くだ)” の例文
旧字:
私はもう、当ってくだけるよりほかにみちがないと思った。何でもいい、ただ行って見よう。行ってどうかしよう。こう私は腹をきめた。
戦争の荒し壊す力よりも、もっと大きい力が、砲弾にくだかれた塹壕ざんごうの、ベトンとベトンの割れ目から緑の芳草ほうそうとなって萌え始めた。
勲章を貰う話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
さいわいにのかみついていた岩角いわかどくだけなかったから、よかったものの、もしこわれたら、おそらくそれが最後さいごだったでありましょう。
しんぱくの話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
あし早くて。とっても。)(わかいがら律儀りちぎだもな。)嘉吉かきちはまたゆっくりくつろいでうすぐろいてんをくだいて醤油しょうゆにつけて食った。
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
はっと思うたが及ばない、見れば猪口は一つおどって下の靴脱くつぬぎの石の上に打付ぶつかって、大片おおきいのは三ツ四ツ小片ちいさいのは無数にくだけてしまった。
太郎坊 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
吾ともなく興の起るのがすでにうれしい、その興をとらえて横にたてくだいて、これを句なり詩なりに仕立上げる順序過程がまた嬉しい。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
将軍の声は爆弾のように、中佐の追憶を打ちくだいた。中佐は舞台へ眼を返した。舞台にはすでに狼狽ろうばいした少尉が、幕と共に走っていた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
何か弥次やじが飛んだようだけれど、はっきり聞えない。向うの方で、麦酒瓶がくだける音がした。そして、雑然たる合唱がはじまった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
が、次の瞬間、コップは横にとんではっしと壁にあたり、粉々にくだけた。雪子が腕を大きく振ったからであった。腕だけではない。
四次元漂流 (新字新仮名) / 海野十三(著)
近来きんらい澱粉でんぷん製造の会社が設立せられ、この球根を集めくだきそれを製しているが、白色無毒な良好澱粉が製出せられ、食用にきょうせられる。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
そこでチョイト外を覗くと直ぐに大卓子テーブルの前の方へ引返して来たが、その態度は、今までよりも又ズットくだけた調子になっていた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
犬の骨壺の方は、壺はくだいて藪に捨て、骨は何れも細かなものばかりであったが、幾度にも持出して溝の中へ捨てたのであった。
最初は恐怖のために死んだのであろうと想像していたが、そのくびの骨が実際にくだかれているのを発見して、わたしはまた驚いた。
川幅は一けんばかり、水にのぞめば音はさまでにもないが、美しさは玉を解いて流したよう、かえって遠くの方ですさまじく岩にくだけるひびきがする。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そして、亀の子煎餅を指先でくだいては、鉢におとした。涙がこみあげて来るような気持だったが、彼はやっとそれをこらえた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
かくやもめとなりしを便たよりよしとや、ことばたくみていざなへども、一〇四玉とくだけてもかはらまたきにはならはじものをと、幾たびか辛苦からきめを忍びぬる。
と町の旅舎へ、一同を引っ張って来て、ゆうべの返礼に、馳走を振舞い、お奉行の彼もいい機嫌に酔って、すっかりくだけたところを見せた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人間の頭ぐらいげんこくだくことができると云っている。んだか山師やましのようでもあるが、また真箇ほんとう真言しんごん行者ぎょうじゃのようでもある。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ところどころの巌角いわかどに波くだけ散る。秋。成経浜辺はまべに立って海のかなたを見ている。康頼岩の上に腰をおろして木片きぎれにて卒都婆そとばをつくっている。
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
小さな波をつくって湯がうごくと、底に立っている彼女かれの足が、くの字を幾つもつづけたように、ゆら、ゆらとくだけ揺れる。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
代々の勅撰集ちょくせんしゅうの如き者が日本文学の城壁ならば、実に頼み少き城壁にて、かくの如き薄ツぺらな城壁は、大砲一発にて滅茶滅茶めちゃめちゃくだけ可申候。
歌よみに与ふる書 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
しかし何の食物でも衛生的に食べるという習慣を養わなければなりません。即ちよくくだいて胃中へ送るという習慣です。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
双方から打つ玉は大抵頭の上を越して、堺筋さかひすぢでは町家まちやの看板がはちの巣のやうにつらぬかれ、檐口のきぐちの瓦がくだかれてゐたのである。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その間に鉄の腕は狼の腹まではいり、狼は苦しまぎれに鉄の腕骨をくだきたり。狼はその場にて死したれども、鉄もかつがれて帰りほどなく死したり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
その場合場合によって、必ず深浅大小しんせんだいしょうの差異が出来るはずだ。時には、頭がくだけたようなものもあっていいわけだろう
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
