駒下駄こまげた)” の例文
黒縮緬くろちりめん羽織はおり唐繻子たうじゆすおびめ、小さい絹張きぬばり蝙蝠傘かうもりがさそばに置き、後丸あとまるののめりに本天ほんてん鼻緒はなをのすがつた駒下駄こまげたいた小粋こいき婦人ふじんが、女
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
いつもなれば、本堂の前の敷石道には、夜通し駒下駄こまげたの音が絶えないのだが、そういう信仰家たちも人間豹には恐れをなしたものとみえる。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
だが、気弱なほおが月のようにはにかんでいる。無器用ぶきよう小供こどものように卒直に歩く——実は長い洋行後駒下駄こまげたをまだ穿れて居ないのだ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こうじたさまして、しろ駒下駄こまげたの、爪尖つまさきをコト/\ときざ洋傘かうもりさきが、ふるへるばかり、うちにつたうてはなれる。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
足駄あしだの歯はすれて曲がって、歩きにくいこと一通りでなかった。駒下駄こまげたよりはいいが、ハネはやっぱり少しずつあがった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
それがからこんからこんと駒下駄こまげたの音をさして生垣いけがきの外を通るので、ちょっと異様な感じを与えるとともに、そのからこんからこんの下駄の音は
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
窓から首を出す訳には行かないから、姿をき留める事は出来ないが、だんだん近づいて来る模様だ。からんからんと駒下駄こまげたを引きる音がする。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのうちに女は裏の木戸を開けて、ざくざくした石炭殻の路次口から駒下駄こまげたの音をさせて外へ出て行った。向うの酒屋へ酒を買いに行くらしかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それからまたその良人おっとさんには腕車くるまへ乗る入費や畳付たたみつき駒下駄こまげたを買う入費を倹約して台所へお向けなさいと勧めます。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
続くガラッ八とお糸、——その足には、お静の貸してくれた駒下駄こまげたを突っかけていたことは言うまでもありません。
ああいう人たちのはく下駄げたは大抵籐表とうおもて駒下駄こまげたか知ら。後がへって郡部の赤土が附着くっついていないといけまいね。
十日の菊 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
暫く見ていた花房は、駒下駄こまげたを脱ぎ棄てて、一足敷居の上に上がった。その刹那せつなの事である。病人は釣り上げたこいのように、煎餅布団の上で跳ね上がった。
カズイスチカ (新字新仮名) / 森鴎外(著)
『おい人車くるまに乘れば好かつたね。』と小池は、路傍みちばたの柔かい草の上を低い駒下駄こまげたに踏んで歩きつゝ土埃つちぼこりの立つことをふせいでゐるお光の背後うしろから聲をかけた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
糸織いとおり小袖こそでかさねて、縮緬ちりめん羽織はおりにお高祖頭巾こそづきんせいたかひとなれば夜風よかぜいと角袖外套かくそでぐわいとうのうつりく、ではつてますると店口みせぐち駒下駄こまげたなほさせながら、太吉たきち
うらむらさき (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雨降る日は二十はたちばかりの女何事をかかしましく叫びつ笑いて町の片側より片側へとゆくにかさささず襟頸えりくびを縮め駒下駄こまげたつまだてて飛ぶごとに後ろ振り向くさまのおかしき
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
跟けられるとは知らずに例の暢気のんきそうなふところ手、のめりの駒下駄こまげたをならしてゆくのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いつか帰るとき、足もとに立派な駒下駄こまげたを揃えられたことがあって、私はひどく狼狽ろうばいした。
朴歯の下駄 (新字新仮名) / 小山清(著)
駒下駄こまげた穿いているので、幸いにも水は足うらまではとどかないのであるが、腰をかけるわけにはゆかない。じっと立っていると、身体からだの中へ棒をとおされたように疲れてくる。
動物園の一夜 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
しきりに波立つ胸の不平を葉巻のけぶりに吐きもて、武男は崖道がけみちを上り、明竹みんちく小藪こやぶを回り、常春藤ふゆつたの陰に立つ四阿あずまやを見て、しばし腰をおろせる時、横手のわき道に駒下駄こまげたの音して
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
僕は新しい駒下駄こまげたをはいて、まっさきに外へ出た。駒下駄がへんに重くて、よろめいた。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この間までは黄八丈の綿入れに艶々つやつやとした糸織の羽織を着て、ちょいと出るにもキャラコの足袋たびに表附きの駒下駄こまげた穿いて居たものが、まあ何と云う浅ましい変りようをしたのだろう。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
入替いりかはりて一番手の弓の折は貫一のそびら袈裟掛けさがけに打据ゑければ、起きも得せで、崩折くづをるるを、畳みかけんとするひまに、手元に脱捨ぬぎすてたりし駒下駄こまげたを取るより早く、彼のおもてを望みて投げたるが
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
白ッポイ着物に青い博多織の帯を前下りに締めて紋付の羽織を着て、素足に駒下駄こまげた穿いた父の姿が何よりも先に眼に浮かぶ。その父は頭の毛をクシャクシャにして、黒い関羽鬚かんうひげを渦巻かせていた。
父杉山茂丸を語る (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お光は店をあがって、脱いだ両刳りょうぐりの駒下駄こまげたと傘とを、次の茶の間を通り抜けた縁側のすみの下駄箱へしまうと、着ていた秩父銘撰ちちぶめいせん半纏はんてんを袖畳みにして、今一間茶の間と並んだ座敷の箪笥たんすの上へ置いて
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
