)” の例文
十三になる子守り娘のワーリカが、赤んぼのている揺りかごを揺すぶりながら、やっと聞こえるほどの声で、つぶやいている。——
ねむい (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「お前ら行ってしまったら、おっ母さんは店へ来てる。何かことが起ったら、大きい声してたけりゃ、前の家からも来て呉れよう」
その年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その間僕は炉のそばにそべっていたが、人々のうちにはこのうちの若いものらがんで出す茶椀酒ちゃわんざけをくびくびやっている者もあった。
鹿狩り (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
あるときは、隣室りんしつてゐるKの夫人ふじんゆすおこされてましたが、彼女かのぢよにはそれがたんゆめとばかり、すことができなかつた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
と、吉野は手早く新坊の濡れた着衣を脱がせて、砂の上に仰向にせた。そして、それに跨る樣にして、徐々そろ/\と人工呼吸を遣り出す。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
もう、二三ヶ月前から心臓病でているのであるが、この二三日はめっきり衰えて、近所の人々は寄れば、その人の噂をしている。
夜の喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)
「病人がているから、上っては困ります。どういう御用事ですか。」と頻りに押止おしとめる様子が、かえって二人に疑惑の念を抱かしめた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
ただし足最も寒き故自身の諸部をなるべく縮める、かくして全夜安眠し得べし、外套だけ被って足を伸ばしては束の間も眠られぬと。
あるひは娘共むすめども仰向あふむけてゐる時分じぶんに、うへから無上むしゃう壓迫おさへつけて、つい忍耐がまんするくせけ、なんなく強者つはものにしてのくるも彼奴きゃつわざ乃至ないしは……
例えば『浮草うきくさ』の如き丁度関節炎を憂いて足腰あしこしたないでていた最中で、病床に腹這はらんばいになって病苦と闘いながらポツポツ訳し
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そう言って帰りかけたが、父は額に濡手拭ぬれてぬぐいを当てそべっており、母はくどくどと近所のうわさをしはじめ、またしばらく腰を卸していた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
その間に平中は装束を解いてて待っていたが、たしかにカタリと懸金を掛ける音がしたのに、どう云う訳か女はなか/\戻って来ない。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
さて子舎へ這入ッてからお勢は手疾てばや寐衣ねまきに着替えて床へ這入り、暫らくの間ながら今日の新聞をていたが……フト新聞を取落した。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
さもなかつたら、木魂姫がてゐる其の洞穴が裂くる程に、また、あの姫のうつろな声がわしの声よりも嗄るゝ程に、ロミオ/\と呼ばうものを。
文章その他 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
宿では、三畳ばかりのところに二人乃至三人づつ、相部屋あひべやするので、私は随分と色んな種類の、見知らぬ男たちと枕をならべてたものだ。
大凶の籤 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
深く酔った家従たちは皆夏の夜を板敷で仮寝してしまったのであるが、源氏は眠れない、一人をしていると思うと目がさめがちであった。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
知らぬげにてゐる彼を冷やかな心になつて考へながら、子供の仕打ちを胸の奥底では justify してゐるらしく彼には考へられた。
An Incident (新字旧仮名) / 有島武郎(著)
給銀を倍にして前払いでやっと承知をしたのが権八ひとりで、それも「親が病気でているから夜だけ看病にゆかせて貰う」
風流化物屋敷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
復一はボートの中へ仰向あおむけにそべった。空の肌質きじはいつの間にか夕日の余燼ほとぼりましてみがいた銅鉄色にえかかっていた。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ようとすると、蒼白い月光が隈なくうすものを敷たように仮の寝所ふしどを照して、五歩ばかり先に何やら黒い大きなものが見える。
そればかりでは無い、久しい年月の間、病気と戦ってたり起きたりしていた細君の床がすっかり畳んで片付けてあった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
万客ばんきゃくあか宿とどめて、夏でさえ冷やつく名代部屋の夜具の中は、冬の夜のけては氷の上にるより耐えられぬかも知れぬ。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
病院にはいるのを嫌がるものですから、家にかして看護婦をつけました。そして僕も出来るだけ看護したつもりです。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
その方角にはかなりに高い山が牛をかしたように横たわっていて、人車はそれを目標にして行くように思われました。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
離間者の一言でこしもかしも出来るもんだと云ふことを発表しようとするのか——我々の周囲には日夜探偵の居ることを注意し給へ——
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
