日盛ひざかり)” の例文
三日目の日盛ひざかりに、彼は書斎のなかから、ぎら/\するそらいろ見詰みつめて、うへからおろほのほいきいだ時に、非常に恐ろしくなつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
白熱した日盛ひざかりに、よくも羽が焦げないと思う、白い蝶々の、不意にスッと来て、飜々ひらひらと擦違うのを、吃驚びっくりした顔をして見送って
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここへ移ってから、四五日目のことだが、日盛ひざかりの路を歩いていると左の眼の隅に羽虫か何か、ふわりと光るものを感じた。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
お江戸の町々を呼歩く蚊帳売かやうりの声と定斎売じょうさいうりかんに、日盛ひざかりの暑さは依然として何の変りもなかったが、とにかく暦の表だけではいよいよ秋という時節が来ると
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
蓊欝こんもりと木がかぶさつてるのと、桶の口を溢れる水銀の雫の様な水が、其処らの青苔やまろい石を濡らしてるのとで、如何いか日盛ひざかりでもすずしい風が立つてゐる。智恵子は不図かつを覚えた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
恰度ちやうど日盛ひざかり太陽燦然ぎら/\かゞやき、あつさあつし、そのなかしんとしてしづまりかへつてる。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
軟風なよかぜもいぶき絶えぬる日盛ひざかり
有明集 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
白熱した日盛ひざかりに、よくも羽が焦げないと思ふ、白い蝶々ちょうちょうの、不意にスツと来て、飜々ひらひら擦違すれちがふのを、吃驚びっくりした顔をして見送つて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
むこうに見える高い宿屋の物干ものほし真裸まっぱだかの男が二人出て、日盛ひざかりを事ともせず、欄干らんかんの上をあぶなく渡ったり、または細長い横木の上にわざと仰向あおむけに寝たりして
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
夏から秋へかけての日盛ひざかりに、千葉県道に面したあきなみせでは砂ほこりを防ぐために、長い柄杓ひしゃくどぶの水を汲んでいていることがあるが、これもまたわたくしには、溝の多かった下谷したや浅草あさくさの町や横町よこちょう
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
炎天、日盛ひざかり電車道でんしゃみちには、げるような砂を浴びて、蟷螂とうろうおのと言った強いのが普通だのに、これはどうしたものであろう。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝来た時も腹や頭の具合が変であったが、帰りは日盛ひざかりになったせいかなお苦しかった。あいにく二人共時計を忘れたので何時なんじだかちょっと分り兼ねた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、旅宿に二人附添った、玉野、玉江という女弟子も連れないで、一人でそっと、……日盛ひざかりもこうした身には苦にならず、町中まちなかを見つつそぞろに来た。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
代助はこう云ううわの空の生活を二日程送った。三日目の日盛ひざかりに、彼は書斎の中から、ぎらぎらする空の色を見詰めて、上から吐き下すほのおの息をいだ時に、非常に恐ろしくなった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、旅宿りょしゅくに二人附添つきそつた、玉野たまの玉江たまえと云ふ女弟子も連れないで、一人でそっと、……日盛ひざかりうした身には苦にならず、町中まちなかを見つゝそぞろに来た。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
兄さんは暑い日盛ひざかりに、この庭だか畑だか分らない地面の上に下りて、じっと蹲踞しゃがんでいる事があります。時々かんなの花のにおいいで見たりします。かんなに香なんかありゃしません。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
若いものの癖として、出たとこ勝負の元気に任せて、影も見ないで、日盛ひざかりを、松並木の焦げるがごとき中途に来た。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その顔は日盛ひざかりの中を歩いた火気ほてりのため、汗を帯びて赤くなっていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
