稽古けいこ)” の例文
その日はその翌日から上演されるはずのカルメンの舞台稽古けいこがあったのです。そして妾はカルメンにふんすることになっていたのです。
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
事定りてのち寺に於て稽古けいこをはじむ、わざじゆくしてのち初日をさだめ、衣裳いしやうかつらのるゐは是をかすを一ツのなりはひとするものありてもの不足たらざるなし。
非常な晴れな場合と思ってその人たちは稽古けいこを励むために師匠になる専門家たちは、舞のほうのも楽のほうのも繁忙をきわめていた。
源氏物語:35 若菜(下) (新字新仮名) / 紫式部(著)
長吉は蘿月の伯父さんのいったように、あの時分から三味線を稽古けいこしたなら、今頃はとにかく一人前いちにんまえの芸人になっていたに違いない。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
三年ばかりの間、毎朝の礼拝だエロキュウションの稽古けいこだあるいは土曜の晩の文学会だと言って、捨吉達が昇降したのもその階段だ。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私はもし何か、長唄ながうたとか清元きよもと歌沢うたざわのお稽古けいこでも出来るようなのんきな時間があったとしたら、私はこのラッパの稽古がして見たい。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
お勢は近属ちかごろ早朝より駿河台辺するがだいへんへ英語の稽古けいこに参るようになッたことゆえ、さては今日ももう出かけたのかと恐々おそるおそる座舗ざしき這入はいッて来る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
病牀で絵の写生の稽古けいこするには、モデルにする者はそこらにある小い器か、さうでなければいけ花か盆栽の花か位で外に仕方がない。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
わたしは日本橋区の通油町とおりあぶらちょうというところから神田小川町おがわまち竹柏園ちくはくえん稽古けいこに通うのに、この静な通りを歩いて、この黒い門を見て過ぎた。
江木欣々女史 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
自転車の稽古けいこをして、少し乗れるようになってからいっしょに市外へ遠乗りに行って、帰りにりょうが落ちて前歯を一本折った事もあった。
亮の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そして三条西実隆さんじょうにしさねたか花山院かざんいん右大臣に愛されて、ますます国学和歌を学ぶ一方、華道や、庭園の作法などまで稽古けいこするようになった。
蒲生鶴千代 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
クリストフはそれにすがりついた。いつ推薦状をもらって、その家へやって行き、稽古けいこを始めることができるか、それを知りたがった。
……ぴたぴたとるうちに、草臥くたびれるから、稽古けいこの時になまけるのに、催促をされない稽古棒を持出して、息杖いきづえにつくのだそうで。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
物食べる時かて、唇に触らんように箸で口の真ん中へ持って行かんならんよってに、舞妓まいこの時分から高野豆腐こうやどうふで食べ方の稽古けいこするねん。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
大きいたもと袖口そでぐち荒掴あらづかみにして尋常科じんじょうかの女生徒の運針の稽古けいこのようなことをしながら考えめぐらしていたらしいが、次にこれだけ言った。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
午後からは折り紙のお稽古けいこがあった。例の少女のところでは、小間使いが一緒になって、大きなつるをいく羽もいく羽も折っていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
けれどもそれはすべての歌が二十二歳までに出来たものであることを考えれば、すべて素描の稽古けいこ時代の歌なのだから無理はない。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
龍造寺主計は、剣術の稽古けいこか何かに、思いきり気もちよく一本やられたときのように、かえってうれしそうに、にこにこしていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と投出すやうに謂ツて湯呑ゆのみを取上げ、冷めた澁茶しぶちやをグイと飮む。途端とたん稽古けいこに來る小娘こむすめが二三人連立つれだツて格子を啓けて入ツて來た。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ちょうど山姥やまうばがもう少しで上がるところで、銀子はざっと稽古けいこをしてもらい、三味線しゃみせんそばへおくかおかぬに、いきなり切り出してみた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ことに「ワタル」という音で止めて居るが、そういうところにいろいろ留意しつつ味うと、作歌稽古けいこ上にも有益を覚えるのである。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
せしが縁と成て其後毎夜まいよ呼込ではもませけるにいと上手なれば政太夫も至極しごくに歡び療治をさせける處城富は稽古けいこを聞感にたへて居る樣子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
吉宗は平服、それも例の素服、旗本たちは稽古けいこ着を下にのぞかせ、いずれも、的場の弓からこっちへ立ち寄った様子に察しられる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
からすさん、わたしは、三ねんあいだそらうえんでゆく稽古けいこをしました。そして、いまは、あめにもかぜにもひるまぬ修業しゅぎょうみました。
紅すずめ (新字新仮名) / 小川未明(著)
「小唄を稽古けいこして居ります。そりや良いお聲で、若い方にしては珍らしくさびのある、——斯うふんはりとしたやはらか味のある——」
