そば)” の例文
「それっきりでございます。もっとも、私の秤は死骸のそばにも見えませんでした。あわててどこかへ振り落したのでございましょう」
ブラウンいわくこれは兎の雌雄ともに陰具のそばに排泄物を出す特別のせんその状睾丸こうがんごときあり、また肛門の辺に前に述べた数孔あり
城門のそばまで立ちよつて中を見ることが出来るのでした、そして午後の五時になると、重い鉄の扉がガラガラと閉ぢてしまふのです。
小熊秀雄全集-14:童話集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
と云いながらそばへ寄って、源三の衣領えりくつろげて奇麗きれいな指で触ってみると、源三はくすぐったいと云ったように頸をすくめてさえぎりながら
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たちまち私のそばを近々と横ぎって、左右に雪の白泡しらあわを、ざっと蹴立けたてて、あたかも水雷艇の荒浪を切るがごとく猛然として進みます。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある時、母は私の行く末を心配するあまりに、善教寺という寺のそばに店を出していた怪しい売卜者うらないしゃのところへ私を連れて参りました。
女難 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
現にこの別荘のすぐそば錦鱗きんりん湖という池があるが、その池の岸辺にも温泉が湧出しておって、その岸辺の水は温かいとのことである。
別府温泉 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
が、お久と云うものをそばへ置くとき、父が何だか父らしくなく、浅ましいじじいのように見えて来るのがこの上もなく不愉快なのである。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そばの一人が僕に舞踏の社交上必要なわけを説明して、是非稽古をしろと云うと、今一人が舞踏を未開時代の遺俗だとしての観察から
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
紺足袋で駕籠から足袋はだしの儘つか/\と重三郎のそばへ寄るより早く、粟田口の這入った箱へ手を掛けて無理に取ろうと致します。
実は忠通にもかねてその下心したごころがあったのであるが、自分のそばを手放すのが惜しさに、自然延引えんいんして今日こんにちまで打ち過ぎていたのである。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
本堂はそばに五重の塔を控えて、普通ありふれた仏閣よりもさびがあった。ひさし最中まんなかからさがっている白いひもなどはいかにも閑静に見えた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
無調法な現代の科学応用の兇器みたように、音を立てたり血を流したりしないから、白昼の往来でそばを通っている者でも怪しまない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼の電鈴でんれいを鳴して、火のそばに寄来るとひとしく、唯継はその手を取りて小脇こわきはさみつ。宮はよろこべる気色も無くて、彼の為すに任するのみ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
障子が段々だんだんまぶしくなって、時々吃驚びっくりする様な大きなおとをさしてドサリどうと雪が落ちる。机のそばでは真鍮しんちゅう薬鑵やかんがチン/\云って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
とうとう腹を決めて、細君がそばへ来ると口ぎたなくののしった。細君はそのはずかしめに堪えられないで、泣きながら死のうとした。景はいった。
阿霞 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
大鷲おほとり神社のそばの田甫の白鷺が、一羽起ち二羽起ち三羽立つと、明日の酉の市の売場に新らしく掛けた小屋から二三にんの人がはあらはれた。
里の今昔 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
私は、窓のそばに近づいて、戸を開けて見た。うちは暗くて、人の住んでいる気はいもない。物の腐れた臭いが激しく鼻を衝いて来る。
抜髪 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「あのおばあさんだよ。ああして向う向いていながら、後に目があるんじゃアないか、と思うんだ、」と耳のそばでいっている時に
でたらめ経 (新字新仮名) / 宇野浩二(著)
その時、赤彦君のうしろに猫がうづくまつてのどを鳴らしてゐた。これは赤彦君がいつも猫を可哀がるのでそばに来てゐるのであつた。
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
高手小手に縛り上げて、裏の中二階に転がし放しにして、其そばでお鉄はやけからの茶碗酒をあおりながら、さも口惜しそうに口を切った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
(板を壁にがたりと寄せ掛く。さてチョッキのみになりたるに心付き、ゆかの上にある上着を取上げ着る。娘、そばに寄る。)なんだ。
すぐをつとそばから松葉まつばひろげてあななかをつついた。と、はちはあわててあなからたが、たちま松葉まつばむかつて威嚇的ゐかくてき素振そぶりせた。
画家とセリセリス (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
やっとのことでそばまで来ても、もし客が黙って既買の切符を示せば、制服の老人はちょっと帽子をとって汗を拭き、そのまま直ぐ
すると、だんだん板に吸われていく疲労の快感に心は初めて空虚になった。彼はもうそばにいる子のことも妻のことも考えなかった。
比叡 (新字新仮名) / 横光利一(著)
旗男はこわごわそばへよってみた。道路の上に倒れている人数は、一人や二人ではなかった。誰もみな、身体をつっぱらして死んでいた。
