行違ゆきちが)” の例文
云掛られ夫さへ心にさはらぬ樣云拔いひぬけて居しに今日隅田川すみだがは渡船わたしぶねにて誰かは知ず行違ゆきちがひに面を見合せしよりにはかに吾助が顏色變り狼狽うろたへたるてい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此方こちら入違いりちがって祖五郎の跡を追掛おいかけて、姉のお竹が忠平を連れてまいるという、行違ゆきちがいに相成り、お竹が大難だいなんに出合いまするお話に移ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いゝえ、お知己ちかづきでも、お見知越みしりごしのものでもありません。眞個まつたく唯今たゞいま行違ゆきちがひましたばかり……ですから失禮しつれいなんですけれども。」
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つけませうナニすこしの行違ゆきちがひでそれほどのことでは御座ございませんとおやにまでいつはるとはさてものちのよおそろしゝ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
グレ 行違ゆきちが途端とたんにらみつけてくれう、如何どうおもやがらうとかまふものかえ。
毎度往来に出逢であうて、もとより言葉も交えず互に睨合にらみあうて行違ゆきちがうその跡で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いや、その姿が真の闇暗くらやみの隧道の天井を貫くばかり、行違ゆきちがった時、すっくりと大きくなって、目前を通る、白い跣足はだしが宿の池にありましょう、小さな船。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仕つり神田明神下にて小川町の五千石取の太田彦十郎樣に出會であひしまゝ互ひに徒士かちの者双方の名前を呼上行違ゆきちがひ候節嘉川家の供頭が御駕籠かご引外ひきはづ狼狽うろたへ廻るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
其様そんな余計な憎まれ口をきくなえ、今行違ゆきちがったなア三藏だ、己が留守に来やアがって蚊帳ア釣ってきやアがったのだな、んな大きな蚊帳がるもんじゃアねえ、蚊帳をそっと畳んで
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
はじめは好奇かうきこヽろさそはれて、むなしき想像おもひをいろいろにゑがきしが、またをりもがないまたびみたしとねがへど、それよりは如何いか行違ゆきちがひてかうしろかげだにることあらねば、みづもとめてときかわきにおなじく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雙方さうはう行違ゆきちがふ。サンプソンゆびつめんでする。
とほりへ買物かひものから、かへつてくと、女中ぢよちうが、いましがたおかへりにつたといふ。矢來やらいつじ行違ゆきちがつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
止めて歩行あるきゆきけれども更に似た人もなく早日も西山せいざんかたむきしかばいざ旅宿りよしゆくかへらんとて三圍の下より渡し船にのり川中迄かはなかまで漕出こぎだしたる時向うより數人乘合のりあひし渡し船來り行違ゆきちがひさま其の船の中を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
行違ゆきちがいまして、又ぞろ江戸へ引返ひっかえしてまいるような事になりました、此の上は松平公の御家中藤原を頼み、手続きをもって尋ねましたなら、蟠龍軒の居所いどこの知れぬことも無かろうと思います
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
づかしや女子をんな不似合ふにあひくだものりも一重ひとへ活計みすぎためのみならず便たよりもがなたづねたやの一しんなりしがゑにしあやしくかたありて不圖ふとれられし黒塗塀くろぬりべい勝手かつてもとにあきなひせしときあとにてけば御稽古おけいこがへりとやじやうさまのしたるくるまいきほひよく御門内ごもんうち引入ひきいるゝとてでんとするわれ行違ゆきちがひしがなにれけんがさしたる櫛車くしくるままへには
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
この静寂さ、いきなり声をかけて行違ゆきちがったら、耳元で雷……はがありすぎる、それこそ梟が法螺ほらを吹くほどに淑女を驚かそう、黙ってぬっと出たら、狸が泳ぐと思われよう。
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
すると其の翌年になりまして花車重吉という関取は行違ゆきちがいになりましたことで、毎年まいねん春になると年始に参りますが、惣次郎の墓詣はかまいりをしたいと出て来ましたが、取急ぎ水街道の麹屋へも寄らず
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
きまりも悪し、おもてを背けて店口から奥へ抜けようとすると、おなじく駒下駄を手に提げて裏口からはらりと入って来た、前日の美人とぱったり逢った。袖も摺合すれあうばかり敷居で行違ゆきちがう。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その荷車と子守の行違ゆきちがったあとに、何にもない真赤まっかな田町の細路へ、捨吉がぬいと出る。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
戸外おもてふきすさぶかぜのまぎれに、かすれごゑせきして、いくたびはなし行違ゆきちがつてやつわかつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
艶々つやつやとした円髷まるまげで、子供を半纏はんてんでおぶったから、ややふっくりと見えるが、背のすらりとしたのが、行違ゆきちがいに、通りざまに、(失礼。)と云って、すっとゆき抜けた、この背負紐おぶいひも
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あのさかあがぐちところで、うへからをとこが、あがつて中年増ちうどしまなまめかしいのと行違ゆきちがつて、うへしたへ五六はなれたところで、をとここゑけると、なまめかしいのはぐに聞取きゝとつて、嬌娜しなやか振返ふりかへつた。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
折から夕暮のそら暗く、筑波から出た雲が、早や屋根の上から大鷲おおわしくちばしのごとく田町の空を差覗さしのぞいて、一しきりはげしくなった往来ゆききの人の姿は、ただ黒い影が行違ゆきちがい、入乱るるばかりになった。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小父をぢさんたちは、おとなしいし、第一だいいち品行ひんかう方正はうせいだから……つたごと無事ぶじであつた。……はいゝとして、隣地りんち心行寺しんぎやうじ假門かりもんにかゝると、電車でんしや行違ゆきちがふすきを、同伴つれが、をかしなことをいふ。
深川浅景 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
あとなる一人ひとりは、中脊ちうぜいほそをとこで、眞中まんなかの、盲目婦めくらをんなかみかげにもかくれさうに、おびからだ附着くツつけて行違ゆきちがつたのであるから、なり恰好かつかうれも判然はつきりとしないなかに、の三人目にんめのが就中なかんづくおぼろえた。
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
わたし欄干らんかんたゝずんで、かへりを行違ゆきちがはせて見送みおくつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
……頬被ほおかむりしたお百姓、空籠からかごにのうて行違ゆきちがう。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
行違ゆきちがう人を誘うて時めく。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)