さじとかこ魂棚たまだな可懷なつかしき面影おもかげに、はら/\と小雨こさめ降添ふりそそでのあはれも、やがてがた日盛ひざかりや、人間にんげんあせり、蒟蒻こんにやくすなり、はへおとつぶてる。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
の軽いものをそよがすほどの風もない、夏の日盛ひざかりの物静けさ、其の癖、こんな時はたとひ耳をおっつけて聞いても、金魚のひれの、水をく音さへせぬのである。
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
氷々こほり/\ゆきこほりと、こもだはらつゝみてあるくはゆきをかこへるものなり。のこぎりにてザク/\とつて寄越よこす。日盛ひざかりに、まちびあるくは、をんなたちの小遣取こづかひとりなり。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
日盛ひざかりなんざ火が波を打っているようでしょう。——さあ、然うなると不思議なもので今も言った通りです。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……余り暑いので、に返って、こうどうも、おお暑いでめげては不可いけない。小児こどもの時は、日盛ひざかり蜻蛉とんぼを釣ったと、炎天につかる気で、そのまま日盛ひざかりを散歩した。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠近おちこち樹立こだちも、森も、日盛ひざかりに煙のごとく、かさなる屋根に山も低い。町はずれを、蒼空あおぞらへ突出た、青い薬研やげんの底かと見るのに、きらきらとまばゆい水銀を湛えたのは湖の尖端せんたんである。
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一夏はげしい暑さに、雲の峰も焼いたあられのように小さく焦げて、ぱちぱちと音がして、火の粉になってこぼれそうな日盛ひざかりに、これからいて出て人間になろうと思われる裸体はだかの男女が
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ときもあらうに、眞夏まなつ日盛ひざかり黒髮くろかみかたしくゆきかひな徐大盡じよだいじん三度目さんどめわかつまいとをもけず、晝寢ひるねをしてた。(白絹帳中皓體畢呈はくけんちやうちうかうたいひつてい。)とある、これは、一息ひといき棒讀ぼうよみのはうねがふ。
画の裡 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじ大道だいどう、炎天のもとひらけつゝ、日盛ひざかりの町の大路おおじが望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交ゆきかふ人は点々と蝙蝠こうもりの如く
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
明眸めいぼうの左右に樹立こだちが分れて、一条ひとすじの大道、炎天のもとひらけつつ、日盛ひざかりの町の大路が望まれて、煉瓦造れんがづくりの避雷針、古い白壁しらかべ、寺の塔などまつげこそぐる中に、行交う人は点々と蝙蝠こうもりのごとく
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……その前日ぜんじつ、おなじやま温泉おんせん背戸せどに、物干棹ものほしざをけた浴衣ゆかたの、日盛ひざかりにひつそりとしてれたのが、しみせみこゑばかり、微風かぜもないのに、すそひるがへして、上下うへしたにスツ/\とあふつたのを
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ああ、それも夢のような——この日、午後四時頃のまだ日盛ひざかりに——きにここで休んだ時——一足おくれて、金沢の城下の方から、女たち七人ばかりを、頭痛膏ずつうこうった邪慳じゃけんらしい大年増と
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある夏土用の日盛ひざかりの事……生平きびらの揚羽蝶の漆紋に、はかま着用、大刀がわりの杖を片手に、芝居の意休を一ゆがきして洒然さっぱり灰汁あくを抜いたような、白いひげを、さわやかしごきながら、これ、はじめての見参。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いまにも胴中から裂けそうで、串戯じょうだんどころか、その時は、合掌に胸をめて、真蒼まっさおになって、日盛ひざかり蚯蚓みみずでのびた。叔父の鉄枴ヶ峰ではない。身延山の石段の真中まんなかで目をつぶろうとしたのである。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あの低い松の枝の地紙形じがみなり翳蔽さしおおえる葉の裏に、葦簀よしずを掛けて、掘抜にめぐらした中を、美しい清水は、松影に揺れ動いて、日盛ひざかりにも白銀しろがねの月影をこぼしてあふるるのを、広い水槽でうけて、その中に
瓜の涙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)