明方あけがた)” の例文
晩の十二時ごろからどうかすると明方あけがたの一二時ごろまで、いつも決ったように休んでいる自動車はめったに動いたことがなかった。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
【朝の時】l'ora mattutina 曉の前、明方あけがた近き夜の時をいふ。殘りの闇曉に追はれて逃げゆき、海のさゞ波みゆるなり
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
此日雲飛はちにつた日がたので明方あけがた海岱門かいたいもんまうで見ると、はたして一人のあやしげな男が名石めいせきかついで路傍みちばたに立て居るのを見た。
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
蹴殺けころし給ふべしと呪咀しゆそしけるに七日目の明方あけがた十歳ばかりの童子わらべかみ乘遷のりうつり給ひこゑあららげ我が本覺ほんがく眞如しんによの都を出で和光わくわう同塵どうぢんあと
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
朝六あさむつの橋を、その明方あけがたに渡った——この橋のあるところは、いま麻生津あそうづという里である。それから三里ばかりで武生たけふに着いた。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暗い寒い静かな明方あけがたに、誰れも気づかぬとき、床の間の寒牡丹かんぼたんが崩れ散ったような彼女の死の瞬間が想像され、死顔を見るに堪えなくなっていとまを告げた。
松井須磨子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それはまだ三十時間とはたゝない昨日の明方あけがたの事だ。彼れの妻の病室は醫員や看護婦の出入でごつた返してゐた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
そのあした横雲白よこぐもしろ明方あけがたの空に半輪の残月を懸けたり。一番列車を取らんと上野に向ふくるまの上なる貫一は、この暁の眺矚ながめうたれて、覚えず悚然しようぜんたる者ありき。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
明方あけがたにはまたぽつ/\降って居たが、朝食あさめしを食うと止んだ。小舟でつりに出かける。汽車の通うセバットの鉄橋のあたりに来ると、また一しきりざあと雨が来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
源兵衛『言いがかりもいい加減にしやれ、さあ、もう夜明けも間近だ。明方あけがたまでにそなたも御主家へ戻らずば首尾が悪るかろう。その松明をこっちへ渡しや』
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
文「帰りは明方あけがたでございます、若し是非ない訳で帰れんければ四五十年は帰れぬ、たった一人の大切のお母様っかさまわしになり代って孝行を尽してくれぬでは困る」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
あの融け残った、霧の中の青い後光を有った栗の木や、明方あけがたの雲に冷たくれた木莓や。それでも それでも。俺は豚の脂を食べやうと思ふ。俺の胸よ。強くなれ。
〔蒼冷と純黒〕 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
明方あけがたから降り出した雨なので、みちはまだそうたいして悪くなかった。車や馬の通ったところはグシャグシャしているが、拾えば泥濘どろにならぬところがいくらもある。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
輾転反側てんてんはんそく明方あけがたまでまんじりともしない。そこで或晩丹波さんへ行ってつぶさに容態を訴えると
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
葉之助へ一封の遺書かきおきを残し、弓之進が屠腹とふくして果てたのはその夜の明方あけがたのことであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、明方あけがた少し前に、水夫長ボースンが呼子を鳴らして、船員が揚錨絞盤キャプスタンてこき始めた時分には、私はへとへとに疲れていた。その二倍も疲れていたにしても、私は甲板を去りはしなかったろう。
僕はあんなに身をふるわしておなきなさるような失礼をどうしていったかと思って、今だに不思議でなりませんよ。そしてその夜は、明方あけがたまで、勿体もったいないほど大事にかけて看病して下すったんです。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
すると明方あけがたうち女主人をんなあるじはう暖爐造だんろつくり職人しよくにんた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すると明方あけがた天空てんくうから、思いがけない人声がきこえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たそがれどきか、明方あけがた
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
明方あけがたよりの合戰に
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
