すずめ)” の例文
大都会の近くには、烏とすずめしかいないもののように思っていたので、初めはずいぶん珍しかったが、もうすっかり馴れてしまった。
ウィネッカの秋 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
公園の木には、たくさんのすずめがいました。エキモスは子供たちとあそびつかれると、木のかげにやすんで、銀色の葦笛あしぶえをふきます。
銀の笛と金の毛皮 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
すずめしてはまぐりたぐいにもれず、あらかた農を捨てて本職の煙火師に化けてしまったというのが伝えられているこの郷土沿革なのである。
銀河まつり (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらに邸内に総計十二箇の巣箱を配置し、その箱の板にはヘットなどを塗り附けて、いとも熱心にすずめ以上の羽客を歓迎しているのである。
さいわいにその日は十一時頃からからりと晴れて、垣にすずめの鳴く小春日和こはるびよりになった。宗助が帰った時、御米はいつもよりえしい顔色をして
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
なおよくながめると、自分のによく似た古かばんを手にさげてることがわかった。彼女の方もまた、すずめのように彼を横目にうかがっていた。
すずめは、一銭銅貨いっせんどうかをくわえて、おおいそぎで水車すいしゃ小屋ごやの方へとんでいきました。このすずめは水車小屋ののきばにすんでいたのでありました。
落とした一銭銅貨 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
とうさんが玄關げんくわんひろいたて、そのをさおときながらあそんでりますと、そこへもよくめづらしいものきのすずめのぞきにました。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
つややかな丸髷まるまげってうす色の珊瑚の玉をさしていた。桃色の鶴や、浅葱あさぎのふくらすずめや、出来たのをひとつひとつ見せてはつづけてゆく。
小品四つ (新字新仮名) / 中勘助(著)
「しかし実方の朝臣などは、御隠れになったのちでさえ、都恋しさの一念から、台盤所だいばんどころすずめになったと、云い伝えてるではありませんか?」
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
職員室の入り口のわきに置いた自転車をとりまいて、五十人たらずの生徒は、がやがや、わやわや、まるですずめのけんかだった。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
小禽とは、すずめ山雀やまがら四十雀しじふから、ひは、百舌もず、みそさざい、かけす、つぐみ、すべて形小にして、力ないものは、みな小禽ぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「これはお嬢さま、何とも申訳もうしわけございません。坊ちゃんにお見せしようと思って、その屋根のすずめに狙いをつけたのだが、ついはずれまして」
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
シコモルの茂みの中には頬白ほおじろが騒いでおり、すずめは勇ましい声を立て、啄木鳥きつつきはマロニエの幹をよじ上って、樹皮の穴を軽くつつき回っていた。
元気なすずめ一羽いちわ、少し先の、半ば割れた赤煉瓦あかれんがの上に止って、絶えず全身をくるくる回し、をひろげて、かんにさわる鳴き声を立てていた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
甚だ病弱だった私は裏に住む漢方医者に腹をでてもらいながらも、その滝に見惚みとれた。その医者が、ちょっと竹にすずめぐらいの絵心はあった。
高台のあたりでからすがなき、すずめが八方に飛びちがう。乳色をした夏のもや、裾の方からまくれてゆく。と、城之介深呼吸をした。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
樹木の多い郊外の庭にも、うぐいすはもうまれに来て鳴くのみである。すずめの軒近くさえずるのをやかましく思うような日も一日一日と少くなって行くではないか。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
工場の天井にはすずめおどしの鳴子なるこが渡してあって、疲れた女工の眠気をさますために、監督がヒモをひいて鳴らすのだった。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
「孔雀が簡素になったんだから、孔雀の上の字を一つ省略してすずめとでもするさ。」越後はそう言って、うふふと笑った。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
芽の出始める春先にすずめがやって来て傍からその芽を摘んでしまうせいでもあることを発見して以来、毎年早春の季節になると雀を防ぐことに努め
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
真冬の二月は頬白ほおじろ目白めじろも来てくれないので、朝はいつもかわらないすずめ挨拶あいさつと、夜は時おり二つ池へおりる、がんのさびしい声をきくばかりだった。
豊竹呂昇 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それにすずめの巣に燕が顔を出したとしたら、それは闖入者ちんにゅうしゃということになりはしないだろうか。雀の家庭には雀の家風というものがあるのだろうから。
落穂拾い (新字新仮名) / 小山清(著)
すずめつばめでないのだもの、鸚鵡が町家まちやの屋根にでも居て御覧なさい、其こそ世間騒がせだから、こゝへ来て引籠ひきこもつて、先生の小説ばかり読んで居ます。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そんな可愛かわいらしい顔をして、あなたはすばしこい獣みたいな人だ。そんな眼をして僕をにらまないでください。どうせ僕は、老いぼれたすずめですからね。
「ちょっとしたことだ、明日あすの晩十二時に、この前のすずめもりね、あそこへ来てくれないかね、手間はとらさないが」
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
