みまも)” の例文
とせい/\、かたゆすぶると、ひゞきか、ふるへながら、をんな真黒まつくろかみなかに、大理石だいりせきのやうなしろかほ押据おしすえて、前途ゆくさきたゞじつみまもる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
他人の心の上に落ちる自分の姿をみまもつて、こゝにも亦、寂しく通り過ぎる影しかないことを、はかなんでゐる様な心境である。
柳沢は最初はじめから、私が階段はしごだんを上って来たのを、じろじろと用心したような眼つきでみまもったきり口一つ利かないでやっぱり黙りつづけていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
二人の婦人には、なんのことだか訳が分らないので、ただ茫然と老人をみまもっていた。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
帽子を目深まぶかに、外套がいとうの襟を立てて、くだんの紫の煙を吹きながら、目ばかり出したその清い目で、一場いちじょうの光景をきっみまもっていたことを。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一と口挨拶あいさつをした後は黙ってすわっているその顔容かおかたちから姿態すがたをややしばらくじいっとみまもっていたが柳沢がどうもせぬ前とどこにも変ったところは見えない。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
旅客は洋杖ステッキを持った手を拡げて、案外、とみまもったが、露に濡れたら清めてやろう、と心で支度をするていに、片手を衣兜かくしに、手巾ハンケチを。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
柳沢はいつものとおり二階の机の前に趺座あぐらをかいていたが私たちが上っていったのを見て、笑うのは厭だというような顔をして黙り込んでまじまじひとの顔をみまもっていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
お通はまたたきもせずみまもりながら、手も動かさずなりも崩さず、石に化したるもののごとく、一筋二筋頬にかかれる、後毛おくれげだにも動かさざりし。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
死せるがごとき時彦の顔をみまもりしが、俄然がぜん崩折くずおれて、ぶるぶると身震いして、飛着くごとく良人にすがりて、血を吐く一声夜陰を貫き
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
意外な言葉に、少年はあきれたような目をしながら、今更顔がみまもられた、時に言うべからざる綺麗きれいおもい此方こなたの胸にも通じたので。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と写真を、じっとみまもりしが、はらはらと涙をこぼして、その後はまたものいわず、深きおもいに沈みけむ、身動きだにもなさざりき。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なおじっみまもると、何やら陽炎かげろうのようなものが、鼬の体から、すっとつたわり、草のさきをひらひらと……細い波形になびいている。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小芳は我知らず、(ああ、どうしよう。)と云う瞳が、主税の方へ流るるのを、無理にこらえて、酒井をみまもった顔が震えて
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
炉の火はパツと炎尖ほさきを立てて、赤くおうなひたいた、みまもらるゝは白髪しらがである、其皺そのしわである、目鼻立めはなだちである、手の動くのである、糸車の廻るのである。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
中からおさえたのも気が附かぬか、駒下駄こまげたの先を、さかさに半分踏まえて、片褄蹴出かたづまけだしのみだれさえ、忘れたようにみまもって
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多津吉は一度、近々とて、ここへ退いたまま、あやしみながら、みまもりながら、左右そうなく手をつけかねているのである。
なんにもはずきふにものもいはれないでみまもると、親仁おやぢはじつとかほたよ。うしてにや/\と、またとほり笑方わらひかたではないて、薄気味うすきみわる北叟笑ほくそゑみをして
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
飛騨国ひだのくに作人さくにん菊松きくまつは、其処そこあふたふれていまわるゆめうなされてるやうな——青年せいねん日向ひなたかほひたひ膏汗あぶらあせなやましげなさまを、どくげにみまもつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いつなりけん、みちすがら立寄りて尋ねし時は、東家とうかおうなはた織りつつ納戸の障子より、西家さいかの子、犬張子いぬはりこもてあそびながら、日向ひなたの縁より、人懐しげにみまもりぬ。
一景話題 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青年わかものはこれに答うるすべも知らぬさまに、ただじろじろと後室の顔をみまもったが、口よりはまず身を開いて逡巡しりごみして
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と語るに、ものもいいにくそうな初心な風采ふうさい、お杉はさらぬだに信心な処、しみじみと本尊の顔をみまもりながら
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人はしばらく、姿見をせなにして、じっとそっちをみまもったが、欄干てすりの方に目をやって、襦袢じゅばんの袖で眉をかくした。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
叔母は此方こなたを見も返らで、琵琶の行方をみまもりつつ、椽側に立ちたるが、あわれ消残る樹間このまの雪か、緑翠りょくすい暗きあたり白き鸚鵡の見え隠れに、ひぐらし一声鳴きける時
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といいかけて咽泣むせびなき、懐より桃色の絹の手巾ハンケチをば取り出でつつ目をぬぐいしを膝にのして、うらめしげにみまもりぬ。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「はあ、お目に懸りました節は。——ですが、いつまたお見えになりますか。」とみまもらるる目をそらして言う。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
