)” の例文
旧字:
もう、何と云いますか、あたりは夕靄ゆうもやに大変かすんで、花が風情ふぜいありに散り乱れている。……云うに云われぬ華やかな夕方でした。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
私はいつものようにたのに「ええこんなに、そう、何千株と躑躅つつじの植っているおやしきのようなところです」と、私は両手をひろげて
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
それと一しょにたきのような雨も、いきなりどうどうと降り出したのです。杜子春はこの天変のなかに、恐れもなく坐っていました。
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
気のつきた折は是非世間の面白可笑おかしいありさまを見るがよいと、万事親切に世話して、珠運がえまに恋人のすみし跡に移るを満足せしが
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なく答えはいたしまするものゝ、その慌てゝ居ります様子は直ぐ知れます、そわ/\と致してちっとも落著おちついては居ません。
「本郷の殿様」と呼ばれた武士と、代官松という目明しとに、疑念を持たれて見守られているとは、儒者ふうの老人は知らぬであった。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
あるひは両国花火の屋形船やかたぶね紺絞こんしぼりの浴衣ゆかたも涼し江戸三座えどさんざ大達者おおだてもの打揃うちそろひてさかずきかわせるさまなぞあまりに見飽きたる心地す。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さうなると、普通の酒家以上に、能く弁する上に、時としては比較的真面目まじめな問題を持ち出して、相手と議論を上下してたのに見える。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
そうかといって、相手は身分ありな二本差ですから、引っくくって行って、存分な家探しをするわけにも行かなかったのです。
夢中むちゅうはらったおれん片袖かたそでは、稲穂いなほのように侍女じじょのこって、もなくつちってゆく白臘はくろうあしが、夕闇ゆうやみなかにほのかにしろかった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
何のもなく七堂伽藍がらんの善美や九百余坊の繁昌仏国ぶっこくをすてて、北へ北へ、たましいのを求めて、孤影を旅の風にまかせて歩いた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それからめずらしいとされている角錐かくすい状の結晶、鼓型つづみがたの結晶、それが数段になっている段々鼓型などの結晶が惜しもなく降って来るのである。
おぼながら覚えているのは、少年の頃母の埋まっているその宗源寺へ、私も遊びに行ったことがあって、その寺というのを知っているのです。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
硯友社の社則がその頃の青年の集会の会規と何処どこかに共通点があるのを発見して、おぼながらも割合に若い人たちの集団であると気が付いて
貴方あなた少々しょうしょうねがいがあってたのですが、どうぞ貴方あなたわたくしと一つ立合診察たちあいしんさつをしてはくださらんか、如何いかがでしょう。』と、さりなくハバトフはう。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
汽車に残つてゐるのは工事担当の技師ばかりだ。技師は物思はし四下あたりを眺めて汽罐かまの蒸気の音に耳を傾けてゐる。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
それを見ると王子は、何だか亡くなられたお母様を見るような気がして、おそもなくその側に寄ってゆかれました。
お月様の唄 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
園部は、割合わりあいに元気に、美しい顔をニコつかせて帆村の前にあらわれた。それは如何にも自信ありに見えて、帆村探偵の敵愾心てきがいしんを燃えあがらせた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
茶をのむ為に休んだ場所には、どこにも(最も貧しに見える家にさえ)何かしら一寸した興味を引くものがあった。
その調子が、何となく意味ありだったので、酒に気をとられていた、一座の男女が一斉いっせいに緑さんの方を見た。
踊る一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
赤良顔あからがほもしばし煙管きせるいてかなしえた、あゝなんと云ふ薄命ふうんをんなであらうとわれも同情の涙にえなかつた
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
むりに押し分けたような雲間から澄みて怜悧さかにみえる人の眼のごとくに朗らかに晴れた蒼空あおぞらがのぞかれた。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「殺人犯で、懲役五箇年です。」緩やかな、力の這入った詞で、真面目な、憂愁を帯びた目を、おそもなく、大きく睜って、己を見ながら、こう云った。
冬の王 (新字新仮名) / ハンス・ランド(著)
むりに押し分けたような雲間から澄みて怜悧さかに見える人の眼のごとくにほがらかに晴れた蒼空がのぞかれた。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
トンソリアル・アーテストの称号免状?と、何も知らぬれ坂下美髪師とを、等分に鏡の中で見分けながら、慈悲善根を施した高僧の如くでないまでも
