)” の例文
水面をかすめてとぶ時に、あの長い尾の尖端が水面をでて波紋を立てて行く。それが一種の水平舵すいへいだのような役目をするように見える。
浅間山麓より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
とおげんは自分ながら感心したように言って、若かった日に鏡に向ったと同じ手付で自分のまゆのあたりを幾度となくで柔げて見た。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昨夜ゆふべは夜もすがら静にねぶりて、今朝は誰れより一はな懸けに目を覚し、顔を洗ひ髪をでつけて着物もみづから気に入りしを取出とりいだ
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
停車場ステエションうしろは、突然いきなり荒寺の裏へ入った形で、ぷんと身にみるの葉のにおい、鳥の羽ででられるように、さらさらと——袖が鳴った。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
純白になりかけの髪を総髪にでつけ、立派な目鼻立ちの、それがあまりに整い過ぎているので薄倖を想わせる顔付きの老人である。
家霊 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しいんと一斉に固唾かたずを呑んだ黒い影をそよがせて、真青まっさおな月光に染まっている障子の表をさっとひとで冷たい夜風が撫でていった。
十万石の怪談 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
話の筋もとおっているし、態度もごく普通であるが、言葉つきは舌ったるく、絶えまなしに、鼻の下や口のまわりを手の甲ででる。
かたつかんで、ぐいとった。そので、かおさかさにでた八五ろうは、もう一おびって、藤吉とうきち枝折戸しおりどうちきずりんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
でたごとくにしたのであろうが手数のかることは論外であったろう万事がそんな調子だからとてもややこしくて見ていられない
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
おぼえてます。父樣おとつさんわたくしあたまでゝ、おまへ日本人につぽんじんといふことをばどんなときにもわすれてはなりませんよ、とおつしやつたことでせう。
夫人の温いかおるような呼吸が、信一郎のほてった頬を、柔かにでるごとに、信一郎は身体中からだじゅうが、とろけてしまいそうな魅力を感じた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ガラッ八は頸筋くびすじを掻いたり、顔中をブルンブルンとで廻したり、仕方たくさんに探索の容易ならぬことを呑込ませようとするのです。
夫人は喜んで泣くことをやめて元豊をでた。元豊はかすかに息をしていたが、びっしょり大汗をかいて、それが裀褥しとねまで濡らしていた。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
「またそのおしやもじの焼けない方で、娘の顔をでるのだ。クウル、クリイル、ケーレと三べんとなへて——。早くしなさい。」
夢の国 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
やがて事治まって一盃となると異議に及ばず、お前のおかげで大分飲めた、持つべき物は猫なりけりと猫の額をでて悦ぶ者多し。
すると彼女は、何か彼がいたずらでもしたのではないかと気を廻して、お尻をで廻しながら、ぬれた顔をふり向けるのであった。
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ころげ落ちた清盛の古烏帽子ふるえぼしを拾いあげて、その人の手に返しながら、木工助はなお、でるように、かれのすがたを見まわした。
笹村はだるい頭の髪の毛をでながら、蒲団のうえに仰向いて考え込んでいた。注射をした部分の筋肉に時々しくしく痛みを覚えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
妻君はホホと笑って主人をかえりみながら次の間へ退く。主人は無言のまま吾輩の頭をでる。この時のみは非常に丁寧な撫で方であった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
島津太郎丸とあってみれば、でに入り込んだ敵方の間者を、人知れず片附けてしまうという、そういうやり方も出来がたい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
昇はあごでてそれを聴いていたが、お勢が悪たれた一段となると、不意に声を放ッて、大笑に笑ッて、「そいつア痛かッたろう」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さうしてはまたまばらな垣根かきねながみじかいによつてとほくのはやしこずゑえた山々やま/\いたゞきでゝる。さわやかなあきくしてからりと展開てんかいした。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
絹の布で坊主頭をで廻すようなもので、どこかが引っかかったり、けばだったり、ささくれだったりしてしまう。ままならぬものです。
凡人凡語 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
もし剣が風のために飛んだりなどしては大変な不調法となることであったが、落ち度もなくて胸をおろした次第でありました。
するといつも来るとすぐ表紙をでて見るほど大切な自分の原簿が、自分の机の上からなくなつて、向ふ隣り三つの机に分けてあります。
坊やの寝ている蒲団ふとんにもぐり、坊やの頭をでながら、いつまでも、いつまで経っても、夜が明けなければいい、と思いました。
