むこ)” の例文
むこの勘五郎に任せましたが、金箱はしかと押えて、五十文百文の出入りも、自分の手を経なければ、勝手にさばきはさせなかったのです。
彼女かのじょは、このおろかなむこが、たとえ自分じぶんしたい、あいしてくれましたにかかわらず、どうしても自分じぶんあいすることができなかったのです。
海ぼたる (新字新仮名) / 小川未明(著)
日吉、今夜のあのむこどのが、おまえの次のお父さんになる人だ。——弥右衛門どのとも、以前からの友達で、やはり織田家で同朋衆どうぼうしゅう
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たとひ遠郷ゑんきやうむこよめにゆきて年をても鳥をしよくすれば必凶応あしきことあり、灵験れいげん煕々あきらかたる事此一を以て知るべし。されば遠郷ゑんきやう近邑きんいう信仰しんかうの人多し。
それがこの度お暇をもらって家へ帰ってくることになり、ついてはこの豊雄をむこにほしいと、仲人をもって大宅の許へ申し込んできた。
御倉さんはもう赤い手絡てがらの時代さえ通り越して、だいぶんと世帯しょたいじみた顔を、帳場へさらしてるだろう。むことは折合おりあいがいいか知らん。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕等もNさんの東京からむこに来たことは耳にしていた。のみならず家附いえつきの細君は去年の夏とかに男をこしらえて家出したことも耳にしていた。
海のほとり (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とこのまなこから張り切りょうずる涙を押えて……おおおれは今泣いてはいぬぞ、忍藻……おれも武士もののふの妻あだに夫を励まし、むこいたぞ。
武蔵野 (新字新仮名) / 山田美妙(著)
『家が戀しくなつたんだな。……これからぐ歸へれば、夜半よなかまでには着くよ。……阿母おつかさんの顏も見られるし。おむこさんの顏もね。……』
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
なさず又母は樽見村たるみむらの百姓源兵衞の娘にて妹一人あり此妹に家をつがせ自分は傳吉の家へ嫁入よめいりせしに父源兵衞病死の後は妹お早身持みもちよからずむこ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
まゆを落して歯を染めた、小作りの年増としまであった。むこもらったがまた別れたとかいうことで、十一、二の男のを持っていた。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『あれ、少許ちつと其様そんな話は聞きやせんでしたよ。そんならむこさんが出来やしたかいなあ——長いこと彼処あすこの家の娘も独身ひとりで居りやしたつけ。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「えゝよ卅までひとりぢやかねえかられげはいまにむことんだから」勘次かんじ喧嘩けんくわでもするやう容子ようすこはばつたしたでいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
就中なかんずく、黄金に関するものや、産馬に関するものや、馬鹿むこに関する話など、現代文学に繋がるもののうちでは最も面白いもののようでありますが
「そりゃ千枝には実さんというむこもあれば、三人の子もあるもの。どっちむいてもひとりぼっちは私だけじゃないの。」
妻の座 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
首卷くびまきのはんけちにわかにかげして、途上とじよう默禮もくれいとも千ざい名譽めいよとうれしがられ、むすめもつおや幾人いくたり仇敵あだがたきおもひをさせてむこがねにとれも道理だうりなり
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
嫁を迎えむこを取るにも同じことで、なるべくは土地状況の共通な村方と縁組して、二十歳も越えたものに新たに仕事の繰廻し方から年中行事までを
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
江戸を出るとすれば池田家の誰が討たんにも限らぬし、郡山こおりやま名代の剣客、数馬の姉むこである荒木又右衛門が助太刀に出ているというから又五郎は危い。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
今お母様っかさまにお話をしたが、お兄様あにいさまは去年あの始末、お前にも早く養子をしたいと思ったが、親の慾目で、何うかまア心掛のよいむこをと心得て居ったが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
獰猛どうもうな相貌をした虎毛とらげの犬で、三四疋位の聯合軍れんごうぐんは造作もなくみ伏せる猛犬もうけんだったので、競争者を追払ってずる/\にピンの押入むことなったわけである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「お蝶さま、見てらっしゃい。お新造さんはだん/\あの連中の中から、あなたのむこ選びを始めなさいますから」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今までの経験で一度ならず気づいた事ですが、しゅうとめというものはむこにとって、あまり面白くないのが常ですからね。
この人は老尼僧にそうめいむこさんで私と一緒に大臣の宅に住居して居たのでごく心安い人でありますから、私はそこへたずねて行ったところが大変悦びました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
わたしはどうも青木の家、ことにあの鷹雄たかをといふ、むこになるはずの若者に対しては、つい神経過敏になつてしまふ。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