松住町まつずみちょうじゃねえぜ。あさっぱらから、素人芝居しろうとしばい稽古けいこでもなかろう。いいわけものがひとりごとをいってるなんざ、みっともねえじゃねえか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
彼はあんにこの老先生の用向ようむきと自分の用向とを見較みくらべた。無事に苦しんで義太夫の稽古けいこをするという浜の二人をさらにそのかたわらに並べて見た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこで賃仕事の片手間かたてま一中節いつちうぶし稽古けいこをし、もし上達するものとすれば師匠ししやうになるのも善いと思ひ出した。しかし一中節はむづかしかつた。
素描三題 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
小刀がどうやら研げるようになると、地紋の稽古けいこをやらされた。地紋は仏師の方の伝統で仏師屋では実際にそれが必要なのだ。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
キャラコさんは、ルビンシュタイン先生のところへピアノの稽古けいこに行っている同級クラスの友達から保羅の噂をきいたことがあった。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そのうへ趣味しゆみひろく——たとへば最近さいきん、その三上みかみ對手あひてとして、いいとしをしながら(失言しつげん?)將棋しやうぎ稽古けいこしかけたりしてゐる。
ほか稽古けいこの時に絵をいたりしないような、そしてお友達に何を言われても、いと思ったことを迷わずするような、強い子になって下さい。
先生の顔 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
稽古けいこ引取ひきとつてからでも充分じうぶんさせられるから其心配そのしんぱいらぬこと兎角とかくくれさへすれば大事だいじにしてかうからとそれそれのつくやう催促さいそくして
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
が、騒々しい酒宴の席から、身をのがれた欣びは、ぐ消えてしまって、芸の苦心が再びひしひしと胸に迫って来る。明日からは稽古けいこが始まる。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
西洋の婦人はそういう学校で生理上や衛生上の原則から家庭料理を稽古けいこするのだから益々料理法の改良進歩も出来る訳だね。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
素直という意味は、たとえば我々のような凡人でも、四十五十になれば事に処して顔色を変えないぐらいの稽古けいこはできる。
家康 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
芝居の稽古けいこであった。一座を組んで、出しものを用意して、映画館のアトラクションとして売り込もうというのであった。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
「独学で何年やったって検定試験なんか受けらりゃしないぜ。ほかの学問とは違って語学は多少教師について稽古けいこしなければ、役に立たないね」
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
お師匠をお部屋へお呼びなされて富本のお稽古けいこをお始めになられたのも、よほど昔からのことでございましたでしょう。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
古典派である私なども、現在語ばかりを以てする詩の稽古けいこもするが、時としてはそうして出来た作物が、まるで裸虫である様な気のする事がある。
詩語としての日本語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
其のノートには又彼の読んだ書物の中で「適切な表現」と思われたものがことごとく書抜いてあった。諸家のスタイルを習得する稽古けいこも熱心に行われた。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
その上、御息女さまの、御他行ごたぎょうさきより、お招きをうけたこともござりましたが、来月興行こうぎょう稽古けいこ等にていそがわしく、おことわりいたしました。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
左樣さやうでござります。愚老ぐらうあたま草紙さうしにして、御城代樣ごじやうだいさまのお月代さかやきをする稽古けいこをなさいますので、るたけあたまうごかしてくれといふことでござりまして。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
退屈しのぎに、昼の間の一時間か二時間浄瑠璃を稽古けいこしに行きたいと柳吉は言い出したが、とめる気も起らなかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
私は午前中だけ野良のらに出て百姓の稽古けいこをし、午後は講義録を読んだ。私はとみに積年の重たい肩の荷を降した気がした。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
たとへば、それがあさの九であつたと假定かていして、丁度ちやうど其時そのとき稽古けいこはじめる、時々とき/″\何時なんじになつたかとおもつてる、時計とけいはりめぐつてく!一時半じはん晝食ちうじき
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
幸吉、お前も仕事ばかりに精出しているのはいが、何か一つ遊芸といったようなものを稽古けいこして見たらどうだい。
代を譲ったせがれが店を三越まがいにするのに不平である老舗しにせの隠居もあれば、横町の師匠の所へ友達が清元の稽古けいこに往くのを憤慨している若い衆もある。
余興 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
父は静に私を諭して、つまりこのごろの失策が私の稽古けいこで、父のおしへより母の諭しより私のためになるのだから、よく心を沈めて考へるやうにと申されました。
黄金機会 (新字旧仮名) / 若松賤子(著)
村の若者達は娘をさがすために、二里三里を涼しい夜風に吹かれながら、そのたくましい歩みで歩いた。或る者は、又、村祭の用意に太鼓の稽古けいこをして居た。