宝石で作ったような真紅のつぼみとビロードのようにつやのある緑の葉とを、ながら灰色の壁に投射して見ると全く目のさめるように美しかった。
病室の花 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そう言って、彼女は、持っていた団扇で二人をあおいだ。次郎は、ていては悪いような気がして、斜めに体を起した。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
『して此等これら何者なにものか?』女王樣ぢよわうさま薔薇ばらまはりに平伏ひれふしてゐた三にん園丁えんていどもをゆびさしてまをされました、何故なぜふに、彼等かれら俯伏うつぶせにてゐるし
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
と、薄ぼんやりと蔭ったくぼみのている一人の老人の顔が見えた。その老人は口を半開きにして、両眼をかっと見開いたまま彼の方を睨みつけていた。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
「八、その野郎を捕まえろ。ている人間の首を半分斬落した恐ろしい力だぞ、手負いだと思って油断するな」
気がつくと、瑜伽ナル・ヨル秘密修験サン・ナクの大密画のある、うつくしい部屋にかされていた。黄色い絹の天蓋に、和闐ホータン絨緞じゅうたん。一見して、活仏げぶつの部屋であるのが分る。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
けれどきょうは朋輩ほうばいが病気でていて自分が看護してやらねばならない時にはどうするか? 朋輩をほっておいて夢中になって会いに行くのが普通の恋だ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
そこの神社の境内の奥まったところに、赤いよだれかけをかけた石の牛が一ぴきていた。私はそのどこかメランコリックなまなざしをした牛が大へん好きだった。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
下の方には海の色が真青に見えていて、そのずっと向うに、紫色にけむって、丁度牛のた形で、どこかのおかが見えるのです。私、時々思うことがありますわ。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼はそれを聞き入りながら、ついそれの口真似を口のなかでして、その上、てゐる自分の体を少し浮き上がらせる心持にして、体全体で拍子をとつてゐた。
早速近所の医者を呼んで一時の苦痛は療治してもらったがまだなかなか本復ほんぷくせんでこの通りている次第さ。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
大悪魔は、だいぶ働いたので、すつかり疲れ、ぐつたりとして道端にてゐましたが、ふと気がついて驚いたのは、自分の強い尾がなくなつてゐることでした。
悪魔の尾 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
この穢れし霊の一騒ぎがあった後、イエスは会堂を出られたその足で、すぐにシモン、アンデレ兄弟の家に入られたところ、シモンのしゅうとめが熱を病んでていた。
その夜てから奇妙な夢を見た、と見れば、自分は娘と二人でどこかの山路やまじを、道を失ッて、迷ッている。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
たとい最も悪い場合を想像してみても、われわれは氷を横切って陸に近づくことも出来る。海豹あざらしの貯蔵のなかにていれば、春まではじゅうぶん生きてゆかれる。
四辺あたり夕暮ゆうぐれいろにつつまれた、いかにも森閑しんかんとした、丁度ちょうど山寺やまでらにでもるようなかんじでございます。
丘の所に大きなゐのしし一疋いつぴきの可愛い坊やと一緒にてゐました。おツ母さんは、坊やのせなかたたきながら
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
その前にている二匹の黒い獅子もある。子供の時分、彼はこれがこわかったものである。獅子は相変らず、今にもくさめをしそうな顔つきで、互いに見合っている。
今度は仰向けになって体をながながと伸ばし、低い木製の枠組わくぐみのようなものの上にていた。その枠に馬の上腹帯に似た長い革紐でしっかりと縛りつけられているのだ。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
むこうの隅に、ひな屏風びょうぶの、小さな二枚折の蔭から、友染の掻巻かいまきすそれて、ともしびに風も当たらず寂莫せきばくとしてもの寂しく華美はでな死体がているのは、蝶吉がかしずく人形である。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
風早はひとつ起きつ安否の気遣きづかはれて苦き無聊ぶりように堪へざる折から、あるじの妻はやうやく茶を持ち来りぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
これは、あとで聞いたのでございますが、死骸しがいは、鼻から血を少し出して、頭から砂金を浴びせられたまま、薄暗い隅の方に、仰向あおむけになって、ていたそうでございます。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お定は気分のよい時など背中を起してちょぼんと坐り、退屈しのぎにお光の足袋を縫うてやったりしていたが、その年の暮からはもうたきりで春には医者も手をはなした。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
石造のチャモロの家の前に印度素馨が白々と香り、其の蔭に、ゆつたりと牛が一匹てゐる。牛の傍にいやに大きな犬が寢てゐるなと思つて、よく/\見たら山羊であつた。
二寸三寸の手斧傷ちょうなきずて居られるか居られぬか、破傷風がおそろしいか仕事のできぬが怖ろしいか、よしや片腕られたとて一切成就の暁までは駕籠かごに乗っても行かではいぬ
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)