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幽
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かすか
ふりがな文庫
“
幽
(
かすか
)” の例文
謁見室には
只
(
ただ
)
一人宮相だけが残っていた。夜と昼との境目の、微妙な灰色の外光を、窓から
幽
(
かすか
)
に受けながら、彼は思いに沈んでいる。
闘牛
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
詩歌の本流というものもちょうどこうした
深処
(
しんしょ
)
にあって
幽
(
かすか
)
に、力強く流るるものだ。この本流のまことの生命力を思わねばならない。
木曾川
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
千仭
(
せんじん
)
の
崕
(
がけ
)
を
累
(
かさ
)
ねた、漆のような波の間を、
幽
(
かすか
)
に
蒼
(
あお
)
い
灯
(
ともしび
)
に照らされて、白馬の背に
手綱
(
たづな
)
したは、この度迎え取るおもいものなんです。
海神別荘
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
そして、彼女が、うとうとと、居眠りを始める様な場合には、私は、極く極く
幽
(
かすか
)
に、膝をゆすって、
揺籃
(
ようらん
)
の役目を勤めたことでございます。
人間椅子
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
「いゝえ、あなた。里の方はとうのむかし、わたくし、ほんの
幽
(
かすか
)
に覚があるくらゐですの。わたくし七ツの時から乳母の家で育ちましたの。」
来訪者
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
▼ もっと見る
思ひ切りたる道なれど、今を限りの浪の上、さこそ心細かりけめ、
三月
(
やよい
)
の末の事なれば春も既に暮れぬ。海上遥かに霞こめ浦路の山も
幽
(
かすか
)
なり。
本朝変態葬礼史
(新字新仮名)
/
中山太郎
(著)
と
幽
(
かすか
)
な幽な声で転がすように
唄
(
うた
)
った。
正
(
まさ
)
しく生ているおりなら、
笑
(
え
)
みくずれるほどに笑ったのであろう。唇をパクリとした。
旧聞日本橋:09 木魚の配偶
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
私はもう
掻毟
(
かきむし
)
られるような
悶心地
(
もだえごこち
)
になって聞いておりますと、やがて御声は
幽
(
かすか
)
になる。
泣逆吃
(
なきじゃくり
)
ばかりは時々聞える。時計は十時を打ちました。
旧主人
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
丸顔に
愁
(
うれい
)
少し、
颯
(
さっ
)
と
映
(
うつ
)
る
襟地
(
えりじ
)
の中から
薄鶯
(
うすうぐいす
)
の
蘭
(
らん
)
の花が、
幽
(
かすか
)
なる
香
(
か
)
を肌に吐いて、着けたる人の胸の上にこぼれかかる。
糸子
(
いとこ
)
はこんな女である。
虞美人草
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
夜更
(
よふ
)
けて
四辺
(
あたり
)
静
(
しずか
)
なれば大原家にて人のゴタゴタ語り合う声
幽
(
かすか
)
に
聞
(
きこ
)
ゆ。お登和嬢その声に引かされて思わず門の外へ
出
(
い
)
でたり。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
さまれる物から
不二
(
ふじ
)
の峯
幽
(
かすか
)
にみえて
上野谷中
(
うへのやなか
)
の花の
梢
(
こずゑ
)
又いつかはと心ほそしむつましきかきりは宵よりつとひて舟に乗て送る千しゆと
云所
(
いふところ
)
にて船を
秋日記
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
そしてかういふ感じが順序を追つて起つてゐる背後に、物を盗まうといふ意志が、
此等
(
これら
)
の閾の下に潜んでゐる感じより一層
幽
(
かすか
)
に潜んでゐたのである。
金貨
