柳橋やなぎばし)” の例文
その頃柳橋やなぎばしに芸者が七人ありまする中で、重立おもだった者が四人、葮町よしちょうの方では二人、あとの八人はい芸者では無かったと申します。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あッと、千賀春さんの身体からだを突きはなしましたが、柳橋やなぎばしでは誰ひとり知らないものもござんせん、わちきと千賀春さんのいきさつ。
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
柳橋やなぎばしに柳なきは既に柳北りゅうほく先生『柳橋新誌りゅうきょうしんし』に「橋以柳為名而不一株之柳はしやなぎもっすに、一株いっしゅやなぎえず〕」
場所は柳橋やなぎばし、名前はない。——言葉は丁寧だが、四角几帳面きちょうめんな文句の様子では、間違いもなく武家だ、——使いの者はどんな男だ
東京の方に暮らした間、旦那はよく名高い作者の手に成った政治小説や柳橋新誌りゅうきょうしんしなどを懐中ふところにして、恋しい風の吹く柳橋やなぎばしの方へと足を向けた。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
吾妻橋あづまばしから川下ならば、駒形こまかた、並木、蔵前くらまえ代地だいち柳橋やなぎばし、あるいは多田の薬師前、うめ堀、横網の川岸——どこでもよい。
大川の水 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とて、孤蝶子の美しさは秋の月、眉山君は春の花、えんなる姿は京の舞姫のようにて、柳橋やなぎばしの歌妓にもたとえられる孤蝶子とはうらうえだと評した。
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「もとは柳橋やなぎばしにいた奴だよ、今は、駒形堂こまがたどうの傍に、船板塀ふないたべい見越みこしまつと云う寸法だ、しかも、それがすこぶるの美と来てるからね」と小声で云って笑顔わらいがおをした。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
三月九日 蚊杖ぶんじょうを通じ、老年にて身まかりたる名女将といはれし柳橋やなぎばし林家女将追福の通袱紗ふくさに句をはれて。
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
又もや彼の路次をわざ/\通りぬけて、本意ほいなく秋元へ帰ったが、それからは毎夜々々、そんなことに本郷から柳橋やなぎばしまで出て来て、話しにならぬ苦労にやつれて居たが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
そして浅草橋の川下に新しく橋が架けられ、柳橋やなぎばしと名付けられたことくらいのものであろう。
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
医師に掛かると、傷寒しょうかんの軽いのだということだったが、今日でいえばちょうチブスであった。お医師いしゃは漢法で柳橋やなぎばしの古川という上手な人でした。前後二月半ほども床にいていました。
大分おそうなったが如何どうだろうと云うと、主人が気をかして屋根舟を用意し、七、八人の客を乗せて、六軒堀の川岸かしから市中の川、すなわ堀割ほりわりを通り、行く/\成島なるしま柳橋やなぎばしからあが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
柳橋やなぎばし駅から犬山橋までの電車の沿線にはくわが肥え、梨が実り、青い水田のところどころには、ほのかなあかはすの花が、「朝」の「八月」のにおいをさわやかな空気と日光との中に漂わしていた。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
あなどり切っていきなり玄関から応接を頼むと、東京では成島柳北なるしまりゅうほく時代に現われた柳橋やなぎばし年増芸者としまげいしゃのようなのが出て来て、「御紹介のないお客さまは」と、きわめてしとやかに御辞退を申し上げる。
……そのうち場所ばしよことだから、べつあひでもないが、柳橋やなぎばしのらしい藝妓げいしやが、青山あをやま知邊しるべげるのだけれど、途中とちう不案内ふあんないだし、一人ひとりぢや可恐こはいから、にいさんおくつてくださいな、といつたので、おい
十六夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
観潮楼かんちょうろうの先生もかつて『染めちがえ』と題する短篇小説に、西鶴のような文章で浴衣と柳橋やなぎばしの女の恋を書かれた事があった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
白紙かみを鼈甲のかうがいに捲いた、あの柳橋やなぎばしの初春の——白紙かみを捲いたかうがいなんて、どうしたつて繪にはならない、そしてそれは柳橋やなぎばしにはかぎつてゐないが
(旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
六月十五日の四ツ半(夜の十一時)ごろ、浅草柳橋やなぎばし二丁目の京屋吉兵衛きょうやきちべえの家から火が出、京屋を全焼して六ツ(十二時)過ぎにようやくおさまった。
顎十郎捕物帳:18 永代経 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とらと言って清元きよもとようの高弟にあたり、たぐいまれな美音の持ち主で、柳橋やなぎばし辺の芸者衆に歌沢うたざわを教えているという。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのまた小えん自身にも、読み書きといわず芸事げいごとといわず、何でも好きな事を仕込ませていた。小えんはおどりも名を取っている。長唄ながうた柳橋やなぎばしでは指折りだそうだ。
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
腹がって堪らんから、ちょいと底を入れようというので重箱へ往って、なまずで飯を喰ったが、あとの連中は上手へ往って、柳橋やなぎばしのおちよと千吉せんきちを呼んで浮れる訳だが
柳橋やなぎばし船宿ふなやど主翁ていしゅは、二階の梯子段はしごだんをあがりながら、他家よそのようであるがどうも我家うちらしいぞ、と思った。二階の方では、とん、とん、とん、と云う小鼓こつづみの音がしていた。
鼓の音 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
自分とは従兄妹いとこの間柄なる本妻の綾野あやのを嫌い、とうとう一年経たないうちに、柳橋やなぎばし芸者のお勝を、奉公人名義でめかけにいれ、それを鍾愛しょうあいするの余り、本妻の綾野を瘋狂ふうきょうと称して
あけっ放しで惚れきってるからあんな事になるんだ、なによ、……相手が吉原なかとか柳橋やなぎばしあたりで、だれそれといわれるねえさんならともかく、女中に亭主をとられるなんて女の恥じゃないの
寒橋 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
をとこだから、いまでは逸事いつじしようしてもいから一寸ちよつと素破すつぱぬくが、柳橋やなぎばしか、何處どこかの、おたまとか藝妓げいしや岡惚をかぼれをして、かねがないから、岡惚をかぼれだけで、夢中むちうつて、番傘ばんがさをまはしながら、あめれて
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
その頃、両国りょうごく川下かわしもには葭簀張よしずばり水練場すいれんばが四、五軒も並んでいて、夕方近くには柳橋やなぎばしあたりの芸者が泳ぎに来たくらいで、かなりにぎやかなものであった。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
はいわたくしうからまゐつてります、おやまア、岩田屋いはたや旦那だんなだよ、貴方あなた腎虚じんきよなんでせう。男「馬鹿ばかをいへ、さうしておめえだれだツけ。女「柳橋やなぎばしのおぢうでございますよ。 ...
