はさ)” の例文
旧字:
それから彼は私の右手をなで、ひどく感心している様子でしたが、ひづめはさまれて手が痛くなったので、私は思わず大声をたてました。
こういう谷が松林の多いがけはさんで、古城の附近に幾つとなく有る。それが千曲川ちくまがわの方へ落ちるに随って余程深いものと成っている。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
既に畑に到れば斥候ら高地に上って四望し、その他はすこぶるく糧を集め、頬嚢きょうのうに溢るるばかり詰め込んだ後多くの穂を脇にはさむ。
鶴子が間にはさまって困ったのであったが、十七回忌には大阪へ行って埋め合せをするからと云うのが、その折の辰雄の言訳であった。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
神楽坂かぐらざかへかゝると、ひつそりとしたみちが左右の二階家にかいやはさまれて、細長ほそながまへふさいでゐた。中途迄のぼつてたら、それが急に鳴りした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
耳にはさんだ筆をとると、さらさらと帖面ちょうめんの上を走らせ、やがて、それを口にくわえて算盤そろばんはじくその姿がいかにもかいがいしく見えた。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
懐中ふところから塵紙ちりがみして四つにつて揚子箸やうじばし手探てさぐりで、うくもちはさんで塵紙ちりがみうへせてせがれ幸之助かうのすけへ渡して自分も一つ取つて、乞
「そうかそうか」だの「それは面白い点だ」などと兄はところどころに言葉をはさみながら、私の報告を大変興味探そうに聞いていました。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
温故之栞おんこのしおり』(巻十)にはこの国の水田生産のことを記して、以前は割竹五六本を木の台に立てつらね、稲を七八けいずつはさんでいた故に
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
四、五たび両妓ふたりがぶつかるうちに、当然、黒さんをはさんで張りッこになった。お鷹は、お蝶に情夫いろがあるのを知っていたので
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも、脱ぎかけた浴衣ゆかたをなお膝に半ばはさんだのを、おっ、とうと、あれ、と言うに、亭主がずるずると引いて取った。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし汽車はその時分には、もう安々と隧道をすべりぬけて、枯草の山と山との間にはさまれた、或貧しい町はずれの踏切りに通りかかっていた。
蜜柑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
笠神博士の所にあった写真版が、毛沼博士の寝室にあった雑誌から取り去られたものであることは、疑いをはさむ余地がない。
血液型殺人事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
それをちらと小耳にはさんだシユワツブ氏は、長い一生を通じてその瞬間ほど、どやしつけられたやうな思ひをしたことはないといつたさうだ。
今夜は少し熱があるかして苦しいようだから、横に寝て句合の句を作ろうと思うて蒲団ふとんかぶって験温器を脇にはさみながら月の句を考えはじめた。
句合の月 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
私は塩たれたメリンスの帯の結びめに、庖丁ほうちょう金火箸かなひばしや、大根り、露杓子つゆじゃくしのような、非遊離的ひゆうりてきな諸道具の一切いっさいはさんだ。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
又恋愛の欲望のむちでむちうたれていてすると云うなら、それも別問題であろう。この場合に果してそれがあろうか、少くも疑をはさむ余地がある。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
笹村は時々兄から祖先のことを言い聞かされることがないでもなかった。自分の母親の実家に伝わったいろいろの伝説なども小耳にはさんでいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
白墨を耳にはさんだ彼等は、据えつけた機械のまわりを歩いたり、指先きでこすってみたり、ヤレ、ヤレという顔をした。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
じりじりと照りつける陽の光と腹匍はらばいになった塚の熱砂の熱さとが、小初の肉体を上下からはさんで、いおうようない苦痛の甘美かんびに、小初をおとしいれる。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
怪我けがもしなかったことを私は安心しましたが、父はこんな突発的な場合にも素早く、馴れたものでそれというと、葛籠つづらの中の売りめを脇にはさんで
雅子は顔をあかくしたが、別にとめだてしないで、その両頬を手ではさんで、テーブルに眼を落した。私も、うつむいた。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
足軽あしがるの家に生れた者は足軽になり、先祖代々、家老は家老、足軽は足軽、そのあいだはさまって居る者も同様、何年経ても一寸ちょいとも変化とうものがない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
銀公は両手で頭を押え、前後を私服にはさまれて、渡り板を渡りながら、痛えよう、死んじまうよう、とかなきり声で叫び続けた。私服は三人いたのだ。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そのはずみに掴まれた帯はゆるんで、帯にはさんでいたらしい何物かがかちりと地に落ちた。勘太が手早く拾ってみると、それは月に光る二朱銀であった。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
やっぱり柳沢の方に向ってそういいながら餉台ちゃぶだいはさんで柳沢と向い合って座った。そしてその横手に黙って坐っている私の方をチラリと振り向きながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
けれどもその代りに、杉本は、妙な毛の生えた小さな肉片を、まるでジグソー・パズルでもする様な意気込んだ調子で鉄火箸かねひばしの先にはさんで持出して来ました。