肱掛窓をのぞくと、池の向うの椿つばきの下に料理番が立って、つくねんと腕組して、じっと水をみまもるのが見えた。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
お杉は心も心ならず、憂慮きづかわしげに少年のさまみまもりながら、さすがにこの際くちれかねていたのであった。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
何んにも言わず急にものもいわれないでみまもると、親仁おやじはじっと顔を見たよ。そうしてにやにやと、また一通りの笑い方ではないて、薄気味うすきみの悪い北叟笑ほくそえみをして
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
塀の外をちらほらと人の通るのが、小さな節穴をすかしてはるかに昼の影燈籠かげどうろうのように見えるのを、じっみまもって、忘れたように跪居ついいる犬を、勇美子はてのひらではたと打って
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かく言いけて伯爵夫人は、がっくりと仰向あおむきつつ、凄冷せいれいきわまりなき最後のまなこに、国手こくしゅをじっとみまもりて
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
へいげんはあるいは呆れ、あるいはおどろき、またたきもせで三郎の顔をみまもりたりしが、やや有りてこうべれて
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、ものめづらしげにみまもつたのは、わざひろふために、に、此處こゝあらはれたうつくしいひとともおもつたらう。……
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
かれは一足先なるかたに悠々とづくろいす。憎しと思う心をめてみまもりたれば、虫は動かずなりたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かれ一足ひとあし先なるかた悠々ゆうゆうづくろひす。憎しと思ふ心をめてみまもりたれば、虫は動かずなりたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
胸のせまるまで、二人が——思わずじっ姉妹きょうだいの顔をみまもった時、たちまち背中で——もお——と鳴いた。
若菜のうち (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
先刻さきより我知らず悲しくなりしを押耐おしこらえていたりしが、もはや忍ばずなりて、わッと泣きぬ。驚きて口をつぐみし婦人おんなは、ひたとあきれしさまにて、手も着けでぞみまもりける。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ものいわむとおもう心おくれて、しばしみまもりしが、淋しさにたえねばひそかにその唇に指さきをふれてみぬ。指はそれて唇には届かでなむ、あまりよくねむりたまえり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ものいはむとおもふ心おくれて、しばしみまもりしが、さびしさにたへねばひそかにその唇に指さきをふれて見ぬ。指はそれて唇には届かでなむ、あまりよくねむりたまへり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と、一面識も無き者の我名を呼ぶに綾子は呆れ、婦人おんなの顔をみまもるのみ。委細構わず馴々なれなれしく
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
良夫おっとと誤り、良夫と見て、胸は早鐘をくごとき、お貞はその良人ならざるに腹立ちけむ、おもてを赤め、瞳を据えて、とその面をみまもりたる、来客は帽を脱して、うやうやしく一礼し
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばばの目には、もの珍しく見ゆるまで、かかる紳士の優しい容子ようすを心ありげにみまもったが
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と謂懸けて、夢見るごとき対手あいての顔を、海野はじっとみまもりつつ、あざみ笑いて、声太く
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
といい懸けて、夢見る如き対手あいての顔を、海野はじつとみまもりつつ、あざみ笑ひて、声太く
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
十年ととせの末はよも待たじ、いま早やかれやまいあり。肩寒げにしおれたる、そのさまみまもらるる。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とお貞は今更のごとく少年の可憐なるさまみまもられける。水上芳之助は年紀とし十六、そのいう処、行う処、無邪気なれどもあどけなからず。辛苦のうちにおいたちて浮世を知れる状見えつ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小松原は、うつつのように目をみはって、今向直って気を入れた、医師せんせいの顔をみまもりながら
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「まあ、勿体もったいないわねえ、私達に何のお前さん……」といいかけて、つくづくみまもりながら、お品はずッと立って、与吉に向い合い、その襷懸たすきがけの綺麗きれいな腕を、両方大袈裟おおげさに振って見せた。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さきよりつくばいたるかしら次第に垂れて、芝生に片手つかんずまで、打沈みたりし女の、この時ようよう顔をばあげ、いま更にまた瞳を定めて、他のこと思いいる、わが顔、みまもるよと覚えしが
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眉に柳のしずくをかけて、しっとりと汗ばんだが、その時ずッと座を開けて、再びともしびおおうてすまった、夫人を見つつ恍惚うっとりと、目をつぶらかにみまもった、胸にぶらりと手帳のくくりに、鉛筆の色の紫を
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)