“薦(こも)” の例文
広野の中に刀禰(とね)の大河が流れていた。薦(こも)、水葱(なぎ)に根を護られながら、昼は咲き夜は恋宿(こいする)という合歓(ねむ)の花の木が岸に並んで生えている。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
彼(かれ)が薦(こも)つくこを擔(かつ)いで歸(かへ)つて來(き)た時(とき)は日向(ひなた)の霜(しも)が少(すこ)し解(と)けて粘(ねば)ついて居(ゐ)た。お品(しな)は勘次(かんじ)が一寸(ちよつと)の間(ま)居(ゐ)なく成(な)つたので酷(ひど)く寂(さび)しかつた。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
お答えして「朝早く厠(かわや)におはいりになつた時に、待つていてつかまえてつかみひしいで、手足を折つて薦(こも)につつんで投げすてました」
見ると、濠(ほり)のそばの、椎(しい)の木の下に、薦(こも)を敷き、鼠色の着物を着て、尺八を差した男が、ひもじいような顔して、膝を抱えていた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ゆうべは小屋に備えてある衾(ふすま)があまりきたないので、厨子王が薦(こも)を探して来て、舟で苫(とま)をかずいたように、二人でかずいて寝たのである。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
箪笥(たんす)と戸棚とを薦(こも)でからげ、夜具を大きなさいみの風呂敷で包んだ。陶器はすべて壊(こわ)れぬように、箪笥の衣類の中や蒲団(ふとん)の中などに入れた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
こんな塩梅(あんばい)に児供の時分から少し変っていたので、二葉亭を可愛がっていた祖母(おばあ)さんは「この子は金鍔(きんつば)指(さ)すか薦(こも)被(き)るかだ、」
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
蓬頭垢面(ほうとうこうめん)身(み)に襤褸(らんる)をまとい薦(こも)を被り椀を手にして犬と共に人家の勝手口を徘徊して残飯を乞うもの近来漸くその跡を絶てり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
堆肥の準備が終つたのちに、なほ殘つてゐる仕事は、苗床の掩ひに使ふ麥藁の薦(こも)を編むことである。これは半間に一間の大きさで、二十四五枚はいる。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
二人が目を合わせて注視したその井戸側の一方に、薦(こも)をかぶせて、犬か猫なんぞのように置き捨てられた二つの物。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
小さな草花の鉢が並んでいるかと思いますと、根に土を附けたまま薦(こも)で包んで、丈の一間くらいもある杉とか、檜とかいう常磐木(ときわぎ)も廻りに立ててあります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
マニラ葉巻の一箱を横に、積み上げた薦(こも)によりかかった彼は、その位置を終日占領して、居眠りをするか、実に美しい変化に富んだ景色に感心するかであった。
本堂の上り段に舞台(ぶたい)を作り掛(かけ)、左に花道あり、左右の桟敷(さじき)は竹牀簀(たけすのこ)薦張(こもばり)なり。土間には薦(こも)を布(しき)、筵(むしろ)をならぶ。旅(たび)の芝居大概(たいがい)はかくの如しと市川白猿が話(はなし)にもきゝぬ。
其(その)根方(ねがた)の所(ところ)を、草鞋(わらぢ)がけの植木屋(うゑきや)が丁寧(ていねい)に薦(こも)で包(くる)んでゐた。段々(だん/\)露(つゆ)が凝(こ)つて霜(しも)になる時節(じせつ)なので、餘裕(よゆう)のあるものは、もう今時分(いまじぶん)から手廻(てまは)しをするのだと氣(き)が付(つ)いた。
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
或日商人某が柳原の通をゆくと一人の乞丐(こじき)が薦(こも)の中に隠れて煙草を喫んでいるのを瞥見(べっけん)して、この禁煙令はいまに破れると見越(みこし)をつけて煙管を買占めたという実話がある。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
余は鶏柵内(けいさくない)のミズクサの木の根を深く掘って、薦(こも)に包(つつ)んだまゝ眠った様なデカの死骸を葬(ほうむ)った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
店のまわりを片づけ、空き樽の中で薦(こも)を剥(は)ぐものは剥ぎ、縄や薦はそれぞれに集め、物置の中をきれいにし、空き樽を積み直し、塩の叺(かます)をふるったり、徳利を洗ったりした。
あだこ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
薦(こも)が被(か)けて有りましたから、死顔は見えません、濡乱れた黒髪ばかり顕れていたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ともかくも漂泊民たる傀儡子と持物の莎草(くぐ)製の袋とは離れ難いもので、その関係は自分が本誌六巻五号に、乞食を「お薦(こも)」ということの由来を論じて、薦蓆(こもむしろ)を携帯した僧を薦僧と言い
轢死者は線路のそばに置かれたまま薦(こも)がかけてあるが、頭の一部と足の先だけは出ていた。手が一本ないようである。頭は血にまみれていた。六人の人がこのまわりをウロウロしている。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
夜どおし琵琶を弾くなら娘をやろうと約束したために、夜が明けると手を引いて連れて行こうとする。台磨碓(したずるす)を薦(こも)に包んで米俵だといって負わせて出す。路傍に休んで座頭がこういった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
春見は人が来てはならんと、助右衞門の死骸を蔵へ運び、葛籠(つゞら)の中へ入れ、血(のり)の漏(も)らんように薦(こも)で巻き、すっぱり旅荷のように拵(こしら)え、木札(きふだ)を附け、宜(い)い加減の名前を書き、井生森に向い。
