むすめ)” の例文
国守は、なぜか知ら、突然京に残したむすめの事を思い出していた。そうして馬にまたがったまま、その森の方へいつまでも目を遣っていた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
開きれば一少艾衣類凋損ひとりのむすめきものそこねたれど妍姿傷みめそこねず問うてこれ商人のむすめ母に随い塚に上り寒食をすところを虎に搏たれ逃げ来た者と知り
また佐平に息真太郎、むすめ啓があった。然るに佐平もその子女も先ず死して、未亡人ぎんが残った。これが崖上がけうえの家の女主人であった。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
杖に縋って早や助かれ。むすめやい、女、金子は盗まいでも、自分の心がうぬが身を責殺すのじゃわ、たわけ奴めが、フン。わしを頼め、膝を
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
老女の鳥羽は、浪人榊田さかきだ六郎左衛門のむすめで、十七歳のとき故忠宗の夫人の侍女にあがり、いまはこの本邸で、亀千代の守をしている。
それは長男の信親が豊後の戸次へつぎ川で戦死したので、四男の盛親を世嗣ぎとして、それに信親のむすめを配偶にしようと云うのであった。
八人みさきの話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
そはもし衣にだにもさはらばいえんとおもへばなりイエスふりかへりをんなを見て曰けるはむすめよ心安かれ爾の信仰なんぢを愈せり即ち婦この時よりいゆ
忘れがたみ (新字新仮名) / 原民喜(著)
今何かいいつけられて笑いを忍んで立って行く女のせなに、「ばか」と一つ後ろ矢を射つけながら、むすめはじれったげに掻巻かいまき踏みぬぎ
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
ラモンド・ベリンギエーリには四人よたりむすめありて皆王妃となれり、しかしてこは賤しき旗客ロメオの力によりてなりしに 一三三—一三五
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
カピ長 月曜日げつえうび! はゝア! かうッと、水曜日すゐえうびはちときふぢゃ。木曜日もくえうびにせう。……むすめに、木曜日もくえうびにはこの殿との祝言しふげんさすると被言おしゃれ。
イヤそれどころでは無い、太郎将弘が早世したから、将門は実際良将の相続人として生長したのである。将門の母は犬養春枝のむすめである。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
皇后のかしずきに、阿野あの中将のむすめ廉子やすことよばるる女性があった。廉子の美貌はいつか天皇のお眼にとまって、すぐ御息所みやすんどころの一と方となった。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鏡子は弟の様に思つて居る京都の信田しのだと云ふ高等学校の先生が、自分は一人子ひとりごむすめよりも他人の子の方をはるかに遥に可愛く思ふ事
帰つてから (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
陳の大夫御叔ぎょしゅくの妻夏姫かきは、鄭の穆公のむすめに当る。周の定王の元年に父が死に、その後を継いだ兄の子蛮も直ぐに翌年変死した。
妖氛録 (新字新仮名) / 中島敦(著)
左大将も第一人者たる将来が約束されている人であったから、式部卿の宮の御孫むすめ、左大将の長女である姫君を人は重く見ているのである。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
ここに海神のむすめのトヨタマ姫の侍女が玉の器を持つて、水をもうとする時に、井に光がさしました。仰いで見るとりつぱな男がおります。
ふたゝびあんずるに、小野の小町は羽州うしう郡司ぐんじ小野の良実よしざねむすめなり、楊貴妃やうきひ蜀州しよくしう司戸しこ元玉がむすめなり、和漢ともに北国の田舎娘世に美人の名をつたふ。
また妃山辺皇女やまべのひめみこ殉死の史実を随伴した一悲歌として永久に遺されている。ちなみに云うに、山辺皇女は天智天皇の皇女、御母は蘇我赤兄あかえむすめである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
武の長男のしんが王という家のむすめめとっていた。ある日武は他出して林児を留守居にしてあった。そこの書斎の庭に植えてある菊の花が咲いていた。
田七郎 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
れその第一のむすめをエミマとなづけ第二をケジアと名け第三をケレンハップクと名けたり、全国の中にてヨブの女子らほど美しき婦人は見えざりき
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
牡丹ぼたん匂阿羅世伊止宇にほひあらせいとう苧環をだまきの花、むすめざかりの姿よりも、おまへたちのはうがわたしはすきだ。ほろんだ花よ、むかしの花よ。
牧羊神 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
ダルウラは群島の王ソミイルのむすめであった——モルナのむすめダルウラのむすめエイリイ、三代うちつづく三人のすぐれて美しい女たちの中の一人であった。
(新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
その氣高かりし海のむすめの今は頭をれたるぞ哀なる。われ。フランツ帝の下にありて幸ありとはいふべからざるか。ポツジヨ。われは政治を解せず。
次にその北の方と云うのは、筑前守ちくぜんのかみ在原棟梁むねやなむすめであるから、在五中将業平の孫に当る訳であるが、此の夫人の正確な年齢は、ほんとうのところよく分らない。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
当時ガリラヤおよびペレヤの国守テトラルクであり、ガリラヤ湖の西岸にチベリアスという町を建ててこれを居城とし、アラビヤ王ペトレアのむすめアレタスを妻としていた。
吉野さんの方はどうかと聞けば、ヤレわたしが貧乏人のむすめであつても貰ひたいとつしやるのでせうかの
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
始めは清河せいか崔氏さいしむすめと一しょになりました。うつくしいつつましやかな女だったような気がします。そうしてあくる年、進士しんしの試験に及第して、渭南いなんになりました。
黄粱夢 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先年故人となられた皇典講究所の講師青戸波江翁のむすめが沼津在に嫁して居られたが、不幸にも病死されたので翁も葬儀に列すると、火葬場において会葬の遺族や親族が
