わん)” の例文
其處そこふるちよツけた能代のしろぜんわんぬり嬰兒あかんぼがしたか、ときたならしいが、さすがに味噌汁みそしるが、ぷんとすきはらをそゝつてにほふ。
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗匠のたてる一わんの緑色飲料とともに、命にかかわる毒薬が盛られることになっているということが、ひそかに秀吉の耳にはいった。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
ある年の秋の事とか、中将微服して山里にり暮らし、ばばひとり住む山小屋に渋茶一わん所望しけるに、ばばつくづくと中将の様子を見て
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
自分の体の上には生れて一度も見たことのないほどの美しい絹の蒲団ふとんがかけてありました。枕元まくらもとには、銀のわんにお薬が入っておりました。
三人兄弟 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
とん、とん、とん……とその襟元えりもとへ二階から女の足音がすぐ降りて来た。如才じょさいなく彼のそばへ手拭てふきやらうがわんなど取り揃えて
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だれのわんだれのはしという差別もない。大きい子は小さい子の世話をする。なべに近いひつに近い者が、汁を盛り飯を盛る。自然で自由だともいえる。
去年 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
朝六時半病牀びょうしょう眠起。家人暖炉だんろく。新聞を見る。昨日帝国議会停会を命ぜられし時の記事あり。繃帯ほうたいを取りかふ。かゆわんすする。梅の俳句をけみす。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
麺麭パンを厚く切りそれに牛酪バタとジヤムとを塗つて、半々はんはんぐらゐの珈琲コーヒーを一わん飲ませた。その狭い台所兼食堂の卓の近くに、カナリヤが一羽飼つてある。
日本媼 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
動物にたいする憐愍れんびんの欠乏は勿論、仕えの女たちへのしばしばの乱行もそうなら、わんをもって酒食らうことも殆ど町方破落戸ごろつきとえらぶところがなかった。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
大きな透明のわんの中にふせられてしまった僕は、覚悟の上とはいいながら、やはりあわてないでいられなかった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
客なき卓に珈琲わん置いたるを見れば、みなさかしまに伏せて、糸底いとぞこの上に砂糖、幾塊いくかたまりか盛れる小皿載せたるもをかし。
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
よその家の煮焚きのけむりは、ずっと前に消え尽して、箸もおわんも洗ってしまったが、陳士成はまだ飯も作らない。
白光 (新字新仮名) / 魯迅(著)
ローザは微笑ほほえんだ。そして彼を一階の台所へ連れていった。彼に牛乳を一わんついでやりながら、旅や音楽会などのことをしきりに尋ねないではおかなかった。
菊枝は、全く済まないことをしたと言うように、そのまま消えてもしまいたいと言うように、ほんのり、顔を赤らめて、息を殺してわんに盛った飯をもてあましていた。
緑の芽 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
全く受けず施さずであって、茶一杯、水一わんでも施すものでない。また受けることもできぬ。もしこれを受ければ先方の魔がついて、病気、災難を招くと信じておる。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
宗達は持合せた薬をませ、水を汲んで来ようと致しましたが、他に仕方がないから、ろはつという禅宗坊主の持つわんを出して、一杯流れの水を汲んで持って来ました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その鼻は、お茶わんの中をつくほど高く、のめっていた。長い長いせた青い顔、額に深い大きなきずあとがあって、そのために片っぽの眼がつりあがり眼玉が飛出している。
十時過ぎ、右の食堂で家族打寄り、梅干茶うめぼしちゃわん枯露柿ころがき今日きょう此家ここで正月を迎えた者は、主人夫妻、養女、旧臘から逗留中とうりゅうちゅうの秋田の小娘こむすめ、毎日仕事に来る片眼のかみさん。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
老母の手馴てなれのまぜめしがよくれた。若い母親は絶えず子供に気を取られて自分のはしを持つ暇はなかつた。子供は覚束おぼつかない箸どりで危つかしいわんの持ち方をして、よく食つた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
卯平うへいくぼんだしがめて一しゆあたゝかな表情へうじやうしめして與吉よきち後姿うしろすがたた。勘次かんじつたまき草刈籠くさかりかごれてかまどまへいて朝餉あさげぜんむかつて、一わんつた。おつぎはがついたやう
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
窯は小野村おのむら喜阿弥きあみだといわれる。益田から西方一と駅である。そこで鉄釉てつぐすりわんやらつぼやら土瓶どびんやらが出来る。まだマンガンやらクロームに犯されていないから、釉がほんものである。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
ご自分のおわんのたべものを少しわけてやっているのを見て、郭巨は恐縮し、それでなくても老母のごはんが足りないのに、いままたわが三歳の子はこれを奪う、何ぞこの子を埋めざる
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
○そも/\金銭のたつときこと、魯氏ろし神銭論しんせんろんつくしたれば今さらいふべくもあらず。としの凶作はもとより事にのぞんうゑにいたる時小判をなめはら彭張ふくれず、うゑたる時の小判一枚は飯一わんの光をなさず。
パナマ地方で、工夫についてゐたフランス人の医者たちは、黄色熱の患者たちの寝台へ、虫なぞがはひあがるのをふせぐために、寝台の足を、一々、水を入れた金物わんの中へつけてゐたといひます。
パナマ運河を開いた話 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
正面は粗末なる板戸の出入口。しものかたには土竈どがま、バケツ、焚物たきもの用の枯枝などあり。その上の棚には膳、わん、皿、小鉢、茶を入れたる罐、土瓶どびん、茶碗などが載せてあり。ほかに簑笠みのがさなども掛けてあり。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
小屋の内に這入はいって見ると、薄暗い、片すみに、二升鍋が一個とわんが五つ六つ、これは上高地温泉で登山者のためとて、備品として置かれたもの、今後この小屋で休泊するものは、大いに便利だろう
穂高岳槍ヶ岳縦走記 (新字新仮名) / 鵜殿正雄(著)
お登和嬢も折角の頼みもだがたく「そうですねー、品数の沢山出るのは支那料理です。上等の御馳走は三十六わんといって三十六品のお料理が出ます。その上の大御馳走となれば六十四碗のお料理が出ます」大原もさすがに驚き「ヘイ、三十六碗だの六十四碗だのとそんなに沢山出ては如何いかに大食の僕でも少々閉口しますな。支那人は ...
