ほろ)” の例文
春に誇るものはことごとくほろぶ。の女は虚栄の毒を仰いでたおれた。花に相手を失った風は、いたずらにき人の部屋にかおめる。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
有史以前の生物であるマンモスとかライノソーラスとかいろいろ難しい名の巨獣類は、みんな武器たる爪や甲羅のために、ほろんでいる。
大阪夏之陣 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
誰もほろびたわけではありませんが、私のその時の気持は人亡びて山河依然たり、といったような感慨で一杯だったかも知れません。
棚田裁判長の怪死 (新字新仮名) / 橘外男(著)
私の兄の兄宇迦斯えうかしは、あなたさまをほろぼそうとたくらみまして、兵を集めにかかりましたが、思うように集まらないものですから
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
今はほろびたアルペジオという楽器のために書いたもので、コロムビアにはチェロの協奏曲に編曲したのもあるが、どちらも面白い。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
自分は復讐の為に、川手の娘達を群衆の前にさらし物にした。今こうして賑かな人通りにむくろを晒すのも、その罪ほろぼしの積りである。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
暴力で一時国をてることもできるし、国をほろぼすこともできる。産業で国をてることもできるし、産業で国が廃頽はいたいすることもある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「わしの国が今、かりに戦いにほろんで、二度ふたたびここに下野城を築こうとしても、武力や財力では、この真心を集めることはできない」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芝居の「鞘当さやあて」の背景に見るような廓の春を描き出すことになったのは、この物語の主人公がほろびてから二十年余の後であった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いかに頑愚ぐわんぐの手にありしとはいひながら、稀世きせいの宝玉鄙人ひじん一槌いつつゐをうけてほろびたるは、玉も人もともに不幸といふべしとかたられき。
このままで行けば、結局、あの「ぢやぼ」につかまつて、体も魂も、「ほろぶることなき猛火みやうくわ」に、焼かれなければ、ならない。
煙草と悪魔 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今日の状態は独りえん世凱せいがい〕政府たるがためのみでなく、袁ほろんでそんぶん〕が立とうが、こうこう〕が立とうが、誰が立とうとも同一である。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
わしは自分をささえることができない。支えるものが一つもない。わしのたましいほろんでゆくのをはっきりした意識で見ているのはえられない。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
子路は群衆の背後うしろから露台に向って大声に叫んだ。孔悝を捕えて何になるか! 孔悝を離せ。孔悝一人を殺したとて正義派はほろびはせぬぞ!
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
故に彼等の「象徴派」はほろびても、象徴主義そのものが不易であること、あたかも「浪漫派」と浪漫主義の関係に同じである。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
しかし結論から言えば、陳獨秀ちんどくしゅうが雑誌「新青年」を発行して羅馬ローマ字を提唱したので国粋がほろびて考えようが無くなったんだ。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「けれども、」と私はくちはさんで、「けれども其の一種の性格が僕等の特長とくてうなんぢやないか。此の性格がうしなわれた時は、すなわち僕はほろびたのだ。 ...
虚弱 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
だから、陸の一浦ひとうらほろぼして、ここへ迎え取ったのです。亡ぼす力のあるものが、亡びないものを迎え入れて、且つ愛し且つ守護するのです。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「みんなが、こんな了見じゃ、上方の落語の道は繁昌しねえ。岡村さんの手を借りねえでも、手前で秋の落葉と散ってほろんでしまうのだろう」
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
「まあ、なんにしろ、あまり無鉄砲なごとをして、自分の身をほろぼすようなことをするなよ。貴様の気持ちも判るが……」
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
恐しい結核菌は、今井夫妻の生命を奪ったのみでなく、その長男の望み多い半生をも、無残にほろぼしてしまったのである。
友人一家の死 (新字新仮名) / 松崎天民(著)
果然くわぜんれはいくばくもなくして漢族かんぞくのためにほろぼされた。ひと拓拔氏たくばつしのみならず支那塞外しなさくぐわい蠻族ばんぞくおほむねそのてつんでゐる。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
そのひかったひとみなかに、たとえ肉体にくたいほろびても、けっして永久えいきゅうなない生命せいめいのあることが刹那せつなかんじられたのであります。
少女と老兵士 (新字新仮名) / 小川未明(著)
議場ぎぜう政治家せいちかでも、両国れうこく土俵とへう力士りきしでも、伝統的でんとうてきなものがほろびて、段々だん/\小粒こつぶになつてるのにも不思議ふしぎはない。
微笑の渦 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
そしてその死に民衆を「そそのかす」ばてれんたちはまた国民をほろぼして行く者と見なされたことなぞもすべてもっともなことには相違なかった。
