木殿が、水野閣老に改まって申し出でたものでございます……そこで越前守が
大菩薩峠:26 めいろの巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
それが今や、
幾重
(
いくえ
)
の竹藪を
嘗
(
な
)
め尽して、恐ろしい速度で、こなたへこなたへと迫って来る。
妖虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
パンを水へ漬けておいて絞って生玉子を溶いてバターを加えて今の肉と絞ったパンとを混ぜて塩胡椒で味をつけてキャベツの葉で
幾重
(
いくえ
)
にも包んでそれをスープでよく煮るのです。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
またその一団は珍しそうに、
幾重
(
いくえ
)
にも蜜の
匀
(
におい
)
を
抱
(
いだ
)
いた薔薇の花の中へまぐれこんだ。
女
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
彼女は畳に
額
(
ひたい
)
をうずめて、恐れかしこんでわが子の罪を
幾重
(
いくえ
)
にも詫びた。かれは当然自分ら親子のうえに落ちかかって来るべき神の御罰をのがれるために、あらためて謝罪の祈祷を嘆願した。
半七捕物帳:26 女行者
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
取り急ぎますままに
幾重
(
いくえ
)
にもおゆるし下さいませ。
押絵の奇蹟
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
幾
常用漢字
中学
部首:⼳
12画
重
常用漢字
小3
部首:⾥
9画
“幾重”で始まる語句
幾重畳