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撫
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な
ふりがな文庫
“
撫
(
な
)” の例文
水面を
掠
(
かす
)
めてとぶ時に、あの長い尾の尖端が水面を
撫
(
な
)
でて波紋を立てて行く。それが一種の
水平舵
(
すいへいだ
)
のような役目をするように見える。
浅間山麓より
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
とおげんは自分ながら感心したように言って、若かった日に鏡に向ったと同じ手付で自分の
眉
(
まゆ
)
のあたりを幾度となく
撫
(
な
)
で柔げて見た。
ある女の生涯
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
昨夜
(
ゆふべ
)
は夜もすがら静に
眠
(
ねぶ
)
りて、今朝は誰れより一はな懸けに目を覚し、顔を洗ひ髪を
撫
(
な
)
でつけて着物もみづから気に入りしを
取出
(
とりいだ
)
し
うつせみ
(新字旧仮名)
/
樋口一葉
(著)
と
停車場
(
ステエション
)
の
後
(
うしろ
)
は、
突然
(
いきなり
)
荒寺の裏へ入った形で、
芬
(
ぷん
)
と身に
沁
(
し
)
みる
木
(
こ
)
の葉の
匂
(
におい
)
、鳥の羽で
撫
(
な
)
でられるように、さらさらと——袖が鳴った。
唄立山心中一曲
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
純白になりかけの髪を総髪に
撫
(
な
)
でつけ、立派な目鼻立ちの、それがあまりに整い過ぎているので薄倖を想わせる顔付きの老人である。
家霊
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
▼ もっと見る
しいんと一斉に
固唾
(
かたず
)
を呑んだ黒い影をそよがせて、
真青
(
まっさお
)
な月光に染まっている障子の表をさっとひと
撫
(
な
)
で冷たい夜風が撫でていった。
十万石の怪談
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
話の筋もとおっているし、態度もごく普通であるが、言葉つきは舌ったるく、絶えまなしに、鼻の下や口のまわりを手の甲で
撫
(
な
)
でる。
赤ひげ診療譚:08 氷の下の芽
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
肩
(
かた
)
を
掴
(
つか
)
んで、ぐいと
引
(
ひ
)
っ
張
(
ぱ
)
った。その
手
(
て
)
で、
顔
(
かお
)
を
逆
(
さか
)
さに
撫
(
な
)
でた八五
郎
(
ろう
)
は、もう一
度
(
ど
)
帯
(
おび
)
を
把
(
と
)
って、
藤吉
(
とうきち
)
を
枝折戸
(
しおりど
)
の
内
(
うち
)
へ
引
(
ひ
)
きずり
込
(
こ
)
んだ。
おせん
(新字新仮名)
/
邦枝完二
(著)
撫
(
な
)
でたごとくにしたのであろうが手数の
掛
(
か
)
かることは論外であったろう万事がそんな調子だからとてもややこしくて見ていられない
春琴抄
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
覺
(
おぼ
)
えて
居
(
ゐ
)
ます。
父樣
(
おとつさん
)
が
私
(
わたくし
)
の
頭
(
あたま
)
を
撫
(
な
)
でゝ、お
前
(
まへ
)
は
日本人
(
につぽんじん
)
の
子
(
こ
)
といふ
事
(
こと
)
をばどんな
時
(
とき
)
にも
忘
(
わす
)
れてはなりませんよ、と
仰
(
おつ
)
しやつた
事
(
こと
)
でせう。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
夫人の温い
薫
(
かお
)
るような呼吸が、信一郎のほてった頬を、柔かに
撫
(
な
)
でるごとに、信一郎は
身体中
(
からだじゅう
)
が、
溶
(
とろ
)
けてしまいそうな魅力を感じた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
ガラッ八は
頸筋
(
くびすじ
)
を掻いたり、顔中をブルンブルンと
撫
(
な
)
で廻したり、仕方たくさんに探索の容易ならぬことを呑込ませようとするのです。
銭形平次捕物控:107 梅吉殺し
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
夫人は喜んで泣くことをやめて元豊を
撫
(
な
)
でた。元豊は
微
(
かす
)
かに息をしていたが、びっしょり大汗をかいて、それが
裀褥
(
しとね
)
まで濡らしていた。
小翠
(新字新仮名)
/
蒲 松齢
(著)
「またそのおしやもじの焼けない方で、娘の顔を
撫
(
な
)
でるのだ。クウル、クリイル、ケーレと三べんとなへて——。早くしなさい。」
夢の国
(新字旧仮名)
/
宮原晃一郎
(著)
やがて事治まって一盃となると異議に及ばず、お前のおかげで大分飲めた、持つべき物は猫なりけりと猫の額を
撫
(
な
)
でて悦ぶ者多し。
十二支考:11 鼠に関する民俗と信念
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
すると彼女は、何か彼がいたずらでもしたのではないかと気を廻して、お尻を
撫
(
な
)
で廻しながら、ぬれた顔をふり向けるのであった。
木馬は廻る
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