次郎が、これまで毎朝、空林庵の寝ざめに親しんで来たすずめの第一声がきこえるのは、ほぼその時刻だったのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
数羽の山鴨やまがもすずめの群れが柳の中から飛び立った。前には白雲を棚曳たなびかせた連山が真菰まこもと芒の穂の上に連っていた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こと玄人くろうとになるとすずめ頬白ほおじろを撃つていたずらに猟の多いことを誇るやうなことはせぬやうになり、おのずからその間に道の存する所の見えるのも喜ぶべき一カ条である。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
恋猫こいねこ恋犬こいいぬにわとりは出しても/\につき、すずめは夫婦で無暗むやみに人のうち家根やねに穴をつくり、木々は芽を吐き、花をさかす。犬のピンのはらははりきれそうである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
叔父が笑うのも道理で、鹿狩りどころかすずめ一ツ自分で打つことはできない、しかし鹿狩りのおもしろい事は幾度も聞いているから、僕はおともをすることにした。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そのお礼に着たきりすずめの南平に四五十両の入費をかけて祈祷所をもたせ、たくさん弟子を世話してやった。
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
五日の夕暮に源氏は昆陽野こやのを立ち、ようやく生田の森へ近づいた。すずめの松原、御影みかげの松、昆陽野の方を見渡すと、それぞれ陣を張る源氏勢は遠火をたいている。
伊達家の紋は「竹にすずめ」であるが、竹林の静かな情景をうたった詩句が、綱宗の心をきつけたのだろう。
すずめ雌雄しゆうを知らず不如帰ほととぎすの無慈悲を悟らずして、新しき神学説を蝶々ちょうちょうするも何ぞ。魚類の如き一として面白からぬはなく、うなぎの如き最も不可解なる生物である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
板戸も開け放したまま、筒袖つつそで浴衣ゆかた一枚で仕事をしていたのだったが、すずめさえずりが耳につく時分に書きおわったまま、消えやらぬ感激がまだ胸を引き締めていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「日本ばかりじゃ騒がし足りないと見えて、仏蘭西までも騒がして来たネ。すずめ百までおどりやまずで、コンナに多勢おおぜい子持こもちになってもやはり浮気はやまんと見えるネ」
最後の大杉 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
けれども小さいもの、鳥でいえば、つぐみとかうずらとかすずめとか、魚でなら、いわしとかあじとかいいますものは、りたて、または締めたてでなくては美味うまくありません。
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
ひとしきり水の中に素早いさざ波を立てて沈むすずめほどの小さい水鳥は、春のぬるんだ水の面にうかんでいるあいだは、またたきするくらいのはやい一瞬のうちであった。
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
日本陸軍にも、海軍にもこれに比敵ひてきする飛行船は、一せきもなかった。く小さい軟式飛行船が、二三隻海軍にあったが、それは、わしの側によったすずめにも及ばなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
主人あるじ甲斐甲斐かいがいしくはだし尻端折しりはしょりで庭に下り立って、せみすずめれよとばかりに打水をしている。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そして砂糖だけを嘗めて生薑を外にてた。外には雪が一めんにふり積つて居る。生薑が雪の上におちると三四のすずめが勢よく飛んで来てそれを争つたことをおぼえてゐる。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
という静かなすずめの声……遠くにすべって行く電車の音……天井裏の電燈はいつの間にか消えている。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すずめの子を犬君いぬきが逃がしてしまいましたの、伏籠ふせごの中に置いて逃げないようにしてあったのに」
源氏物語:05 若紫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
すずめが米を食ふのはわづ十粒とつぶか二十粒だ、俵で置いてあつたつて、一度に一俵食へるものぢやない、僕は鴫沢の財産を譲つてもらはんでも、十粒か二十粒の米に事を欠いて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分の知った人の中にはすずめの顔も見分ける人はあるが、それよりもいっそう鋭いこの画家の目には生きた個々のくだものの生きた顔が逃げて回って困ったのではあるまいか。
自画像 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「おい、安公! 餓鬼アすずめッ子といっしょに起きるものだ。やいっ、用がある。起きろっ!」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
君はもはや鷹につかまったすずめと同じだ。僕は君が苦しんで、苦しんで、苦しみ抜いて死んで行くところを静にながめたいのだ。思えば、この時機をどんなに待ちこがれたことか。
卑怯な毒殺 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「一体誰がはじめにそんなものを欲しいと云い出したんだ」と人びとが思う時分には、尾羽打ち枯らしたいろいろな鳥がすずめに混ってえさあさりに来た。もうそれも来なくなった。
交尾 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
教室の硝子戸はちりにまみれて灰色にきたなくよごれているが、そこはちょうど日影がいろくさして、戸外ではすずめ百囀ももさえずりをしている。通りを荷車のきしる音がガタガタ聞こえた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)