なぐ)” の例文
その上何ぞというとなぐったり蹴飛けとばしたり惨酷ざんこくな写真を入れるので子供の教育上はなはだよろしくないからなるべくやりたくないのですが
中味と形式 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
腕でなぐり、かかとで叩き、泡を立てる。そして、流れのまん中で、猛烈果敢もうれつかかんに、騒ぎ狂う波の群れを、岸めがけて追い散らすのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
先に述べた友人は少年ながらもこの事を知りしゆえなぐらるるままにはじしのんで去った。今にしてこれをかえりみれば気の毒だと思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
みんな岩見になぐられに出るので、かりにも岩見と張合ってみようという意気組みのものは一人も見えない、岩見はあいつらを擲るように
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さッなぐれるものなら擲ってくれ、俺も笊組ざるぐみの風鈴の源七だ、尺八ぐれえに脅えたと云われちゃ、男が立たねえ、擲れッ、やいッ擲らねえか
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、大きな砂粒をかきけると人差指でオカサンハ、と書いた。もう昨夜の事は夢だとは思えなかった。急に母をなぐりつけたくなった。
(新字新仮名) / 横光利一(著)
助「そりゃア親方が丹誠をしてこさえたのだから少しぐらいの事では毀れもしまいが、此の才搥さいづちなぐって毀れないとはちっ高言こうげんすぎるようだ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ときどき警官たちは胸のあたりを丸太ン棒でなぐりつけられたように感じた。それは防弾衣に痣蟹の放った銃丸が命中したときのことだった。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかしそれは怎的どうでもいゝといふなぐりではなくて、すべてがおしなたいして命令めいれいをするには勘次かんじこゝろあまはばかつてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
戦争いくさの話、泥棒の話がおもであって、果ては俗間の喧嘩の話から中には真実喧嘩をおっ始めて、ぶんなぐり合いをするというような始末です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
先ず婆を取り押えようと、三つ四つはなぐられる積りで敢然と進んで行くと婆は少年の様に身を軽く潜戸の中へ隠れて了った。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
俺も若え時は、く兄貴と喧嘩して、なぐられたり、泣かせられたりしたものだが、今となつて考へて見ると、親兄弟程難有ありがたいものは無えぞよ。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
普通ならば赤飯でもいて、息子の卒業式を祝うべきであるのに一家は湿り返って、勝気の女房は清吉を馬鹿だといって、彼の頭をなぐりつけて
蝋人形 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「私も夢で指環を落したのですが、此奴が夢の中で同じ所で拾ったのならば、屹度きっと私のに違いないと思うと、急に腹が立ちましたからなぐり付けたのです」
正夢 (新字新仮名) / 夢野久作萠円(著)
それがそもそも事の起りで、熊さんよりも、力の強いお内儀さんは、熊さんを腰の立たないまでなぐりつけました。
須磨子が見つけた額には、気取つた筆で無意味な文字を二三字なぐがきにして、渓水と落款があつた。須磨子は、疳走かんばしつた声で「ちよいと先生」と呼んだ。
又、人前では虚偽を装って、平常なぐりつける妻の腕を、親切気に保ってやる男もないではありませんでしょう。
男女交際より家庭生活へ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「——さぁこん畜生、立たねえか、そらおめえのしりの下で、麦が泣いてるでねえか、こん畜生、モ一つなぐるぞ」
麦の芽 (新字新仮名) / 徳永直(著)
月琴げっきんの師匠の家へ石が投げられた、明笛みんてきを吹く青年等は非国民としてなぐられた。改良剣舞の娘たちは、赤きたすき鉢巻はちまきをして、「品川乗出す吾妻艦あずまかん」とうたった。
が、Sの返事をしないのを見ると、急に彼に忌々いまいましさを感じ、力一ぱい彼のほおなぐりつけた。Sはちょっとよろめいたものの、すぐにまた不動の姿勢をした。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
忽ち其所へ打倒うちたふめつなぐりに打据うちすゑたり斯る所へ半四郎は彼早足かのはやあしも一そうはげしく堤の彼方へ來懸きかゝりて遙か向うを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また兵隊が車夫をなぐると以前はむっとしたが、もしこの車夫が兵隊になり、兵隊が車夫になったら大概こんなもんだろうと、そう思うともう何の気掛りもなかった。
端午節 (新字新仮名) / 魯迅(著)
パナマ帽に瀟洒しょうしゃとした紺背広を着、秦皮とねりこのステッキにコンタックスを提げて、こんな時にこんな風をしてなぐられはしまいかと思うような身なりをしていたそうであるが
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なる太鼓三味線のなぐらるる如き音たて申しさふらふこと、倫敦ロンドンの地下の家にて聞きし印度楽インドがくの思はれて独り苦笑致しさふらふ。その帰りてよりまた心地しくなり申しさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
対坐したのでは猥褻見るに堪えがたくてなぐりたくなるような若者がサーカスのブランコの上へあがると神々しいまでに必死の気魄で人を打ち、全然別人の奇蹟を行ってしまう。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