とむらい機関車 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
何か考え深そうな面持をしているドイツ人らしい両親の間にはさまれた、まだ幼い、いかにも腕白者らしい子供が、彼から少し離れた席にいる同じような年頃の
木の十字架 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
されども諸王は積年の威をはさみ、大封のいきおいり、かつ叔父しゅくふの尊きをもって、不遜ふそんの事の多かりければ、皇太孫は如何いかばかり心苦しくいとわしく思いしみたりけむ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私たちは、机の傍の炉をはさんで坐った。彼の机の上には、一冊の書物が、ひらかれたまま置かれていた。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
創立以来勤続三十年といふ漢文の老教師は、癖になつてゐる鉄縁の老眼鏡を気忙きぜはしく耳にはさんだりはづしたりしながら、相好さうがうくづした笑顔で愛弟子まなでしの成功を自慢した。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
ひるがえって俳句を見ると、なるほど俳句にはこういう長所がある、俳句は他の文芸の間にはさまってこういう性質のものである、という事がわかるようになるであろう。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
千枝子と定雄は中に清をはさんで、固そうな雪の上を選びながら渡っていった。ひやりと肌寒い空気のほおにあたって来る中で、うぐいすがしきりに羽音を立てて鳴いていた。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
一人は「腕の喜三郎」という綽名あだなで呼ばれている三十二、三歳の男で、紡績工場の職工だった時、機械にはさまれてぎとられたとかで右の腕が附け根から無かった。
家の者は窓へって発砲し、警官隊は塀の間からはさみ撃ちし、強盗は、植え込みから植込みを昆虫のようにって縫いながら、この内外の敵を相手に猛悪もうあくに応戦した。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
美佐子はそうなだめるように言って、青年紳士の立っている方へけて行った。青年は煙草をはさんだ手を眼のところまで上げて、微笑ほほえみながら伸子への挨拶を送っていた。
秘密の風景画 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
わたくしは人に道をきくわずらいもなく、構内の水溜りをまたぎまたぎ灯の下をくぐると、いえ亜鉛トタン羽目はめとにはさまれた三尺幅くらいの路地で、右手はすぐ行止りであるが
寺じまの記 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
叱っているうちに、参詣さんけいすべきお寺について相談している婆さんの五、六人が、電車とバスの間にはさまれてうろうろする。それを救助して電車へ押込まなければならぬ。
ひたいには湯のような汗があった。彼は右の手を腰にやった。白い浴衣ゆかた兵児帯へこおびには手拭てぬぐいはさんであった。彼は手さぐりにその手拭をり、左の手で帽子を脱いで汗をぬぐった。
雑木林の中 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
... 睡魔すいまです! 左様さよう!』と、イワン、デミトリチは昂然こうぜんとして『貴方あなた苦痛くつう軽蔑けいべつなさるが、こころみ貴方あなたゆびぽんでもはさんで御覧ごらんなさい、そうしたらこえかぎさけぶでしょう。』
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
おめえやおふくろに、わせるかおはねえンだが、ちっとばかり、ひとたのまれたことがあって、義理ぎりはさまれてやってたのよ。おせん、まねえが、おいらのたのみをいてくんねえ
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
こめて、うんと担ぎ上げ、山路やまみちを登つてまゐりましたが、途中で、右と左から、山と山との、さし出た所で、岩が両方の岸に、がつちり、はさまつてしまひましたのでございます。
岩を小くする (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
六区の映画街の中ほどに、コンクリートの大映画館にはさまれた、谷底のように薄暗くて狭い抜け道がある。どんな雑沓ざっとうの日でも、この陰気な抜け道を利用する者はごくまれであった。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だ私の詩集が八冊程花瓶はながめの前へ二つに分けて積まれてあるのだけは近頃からのことであると思ふと云ふのです。本の彼方此方あちこちには白い紙がしおりのやうにしてはさんであると云ふのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
が、紅葉の方ではとかくに疎隔して会えば打釈うちとけていても内心は敵意をはさんでいた。
両方の軍勢は川をはさんで向かい合いに陣取じんどりました、彦国夫玖命ひこくにぶくのみことは、敵に向かって
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「そうだろう。もう明日だって明後日あさってだって、いいんだから。早く承諾書をとれぁいいんだ。どうしたんだろう、昨日校長は、たしかに証書をわきにはさんでこっちの方へ来たんだが。」
フランドン農学校の豚 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
私の席の下の方に、知らない人たちの間にはさまって、今さらのように失意な淋しい気持で、坐っていた。やがて佐々木は、発起人を代表して、皆なの拍手に迎えられて、起ちあがった。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
石之助いしのすけとて山村の総領息子、母の違ふに父親てておやの愛も薄く、これを養子にいだして家督あと妹娘いもとむすめなかにとの相談、十年の昔しより耳にはさみて面白からず、今の世に勘当のならぬこそをかしけれ
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これは両方を散らさぬ先に引き分けるが上分別じょうふんべつとは思い浮んだけれども、あまりによく気合が満ちているので、行司の自分も釣り込まれそうで、なんと合図のはさみようもないくらいです。