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
二人は足を早めて
賑
(
にぎや
)
かな方へ歩き出した。家の間へ
這入
(
はい
)
って見ると、河の岸で聞くよりは音楽の声が
幽
(
かすか
)
になっている。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
落葉が
積
(
つも
)
ってふっくりと柔い土を踏んで、上るともなく上って行くと、小鳥の声さえも聞こえぬ淋しい黒木立の中で、
咽
(
むせ
)
ぶような
幽
(
かすか
)
な音が耳に入った。
秋の鬼怒沼
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
透谷庵主、透谷橋外の市寓に
倦
(
う
)
みて、近頃
高輪
(
たかなわ
)
の閑地に新庵を結べり。樹
幽
(
かすか
)
に水清く、
尤
(
もつと
)
も浄念を養ふに便あり。
我牢獄
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
その壑底には巨木が森々と茂っていて、それが吹きあげる風に枝葉をゆうらりゆらりと動かすのが
幽
(
かすか
)
に見えた。
陳宝祠
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
尤も四月十五日で青空は一点の雲もなく、月は
皎々
(
こう/\
)
と
冴渡
(
さえわた
)
り、月の光が波に映る景色というものは実に凄いもので、
幽
(
かすか
)
に猿島烏帽子島金沢なども見えまする。
松の操美人の生埋:02 侠骨今に馨く賊胆猶お腥し
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
誦
(
ず
)
しをはりて七兵衛に物などくはせ、さて日もくれければ
仏壇
(
ぶつだん
)
の下の
戸棚
(
とだな
)
にかくれをらせ、
覗
(
のぞ
)
くべき
節孔
(
ふしあな
)
もあり、さて
仏
(
ほとけ
)
のともし火も家のもわざと
幽
(
かすか
)
になし
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
ブラゴウエスチエンスキイ寺院の暗い中に
灯
(
ひ
)
の
幽
(
かすか
)
に
点
(
とも
)
つた石の廊下を踏んで、本堂の鉄の扉の間から遠い
処
(
ところ
)
の血の色で隈取られた様な壁画を透かして眺めた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
そのほのかな温みがコオロギに蘇生の想あらしめたのであろう。断続して
幽
(
かすか
)
な声が聞える、というのである。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
送りけるが此喜八
素
(
もと
)
より
實體
(
じつてい
)
なる者故に
困
(
こま
)
ればとて人に無心
合力
(
がふりよく
)
などは
決
(
けつ
)
して云し事なく
幽
(
かすか
)
な
渡世
(
とせい
)
にても己れが
果福
(
くわふく
)
なりと
斷念
(
あきらめ
)
其日を送りける
然
(
され
)
ば喜八は吉之助を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
桂川の水音
幽
(
かすか
)
に聞えて、秋の
夜寒
(
よさむ
)
に立つ鳥もなき
眞夜中頃
(
まよなかごろ
)
、往生院の門下に蟲と共に泣き暮らしたる横笛、哀れや、紅花緑葉の衣裳、涙と露に
絞
(
しぼ
)
るばかりになりて
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
酒を
給
(
た
)
べさせるから
此処
(
ここ
)
を剃らせろと
云
(
い
)
うその酒が飲みたさ
計
(
ばか
)
りに、痛いのを我慢して泣かずに剃らして居た事は
幽
(
かすか
)
に覚えて居ます。天性の悪癖、誠に
愧
(
は
)
ずべき事です。
福翁自伝:02 福翁自伝
(新字新仮名)
/
福沢諭吉
(著)
例の
奇癖
(
きへき
)
は
斯
(
かう
)
いふ
場合
(
ばあひ
)
にも
直
(
す
)
ぐ
現
(
あら
)
はれ、若しや
珍石
(
ちんせき
)
ではあるまいかと、
抱
(
だ
)
きかゝへて
陸
(
をか
)
に
上
(
あ
)
げて見ると、
果
(
はた
)
して! 四
面
(
めん
)
玲瓏
(
れいろう
)
