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曙の色は林の中まで追いついて、木膠や蔦の紅葉の一枚一枚に透き徹る明る味をして、朝の空気は、醒めるように凛烈りんれつとなった。
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
あなたの大きくみひらいた眼には、果てなき大空の藍色と見渡す草原の緑とが映り紅をしたほおには日の光と微風そよかぜとが知られた。
少年・春 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
われは手に瓔珞くびたまを捧げて、心にこれをマリアに與へんことを願ひぬ。マリアの顏の紅をせしは、我心をはかり得たるにやあらん、覺束おぼつかなし。
確かに順調ではなかった体の工合も、すっかりよくなって、毎晩恐ろしい夢にうなされることもなく、青かった顔にもいい色に血がして来た。
地は饒なり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
忽然こつぜんとして眼が嬉しそうに光り出すかと思う間に、見る見るこらえようにも耐え切れなさそうな微笑が口頭くちもとに浮び出て、ほおさえいつしかべにす。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
僅かにあげた顏は、やゝ小さくて、蒼白さの中に紅をしたのも氣高く、わけても大きく開いた眼の雄辯さは非凡です。
やがて接吻キツスおとがした。天幕テントにほんのりとあかみがした。が、やがてくらつて、もやにしづむやうにえた。所業なすわざではない、人間にんげん擧動ふるまひである。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
窪んだ頬の上に薔薇色のくれなゐしてゐる。多くの町や広場を通り過ぎて、主従は大ぶ家を遠ざかつた。併し老人には主人がどこへ往くのだか分からない。
未だ世馴れざる里の子の貴人の前に出しやうにはぢを含みて紅し、額の皺の幾条の溝には沁出にじみ熱汗あせを湛へ、鼻のさきにも珠を湧かせば腋の下には雨なるべし。
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
多く室内にゐて珍しく出かけて來たのであらう、日にりつけられた麥藁帽子の蔭の彼の顏は痛々しく蒼白く、微かにあかみがしてゐるのがなか/\に哀れである。
古い村 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
目はしばたたきもやんだように、ひたと両の瞳を据えたまま、炭火のだんだん灰になるのを見つめているうちに、顔は火鉢の活気にほてってか、ポッと赤味をして涙もかわく。
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
彼はすぐれて美なり。の如き色の顔は燈火に映じて微紅うすくれなゐしたり。手足のかぼそたをやかなるは、貧家のをみなに似ず。老媼のへやを出でし跡にて、少女は少しなまりたる言葉にて云ふ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「それで今、そのひとは何うしているの?」お宮のが冴えて、両頬ほおに少し熱をして来た。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ポッと紅味がして来た。瑪瑙めのうの仙女像が出来上がった。その仙女像は半透明であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これは肉づきのよい面にポッと紅をして澄み渡った眼に竜之助の白く光る眠を真向うに見合せて、これも甲源一刀流名うての人、相立って両人の間にさほどの相違が認められません。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これは肉づきのよい面にポッとべにして、澄み渡った眼に、竜之助の白く光る眼を真向まっこうに見合せて、これも甲源一刀流うての人、相立って両人の間にさほどの相違が認められません。
拍子ひょうしに胸の血はことごとく頬にす。くれないは云う、かっとしてここにおどり上がると。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
子供はとこの中にしずかねむっている。母はルパンの手で長椅子の上に横に寝かされて身動きもしない。しかし段々と呼吸いきも穏かになり、血の気もその頬にして来て、ようやく回復の徴候が現れた。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
孔明の面は淡紅たんこうしている。言語は徐々、痛烈になってきた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
枯燥こさうしつゝある彼等かれらかほにはどれでもはなやかなべにしてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
おいほおくれないすや濁り酒
五百句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
薔薇さうび片頬かたほにほてり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
くれなゐいろすを
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
わざとらずがほつくりながらもくれなゐわれしらずおほ袖屏風そでびやうぶにいとゞこゝろのうちあらはれて今更いまさらきたることもありひとみぬひまの手習てならひ松澤まつざはたかとかいてまた塗隱ぬりかくすあどけなさ利發りはつえても未通女氣おぼこぎなりおなこゝろ芳之助よしのすけごとしとくちにはいへど歳月としつきはわがためゆづるたゆみしやうにおぼえてかしらすほどのまどろかしさよ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
白花という名をかむらせるくらいだから白くはあるが、花冠の脊には、岩魚いわなの皮膚のような、薄紅うすべにの曇りがし、花柱を取り巻いた五裂した花冠が
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
まだ世馴れざる里の子の貴人きにんの前に出でしようにはじを含みてくれないし、額の皺の幾条いくすじみぞには沁出にじみ熱汗あせたたえ、鼻のさきにもたまを湧かせばわきの下には雨なるべし。
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
滿潮まんてうときは、さつとしてくるなみがしらに、虎斑とらふ海月くらげつて、あしのうへおよいだほどの水場みづばだつたが、三年さんねんあまり一度いちどもよしきりをいたこと……無論むろんこともない。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
忽ち車主エツツリノの一聲の因業マレデツトオを叫びて、我等に馳せ近づくを見き。手形の中、不明なるもの一枚ありとの事なり。われはその一枚の必ず我劵なるべきを思ひて、滿面に紅をしたり。
粒太つぶふとき雨は車上の二人がきぬを打ちしが、またたくひまに繁くなりて、湖上よりの横しぶき、あららかにおとづれ来て、べにしたる少女が片頬かたほおに打ちつくるを、さしのぞく巨勢が心は
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
と、つとせき上げて來たと見えて見張つた瞳には既う涙がして居る。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
してかればあさんにいはれたことがうれさうえるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
私の顔は熱して、ほおにはくれないしてきた。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
紅をしてゐる、日は少し西へ廻つたと見えて、崖の影、峯巒ほうらんの影を、深潭にひたしてゐる、和知川わちがはが西の方からてら/\と河原をうねつて、天竜川へ落ち合ふ。
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
名工のひき刀が線を青く刻んだ、小さな雪の菩薩ぼさつが一体、くるくると二度、三度、六地蔵のように廻る……濃い睫毛まつげがチチと瞬いて、耳朶みみたぶと、咽喉のどに、薄紅梅の血がした。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一望ぼうとして、北氷洋がこおったように雲は硬く結んでいる、東方甲斐の白峰しらねを先頭とせる赤石山系のみは、水の中に潜んでもいるように藍をした、我が一脈の日本アルプスは
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
と藤色の緒の表附おもてつき駒下駄こまげたを、べにした爪先つまさき引掛ひっかけながら、私が退いた後へ手を掛けて、格子から外をのぞいた、かどを出てからでさそうなものを、やっぱり雨に閉籠とじこもった処を
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ヒューとうなって、耳朶をかすめて行くのだ、無論荒ッぽい風に伴って来るのである、私はその風を避けて面を伏せようとして、岩のけ目に、高根薔薇アルペン・ローズが、紅をして咲いているのを発見した
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
褐色かばいろに薄く蒼味あおみして、はじめ志した方へかすかながら見えて来た。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝は日を受けて柔和な桃色をし、昼は冴えた空に反映して、燧石すいせきのようにキラキラきらめき、そのあまりに純白なるために、傍で見ると空線に近い大気を黒くさせて、眼を痛くすることがある。
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
少年のまぶたさっと血をした。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤い天鵝絨ビロード色がしはじめた。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)