むこ十川そごう(十川一存かずまさの一系だろうか)を見放つまいとして、搢紳しんしんの身ながらにしゃくや筆をいて弓箭ゆみややり太刀たちを取って武勇の沙汰にも及んだということである。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その注文というのは……つまり、そのおくらに『娘一人にむこ八人』をやらせろということなのだ。『娘一人に聟八人』——それはお前も知っているだろう。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
妹は姉さんよりも遥かに美しかったので校長が大へん力を入れて、おむこさんを捜し、遂に某青年に白羽の矢が立って、いよいよ見あいする迄に事が進んだのだ。
段梯子の恐怖 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
五十吉いそきちといい今は西洞院の紙問屋の番頭だが、もとは灰吹きの五十吉と異名いみょうをとったごろつきでありながら、寺田屋のむこはいずれおれだというような顔がしゃくだと
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
『大将細君には頭が上らないんですよ。——むこですからね。それにあんまり子供が多過るもんですからね。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「あなた、宅の娘ももう妙齢としごろになりました事ですから、誰かいいむこでもありましたらと存じますが……」
「わしはまあこの子供に、何というむごい扱いをしたことだろう。ああすまないすまない。罪滅しをせねばらなぬ。わしの、むこになるべきはずの子だったのに——。」
ていの君がその臣蔡仲さいちゅうの専横を憎んで、蔡仲のむこに命じて彼を殺害させようとした時に、蔡仲の娘がそれと知って、もしこの事を父に告げると、夫が父のために殺されるし
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
「七種や明ぬにむこのまくらもと」という其角の句も、今日だったらどういう解釈になるかわからぬが、夜の明けないうちから聟の枕許で、わざとトントンやるのが主眼らしく思われる。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
数年前には、話が出来てむこをとったけれど、彼は二年ばかりして胸の病気で針金のように痩せて死んでしまった。それからこっち妾は気楽に見える若い有閑未亡人ゆうかんマダムの生活をつづけている。
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
印度人のボースが私のむことなり、日本に帰化し、中村屋の幹部として働くようになった因縁については、妻がすでに「黙移」の中に詳しく書いているから、それを参照してもらうことにして
処でおらの旦那がお世辞半分に新聞記者の天職をさかんなりと褒めて娘も新聞記者につもりだと戯謔面からかひづら煽動おだてたから、先生グツト乗気になつて早やむこ君に成済なりすましたやうな気で毎日入浸いりびたつてゐる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
もって適当なむこを見つけてやることが出来ないとは何と云う腑甲斐ふがいなさか。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
商人でも、ことごとく軍人をむこに持ちたいという熱望を持ていたのである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「だっておめえ、常吉はここの家の、むこになる男じゃァねえか」
「ぜひともむこになってくれ」
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
年は二十四歳、寧子も望んでいるらしいし、ふさわしいむことは思われるものの、まだ又右衛門夫婦の決心は、はっきりせずに在る。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丁度そこを捕へたから言ひ譯が立たないのさ。だが、あの百兵衞といふ男は良い男さ。おいねむこに世話をしようと思ふがどうだらう
たとひ遠郷ゑんきやうむこよめにゆきて年をても鳥をしよくすれば必凶応あしきことあり、灵験れいげん煕々あきらかたる事此一を以て知るべし。されば遠郷ゑんきやう近邑きんいう信仰しんかうの人多し。
おろかなむこは、うつくしいよめをもらって、どんなによろこんでいたかしれません。そして、自分じぶんはできるだけ、やさしく彼女かのじょにしたつもりでいました。
海ぼたる (新字新仮名) / 小川未明(著)
みぎ相濟あひすみ屑屋長八は娘お幸のもどりしを喜びやがむことりて小切店に商賣替しやうばいがへをなし家内益々繁昌はんじやうしけるとぞ又大橋文右衞門は心懸こゝろがけ天晴あつぱれなる者につき目を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、この神は父の神が、まだむこの神も探されぬ内に、若い都の商人あきゅうど妹背いもせちぎりを結んだ上、さっさと奥へ落ちて来られた。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かまあねえから奪取ふんだくつてやれ、らだらさうだ、いや本當ほんたうだとも、むこなんぞに威張えばられてるなんちことるもんか、卯平等うへいら根性こんじよう薄弱やくざだからやうねえ
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
むこ養子を貰つた婚礼の折の外は、一度も外の髪に結つたことのない、お文の新蝶々を、うつむいて家出した夫の手紙に読み耽つてゐるお文の頭の上に見てゐた。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
藤原家の若殿を娘のむこに取った下野しもつけ辺の判任官位の家柄であって、ことによると「アイヌ」であるかとも思う。
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
うきかざりのべにをしろいこそらぬものあらがみ島田しまだ元結もとゆひすぢきつてはなせし姿すがたいろこのむものにはまただんとたヽえてむこにゆかんよめにとらん
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)