たとへ稀れな場合に若い人等が贅沢なローマンスに耽けるとも、かれ等は年長者の監視を受け、かれ等が『性根づく』まで訓練せられ、くだかれる。
結婚と恋愛 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
居候浪人——岩根源左衛門は多勢の後ろから、首だけヒョロ高い身体を浮かしました、恐ろしくくだけた二本差です。
雪頽なだれといふ事初編しよへんにもくはしくしるしたるごとく、山につもりたる雪二丈にもあまるが、春の陽気やうきしたよりむし自然しぜんくだおつる事大磐石だいばんじやくまろばしおとすが如し。
姉さまのする事我れもすとてすゞりの石いつのほどにでつらん、れもお月さまくだくのなりとてはたとてつ
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ことは簡なれども、事情の大方はすいせられつ。さて何とか救済の道もがなと千々ちぢに心をくだきけれども、その術なし。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
グラグラと眩暈めまいがして、世界が遠のいて行くのを感じたかと思うと、グンと脊骨せぼねくだける様なショックを受けた。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「物事は当ってくだけろさ。俺達だけじゃないよ、こんな生活は山のようにあるんだからおそれる事はないだろう」
魚の序文 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
暁の風に姥の裳裾もすそも、袖も白髪しらがなびひるがえり、波がくだけて作られた水泡みなわが、涌き立ち踊り騒ぎ立つように見えた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
笑うこともまれに、こぐにも酒の勢いならでは歌わず、醍醐だいごの入江を夕月の光くだきつつほがらかに歌う声さえ哀れをそめたり、こは聞くものの心にや、あらず
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
鳥貝は日に干して俵に詰めるのだなどと言う。浪が畠の下の崖にくだける。日向ひなたがもくもくと頭の髪に浸みる。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
「外でもないが、拙者幼年の頃より、独立自発、心肝しんかんくだいて、どうやら編み出した流儀の、奥義おうぎを譲ろう」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
彼はその血だらけになってくだけ飛んだ人形の足を師匠にうて貰い受け真綿にくるみ白木の箱に収めて
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
障子をあけると、宇治の早瀬はやせに九日位の月がきら/\くだけて居る。ピッ/\ピッ/\千鳥ちどりいて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
西空は一面に都会の夜街の華々はなばなしいものがおどりつ、打ち合いつ、くだけつする光の反射面のようである。
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ニキタはぱッとけるより、阿修羅王あしゅらおうれたるごとく、両手りょうてひざでアンドレイ、エヒミチを突飛つきとばし、ほねくだけよとその鉄拳てっけん真向まっこうに、したたかれかおたたえた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「その後も悪魔の調伏に心をくだいて、夜も碌々にお眠りなさらぬ」と、泰忠も声をくもらせて言った。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その実というのはちょうど豆腐とうふしたようなものでチベット語でチューラというおから(豆腐滓とうふかす)よりはまだ柔かく全く豆腐のくだけたようなもので非常にうまい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
もしくは波浪にくだかれてしまったが、それでも現存している島、大なるは二、三町歩ちょうぶにわたり
雲仙岳 (新字新仮名) / 菊池幽芳(著)
自分の全力のくだけるまで闘わなければ済まない。こいなぞ、という個人的な感情は、揚棄アウフヘエベンせよ。それが、義務だという声もきこえる。それより、ぼくもてたいと望んでいる。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
まだ一世紀半ほど前のことに過ぎませんが、出雲には松平不昧まつだいらふまい公という殿様が出ました。名君で産業に学藝に並びつとめ、国を富ましめ文化を進めることに身をくだきました。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
十日ばかりの月が向こう岸の森の上に出て、渡船場わたしば船縁ふなべりにキラキラと美しくくだけていた。はだに冷やかな風がおりおり吹いて通って、やわらかなの音がギーギー聞こえる。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
ただ俺はこの臆病な心に打克うちかって、立派に死んでみせようと、どれだけ心をくだいたことか。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
先ず霜柱は土にしか立たないものか、他の適当な粉に適当に水分を含ませたらそれでも出来るかを見るために、紅殻ベンガラの粉、澱粉でんぷん類、ガラスをくだいた粉などを用いて実験がしてある。
「霜柱の研究」について (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
博士はくしがそう言ったとき、ガチャーンと、ガラスがくだける音が、二階のどこかでした。
ひつじは俄然がぜん虎になった。処女は脱兎だっとになった。いままで湲々えんえんと流れた小河の水が一瀉いっしゃして海にいるやいなや怒濤どとう澎湃ほうはいとして岩をくだき石をひるがえした。光一の舌頭は火のごとく熱した。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)