ころげ落ちた清盛の
古烏帽子
(
ふるえぼし
)
を拾いあげて、その人の手に返しながら、木工助はなお、
嗅
(
か
)
ぎ
撫
(
な
)
でるように、かれのすがたを見まわした。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
笹村は
懈
(
だる
)
い頭の髪の毛を
撫
(
な
)
でながら、蒲団のうえに仰向いて考え込んでいた。注射をした部分の筋肉に時々しくしく痛みを覚えた。
黴
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
妻君はホホと笑って主人を
顧
(
かえり
)
みながら次の間へ退く。主人は無言のまま吾輩の頭を
撫
(
な
)
でる。この時のみは非常に丁寧な撫で方であった。
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
島津太郎丸とあってみれば、
掻
(
か
)
い
撫
(
な
)
でに入り込んだ敵方の間者を、人知れず片附けてしまうという、そういうやり方も出来がたい。
任侠二刀流
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
昇は
顋
(
あご
)
を
撫
(
な
)
でてそれを聴いていたが、お勢が悪たれた一段となると、不意に声を放ッて、大笑に笑ッて、「そいつア痛かッたろう」
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
さうしては
又
(
また
)
其
(
そ
)
の
疎
(
まば
)
らな
垣根
(
かきね
)
は
長
(
なが
)
い
短
(
みじか
)
いによつて
遠
(
とほ
)
くの
林
(
はやし
)
の
梢
(
こずゑ
)
や
冴
(
さ
)
えた
山々
(
やま/\
)
の
頂
(
いたゞき
)
を
撫
(
な
)
でゝ
居
(
ゐ
)
る。
爽
(
さわや
)
かな
秋
(
あき
)
は
斯
(
か
)
くしてからりと
展開
(
てんかい
)
した。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
絹の布で坊主頭を
撫
(
な
)
で廻すようなもので、どこかが引っかかったり、けばだったり、ささくれだったりしてしまう。ままならぬものです。
凡人凡語
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
もし剣が風のために飛んだりなどしては大変な不調法となることであったが、落ち度もなくて胸を
撫
(
な
)
で
卸
(
おろ
)
した次第でありました。
幕末維新懐古談:70 木彫の楠公を天覧に供えたはなし
(新字新仮名)
/
高村光雲
(著)
するといつも来るとすぐ表紙を
撫
(
な
)
でて見るほど大切な自分の原簿が、自分の机の上からなくなつて、向ふ隣り三つの机に分けてあります。
猫の事務所:……ある小さな官衙に関する幻想……
(新字旧仮名)
/
宮沢賢治
(著)
坊やの寝ている
蒲団
(
ふとん
)
にもぐり、坊やの頭を
撫
(
な
)
でながら、いつまでも、いつまで経っても、夜が明けなければいい、と思いました。
ヴィヨンの妻
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
いつも継母に叱られると言って、帰りをいそぐ娘もほっと息をついて、雪にぬらされた
銀杏返
(
いちょうがえし
)
の
鬢
(
びん
)
を
撫
(
な
)
でたり、
袂
(
たもと
)
をしぼったりしている。
雪の日
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
それですから、弁信から、その危険の前進性なきことを保証されてみると、弁信の保証だけに信用して、ホッと胸を
撫
(
な
)
でおろし
大菩薩峠:40 山科の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
白墨をこすりつけてみた、雑巾を一なで
撫
(
な
)
でまわした子は泣きだした。二三人の子はばけつの尻を鳴らして水汲みに駈けだした。
白い壁
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
「永田の紙屋なんか
可哀相
(
かわいそう
)
なものさ。あの家は外から見ても、それは立派な普請だが、
親爺
(
おやじ
)
さん床柱を
撫
(
な
)
でてわいわい泣いたよ」
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
今日細君の話に、磯貝が細君の手を握つて、肩から
撫
(
な
)
で
卸
(
おろ
)
したと聞くと、博士の記憶は忽ち Mesmer の名を呼び起した。
魔睡
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
小平太はくぐり戸を閉めて、始めてほっと胸を
撫
(
な
)
で下ろした。一歩違いで無事にすんだけれども、考えてみれば、実際危かった。
四十八人目
(新字新仮名)
/
森田草平
(著)
春生はそれを聞くと、
慌
(
あわただ
)
しく、もう一度兄の身体を
撫
(
な
)
で廻して見た。そして、見えぬ眼から溢れる
泪
(
なみだ
)
を、頬に流しながら叫んだ。
雲南守備兵
(新字新仮名)
/
木村荘十
(著)
渡瀬はまたからからと笑って、酒に
火照
(
ほて
)
ってきた顔から、五分刈が八分ほどに延びた頭にかけて、むちゃくちゃに
撫
(
な
)
でまわした。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
折々
(
をり/\
)
庭
(
には
)
で
遇
(
あ
)
ふ
會計係
(
くわいけいがゝり