屍体と民俗 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
「子供ははァ背におぶっとる事ですよ。背からおろしといたばかしで、むすめもなくなっただァ」と云いかけて、斜視やぶの眼から涙をこぼして、さめ/″\泣き入るが癖である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ここに「娘の尼」とあるのは、「姑の尼」の誤まりかもしれぬが、もし「娘の尼」とある方が正しいとしたならば、法師の子はむすめまでも法師にしたことであったと思われる。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
維盛これもりやいばにたおれよ。わしは清盛のむすめはらを呪うたぞ。その胎よりいずるものは水におぼれよ。平家にわざわいあれ。禍あれ。平家の運命に火を積むぞ。平家の氏に呪いをおくぞ。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
バイロンの嵩峻を以ても、の貞淑寡言の良妻をして狂人と疑はしめ、去つて以太利イタリーに飄泊するに及んでは、妻ある者、むすめある者をしてバイロンの出入を厳にせしめしが如き。
厭世詩家と女性 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
あの『十六夜日記いざよいにっき』で名高い阿仏尼あぶつにが東国へ下る時に、そのむすめ紀内侍きのないしのこしたといわれる「にわおしえ」一名「乳母の文」にも、「庭の草はけづれども絶えぬものにて候ぞかし」
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
一人で美しいむすめに思いを寄せた男は、必ず申込みの印に「錦木」という木の枝を、その女の門口にさしておくという風習があって、その枝が取入れられれば承知したことになり
昔の思い出 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
竹千代(弘治二年末義元の義弟、関口親長ちかながむすめをめとる、後元康と称し更に家康と改む)
桶狭間合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そのむすめが、告発後自殺するならば、夫に対しては義を守り、父兄に対しては孝悌の道を尽す者であるということが出来るけれども、これはそなわらんことを人に責めるものであって
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
時のみかど中宮ちゆうぐう、後に建禮門院と申せしは、入道が第四のむすめなりしかば、此夜の盛宴に漏れ給はず、かしづける女房にようばう曹司ざうしは皆々晴の衣裳に奇羅を競ひ、六宮りくきゆう粉黛ふんたい何れ劣らずよそほひらして
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ひとりむすめと聞いていた先方の女子も嫁に出してもいいという親たちの意嚮もたしかめ、適当な相手と見きわめもついて、せがれの縁談はごく順調に自然に進行しているように思えるころ
幽香嬰女伝 (新字新仮名) / 佐藤春夫(著)
その筋は貧乏華族のむすめが家を救うために金持ちのところにお嫁にいきました。
私の思い出 (新字新仮名) / 柳原白蓮(著)
そのころよんだリイダアなどのむすめかとおもふけれど、それもたしかでない。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
むかし、但馬国たじまのくににおまつられになっている出石いずし大神おおがみのおむすめに、出石少女いずしおとめというたいそううつくしい女神めがみがおまれになりました。この少女おとめをいろいろな神様かみさまがおよめにもらおうとおもってあらそいました。
春山秋山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
嬢は富豪のむすめで珍らしい日本贔屓びいきの婦人だ。ことに日本文学を愛して、日本語をたくみに語り、日本文をも立派に書く。源氏物語を湖月抄と首引くびびきで読んでその質問で予の友人を困らせた程の𤍠心家だ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
養ひむすめとして育ててをるは、何の為ぞと思はるるや、旦那様は御老人、その亡き後はお静さんを、若旦那のお嫁にして、親顔せうとの深いたくらみ、それなればこそまだ十三の小娘のお静さんを
野路の菊 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
西海さいかいの合戦にうち負け、囚はれて鎌倉へ下るときに、この天竜川の西岸、池田の宿に泊つて、宿の長者熊野ゆやむすめ、侍従の許に、露と消え行く生命の前に、春の夜寒の果敢ない分れを惜しんだことは
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
汝所堅之美豆能小佩ナガカタメコシミヅノヲヒモ(こおびか)は、誰かも解かむ。」答へ申さく、「旦波比古多々須美智能宇斯王タニハノヒコタヽスミチノウシノミコむすめ、名は兄比売えひめおと比売、此二女王フタミコぞ、浄き公民オホミタカラ(?)なる。かれ、使はさばけむ。……」
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
あめのつれ/″\に、ほとけをしへてのたまはく、むかしそれくに一婦いつぷありてぢよめり。をんなあたか弱竹なよたけごとくにして、うまれしむすめたまごとし。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
昔、殿のお通いになっていらしった源の宰相なにがしとか申された殿の御むすめの腹に、お美しい女君が一人いらっしゃるそうでございます。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
頼朝がだ病気にならない時、御所ごしょの女房頭周防のむすめの十五になる女の子が、どこが悪いと云うことなしにわずらっていてくなった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
抽斎の高祖父輔之は男子がなくて歿したので、十歳になるむすめ登勢にむこを取ったのが為隣である。為隣は登勢の人と成らぬうちに歿した。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
我はラートナのむすめがかの影(さきに我をして彼にあり密ありと思はしめたる原因もとなりし)なくて燃ゆるを見たり 一三九—一四一
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)