、
峯
(
みね
)
秀
(
ひい
)
で
溪
(
たに
)
幽
(
かすか
)
に、
亦
(
また
)
と類なき
奇石
(
きせき
)
であつたので
石清虚
(旧字旧仮名)
/
国木田独歩
(著)
樫
(
かし
)
の実が一つぽとりと落ちた。其
幽
(
かすか
)
な響が消えぬうちに、
突
(
つ
)
と入って縁先に立った者がある。
小鼻
(
こばな
)
に
疵痕
(
きずあと
)
の白く光った三十未満の男。駒下駄に
縞物
(
しまもの
)
ずくめの
小商人
(
こあきんど
)
と云う
服装
(
なり
)
。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
一鳥鳴いて山更に
幽
(
かすか
)
なりということもあるのだから、時と人とによっては、これから日の出の朝までをはじめて夜の領分として、この辺から
徐
(
おもむ
)
ろに枕につこうというのも多いのです。
大菩薩峠:36 新月の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
ああ、と復一は
幽
(
かすか
)
な
嘆声
(
たんせい
)
をもらした。彼は真佐子よりずっと背が高かった。
金魚撩乱
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
或
(
あるい
)
は
檣
(
マスト
)
のように渚に突立って、
黝
(
くろ
)
みゆく水平線のこんもり
膨
(
ふく
)
れた背を、瞬きを忘れて見詰め、或は又、
右手
(
めて
)
の
太郎岬
(
たろうみさき
)
の林を染めている
幽
(
かすか
)
な
茜
(
あかね
)
に、少女のような感傷を覚えたり、さては疲れ果て
腐った蜉蝣
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
何か言いたいような風であったが、談話の
緒
(
ちょ
)
を得ないというのらしい、ただ温和な親しみ寄りたいというが如き微笑を
幽
(
かすか
)
に
湛
(
たた
)
えて予と相見た。と同時に予は少年の竿先に魚の
来
(
きた
)
ったのを認めた。
蘆声
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
祈り終って声は一層
幽
(
かすか
)
に遠くなり
忘れ形見
(新字新仮名)
/
若松賤子
(著)
枯荻
(
かれおぎ
)
に添ひ立てば我
幽
(
かすか
)
なり
五百五十句
(新字旧仮名)
/
高浜虚子
(著)
少し離れた森の奥から、囁く声、歩き廻わる足音、そんなものが
幽
(
かすか
)
に聞え、其処に大勢の人間が、集まっていることを証明しました。
さまよう町のさまよう家のさまよう人々
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
縛られているのもある、
一目
(
ひとめ
)
見たが、それだけで、遠くの方は、小さくなって、
幽
(
かすか
)
になって、
唯
(
ただ
)
顔ばかり
谷間
(
たにま
)
に
白百合
(
しろゆり
)
の咲いたよう。
春昼
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
さすがに
幽
(
かすか
)
な反射はあつて、仰げば仰ぐほど暗い藍色の海のやうなは、そこに他界を望むやうな心地もせらるゝのであつた。
破戒
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
モー二時間ばかり
苦
(
くるし
)
んでいるが段々激烈になって当人は死ぬような騒ぎだ。そらあの苦しむ声が
幽
(
かすか
)
に聞えるだろう。あんな
頑固
(
がんこ
)
な吃逆は見た事がない。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
其中に闇を
劈
(
さ
)
いて電光が閃き始めた。遠方で轟く雷鳴の音が何処からともなく
幽
(
かすか
)
に耳に伝わる。夜目にも万象は漸く
惨憺
(
さんたん
)
たる有様を呈して来たことが窺われる。
秩父宮殿下に侍して槍ヶ岳へ
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
夜は全く声がしなくなってからでも、日当りのいいところでは、生残りの虫が
幽
(
かすか
)
に声を立てることがある。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
