さみ)” の例文
『これから大阪までいても、何處どこぞへ泊らんなりまへんよつてな。……大阪からうちへはさみしいよつて、わたへもうようにまへんがな。』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
むらさめ吹通ふきとほしたかぜに、大火鉢おほひばち貝殼灰かひがらばひ——これは大降おほぶりのあとの昨夜さくやとまりに、なんとなくさみしかつた——それがざかりにもさむかつた。
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「私は幼少ちいさい時からさみしいところに育ちやしたが、この山へ来て慣れるまでには、真実ほんとに寂しい思をいたしやした」
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これはイルラリオンのやうな清浄な人の代になるお前だと云ふのではない。あんなさみしい所にゐたら、お前がその驕慢を棄てることが出来ようかと思ふのである。
麻布山浅く霞みて、春はまださみ御寺みてらに母と我が詣でに来れば、日あたりに子供つどひて、凧をあげ独楽を廻せり。立ちとまり眺めてあれば思ほゆる我がかぶろ髪。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「わるかったのね。あなたばかりひとりぽっちにしておいて、それがおさみしかったから、そんなに悲しそうにしておいでなのでしょう。——こんどはきっと……。こうしてさしあげたらいいでしょう」
山県有朋の靴 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
青きあわせに黒き帯してせたるわが姿つくづくとみまわしながらさみしき山に腰掛けたる、何人なにびともかかるさまは、やがて皆孤児みなしごになるべききざしなり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは東山道方面ばかりでないと見えて、豊川稲荷とよかわいなりから秋葉山へかけての参詣さんけいを済まして帰村したものの話に、旅人の往来は東海道筋にも至ってさみしかったという。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
麻布山浅く霞みて、春はまださみ御寺みてらに、母と我が詣でに来れば、日あたりに子供つどひて、凧をあげ独楽を廻せり。立ちとまり眺めてあれば、思ほゆる我がかぶろ髪。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
雨が降る……さみしい川のながれとともに、山家やまがの里にびしよ/\と降る、たそがれのしよぼ/\雨、雨だ。しぐれが目にうかぶ。……
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
黄ばんだ洋燈ランプの光は夜の空気をさみしさうに照して、思ひ沈んで居る丑松の影を古い壁の方へ投げた。煙草たばこのけむりも薄くこもつて、の部屋の内を朦朧もうろうと見せたのである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
この眺めゆたかにさみ黄牛あめうし家路いへぢの舟に日を見かへりぬ
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
障子の破れに、顔が艶麗あでやかに口のほころびた時に、さすがにすごかつた。が、さみしいとも、夜半よなかにとも、何とも言訳いいわけなどするには及ばぬ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
暗くさみしい四辻の角のところへ出ると、頻に遠くの方で犬のほえる声が聞える。其時はもう自分で自分をおさへることが出来なかつた。堪へ難い悲傷かなしみの涙は一時に流れて来た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なにかしらさみしさうに
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ところが、聞いて見ると、うで無い。ただ此処ここ浮世離うきよばなれがしてさみしいのが気に入つたので、何処どこにも行かないで居るのだと云ふ。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『父さん?』と省吾はさみしさうに笑つて、『あの、父さんは家に居りやすよ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
なにかしらさみしいちから
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
凄いとも、美しいとも、ゆかしいとも、さみしいとも、心細いとも、可恐おそろしいとも、また貴いとも、何とも形容が出来ないのです。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いいえ。」と云って、袖に抱いた風呂敷包みの紫を、皓歯しらはんだ。この時、この色は、瞼のそのあけを奪うて、さみしく白く見えたのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さみしそうに笑って、……雪道を——(ああ、ふったる雪かな、いかに世にある人の面白う候らん、それ雪は鵞毛がもうに似て、)
引続いては兵隊饅頭へいたいまんじゅう鶏卵入たまごいり滋養麺麭じようパン。……かるめら焼のお婆さんは、小さな店に鍋一つ、七つ五つ、孫の数ほど、ちょんぼりと並べてさみしい。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さみしそうに打傾く、おもてに映って、うなじをかけ、黒繻子くろじゅすの襟に障子の影、薄ら蒼く見えるまで、戸外おもては月のえたる気勢けはい
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「先生がいらっしゃらなくッて、さみしい、寂しい、とおっしゃりながら、お憎らしい。あとで私が言附けますよ。」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
里心が着くかして、さみしく二人ばかり立った客が、あとしざりになって……やがて、はらはらと急いで散った。
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(ほんとに貴下あなた、心細い。はすうてなに乗ったって一人切ひとりぼっちではさみしいんですのに、おまけにここは地獄ですもの。)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一同 (手に手に石をふたツ取り、カチ/\と打鳴うちならして)魔が来た、でん/\。影がさいた、もんもん。(四五たび口々にさみしくはやす)真個ほんとに来た。そりや来た。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