月にあまぎる明方あけがた
花守 (旧字旧仮名) / 横瀬夜雨(著)
いたまぬならねどしゆうへなほさらにづかはしくかげになり日向ひなたになり意見いけん數々かず/\つらぬきてや今日けふ此頃このごろそでのけしきなみだこゝろれゆきてえんにもつくべしよめにもかんと言出いひいでしことばこゝろうれしく七年越しちねんごしのえて夢安ゆめやすらかに幾夜いくよある明方あけがたかぜあらくまくらひいやりとして眼覺めさむれば縁側えんがは雨戸あまど一枚いちまいはづれてならべしとこ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
こういうと、何だか明方あけがただか晩方ばんがただか、まるで夢のように聞えるけれども、わたしを渡ったには全く渡ったですよ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
其のうちに冬の明方あけがたと見え、穴の口より少し日がして居りますが、四辺あたりはまだ暗がりでだ能く見えませぬ、まるで井戸の中へ這入ったようでござります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
【アウローラ】エオス、明方あけがたの空色を朝の女神と見做せるなり。この色始め白く後赤く日出づるに及びて橙黄色となる、恰も女神の老ゆるにつれてその頬の色變るに似たり
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
おとし忽ち産後さんごあがり是も其夜の明方あけがた相果あひはてければあとのこりしお三婆は兩人ふたり死骸しがいに取付天をあふぎ地に泣悲なきかなしむより外なきは見るもあはれの次第なり近邊きんぺんの者どもばゝ泣聲なきごゑ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ある明方あけがた、須利耶さまが鉄砲てっぽうをもったご自分の従弟いとこのかたとご一緒いっしょに、野原を歩いていられました。地面じめんはごくうるわしい青い石で、空がぼうっと白く見え、雪もまぢかでございました。
雁の童子 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一夜を越えようとした明方あけがた、生田川のさざ波に銀の粉を振りいたような日の光がうつった時分、橘の館では、橘の姿が見えず人びとは騒ぎ立ったが、基経はほとんど直覚的に生田川のほとりを捜せよと
姫たちばな (新字新仮名) / 室生犀星(著)
すると明方あけがた、まだうち女主人おんなあるじほう暖炉造だんろつくり職人しょくにんた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
高いのきから、明方あけがた
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
明方あけがたよりの合戦に
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
うれしや人里も近いと思う、月が落ちて明方あけがたの闇を、向うから、洶々どやどやと四、五人づれ松明たいまつげて近寄った。人可懐ひとなつかしくいそいそ寄ると、いずれも屈竟くっきょう荒漢あらおのこで。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若「ヘイ、只今じきに、少々立込んで居りまするから、明方あけがたまでにはお廻りになりましょう」
いねがとうとうたおれてしまった。ぼくはもうどうしていいかわからない。あれぐらい昨日きのうまでしっかりしていたのに、明方あけがたはげしい雷雨らいうからさっきまでにほとんど半分倒れてしまった。
或る農学生の日誌 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
御手おてとらせ玉ひ御覽ごらん有るに全くの若君わかぎみには寶永三酉年三月十五日御誕生ごたんじやうにてすぐ御早世ごさうせい澤の井も其明方あけがたに同じく相果あひはて平澤村光照寺へはうむり右法名ほふみやう共にうつし有て且天一坊は原田嘉傳次が子にして幼名えうみやう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
明方あけがたの霜の置く
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
明方あけがたには疲れて眠る方も有るまい者でもねえ、其の時怪しい者がへいっちゃアならねえと思うからだ、此の程は大分貴方あんた顔なんど隠しちゃア長い物を差した奴がうろつか/\して
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
何分なにぶんけましたで、みちをしへますものも明方あけがたまでちませうし、また……奥方様おくがたさまも、みち草臥くたびれでござりませうで、いづれにもけましたら、わかるに相違さうゐござりません。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
花「オヽ寒くなったこと、もう浴衣ゆかたじゃア、明方あけがたなんか寒くて仕様がないわ」
あさおもへばあさひるよる夜中よなか明方あけがた、もうね、一それえましてから、わたしおぼえてますだけは、片時かたときも、うやつて、わたしかほ凝視みつめたなり、上下うへしたに、ひざだけらさうともしないんです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あゝ、明方あけがたにおさんがあつた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)