並(なら)べ立(た)てなば力車(ちからぐるま)に牛(うし)の汗(あせ)何(なん)の積(つ)み載(の)せきれるものかは言(い)はぬが花(はな)ぞお前(まへ)さまは盛(さか)りの身(み)春(はる)めき給(たま)ふは今(いま)の間(ま)なるべし薦(こも)かぶりながら見送(みおく)らんと詞(ことば)叮嚀(ていねい)に氣込(きごみ)あらく齒(は)の根(ね)きり/\と喰(く)ひしばりて釣(つ)り上(あ)ぐる眉根(まゆね)おそろしく散髮(さんぱつ)斜(なゝ)めに拂(はら)ひあげて白(しろ)き面(おもて)に紅(くれなゐ)の色(いろ)さしも優(やさ)しき常(つね)には
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おつぎのまだ短(みじか)い身體(からだ)は麥(むぎ)の出揃(でそろ)つた白(しろ)い穗(ほ)から僅(わづか)に其(そ)の被(かぶ)つた手拭(てぬぐひ)と肩(かた)とが表(あら)はれて居(ゐ)る。與吉(よきち)は道(みち)の側(はた)の薦(こも)の上(うへ)に大人(おとな)しくして居(ゐ)る。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
わたしはこうして毎日通う塩浜の持ち主のところにいます。ついそこの柞(ははそ)の森の中です。夜になったら、藁(わら)や薦(こも)を持って往ってあげましょう
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
松の——皮の付いたままの柱に、粗雑な茅(かや)を葺(ふ)き、板壁は少部分で、出入口は裏も表も薦(こも)を垂れているに過ぎない。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
納屋で薦(こも)を編んでゐた駿介は、駒平に呼ばれて納屋を出て行つた。彼は自分を呼ぶ駒平の聲がなんとなく一つの亢ぶつた感情をあらはしてゐるやうに思つた。
生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
本堂の上り段に舞台(ぶたい)を作り掛(かけ)、左に花道あり、左右の桟敷(さじき)は竹牀簀(たけすのこ)薦張(こもばり)なり。土間には薦(こも)を布(しき)、筵(むしろ)をならぶ。旅(たび)の芝居大概(たいがい)はかくの如しと市川白猿が話(はなし)にもきゝぬ。
また「いかにかねぎつる二」と詔りたまひしかば、答へて白さく、「朝署(あさけ)三に厠に入りし時、待ち捕へ搤(つか)み批(ひし)ぎて、その枝四を引き闕(か)きて、薦(こも)につつみて投げ棄(う)てつ」
高木(たかぎ)の細君(さいくん)は夜具(やぐ)でも構(かま)はないが、おれは一(ひと)つ新(あた)らしい外套(ぐわいたう)を拵(こしら)えたいな。此間(このあひだ)齒醫者(はいしや)へ行(い)つたら、植木屋(うゑきや)が薦(こも)で盆栽(ぼんさい)の松(まつ)の根(ね)を包(つゝ)んでゐたので、つく/″\左(さ)う思(おも)つた
門 (旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それに葦簀(よしず)や薦(こも)の類を縛りつけてそれで取り囲むのであるが、江畑君のお宅のような都会風の座敷廻りなどでは、前もって板で作った蔀(しとみ)風のものを設備して、それを外側に立ててあった。
春雪の出羽路の三日 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
そして火夫も運転手も乗客も、みな身を乗り出して薦(こも)のかけてある一物(いちもつ)を見た。
窮死 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
最後に椿(つばき)や南天(なんてん)の草花などを掘って、根を薦(こも)包みにして庭の一隅(かたすみ)に置いた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
余は上ろうか上るまいかと踟蹰(ちちゅう)したが、終(つい)に女児(じょじ)と犬を下に残して片手欄(てすり)を握りつゝ酒樽の薦(こも)を敷いた楷梯(はしご)を上った。北へ、折れて西へ、折れて南へ、三重(じゅう)の楷梯を上って漸く頂上に達した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
怒って薦(こも)を投げたら化して天の川となったという条がある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
そのうちに幸内は、また薦(こも)を卸してしまって
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その気もちが丹左の心にも映ったとみえ、丹左は何度も礼をのべ、薦(こも)と尺八を背に負って不自由らしい眼を竹杖に頼りながら、壁のない家の廂(ひさし)を離れて行った。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その根方の所を、草鞋(わらじ)がけの植木屋が丁寧(ていねい)に薦(こも)で包(くる)んでいた。だんだん露が凝(こ)って霜(しも)になる時節なので、余裕(よゆう)のあるものは、もう今時分から手廻しをするのだと気がついた。
門 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
此(こ)の朝(あさ)になつてからもお品(しな)の容態(ようだい)がいゝので勘次(かんじ)はほつと安心(あんしん)した。さうして斜(なゝめ)に遠(とほ)くから射(さ)す冬(ふゆ)の日(ひ)を浴(あ)びながら庭葢(にはぶた)の上(うへ)に筵(むしろ)を敷(し)いて俵(たはら)を編(あ)みはじめた。薦(こも)つくこは兩端(りやうたん)に足(あし)が附(つ)いて居(い)る。
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もらってまいりましょう。そして藁(わら)や薦(こも)のことも頼んでまいりましょう
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
カマはすなわち関東地方に云うお薦(こも)と同語だ。
間人考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
「高木の細君は夜具でも構わないが、おれは一つ新らしい外套(マント)を拵(こしら)えたいな。この間歯医者へ行ったら、植木屋が薦(こも)で盆栽(ぼんさい)の松の根を包んでいたので、つくづくそう思った」
門 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、敷いている薦(こも)の席を、半分譲(ゆず)って
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)