と、何処かで
幽
(
かすか
)
な物の音がしはじめた。女も貴婦人も顔の色を変えた。同時に家の中が騒がしくなった。
崔書生
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
「アア、ま、もる、
君
(
くん
)
か。わしは、ひ、ひどい、めに遭った」と、もつれる舌で、やっとそれだけ云うと、ガッカリと疲れた様に、目を
閉
(
ふさ
)
いで、又
幽
(
かすか
)
に唸り始めた。
妖虫
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
最初は口早に、いつもより
声高
(
こわだか
)
に言っていたのが、段々末の方になると声が
幽
(
かすか
)
になってしまった。
みれん
(新字新仮名)
/
アルツール・シュニッツレル
(著)
か
隱
(
かく
)
し申すべき私しは此谷町に
住
(
すむ
)
喜八とて
幽
(
かすか
)
に
暮
(
くら
)
す者なるが昨日主人の若旦那を私し方へ
預
(
あづか
)
り候處夫婦の
着
(
き
)
たる
三布蒲團
(
みのぶとん
)
一ツの
外
(
ほか
)
はなく金の
才覺
(
さいかく
)
は
尚
(
なほ
)
出來ず是非なく妻を
大岡政談
(旧字旧仮名)
/
作者不詳
(著)
午後
(
ひるすぎ
)
に夕立を
降
(
ふら
)
して去った雷鳴の名残が遠く
幽
(
かすか
)
に聞えて、真白な大きな雲の峰の一面が夕日の反映に染められたまま見渡す
水神
(
すいじん
)
の
森
(
もり
)
の
彼方
(
かなた
)
に浮んでいるというような時分
夏の町
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
涙の中にかみ絞る袂を漏れて、
幽
(
かすか
)
に聞ゆる
一言
(
ひとこと
)
は、誰れに聞かせんとてや、『ユ許し給はれ』。
滝口入道
(旧字旧仮名)
/
高山樗牛
(著)
エジツが縄を
弛
(
ゆる
)
め
乍
(
なが
)
ら耳をぢつと
澄
(
すま
)
して「それ、
釣瓶
(
つるべ
)
が今水に着きました」と
静
(
しづか
)
に言ふ時、底の底で
幽
(
かすか
)
に紙の触れる様な音がした。
釣瓶
(
つるべ
)
が重いので僕も手を添へて巻上げた。
巴里より
(新字旧仮名)
/
与謝野寛
、
与謝野晶子
(著)
何方
(
どっち
)
へ出たら宿屋があるかそれさえ分らないので、人に聞こうかと
幾度
(
いくたび
)
か傍へ寄っても何うも聞くことが出来ず、おい/\人は散り汽車の横浜さして
行
(
ゆ
)
く音も
幽
(
かすか
)
になったから
根岸お行の松 因果塚の由来
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
駒下駄の音も
次第
(
しだい
)
に
幽
(
かすか
)
になって、
浴衣
(
ゆかた
)
姿
(
すがた
)
の白いM君は吸わるゝ様に
靄
(
もや
)
の中に消えた。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
ギニヴィアは倒れんとする身を、危く壁掛に
扶
(
たす
)
けて「ランスロット!」と
幽
(
かすか
)
に叫ぶ。王は迷う。肩に
纏
(
まつ
)
わる緋の衣の裏を半ば返して、
右手
(
めて
)
の
掌
(
たなごころ
)
を十三人の騎士に向けたるままにて迷う。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
岑閑
(
しんかん
)
とせし広座敷に何をか語る呼吸の響き
幽
(
かすか
)
にしてまた人の耳に徹しぬ。
五重塔
(新字旧仮名)
/
幸田露伴
(著)
登りつむればここは高台の見晴らし広く大空澄み渡る日は
遠方
(
おちかた
)
の
山影
(
さんえい
)
鮮
(
あざ
)
やかに、
国境
(
くにざかい
)
を限る山脈林の上を走りて見えつ隠れつす、冬の朝、霜寒きころ、
銀
(
しろかね
)
の鎖の末は
幽
(
かすか
)
なる空に消えゆく雪の峰など
わかれ
(新字新仮名)
/
国木田独歩
(著)
体
(
からだ
)
は
透徹
(
すきとほる
)
やうにてうしろにあるものも
幽
(
かすか
)
に見ゆ。
北越雪譜:03 北越雪譜初編
(新字旧仮名)
/
鈴木牧之
、
山東京山
(著)
幽
常用漢字
中学
部首:⼳
9画
“幽”を含む語句
幽暗
幽寂
幽閉
幽界
幽邃
幽霊
幽鬱
幽咽
幽冥
探幽
幽明
幽囚
深山幽谷
幽玄
幽霊船
幽鬼
幽魂
幽静
幽遠
幽微
...