つか)” の例文
天にも地にも、たった一人の肉親は、青竹を削って、つばつかだけを取付けた竹光で、背中から縫われ、獣のように死んでいるのです。
何故とはなく全身に凝縮ぎょうしゅくした感じが起って、無意識に軍刀のつかを押え、宇治は堤の斜面をすべりながらかけ降りた。高城がすぐ続いた。
日の果て (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
ものが大きいし、こしらえが見事なので、その少年のそばへ寄った者は、すぐ少年の肩ごしにつかそびえているその刀に目がつくのだった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だからこの姿を発見した時も、彼は始は眼を疑って、高麗剣こまつるぎつかにこそ手をかけて見たが、まだ体は悠々と独木舟の舷に凭せていた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのくせ刀は、濡れたつかをこころもち斜めにして、あと言えばさとさやを抜け出るばかりに置いてあるのが、殺気を流すのであります。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
萩乃へあてた手紙をふところへねじこんだ左膳、この声をうしろに聞いて、左手に濡れつばめのつかをおさえ、尺取り横町を走り出た。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そして、もう真に夢中となつて、腰にさしてゐた捕虫網を抜き放つや、つかも折れよとばかりに必死の思ひでゼーロンの尻を擲つた。
うして約束すると、刀のつかたたきながら云った信之助の声の方が、青年の話よりも強く鮮かに、もっと生々して耳によみがえって来た。
春いくたび (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
一旦つかへかけた手の遣り場がないといふならば、おゝ、さうぢや。あれ、あの井戸端の柳の幹でも、すつぱりとお遣りなされませ。
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「この野郎!」そう思いながら、脇差わきざしつかを、左の手で、グッと握りしめた。もう、一言云って見ろ、抜打ちにってやろうと思った。
入れ札 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「オホクサカの王は御命令を受けないで、自分の妹は同じほどの一族の敷物になろうかと言つて、大刀のつかをにぎつて怒りました」
背中の心臓とおぼしきあたりに、つかまで通ったジャックナイフ。その傷口からは、ぬれた着物を通してボトボトと血が垂れている。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
逆手さかてに取直し胸のあたりへ押當てつかとほれと刺貫さしつらぬき止めの一刀引拔ば爰に命は消果きえはてに世に不運の者も有者哉夫十兵衞は兄長庵の爲に命を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けれどもこの兜には前立まえだてがないのです。つかが残っているので、前立は何んであるかと詮索せんさくをして見ると、これは独鈷とっこであるということです。
王子は恐ろしさに震え上がりそうなのを、じっと押しこらえて、剣のつかを握りしめながら、一生懸命に叫び返してやりました。
夢の卵 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
よくも揃った非道な奴らだと、かッと逆上のぼせて気も顛倒てんどう、一生懸命になって幸兵衛が逆手さかてに持った刄物のつかに手をかけて、引奪ひったくろうとするを
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これはつかあたまつちあたま、あるひはこぶしげたようなかたちをしてゐるもので、おほくはきんめっきをしたどう出來できて、非常ひじようにきれいなものであります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
不意に小一郎は左手ゆんでを上げ、鞘ぐるみ大刀を差し出したが、つかへ手をやると二寸ほど抜き、パチンと鍔鳴りの音をさせた。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ラ・プレッサの家長いへをさは既に治むる道を知り、ガリガーイオは黄金裝こがねづくりつかつばとを既にその家にて持てり 一〇〇—一〇二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
したがっても薄かった。けれども鞘の格好かっこうはあたかも六角のかしの棒のように厚かった。よく見ると、つかうしろに細い棒が二本並んで差さっていた。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
恋の会話は、かならずこのように陳腐なものだが、しかし、この一言が、若い男の胸を、つかもとおれと突き刺した。
犯人 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そこには三尺あまりもありそうにおもわれる黒いうろこのぴかぴか光る胴体があった。武士の手は刀のつかに往った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
和泉の父親はすでに太刀たちつかに手をかけ、呼吸次第で、何時いつかっとひらめいて行くかも知れない、鋭い気配だった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
そして夫人が用心深く懐剣のつかに手をかけながら立っているのを知ると、再び慇懃いんぎんに両手の上へおもてを伏せた。
その骸骨は半ばはうしろの壁にりかかり、半ばは紐でそのくびを支えていて、片手の指をそのそばに立ててある古い剣のつかがしらの上に置いているのであった。
ハツとしたやうに、此の時、刀のつかに手を掛けて、もの/\しく見返つた。が、きたない屑屋に可厭いやな顔して
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それから精巧に彫りをした刀剣のつかが二本と、そのほか、思い出すことのできないたくさんの小さな品々。これらの貴重品の重量は三百五十ポンドを超えていた。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
