暇乞いとまごひ)” の例文
のべ用意ようい雨具あまぐ甲掛かふかけ脚絆きやはん旅拵たびごしらへもそこ/\に暇乞いとまごひしてかどへ立出菅笠すげがささへも阿彌陀あみだかぶるはあとよりおはるゝ無常むじやう吹降ふきぶり桐油とうゆすそへ提灯の
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
庭樹のしげりに隠れ行く篠田の後影うしろかげながめりたる渡辺老女のまぶたには、ポロリ一滴の露ぞコボれぬ「きツと、お暇乞いとまごひ御積おつもりなんでせう」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
きん小鳥ことりのやうないたいけな姫君ひめぎみは、百日鬘ひやくにちかつら山賊さんぞくがふりかざしたやいばしたをあはせて、えいるこえにこの暇乞いとまごひをするのであつた。
桜さく島:見知らぬ世界 (新字旧仮名) / 竹久夢二(著)
両親にもながの暇乞いとまごひをして、やがて肌を脱いで、刀を手に取つた。介錯かいしやく役にそば突立つゝたつてゐた伯父は落ついた声で呼びかけた。
暇乞いとまごひして戸口を出づれば、勝手元の垣のきは二十歳はたちかと見ゆる物馴顔ものなれがほの婢のてりしが、うしろさまに帯㕞おびかひつくろひつつ道知辺みちしるべす。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
無蓋車を降りて、車掌に暇乞いとまごひして、きよろ/\と見廻して、それから向ふの酒瓶さかびんの絵看板の出てゐる見世みせの方へ行つた。もとより酒を飲みにぢやない。
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
平次はそんな事を言つて暫らくの暇乞いとまごひをしました。見ると輕い旅裝束、片瀬、江の島へ行くと言ふのも滿更の嘘とは思へません。往來まで送つて出た佐七
翌日は謝肉祭カルナワレの終る日なりき。又アヌンチヤタが滯留の終る日なりき。我は暇乞いとまごひにおとづれぬ。市民がその技能に感じて與へたる喝采をば、姫深く喜びたり。
そこで暇乞いとまごひをしようと思ふと、どうした拍子か、わたしのステツキが股の間に插まつたので、わたしは二人の尼さんの前でマズルカを踊るやうな足取をしました。
(新字旧仮名) / グスターフ・ウィード(著)
わたくしはお石さんに暇乞いとまごひをして、小間物屋の帳場を辭した。小間物屋は牛込肴町さかなまちで當主を淺井平八郎さんと云ふ。初め石は師岡久次郎に嫁して一人女ひとりむすめ京を生んだ。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
かく本所ほんじよつて探して見ようと思つて、是真翁ぜしんをういへ暇乞いとまごひしてこれからぐに本所ほんじよきました。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
三千代をれて国へ帰る時は、娘とともに二人ふたりの下宿を別々にたづねて、暇乞いとまごひかた/″\礼をべた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
石段を降りると圭一郎の姿を見つけるなり千登世に急ぎ暇乞いとまごひして、つか/\と彼の方へ走つて來て、ちよつと眼くばせするといきなり突き當るやうにして一通の手紙を渡してくれた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
それから談話はなしにはまた一段いちだんはないて、日永ひながの五ぐわつそらもいつか夕陽ゆうひなゝめすやうにあつたので、わたくし一先ひとま暇乞いとまごひせんとをりて『いづれ今夜こんや弦月丸げんげつまるにて——。』とちかけると
をつと蓑笠みのかさ稿脚衣わらはゞきすんべを穿はき晴天せいてんにもみのきるは雪中農夫のうふの常也)土産物みやげもの軽荷かるきにになひ、両親ふたおや暇乞いとまごひをなし夫婦ふうふたもとをつらね喜躍よろこびいさみ立出たちいでけり。正是これぞ親子おやこ一世いつせわかれ、のち悲歎なげきとはなりけり。
母樣はゝさま御機嫌ごきげんよう新年しんねんをおむかひなされませ、左樣さやうならばまいりますと、暇乞いとまごひわざとうやうやしく、おみね下駄げたなほせ、お玄關げんくわんからおかへりではいおかけだぞと圖分づぶ/\しく大手おほでりて
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