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
すなわち実際には造船所の計画けいかく聯関れんかんしたるものなれども、これを別問題べつもんだいとしてさりなく申出もうしいだしたるは
朝っから芝居へ出かけてあの空気の腐敗した中に一日辛抱してあやな弁当を食べて高い代価を払って平気でいます。西洋には日中開場する芝居はありません。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
(モデル急がしる。画家はやはりスケッチの手帳を引繰返しつつ。)為事しごとは今日は駄目だよ。)
又人に物をれと云った事が一度も無いから付けた名前で、慈善小僧というのは、この小僧が貰った物の余りを決してめず他のあわれな者にもなく呉れてしま
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
ればなう、おそろな音をさせて、汽車とやらが向うの草の中を走つた時分ころには、客も少々はござつたで、うりなといて進ぜたけれど、見さつしやる通りぢやでなう。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
老人ろうじんころされたのは、その五よるだつたから、あさよるとのちがいはあつても、おな金魚屋きんぎょやつて老人ろうじんつたというてんが、なんとなく意味いみありかんじられる。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
日向一学と妙見勝三郎が、憎さに喬之助を凝視みつめながら、一しょにいい出して言葉が衝突ぶつかった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
けなにも、「どうせ死ぬ以上は、せめて『富士』に衝突して、一しょに落ちてやろう。」
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
「流芳」の二字が横書にしてあります。ほかの幅と様子が違うので、いぶかしのぞきましたら、「これは貫名海屋という人の書で、南画の人だけれど、書にも秀れているのだよ」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ゆえに、よく有り勝ちなあぶというものがなく、安んじて鑑賞できるのである。
瓦斯ガスの火せはに燃ゆる下に寄りつどふたる配達夫の十四五名、若きあり、中年あり、稍々やゝ老境に近づきたるあり、はげたる飛白かすりに繩の様なる角帯せるもの何がし学校の記章打つたる帽子
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
善悪の相は私たちの心に内在するおぼろなる善悪の感じをたよりに、さまざまの運命に試みられつつ、人生の体験のなかに自己を深めてゆく道すがら、少しずつ理解せられるのである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「女共から聞いたが——小太郎が、当地に参っているじゃが——本当か」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
彼は、哲学などにも多少の興味を持つてゐるらしく、話材がなくなると勿体振つた口調で昔の学者の名前をあげては色々な場合にそれらの所説を引用して、むつヶしに眉をよせるのが癖だつた。
夏ちかきころ (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
御無理はござんせんやと云ひ度げに、意味ありな笑を浮べて阿波太夫。
吉原百人斬り (新字旧仮名) / 正岡容(著)
心からうれしそうに、隠居は満足だった。自分のことを、こうして「隠居さん」とならわしていたが、気丈そうに見える年寄りも、何かそんなことでユーモラスな愛すべき人に見えるのだった。
万年青 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
その奥さんは四十あまりの、色の浅黒い眼の大きい、その眼は島の人に独特なで、どこか野生的な感じで、正代という身よりのない娘を相手にバタをつくることから一家の仕事をやっている。
石ころ路 (新字新仮名) / 田畑修一郎(著)
ボクさんの声が、だんだんおぼろになります、ほの暗い庭の隅で。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
と出て来た山鹿も、一瞬、不快な顔をしたが、さすがに、なく
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
すると為朝ためともはおそれもなく、はっきりとちからのこもった口調くちょう
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
何處いづこにかが古頭巾忘れ來し物足らぬなれの頭の
河馬 (旧字旧仮名) / 中島敦(著)
「これです。」ルキーンは忌々いまいまに云った。
聖アレキセイ寺院の惨劇 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
僕は学校の教師見たような事をしていた頃なので、女優と芸者とに耳打して、さりなく帽子を取り、逸早く外へ逃げだした。
申訳 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ヒュッテの中には部屋の真中まんなかに大きいストーヴがあって、番人の老人が太い三じゃくもある立派な丸太を惜しもなくどんどん燃してくれている。
雪雑記 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
良平はさすがに顔色を変えましたが、次の瞬間にはない様子で、足を淀ませもせずにスラスラと通り過ぎました。
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)