明治の地獄 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
三浦は贅沢ぜいたくな暮しをしているといっても、同年輩の青年のように、新橋しんばしとか柳橋やなぎばしとか云う遊里に足を踏み入れる気色けしきもなく、ただ、毎日この新築の書斎に閉じこもって
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
小蒔屋——柳橋やなぎばしの芸妓屋の名だった。
水上バスへ御乗りのお客さまはお急ぎ下さいませ。水上バスは言問ことといから柳橋やなぎばし両国橋りょうごくばし浜町河岸はまちょうがしを一周して時間は一時間、料金は御一人五十円で御在ます。
吾妻橋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
柳橋やなぎばしのが三人、代地だいちの待合の女将おかみが一人来ていたが、皆四十を越した人たちばかりで、それに小川の旦那だんなや中洲の大将などの御新造ごしんぞや御隠居が六人ばかり、男客は、宇治紫暁うじしぎょうと云う
老年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
柳橋やなぎばし左褄ひだりづまとったおしゅんという婀娜物あだものではあるが、今はすっかり世帯染しょたいじみた小意気な姐御あねごで、その上心掛の至極いゝたちで、弟子や出入ではいるものに目をかけますから誰も悪くいうものがない。
水上すゐじやうバスへ御乗おのりのおきやくさまはおいそくださいませ。水上すゐじやうバスは言問こととひから柳橋やなぎばし両国橋りやうごくばし浜町河岸はまちやうがしを一しうして時間じかんは一時間じかん料金れうきんにん五十ゑん御在ございます。
吾妻橋 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
当時柳橋やなぎばしにあった生稲いくいね一盞いっさんを傾けに行ったのです。
開化の良人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
吾々は今日の新橋しんばしに「ほり小万こまん」や「柳橋やなぎばし小悦こえつ」のやうな姿を見る事が出来ないとすれば、其れと同じやうに、二代目の左団次さだんじと六代目の菊五郎きくごらうに向つて
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
柳橋やなぎばしだよ。あすこは水の音が聞えるからね。」
彼 第二 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「それァそうねえ。わたしが御徒町の家を出たからってお父さんがせんのように柳橋やなぎばしにいたら、やっぱり何だか行きにくいわね。お父さん、何故なぜ柳橋と別れたの。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかも柳橋やなぎばしえんという、——
一夕話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
見送っているうちに兼太郎はふと何の聯絡れんらくもなく、柳橋やなぎばし沢次さわじを他の男に取られた時の事を思出した。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
恋しきは何事につけても還らぬむかしで、あたかもその日、わたくしは虫干をしていた物の中に、柳橋やなぎばしの妓にして、向嶋小梅の里に囲われていた女の古い手紙を見た。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
いつぞや(二十三、四の頃であった)柳橋やなぎばしの裏路地の二階に真夏の日盛りを過した事があった。
夏の町 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
柳橋やなぎばしは動しがたい伝説の権威を背負せおっている。それに対して自分はなまめかしい意味においてしん橋の名を思出す時には、いつも明治の初年返咲かえりざきした第二の江戸を追想せねばならぬ。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
支那画家の一派もまた時としては柳橋やなぎばし山谷堀さんやぼり辺りの風景をば、あたかも水の多い南部支那の風景でもスケツチしたやうに全く支那化してゑがいてゐるが、これは当時の漢詩人が向島むこうじまを夢香洲
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
女髪結の出入先でいりさきに塚山さんといって、もと柳橋やなぎばし芸者げいしゃであったおおめかけさんがあった。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
人形町にんぎょうちょうを過ぎやがて両国にきたれば大川おおかわおもて望湖楼下ぼうころうかにあらねどみず天の如し。いつもの日和下駄ひよりげた覆きしかど傘持たねば歩みて柳橋やなぎばし渡行わたりゆかんすべもなきまま電車の中に腰をかけての雨宿り。
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きのふの御作中柳橋やなぎばしの芸者が新橋しんばしといふ敵国を見る処おもしろく拝見仕候また先日のモリス・バレスが故郷の白楊はくようの並木をおもふ一節感服仕候当地の平田禿木ひらたとくぼく氏はボオ・ブラムメルの処を
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「じゃ、もう柳橋やなぎばしじゃないのね。」
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)