ヴィヨンの妻 (新字新仮名) / 太宰治(著)
いつも継母に叱られると言って、帰りをいそぐ娘もほっと息をついて、雪にぬらされた銀杏返いちょうがえしびんでたり、たもとをしぼったりしている。
雪の日 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
それですから、弁信から、その危険の前進性なきことを保証されてみると、弁信の保証だけに信用して、ホッと胸をでおろし
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
白墨をこすりつけてみた、雑巾を一なででまわした子は泣きだした。二三人の子はばけつの尻を鳴らして水汲みに駈けだした。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「永田の紙屋なんか可哀相かわいそうなものさ。あの家は外から見ても、それは立派な普請だが、親爺おやじさん床柱をでてわいわい泣いたよ」
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
今日細君の話に、磯貝が細君の手を握つて、肩からおろしたと聞くと、博士の記憶は忽ち Mesmer の名を呼び起した。
魔睡 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
小平太はくぐり戸を閉めて、始めてほっと胸をで下ろした。一歩違いで無事にすんだけれども、考えてみれば、実際危かった。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
春生はそれを聞くと、あわただしく、もう一度兄の身体をで廻して見た。そして、見えぬ眼から溢れるなみだを、頬に流しながら叫んだ。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
渡瀬はまたからからと笑って、酒に火照ほてってきた顔から、五分刈が八分ほどに延びた頭にかけて、むちゃくちゃにでまわした。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
折々をり/\には會計係くわいけいがゝり小娘こむすめの、かれあいしてゐたところのマアシヤは、せつかれ微笑びせうしてあたまでもでやうとすると、いそいで遁出にげだす。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
春木少年はほっと胸をでおろしかけたが、いやいや、安心するのはまだ早いと気がついた。気になるのはあのヘリコプターだ。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼女は両手で彼の頭をでていた。彼の涙はなお流れつづけた。彼は顔を蒲団ふとんに埋めてすすり泣きながら、彼女の手に接吻せっぷんした。
俺は顔を手でずるりとでおろした。そして眼を開くと、すぐその眼の前を、黒いコウモリがすごい速さで飛び過ぎるのを見た。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
A氏は唖然あぜんとした。次いでさつと顔を紅らめた。次いで、ああ飛んでもないことを言はなくつてよかつたと胸をでおろした。
三つの挿話 (新字旧仮名) / 神西清(著)
が、そのたんびに何か込み上げてくるとみえて、慌てて胸をで下ろしていた。そこでそろそろと始まってきたわけであった。
葛根湯 (新字新仮名) / 橘外男(著)
汽車は駿河湾するがわんに沿うて走っている。窓外は暗闇まっくらだが、海らしいものが見別みわけられる。涼しい風が汗でネバネバしたはだを気持よくでて行く。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
食卓の上を大きな羽箒はぼうきでサッとひとで。どこにもご飯つぶなんかこぼれていない。それがすむと、キチンと窓際に整列する。
キャラコさん:07 海の刷画 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
惣治も酔でも廻ってくると、額にぶさる長い髪を掌でで上げては、無口な平常に似合わず老人じみた調子でこんなようなことを言った。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
美妙の書斎のようにおどかし道具をならべる余地もなかったし、美妙のように何でも来いとあごでる物識ものしりぶりを発揮しなかった。
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と赤ん坊をさとすように背中をでまわしたのであったが、しかし、そんな親切や同情が彼には、ちっとも通じないらしかった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いま、このあたらしくはいって仲間なかま歓迎かんげいするしるしに、立派りっぱ白鳥達はくちょうたちがみんなって、めいめいのくちばしでそのくびでているではありませんか。
ついでに着せもしてやらうと青山の兄から牡丹餅ぼたもちの様にうま文言もんごん、偖こそむねで下し、招待券の御伴おともして、逗子より新橋へは来りしなりけり。
燕尾服着初めの記 (新字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
甚だ病弱だった私は裏に住む漢方医者に腹をでてもらいながらも、その滝に見惚みとれた。その医者が、ちょっと竹にすずめぐらいの絵心はあった。
咽喉のどのところをでてやったら、すぐにそいつが咽喉をごろごろ鳴らし出したので、私はなんだかかえってさびしい気がした。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その時モルガンは、燃えあがった若い血の流れる体を、冷い手で逆にでられたように、ゾッとしたものを受けとったのだ。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)