)
の
小娘
(
こむすめ
)
の、
彼
(
かれ
)
が
愛
(
あい
)
してゐた
所
(
ところ
)
のマアシヤは、
此
(
こ
)
の
節
(
せつ
)
は
彼
(
かれ
)
が
微笑
(
びせう
)
して
頭
(
あたま
)
でも
撫
(
な
)
でやうとすると、
急
(
いそ
)
いで
遁出
(
にげだ
)
す。
六号室
(旧字旧仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
春木少年はほっと胸を
撫
(
な
)
でおろしかけたが、いやいや、安心するのはまだ早いと気がついた。気になるのはあのヘリコプターだ。
少年探偵長
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
彼女は両手で彼の頭を
撫
(
な
)
でていた。彼の涙はなお流れつづけた。彼は顔を
蒲団
(
ふとん
)
に埋めてすすり泣きながら、彼女の手に
接吻
(
せっぷん
)
した。
ジャン・クリストフ:09 第七巻 家の中
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
俺は顔を手でずるりと
撫
(
な
)
でおろした。そして眼を開くと、すぐその眼の前を、黒いコウモリがすごい速さで飛び過ぎるのを見た。
いやな感じ
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
A氏は
唖然
(
あぜん
)
とした。次いでさつと顔を紅らめた。次いで、ああ飛んでもないことを言はなくつてよかつたと胸を
撫
(
な
)
でおろした。
三つの挿話
(新字旧仮名)
/
神西清
(著)
が、そのたんびに何か込み上げてくるとみえて、慌てて胸を
撫
(
な
)
で下ろしていた。そこでそろそろと始まってきたわけであった。
葛根湯
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
汽車は
駿河湾
(
するがわん
)
に沿うて走っている。窓外は
暗闇
(
まっくら
)
だが、海らしいものが
見別
(
みわ
)
けられる。涼しい風が汗でネバネバした
膚
(
はだ
)
を気持よく
撫
(
な
)
でて行く。
急行十三時間
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
食卓の上を大きな
羽箒
(
はぼうき
)
でサッとひと
撫
(
な
)
で。どこにもご飯つぶなんかこぼれていない。それがすむと、キチンと窓際に整列する。
キャラコさん:07 海の刷画
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
惣治も酔でも廻ってくると、額に
被
(
か
)
ぶさる長い髪を掌で
撫
(
な
)
で上げては、無口な平常に似合わず老人じみた調子でこんなようなことを言った。
贋物
(新字新仮名)
/
葛西善蔵
(著)
美妙の書斎のように
嚇
(
おど
)
かし道具を
列
(
なら
)
べる余地もなかったし、美妙のように何でも来いと
頤
(
あご
)
を
撫
(
な
)
でる
物識
(
ものしり
)
ぶりを発揮しなかった。
美妙斎美妙
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
と赤ん坊を
諭
(
さと
)
すように背中を
撫
(
な
)
でまわしたのであったが、しかし、そんな親切や同情が彼には、ちっとも通じないらしかった。
木魂
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
今
(
いま
)
、この
新
(
あたら
)
しく
入
(
はい
)
って
来
(
き
)
た
仲間
(
なかま
)
を
歓迎
(
かんげい
)
するしるしに、
立派
(
りっぱ
)
な
白鳥達
(
はくちょうたち
)
がみんな
寄
(
よ
)
って、めいめいの
嘴
(
くちばし
)
でその
頸
(
くび
)
を
撫
(
な
)
でているではありませんか。
醜い家鴨の子
(新字新仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
ついでに着せもしてやらうと青山の兄から
牡丹餅
(
ぼたもち
)
の様に
甘
(
うま
)
い
文言
(
もんごん
)
、偖こそ
胸
(
むね
)
撫
(
な
)
で下し、招待券の
御伴
(
おとも
)
して、逗子より新橋へは来りしなりけり。
燕尾服着初めの記
(新字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
甚だ病弱だった私は裏に住む漢方医者に腹を
撫
(
な
)
でてもらいながらも、その滝に
見惚
(
みと
)
れた。その医者が、ちょっと竹に
雀
(
すずめ
)
ぐらいの絵心はあった。
大切な雰囲気:03 大切な雰囲気
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
咽喉
(
のど
)
のところを
撫
(
な
)
でてやったら、すぐにそいつが咽喉をごろごろ鳴らし出したので、私はなんだか
反
(
かえ
)
ってさびしい気がした。
旅の絵
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
その時モルガンは、燃えあがった若い血の流れる体を、冷い手で逆に
撫
(
な
)
でられたように、ゾッとしたものを受けとったのだ。
モルガンお雪
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
撫
漢検準1級
部首:⼿
15画
“撫”を含む語句
慰撫
撫育
撫下
撫子
撫肩
愛撫
猫撫声
横撫
掻撫
撫養
撫付
撫斬
撫廻
撫附
撫物
猫撫聲
左方撫刀剣
麝香撫子
撫川団扇
撫恤
...