(いいえ、何の、どこか松のこずえに消え残りました、さみしい高燈籠たかとうろうのように見えますよ。里のお墓には、お隣りもお向うもありますけれど、ここには私唯一人ひとりきり。)
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不可いけないとか何とか、父さんがそう云ったら、膝をつかまえて離さないの。そして、お蔦さんがさみしがって、こんなに煩らっていらっしゃると云って御覧なさい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
往来どめ提灯ちょうちんはもう消したが、一筋、両側の家の戸をした、さみしい町の真中まんなかに、六道の辻のみちしるべに、鬼が植えた鉄棒かなぼうのごとくしるしの残った、縁日果てた番町どおり
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
画工 (枠張わくばりのまま、絹地のを、やけにひもからげにして、薄汚れたる背広の背に負い、初冬はつふゆ、枯野の夕日影にて、あかあかと且つさみしき顔。酔える足どりにて登場)
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……母親の若くてなくなりました一周忌の頃、山からも、川からも、空からも、町にみぞれの降りくれる、暗い、さみしい、寒い真夜中、小学校の友だちと二人で見ました。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さみしいにも、第一の家には、旅人の来て宿るものは一にんも無い、と茶店ちゃみせで聞いた——とまりがさて無いばかりか、みまわして見ても、がらんとした古家ふるいえの中に、其のおんなばかり。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我を忘れてお民は一気に、思い切っていいかけた、ことばの下に、あわれ水ならぬ灰にさえ、かず書くよりも果敢はかなげに、しょんぼり肩を落したが、急にさみしい笑顔を上げた。
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だから、面白かったと云うのか。……かったはさみしい、つまらない。さかんに面白がれ、もっと面白がれ。さあ、糸を手繰れ、上げろ、引張れ。俺が、凧になって、あがってやろう。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
だから、面白かつたと云ふのか。……かつたはさみしい、つまらない。さかんに面白がれ、もつと面白がれ。さあ、糸を手繰たぐれ、上げろ、引張れ。俺が、凧に成つて、あがつて遣らう。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
真面目な話にえいもさめたか、愛吉は肩肱かたひじ内端うちはにして、見るとさみしそうであわれである。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ああ、昨日きのう一昨日おとといも、合歓の花の下へ来ては、晩方さみしそうに帰ったわねえ。」
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唄っちゃ(ああ、こんなじゃ洋琴オルガンも役に立たない、)ッてさみしい笑顔をなさるとすぐ、呼吸いきが苦しくなッて、顔へ血がのぼッて来るのだから、そんなことなすッちゃいけませんてッて
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
心もちほどはやつれたがの毛ほどのきずもなく、肩に乱れた黒髪をその卯の花の白く分けて、さみしそうにうっとりして、しごき帯の結びめのうずたかいのに、かえって肌のかぼそさがあらわれて
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ああ、揃って大時計の前へ立佇たちどまった……いや三階でちょっとお辞儀をするわ。薄暗い処へ朦朧もうろうと胸高な扱帯しごきか何かで、さみしそうにあらわれたのが、しょんぼりと空から瞰下みおろしているらしい。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
故郷ふるさとなる、何を見るやら、むきは違っても一つ一つ、首を据えて目をみはる。が、人も、もの言わず、いきものがこれだけ居て余りの静かさ。どれかがかすかに、えへん、と咳払せきばらいをしそうでさみしい。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠山とおやまの形が夕靄ゆうもやとともに近づいて、ふもとの影に暗く住む伏家ふせやの数々、小商こあきないする店には、わびしいともれたが、小路こうじにかゝると、樹立こだちに深く、壁にひそんで、一とうの影もれずにさみしい。
雨ばけ (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
画工 (枠張わくばりのまゝ、絹地きぬじを、やけにひもからげにして、薄汚うすよごれたる背広の背に負ひ、初冬はつふゆ、枯野の夕日影にて、あか/\とさみしき顔。へる足どりにて登場)……落第々々、大落第おおらくだい
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、しどろになって会釈すると、おもてを上げたさみしい頬に、唇あこ莞爾にっこりして
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
荒涼たる僻村へきそんの風情も文字の外にあらわれたり。岩のとげとげしきも見ゆ。雨も降るごとし。小児こどももびしょびしょとさみしく通る。天地この時、ただ黒雲の下に経立ふつたつ幾多馬の子ほどのお犬あり。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだ突立つったったままで、誰も人の立たぬ店のさみしい灯先ひさきに、長煙草ながぎせるを、と横に取って細いぼろ切れを引掛ひっかけて、のろのろと取ったり引いたり、脂通やにどおしの針線はりがねに黒くうねってからむのが、かかる折から
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
が、右手めてに捧げたたちばなに見入るのであろう、さみしく目を閉じていたと云う。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
影法師かげぼふしつゆれて——とき夏帽子なつばうし單衣ひとへそでも、うつとりとした姿なりで、俯向うつむいて、土手どてくさのすら/\と、おとゆられるやうな風情ふぜいながめながら、片側かたかはやま沿空屋あきやまへさみしく歩行あるいた。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「しかし、いかにもその時はおさみしかったでございましょう。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)