以て親と思ふの孝心かうしんいさぎよく母に暇乞いとまごひなし五兩の金を路用にと懷中して其夜は十三淀川よどがはの船に打乘うちのり一日も早くと江戸へぞくだりける
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
用談果つるをちて貫一の魚膠無にべな暇乞いとまごひするを、満枝はしばしと留置とどめおきて、用有りげに奥の間にぞりたる。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
平次は間もなく暇乞いとまごひをして出ました。が、門口へお品を呼んで、何やら耳打ちすると其儘ガラツ八をつれて、神田の家とは方角違ひの、原庭の方へ道を急ぎます。
翌日の夕まだ「アヱ、マリア」の鐘鳴らぬほどに、人々我を伴ひて寺にゆき、母上に暇乞いとまごひせしめき。きのふ祭見にゆきし晴衣はれぎのまゝにて、狹き木棺のうちに臥し給へり。
高瀬舟たかせぶねは京都の高瀬川を上下する小舟である。徳川時代に京都の罪人が遠島ゑんたうを申し渡されると、本人の親類が牢屋敷へ呼び出されて、そこで暇乞いとまごひをすることを許された。
高瀬舟 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
宗助そうすけまへに、宜道ぎだうれだつて、老師らうしもと一寸ちよつと暇乞いとまごひつた。老師らうし二人ふたり蓮池れんちうへの、えん勾欄こうらんいた座敷ざしきとほした。宜道ぎだうみづかつぎつて、ちやれてた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
さて是真翁ぜしんをうたく暇乞いとまごひして、すぐ本所ほんじよつて、少し懇意こんいの人があつたから段々だん/\聞いて見ると、ふたの橋のそば金物屋かなものやさんがるから、そこへつて聞いたらわかるだらうとふ。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
暇乞いとまごひわざとうやうやしく、お峯下駄を直せ、お玄関からお帰りでは無いお出かけだぞと図分々々づぶづぶしく大手を振りて、行先は何処いづこ、父がなみだは一の騒ぎに夢とやならん、持つまじきは放蕩のら息子
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
乃公おれも今度こそ愈々いよ/\暇乞いとまごひだ。」
つかはし殘りの金子ははうむりし寺へ祠堂金しだうきんに寄進なし其外跡々の事共殘る方なく取片付とりかたづけ暇乞いとまごひして出立に及ばんとするに門弟中一同に名殘なごりをし暫時しばらく當所に足を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
午後四時発の列車にて赴任する事をも知るを得しかば、余所よそながら暇乞いとまごひもし、二つには栄誉のにしきを飾れる姿をも見んと思ひて、群集くんじゆに紛れてここにはきたりしなりけり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
濱町の貧しい父親の許に、暇乞いとまごひに來たお富は、近所の人達に包圍されて、暫くは、祝ひの言葉と、羨望せんばうの感動詞と、あらゆる目出度いものの渦の中にもみ拔かれました。
部下を失つた広瀬は、暇乞いとまごひをして京橋口に帰つて、同役馬場にこの顛末てんまつを話して、一しよに東町奉行所前まで来て、大川おほかはを隔てて南北両方にひろがつて行く火事を見てゐた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
暇乞いとまごひして出でんとせしとき、夫人は館を顧みてのたまふやう。學校は智育に心を用ゐると覺ゆれど、作法の末まではゆきとゞかぬなるべし。この子のゐやするさまこそ可笑しけれ。
これより以後いご一生いつしやう五十ねん姫樣ひめさまにはゆびもさすまじく、まし口外こうぐわいゆめさらいたすまじけれど、かねゆゑぢるくちにはあらず、此金こればかりはとおそれげもなく、つきもどしてさてつくづくとびけるが、歸邸きていそのまヽ暇乞いとまごひ
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
ここで白井と杉山とが、いつまで往つても名残なごりは尽きぬと云つて、暇乞いとまごひをした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)