この蟷螂かまきり少からず神経性だと見える。その利鎌を今度はた振り右と左でくうかえす、そのつかを両膝にしかと立てると、張り肱の、何かピリピリした凄い蟀谷こめかみになる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ひゅうひゅうと云うのは、切られた気管の疵口きずぐちから呼吸をする音であった。お蝶のそばには、佐野さんが自分のくびを深くえぐった、白鞘しらさやの短刀のつかを握って死んでいた。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
横ッ腹に伊達政宗という「くせ者」が凄い眼をギロツカせて刀のつかに手を掛けて居る恐ろしい境界きょうがい
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「果し合をする迄さ。」と秀和は刀のつかに手を掛けて、二あしあし詰め寄つた。「そんな噂を触れ歩くからには、お前にも覚悟があるだらうから、さあ勝負をせい。」
彼女は、血まみれの守り刀を、投げ捨てたかったけれど、指が、つかに食いついてしまってはなれない。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
月を負ひて其の顏は定かならねども、立烏帽子に綾長そばたか布衣ほいを着け、蛭卷ひるまきの太刀のつかふときをよこたへたる夜目よめにもさはやかなる出立いでたちは、何れ六波羅わたりの内人うちびとと知られたり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ところが玄関に出てみると最初に見かけた通りの大前髪おおまえがみに水色襟、紺生平こんきびらに白小倉袴こくらばかま、細身の大小のつか内輪うちわに引寄せた若侍が、人形のようにスッキリと立っていた。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
これを見て取ったビレラフォンは、彼の剣を、そいつの残忍な心臓に、つかも通れと突き立てました。結んだようになっていた蛇のような尻尾は、すぐにほどけました。
と、叫んで咄嗟に左にかわし、一気に土手下まで駈けおりて足場を踏み、つかに手をかけてキッとふりむいて見ると、誰もいない。岡埜ののぼりが風にはためいているばかり。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は彎刀のつかにすぐ手をやれるようにしたり、刀身が鞘からいつでも抜けるようにしたりした。
同時に大刀のつか頭で兵藤のひばらの辺に当て身を入れたらしい。兵藤タタタと右手の方へ倒れる。それと仙太が縁側に飛上って奥の吉村と睨み合って立ったのとが殆ど同時
斬られの仙太 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
よくも悪口雑言あっこうぞうごんを吐いて祭りの日に自分をはずかしめたと言って、一人と一人で勝負をするから、その覚悟をしろと言いながら、刀のつかに手をかけた。少年も負けてはいない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かねて用心のために背に負う手裏剣しゅりけん用の小さい刀のつかに手を掛け、近く来ると打つぞと大きな声でどなったが、老翁は一向に無頓着むとんちゃくで、なお笑いながら傍へ寄ってくるので
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おんみかぐろい快楽けらくよ、七戒を破る蛮気をいとしさに混ぜ合はさうとて、悔恨に満ちたわたくし死刑執行人は、七本のやいばを研ぎすまし、いと深いおんみの愛をとつてつかとなし
親王はこれを聴いて烈火の如く怒り、剣のつかに手を掛けて驀然ばくぜん判事席に駆け寄り、あわや判事に打ちかからんず気色けしきに見えた。判事総長は泰然自若、皇太子に向って励声れいせい一番した。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
自分の擲弾兵てきだんへいを取って国王となし、諸王朝の顛覆てんぷくを布告し、一蹴いっしゅうしてヨーロッパを変造し、攻め寄せる時には神の剣のつかを執れるかの感を人にいだかしめ、ハンニバル、シーザー
即ち利鎌とがま燒鎌やきがまつかといふ意味から、つかの束に同音で以てつづけたものである。
愛国歌小観 (旧字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
将校あるいは双眼鏡をあげ、あるいは長剣のつかを握りて艦橋の風に向かいつつあり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
或る物は手にてただちにぎりしなるべく、或る物にはつかくくり付けしならん。使用しようの目的は樹木じゆもくたたり、木材を扣き割り、木質ぼくしつけづり取り、じうたふし、てききづつくる等に在りしと思はる。
コロボックル風俗考 (旧字旧仮名) / 坪井正五郎(著)
やう文句もんくで、隨分ずゐぶん奇妙きめうな、おそらくは新派しんぱ先生せんせい一派いつぱから税金ぜいきん徴收とりさうなではあつたが、つきあきらかに、かぜきよ滊船きせん甲板かんぱんにて、大佐たいさ軍刀ぐんたうつか後部うしろまはし、その朗々らう/\たる音聲おんせいにて
背のかど隅入すみいりで、厚みも多く形もよく、家のしるしなのかこれに瓢箪ひょうたん模様が一個入れてあった。つかもいい。だがそれだけではなかった。今まで見たどの五徳ごとくよりも美しい形のものがあった。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
防禦ぼうぎょの術にすぐれており、ホワイトプレーンズの戦いのとき、飛びくる弾丸を短剣で受けながし、弾丸が刃先をひゅうといってまわり、つかにかるくあたるのをたしかに感じたとさえ言った。
見れば真実や、縁側の、雨戸も障子も開け放し。足の跡こそ、付いて居れ。死骸は立派な覚悟の死。襟くつろげて、喉笛に、つかまでぐつと突込んだ、剃刀はお園がもの。これが自殺でなからふかと。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)