)” の例文
顔には悲しみとも苦痛ともとれる、一種の絶望的な表情がうかび、眼には涙がまっていた。ひと際つよく、ずしんと家が震動した。
暴風雨の中 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何がさて娘の頼みだ、聴いてらん法はないと、ミハイロは財布の紐を解いて、かせめた金の中から、十銭だまを一つ出して遣つた。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
じいっと腹にめておろうとしても、「旦那はんが来ていたら……」などといわれたので、また、頭がかっとなるほど癪に障ったので
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
因より正當せいたうの腕をふるつてまうけるのでは無い、惡い智惠ちえしぼツてフンだくるのだ………だから他のうらみひもする。併し金はまつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ぼんやりと眼をつぶっている眼瞼まぶたうちに、今しがた姉と雪子の涙をめながらじっと此方を見送っていた顔が、いつ迄も浮かんでいた。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
可哀かわいそうに! (猫撫声ねこなでごえで、彼女は、彼の髪の毛の中に手を通し、それをひっぱる)——涙をいっぱいめてるよ、この子は……。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
梅軒は、徐々に、その鎖を手元に手繰たぐめた。——それは手元にある鋭い利鎌とがまを、次にほうってくる用意であることはいうまでもない。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かわいた時水を飲むのは病毒を嚥下のみくだすという危険があるばかりでなく、胃中へ水がまって吸収されませんから非常に消化器を害します。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「殖えられてまるものか」と、犬塚はしかるように云って、特別に厚く切ってあるらしい沢庵たくあんを、白い、鋭い前歯でみ切った。
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
何か家の遣方やりかたに就いて、夫から叱られるようなことでも有ると、お雪は二日も三日も沈んで了う。眼に一ぱい涙をめていることも有る。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
腹水を取り去ることによって患者は一時軽快しますが、すぐまた水がまってきて、結局はだんだん重って死んでしまいます。
メデューサの首 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
中年から金をめることに執着し、義理も人情も捨て、無慈悲、非道と言われながらも、五千両以上という富を積んだ男です。
彼の魂は、涙っぽい浮華な情緒のまりであった。確かに彼は、似而非えせ大家にたいする感激崇拝において、虚偽をよそおってるのではなかった。
こんないきもらしながら、大伴氏のふるい習しを守って、どこまでも、宮廷守護の為の武道の伝襲に、努める外はない家持だったのである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
心づけなどにもらったお金が一円でも二円でもまると私はそれを伊藤にやった。そうでない時には、何かしら伊藤にやるものを考えていた。
僕は実に混乱せんとする心を無理におししづめてしばらく眠つた。それから外来診察をし、まつてゐる手紙端書を少し書いた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
それをよくもめた事、紙の端のそそけたのを裏打うらうちをしても、かなりの厚さになるのに、どれだけ読んだのか察せられます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そこは丘の斜面に溝を掘った台地で、溝を流れる水があっちこっちに赤い泥水をめ、そのかたわらに赤い色の土が積んであった。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
ほかのものはよほど前から材料をあつめたり、ノートをめたりして、余所目よそめにもいそがしそうに見えるのに、私だけはまだ何にも手を着けずにいた。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「あんたは若い人にしちゃ世話のかからない人だね。いつも家の中はきちんとしているし、よごれ物一つめてないね」
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
汽車が見えなくなったときかれはようやくさくをはなれて長いいきをついた。それからじっと大通りの方を見やった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それから数日のうちに大抵の木が落葉し尽す——そんな落葉の一ぱいにまった山かげを私は好んで歩きまわったが
朴の咲く頃 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
先づ木立深き処に枯木常磐ときわ木を吹き鳴す木枯こがらしの風、とろとろ阪の曲り曲りに吹きめられし落葉のまたはらはらと動きたる、岡の田圃たんぼに続く処
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そこ彼等かれら海龜うみがめそばきました、海龜うみがめおほきなに一ぱいなみだめて彼等かれらました、が、なにひませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
そいでもおめいは金をめ込んどる話だで困らんが俺らは全く困るよ! 俺ァ繭が十両しとっても困っとったんだで
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