浪ちゃんのお父さんが大阪おばあさんのことを悪く云ったのを祖父が聞き咎めて浪ちゃんのお父さんをなぐったのである。おかみさんがきて浪ちゃんのお父さんを連れて帰った。
生い立ちの記 (新字新仮名) / 小山清(著)
と雑記帳の表紙に自嘲をなぐり書いている通り、本人も辛かろうが、はたも気が気でない。元来受験生は健全な存在でないから、長くなると、慢性病者のような暗影を家庭へ投げる。
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
此盃手に入ればさいはひありとて人のなみをなして取んとす。神酒みきは神にくうずるかたちして人にちらし、盃は人の中へなぐる、これをたる人は宮をつくりてまつる、其家かならずおもはざるの幸福あり。
彼は下げていた鞄をそこに投げ出していきなりうしろから長田の頬をなぐりつけた。
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
おれのやつたことは、たとへ悪いにしても、三つぐらゐなぐれば沢山な筈だ。それを、幾つ擲つた。よく勘定はしてなかつたけど、覚えてるだけでも十以上だ。その上、頸を締めやがつた。
長閑なる反目 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
お俊を追い出して親方の横面よこつらを張りなぐってくれるのだ、なんぞといえば女房まで世話をしてやったという、大きな面をしてむやみと親方風を吹かすからしてもう気に喰わねえでいたのだ
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
火口近かこうちかくにゐてこの波動はどう直面ちよくめんしたものは、空氣くうきおほきなつちもつなぐられたことになるので、巨大きよだい樹木じゆもく見事みごとれ、あるひこぎにされて遠方えんぽうはこばれる。勿論もちろん家屋かおくなどは一溜ひとたまりもない。
火山の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
なに女郎めらうの一ひきぐらゐ相手あひてにして三五らうなぐりたいことかつたけれど、萬燈まんどう振込ふりこんでりやあたゞかへれない、ほんの附景氣つけけいきつまらないことをしてのけた、りやあれが何處どこまでもるいさ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そうだそうだ、そんな分らねえ奴あなぐっちまえ!」と傍からしかける。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
『莫迦野郎! 何処に行つてるんだ?』と言ふより早く一つ静子をなぐつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「馬鹿にしている、こんなものをつくりあがって!」と私達を罵り、思わず癇癪の拳を振りあげてこのブロンズ像の頭をなぐりつけて、突き指のやくい、久しい間うでをしていたことがある。
ゼーロン (新字新仮名) / 牧野信一(著)
なぐりに来てくれないのだらう! この! この! 仕様のない、あばずれの、わがまゝの、手のつけようのないこの女を、なぜあの人はつて/\、ぶちのめして、その腕の力が萎えると共に、私を
脱殻 (新字旧仮名) / 水野仙子(著)
椿岳は芳崖ほうがい雅邦がほうと争うほどな巨腕ではなかったが、世間を茶にしてなぐった大津絵おおつえ風の得意の泥画は「おれの画は死ねば値が出る」と生前豪語していた通りに十四、五年来著るしく随喜者を増し
あげられぬ奪られるの云い争いの末何楼なにや獅顔火鉢しかみひばちり出さんとして朋友ともだちの仙の野郎が大失策おおしくじりをした話、五十間で地廻りをなぐったことなど、縁に引かれ図に乗ってそれからそれへと饒舌しゃべり散らすうち
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
とか、いう叫びと一緒に、畳を踏む音、柱をなぐる音
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
天南はよく蛇をなぐつて蛙を助けた。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
女をなぐる方がむしろましだ。
それが酒を飲んだ揚句あげくの事なので、夢中になぐり合いをしているあいだに、学校の制帽をとうとう向うのものに取られてしまったのです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兄貴と僕とは、よくなぐり合いをするんだ。本気でやることもあるし、ふざけてやる時もあるけど……。どっちもおんなじぐらい強いんだぜ。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
しかし、一つはなぐられなければならぬ、それもホンの一つ軽く擲られさえすれば済む。それ以上は絶対に擲られぬ秘伝を伝授して上げよう。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
作家梅野十伍は、拳固をふりあげて、自分の頭をゴツーンとぶんなぐった。彼は沈痛な表情をして、またペンを取り上げた。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「何馬鹿だ?」と二郎は嬉しいやら、懐かしいやら、不思議やらで暫時しばし心の狂って、其処そこにあった棒で兄をなぐりました。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
何か気にわぬことを言われた口惜くやしまぎれに、十露盤そろばんで番頭の頭をブンなぐったのは、宗蔵が年季奉公の最後の日であった。流浪はそれから始まった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
船に乗る時には十分に機械を調べて受取ったつもりだったが、推進機スクリュウまでブンなぐっていなかったのが運の尽きだった。尤も瀬戸内せとうちだから助かったもんだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だよう、おとつゝあになぐられつから、おとつゝあ勘辨かんべんしてくろよう」と歔欷すゝりなくやうな假聲こわいろさらきこえた。惘然ばうぜんとしてすべてがどよめいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)