わすれはしまじと打過うちすぎけるに或日朝まだきに吉原土手を千住へ赴かんと鐵砲笊てつぱうざるかたにかけて行過ゆきすぐ折柄をりから向ふより御納戸縮緬なんどちりめん頭巾づきんかぶ唐棧揃たうざんそろひの拵へにてたゝみつきの駒下駄こまげた穿はき身奇麗みぎれいなる若い者此方こなた
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
毎日の食事時にはこの娘が駒下駄こまげたの音をさせて迎えに来る。
花物語 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
破けた傘にチビけた駒下駄こまげたをはいて
明日はメーデー (新字新仮名) / 槙村浩(著)
白地の浴衣ゆかたを着深草形ふかくさがた団扇うちわを片手に蚊を払ひながら、え渡る十三日の月を眺めて居ますと、カラコンカラコンと珍らしく駒下駄こまげたの音をさせて
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
中からおさえたのも気が附かぬか、駒下駄こまげたの先を、さかさに半分踏まえて、片褄蹴出かたづまけだしのみだれさえ、忘れたようにみまもって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
逸作はもう、玄関に出て駒下駄こまげた穿いて居たのである。其処へ出合いがしらに来合わせた誰かと、玄関のとびらを開けた処で話し声をぼそぼそ立てて居た。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
續くガラツ八とお糸、——その足には、お靜の貸してくれた駒下駄こまげたを突つかけてゐたことは言ふ迄もありません。
と泥だらけの駒下駄こまげたはきし両足をぶらぶらさせ大きなあくびする顔を鏡に映して見てゐる様子かへつてあどけなし。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
今夜こんやまた木戸番きどばんか、なんたらこと面白おもしろくもないと肝癪かんしやくまぎれに店前みせさきこしをかけて駒下駄こまげたのうしろでとん/\と土間どまるは二十のうへを七つか十か引眉毛ひきまゆげつく生際はへぎは
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すると路地をいって、溝板どぶいたの上を抜け足で渡って来る駒下駄こまげたの音がして又作の前に立ち止り、小声で
すると弟が今来客中だと云うから、玄関でいいからちょっとお目にかかりたいと云ったらおくへ引き込んだ。足元を見ると、畳付たたみつきの薄っぺらな、のめりの駒下駄こまげたがある。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
清三はかみさんからもらった萩の餅に腹をふくらし、涼しい風に吹かれながら午睡ひるねをした。ゆめうつつの中にも鐘の音、駒下駄こまげたの音、人の語り合う声などがたえず聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
どの舟もどの舟も、載せられるだけ大勢の人を載せて来たので、お酌の小さい雪蹈せったなぞは見附かっても、客の多数の穿いて来た、世間並の駒下駄こまげたは、鑑定が容易に附かない。
百物語 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それもまさか、フェルト草履にステッキという姿では無かった。はかまをはいて、新しい駒下駄こまげたをはいていた。私がフェルト草履を、きらうのは、何も自分の蛮風をてらっているわけではない。
服装に就いて (新字新仮名) / 太宰治(著)
自分が穿いて来た、綺麗きれい鼻緒はなお駒下駄こまげたが、麗々れいれいしく、ごみだらけな床の間に飾ってあるのを持ち出して、突ッかけて、初冬の月が、どこかで淡く冷たい影を投げている荒れ庭を横切りはじめた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
かくて紳士の脱捨てし駒下駄こまげたのみはひとり障子の内に取入れられたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お庄はやがて、堅くてついた溝板どぶいたに、駒下駄こまげたの歯を鳴らしながら、元気よく路次を出て行った。外は北風が劇しく吹きつけていた。十五日過ぎの通りには人の往来ゆききも少く、両側の店も淋しかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
草履、駒下駄こまげた、足駄、日和ひより下駄、両ぐり、余所よそ行きの下駄、不断の下駄———これ等が一足七八円から二三円どまりで、十日間に一遍ぐらいは買うのですから、積って見ると安いものではありません。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そのうえ駒下駄こまげた裏合うらあわせにして新聞でくるんで作った枕の痛みも頭にあって、たしかに宵に寝たままの姿であった。
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
やにわに長い手を伸ばされて、はっと後しざりをする、娘の駒下駄こまげた、靴やら冷飯ひやめしやら、つい目が疎いかして見分けも無い、退く端のつまを、ぐいと引いて
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今夜も又木戸番か、何たら事だ面白くもないと肝癪かんしやくまぎれに店前みせさきへ腰をかけて駒下駄こまげたのうしろでとんとんと土間をるは二十の上を七つか十か引眉毛ひきまゆげに作り生際はへぎは
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
油をけ、駒下駄こまげたを片手にげ、表の戸を半分明け、身体をなかば表へ出して置いて、手らんぷを死骸の上へほうり付けますと、見る/\内にぽっ/\と燃上もえあが
かの女は駒下駄こまげたをひっくり返えした。町会で敷いた道路の敷石しきいしが、一つは角を土からにょっきりと立て、一つは反対にのめり込ませ、でこぼこな醜態しゅうたいかわっているのだ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
その一人ひとりは頬冠りの結目むすびめを締め直しつつ他の一人は懐中に弥蔵やぞうをきめつつ廓をさしておのづと歩みもせわなる、そのむこうより駒下駄こまげた褞袍どてらの裾も長々とくばかり着流して
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この時権十郎の紀伊国屋文左衛門が暖簾をかかげて出る。そのこしらえは唐桟の羽織を著、脇差わきざしを差し駒下駄こまげた穿いている。背後うしろには東栄が蛇の目傘を持って附いている。合方は一中節を奏する。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
からころと駒下駄こまげたの音が私を追いかけ、私のすぐ背後まで来てから、ゆっくりあるいて、あたし、きめてしまいました。もう、大丈夫よ、先刻までの私は、軽蔑されてもしかたがないんだ。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)