確かに天が人類の数限り無き罪障を焼きほろぼすものである。彼等は罪障の消滅から逃れようとするのだ、そうは行かぬ。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
賢盛の後裔に新左衛門守範しんざゑもんもりのりと云ふ人があつた。守範は赤松氏のほろびた時に浪人になつて江戸に出て、明暦三年の大火に怪我をして死んださうである。
椙原品 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
張横渠ちょうおうきょ曰く、「あつまりて、またわが体、散じて、またわが体、死してほろびざるを知るは、ともに性をいうべし」と。
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
小さい者が大きくなるとき、年とつた者はこの世からほろびてゆく。栄蔵のお祖父ぢいさん、お祖母ばあさんは死んでしまつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
正保しょうほう元年、明朝みんちょうほろびて清朝しんちょうとなったころから、明末の志士、儒者なぞのこの国に来て隠れるものもすくなくはなく
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あやまちして身をほろぶることなかれと教ふるに、一六一恐れみかつよろこびて家にかへり、朱符を門にし、窓に貼して、おもき物斎にこもりける。
般若の宗教、それは断じて、ほろびた過去の宗教ではないのです。昔も今も、今日も明日も、いや未来永劫えいごうに光り輝く、人生の一大燈明なのであります。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
野望のぞみに向って突進し、累卵るいらん巌壁がんぺきになげうつような真似まねをして、身をほろぼしてくれねばよいが——と、思うての——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
伝統がすたれ、早く手工藝の多くがほろびた西洋に比べれば、まだまだ余裕のある事情に在るとおもえる。私たちはこのことを恵みとして、活かして考えたい。
地方の民芸 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
孔子は恠力乱神かいりょくらんしんを語らずといい給えども左伝さでんには多く怪異の事をせたり又中庸ちゅうように国家まさおこらんとすれば禎祥ていしょう有り国家まさほろびんとすれば妖孽ようげつありと云うを
怪談牡丹灯籠:02 序 (新字新仮名) / 総生寛(著)
この蒲生家も暫時でほろびて、その後を松平隠岐守即今日の久松伯爵家が貰ったので、更に三の丸を造られた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
れば惡は惡にほろぶる事誠に是非もなき次第しだいなりまた主人あるじ五兵衞は其人を知らずたゞ己のよくほしいまゝになせしゆゑ遂には家の滅亡めつばうを招くといふこれまた淺猿あさましき事にこそ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「——この最も小さき者の一人にても、そのほろぶるは、天にましますなんじらの父の御旨にあらざるなり」
この子を残して (新字新仮名) / 永井隆(著)
「金持や大名が病むのは、たいてい美味の過食ときまっている、世の中に貪食どんしょくで身をほろぼすほどあさましいことはない、あの恰好を見るとおれは胸が悪くなる」
自分たちの起した戦争の中へはいってわれらの敵国を打ちほろぼせと云って鉄砲てっぽうや剣を持って突貫とっかんしますか。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
然れどもおなじきことなることを別たずして、倶に天皇のみことのりままに、相たすけてさかふること無からむ。し今より以後のちちかひの如くならずば、身命いのちほろび、子孫うみのこ絶えむ。忘れじあやまたじ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「日本がおこるかほろぶかという非常時に、お飯事ままごとみたいな同棲生活どうせいせいかつに、酔っている場合じゃないと、ね」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
共同の敵をほろぼすことができる、共同の敵がほろぶれば同盟はたちまち破れるが、同盟が破れれば異種族はみな互いに敵であるゆえ、また新たに同盟を結ぶものができる。
戦争と平和 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
それから三代目だいめ代目だいめとは、無關係むくわんけいで、構内こうないへは一あし踏入ふみいれなかつたが、到頭たう/\その鷄屋とりやほろびてしまつたので、これをさいはひと佛骨子ぶつこつしをかたらひ、またすこつてた。
一月より二月にかけて威海衛落ち、北洋艦隊ほろび、三月末には南のかた澎湖ぼうこ列島すでにわが有に帰し、北のかたにはわが大軍うしおのごとく進みて、遼河りょうが以東に隻騎の敵を見ず。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
長髪賊の中には三合会員があり、それをほろぼした連中が似たような秘密結社の哥老会に入会したという訳です。そうして三合会と哥老会とは非常に親しいというわけです。
雑草一束 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかしながら国に幽暗くらきのぞみしときに精神の光が必要になるのであります。国のおこるとほろぶるとはこのときに定まるのであります。どんな国にもときには暗黒が臨みます。
手を相場に下して一攫千金いつくわくせんきんの利を得るも、志士仁人が不幸数奇なることあるも、悪人栄えて善人ほろぶることあるも、尊氏たかうぢ征夷せいい大将軍となるも、正成まさしげ湊川みなとがはに戦死するも
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
ああ天よ地よ、すべてほろびよ。人と人とは永久とこしえに情の世界に相見ん。君よ、必ず永久とこしえの別れを軽々かろがろしく口にも筆にものぼしたまいそ。これ実にわれの耐うるところにあらず。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
天が清次の如き義気ぎきある人を導いて助けしめ、ついに悪人ほろびて善人栄えると申す段切だんぎりに至りましたので、いさゝか勧善懲悪の趣意にもかないましょうと存じ、長らく弁じまして