空襲警報 (新字新仮名) / 海野十三(著)
可哀かわいそうな子家鴨こあひるがどれだけびっくりしたか! かれはねしたあたまかくそうとしたとき、一ぴきおおきな、おそろしいいぬがすぐそばとおりました。
男はこうって女の手を取って自分のそばへ並ばせた。それから片手を差し伸べて、景色を指さして、「あれがみんなだ」と云った。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
「はア、私は南條新子と申します。どうぞよろしく。」と、新子がすっかり親愛の度を深めた微笑で、答えると、小太郎がそばから
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
ちょうど山姥やまうばがもう少しで上がるところで、銀子はざっと稽古けいこをしてもらい、三味線しゃみせんそばへおくかおかぬに、いきなり切り出してみた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
逃げて行く二人を追いながら玄関まで主馬之介は走り出たがそばの半弓を押っ取るや、やじりを抜き取った矢をつがえて討手の勢へ声を掛けた。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そのそばで、警部や警察医や刑事達に取囲まれた一人の下男が、不気味な屍体を見まいとして、自分の顔へ手をかざしながら、話をつづけた。
見開いた眼 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
愚助は不思議に思ひながら、お父さまのそばへ近よりますと、お父様は、いきなり愚助のほほつぺたを、ぴしやりとなぐりつけました。
愚助大和尚 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
でも、困つたのよ、安いのを買はうとすると、そばから、三輪さんの奥さんが、こつちがいゝつて、高いのをるんですもの……。
屋上庭園 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
お別れするのはいや、考えちがいして宮仕もするのもいや、みやこにのぼることもいや、あなたのおそばにただいとうございます。
荻吹く歌 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
其間そばにゐる若いのは、ちつともわたしの方を見ません。一度も見ません。多分アンチオツフス王の事をでも考へて立つてゐたのでせう。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
彼は手記の中に書いている「このすばらしい自然の風光を眺めながら私の心はみなぎり溢れる。しかも私のそばに彼女はいない!」と。
その縄を解いて電話機のそばまで転がって行って、受話器を口にくわえて床の上に下ろし、それからアンジアンの電話局へ救助を叫んだのだ。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
窓から覗くと、直ぐそばのバナナ畑の下草をマリヤンが刈取つてゐるのだ。島民女に時々課せられる此の町の勤勞奉仕に違ひない。
帰る時、誰やらがうしろから外套をけて呉れた様だつたが、賑やかに送り出されて、戸外そとへ出ると、菊池君が私のそばへ寄つて来た。
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
柳行李やなぎかうりから云はれた物を出して居るのは妹の乳母うばでした。私はまた何時いつにか蚊帳を出て、定七さだしちの火事装束をするそばに立つて居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
この恵那峡は木曾川の中流である中津川駅のそばから大井町に至る水程三里の間にあって、岐蘇きそ渓谷中の最勝の奇景であるといわれている。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
致す事なかれ無禮ぶれいは許すそばちかく參るべし我はかたじけなくも當將軍家吉宗公よしむねこう御落胤ごらくいんなり當山中に赤川大膳といふ器量きりやうすぐれの浪人の有るよしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
小猫は肉の香を嗅ぎつけて新聞紙包のそばへ鼻を押しつけ、亭主にしかられた。やがて私達の後を廻って遠慮なくW君の膝に上った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
風呂桶ふろをけそばでは四十五十に百姓ひやくしやう一同みんな愉快相ゆくわいさうにどよめいた。おつぎが手桶てをけつたとき勘次かんじ裏戸うらど垣根口かきねぐちにひよつこりとた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
そのそばにはまだ五六人の仲間がいて潰した皮粕かわかすまるめてざるの中へ入れたり、散らばっているの皮を集めてその手許てもとに置いてやったりした。
岩魚の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
達手だてで自由でい、と私はそばで思いました。いかにも文明国の、そして自由な新時代の女性としての公平なポーズ(姿態したい)だと思いました。
女性の不平とよろこび (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
理事席のそばに二、三人の書記官の席があって、理事の参考に供する。また事務局の人々も出席していて、各種の質問に応ずる。
左手の前方には、墨黒々と不細工ぶさいくな書院風の窓が描かれ、同じ色の文机ふづくえが、そのそばに角度を無視した描き方で、据えてあった。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
や、巡査じゅんさ徐々そろそろまどそばとおってった、あやしいぞ、やや、またたれ二人ふたりうちまえ立留たちとどまっている、何故なぜだまっているのだろうか?
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)