黒竜江にはところどころ結氷を破って、底から上ってくる河水をめ、荷馬車を引く、咽頭のどが乾いた馬に水をのませるのを商売とする支那人が現れた。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
やがて奥さんはまた先に立つて、さつさとガラス戸の方へとつて返す。そして芝生へおりる石段の上で立ちどまつて、ふーっと大きなめ息をもらす。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
なにが、みづ谿河たにがはながれいてめたではうて、むかしからの……此処こゝほりみづそこかよふとふだね。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
つめや頭髪にきたなあかめておいて、何が化粧でしょう? 紅、白粉や、香水などは、ほんのつけたりでよいのです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
其後そののちわたしは学歴の方は思ひ断つて、腕一本と、豪傑流な態度と、大先生のお蔭とでまあ/\こゝまでやつて来た。いくつかの事業もし、小金もめた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
お幸は目に涙をめての下へ出て来ました。お近は袖口をくけかけて居た仕事をずつと向うへ押しやりました。
月夜 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
そのかわりにはまるのは古臭い古着ばかりで、仕事着にでも着るよりほかに利用のみちの無いもので、小さな女房などはうずまってしまわなければならぬ。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
青眼は、いよいよ王があの夢を見ていないのだと思うと、急に安心したらしく、ほっとうれしそうないきをした。そして又うやうやしく長いお辞儀をしながら——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
自分の心にみ込んで来る心地さを忘れようとしても、忘れられなかった。なんだか愉快でまらない。あそこには電気燈の白く照っている劇場がある。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
すすだらけの化け物が茶色の紙の帽子をかぶって、ふいごのところでせっせと働いていたが、それもちょっと取っ手にもたれ、喘息ぜんそく病みの器械は長いめ息をつく。
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
という会話から一瞬にして雰囲気が変わって、奥さんは急に憂欝になられ、私が可哀想だと涙をめている。
細君に、朝野というのがもとよく来ていたそうですねと何気なく言うと、——朝野はお好み焼の勘定をシコタマめて、逃げ回って払わない由を聞かされる。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
急がず遅れずめ塗りご定紋入りのお駕籠かごをうたせて、格式どおりのお供人を従えながら、しずしずとさしかかってきたのは、だれでもない松平の御前でした。
「信じられないのでございますわ。何故なぜと申しますにそうおっしゃる時いつもお姉様のお眼の中に涙がまるではございませぬか。偽りの証拠でございますわ」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とにかく貰って見給え、同じ働くにも、どんなに張合いがあって面白いか。あの女なら請け合って桝新ますしんのおかまを興しますと、小汚こぎたな歯齦はぐきあわめて説き勧めた。
新世帯 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そんな事を各自てんでに言って墨をる。短かくなると竹の墨ばさみにはさんでグングンと摺る。それを大きな鉢にめてゆくと、上級の子がまたそれをく摺り直す。
おばこ心持ちや池の端の蓮の葉のんまり水、コバエテ/\、少しさはるでど(でどはというとの意)ころ/\ころんでそま(そまはすぐの義)落ちる、コバエテ/\
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
友人の紹介で梵妻ぼんさいあがりで小金こがねめていたその女の許へ金を借りに出入して関係しているうちに
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
足元に光がふるえながら一瞬間まる、と今度は賄のドアーに幻燈のような円るい光の輪を写した。——次の朝になって、雑夫の一人が行衛ゆくえ不明になったことが知れた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
醤油壜しやうゆびんに小便をめて置きこつそり捨てることなど嗅ぎ知つて、押入を調べはすまいかを懸念けねんした。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
さうして自分じぶんあたゝかしづかところして、かねめ、書物しよもつみ、種々しゆ/″\屁理窟へりくつかんがへ、またさけを(かれ院長ゐんちやうあかはなて)んだりして、樂隱居らくいんきよのやうな眞似まねをしてゐる。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その間、欠伸をして昇給を棒に振ってはまらないから、私達は固唾かたずを呑んで身動きもしなかった。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「卵が、なんぼかまってる筈だべちゃ。そいつでも売らせてや。うむ、万の野郎に売らせで。」
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「余計なこと云ふない。」と思つた。此の老職工はかなり金をんでそれを手堅く仲間内にまはして高利をむさぼつてゐる男だつた。彼は此の男にまだ借金が残つてゐた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
と、感情的かんじやうてき高岡軍曹たかをかぐんそう躍氣やつきとなつて中根なかね賞讃しやうさんした。そして、興奮こうふんしたなみだめてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)