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
彼の葉茶は花のごとき芳香を放ってしばしば驚嘆すべきものがあるが、唐宋とうそう時代の茶の湯のロマンスは彼の茶わんには見ることができない。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
と涙も忘れて、胸も、空洞うつろに、ぽかんとして、首を真直まっすぐえながら潟のふなわんさまして、はしをきちんと、膝に手を置いたさま可哀あわれである。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こよいは秀吉がみずから彼の恨み多き義胆ぎたん忠魂に、一わんそなえてなぐさめてやろうと思う。おことらもそれにいて相伴しょうばんいたすがいい
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うちで荷物こしらえをはじめて以来、毎日必ず来ぬ日とては無かったものだが、一昨日あの灰を積んであったところからわんこざらなどを十あまりも出して来たものだ。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
そしてその頭部が開かれ、頭骸骨がおわんのようになって、中身が空虚くうきょなことをしめしていた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わん一銭五厘ぐらいで赤い唐辛子粉とうがらしこなどをかけて食べさせた。今でも浅草の観世音近くに屋台店が幾つもあるけれども、汁が甘くて駄目になった。その頃はあんなに甘くなかった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
喫茶の際、わん中に茶柱(茶葉の茎)の直立することあれば、これを吉事の兆しとす。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
あんらあがみ(油甕)、あんびん(水甕)、ちゅうかあ(酒土瓶どびん)、からから(酒注)、わんぶう(鉢)、まかい(わん)、その他、壺、皿、徳利とっくり花活はないけ香炉こうろ湯呑ゆのみ、等色々の小品が出来る。
現在の日本民窯 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
二人はひびのはいった茶わんでお茶を飲んだ。彼女はひどい茶碗だとは思ったが容赦してやった。しかしそれはオリヴィエとの共同生活の名残りだったので、彼はむきになって大事にしていた。
と妻がう。ペンをさしおいて、取あえず一わんかたむける。銀瓶ぎんびんと云う処だが、やはりれい鉄瓶てつびんだ。其れでも何となく茶味ちゃみやわらかい。手々てんでに焼栗をきつゝ、障子をあけてやゝしばし外を眺める。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
○そも/\金銭のたつときこと、魯氏ろし神銭論しんせんろんつくしたれば今さらいふべくもあらず。としの凶作はもとより事にのぞんうゑにいたる時小判をなめはら彭張ふくれず、うゑたる時の小判一枚は飯一わんの光をなさず。
おかゆを軽く一わん、おかずもにおいの強いものは駄目だめで、その日は、松茸まつたけのお清汁すましをさし上げたのに、やっぱり、松茸の香さえおいやになっていらっしゃる様子で、おわんをお口元まで持って行って
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
小間使いがささげ来たれる一わんめいになめらかなる唇をうるおし
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
のみならず、店の若い者にそそのかされたか、一端の列をくずして、物蔭に隠れ、素早いとこをと、酒のわんをあばき合っている一ト群れさえある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おほきはまぐりウばかり。(ちう、ほんたうは三個さんこ)として、しゞみ見事みごとだ、わんさらもうまい/\、とあわてて瀬戸せとものをかじつたやうに、おぼえがきにしるしてある。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
茶の湯の基をなしたものはほかではない、菩提達磨の像の前で同じわんから次々に茶をむという禅僧たちの始めた儀式であったということはすでに述べたところである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
この装置群の中央に、直径が一メートルに三メートルほどの台があり、その上に透明な、やや縦長たてながな大きな硝子様ガラスようわんせてあった。そしてその中の台の上には、何にもなかった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのとき奥より女中来たり、「香でもたきましょうか」とたずねたれば、宝丹翁曰く、「香よりもマジナイの方がよい」といいつつ、自ら立って湯のみ茶わんを縁側のさきに、なにか唱えながら伏せた。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
案内が調てうじたるものそろはぬわんにもり、山折敷やまをしきにすゑていだせり。
茶一わん、直ぐ見物に出かける。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
床几しょうぎのままで、一わんの酒を仰飲あおるぐらいはしたかもしれぬ。が、おそらく酒もりと呼べるような酒などみあう余裕はなかったとみられよう。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手廻り調度は、隅田川を、やがて、大船で四五日のうちに裏木戸へ積込むというので、間に合せの小鍋こなべわん家具、古脇息ふるきょうそくの類まで、当座お冬の家から持運んでいた、といいます。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)