忌々いま/\)” の例文
手にをへないおびただしい寳に陶醉たうすゐした顏を擧げて、時々ニヤリニヤリとするのを、手柄をフイにした佐吉は忌々いま/\しくめ付けて居ります。
甚だ忌々いま/\しく思へ共詮方せんかたなく勘定致し見るに元利十三兩二分外に時貸ときがしが六百文右の通りと文右衞門が前に差出さしいだしければ文右衞門は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
メリケン兵は忌々いま/\しく憎かった。彼等は、ひまをぬすんで寝がえりを打った娘のところへのこ/\やって行って偽札を曝露した。
氷河 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
「えゝえゝ大人しく遊びますわ。」急にさう気軽に云つて、彼女はそれを帯の間へしまひこんだ。道助は忌々いま/\しさうにそれを見た。
静物 (新字旧仮名) / 十一谷義三郎(著)
何れも大作たいさくだ。雖然何を見たからと謂つて、些ともきようらぬばかりか、其の名畫が眼に映つると、むし忌々いま/\しいといふ氣が亢じて來る。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
いゝえ可厭いやかぜいたんです……そして、ばん可恐おそろしい、氣味きみわるばうさんに、忌々いま/\しいかねたゝかれましたから……」
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
三田は此の人にまつは忌々いま/\しい噂を打消したやうなすつきりした氣持でオールを取あげると、折柄さしかゝつた橋の下を、双腕に力をこめて漕いで過ぎた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
「それぢや仕方がない。休暇を取るのもよからう。」この名高い独身主義者は忌々いま/\しさうに白い歯を見せながら言つた。
彼は忌々いま/\しさに舌打ちし、自棄やけくそな捨鉢の氣持で空嘯そらうそぶくやうにわざと口笛で拍子を合はせ、足で音頭をとつてゐた。が、何時しか眼をつぶつてしまつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
めしくはせろ!』と銀之助は忌々いま/\しさうに言つて、白布はくふけてある長方形の食卓の前にドツカとはつた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
うさ、だけどわたしおほきくなりかたほふかなつてる』とつて福鼠ふくねずみは、『そんな滑稽をかしふうぢやない』そこ忌々いま/\しさうにあがり、法廷ほふていかはえてきました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「緑いろの着物を着た人たちをさ。その連中におあつらへむきの月夜でしたからね。あなた方が土手道にあの忌々いま/\しい氷を擴げたあなた方の遊び場を、私は壞しましたか?」
私ア忌々いま/\しくていまだに忘れられねえ、彼奴あいつが何うもなんとも云えませんよ、何うも変な奴だね、実に何うも腹を切るというは妙ですな、それとも預かり物を取られまして
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どこできいて来たのか、私の酒くらひであることまでも知つたかぶるので、忌々いま/\しくはあつたが、歳の暮れのウィスキー二本は、まさに虎の子だと思ふとこちらが弱気だつた。
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
忌々いま/\しさうに掌打ひらうちにすると、血は掌を汚した。妹夫婦は自分の間と定まつた玄関脇へ集つて、ヒソ/\声で話して居る。笑ふ声も聞える。「あれだ。」と湯村は苦い顔をした。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
其時そのときには屹度きつと大學だいがく分科ぶんくわ教授けうじゆにでもなつてゐたのでせう。無論むろん知識ちしきなるものは、永久えいきうのものではく、變遷へんせんしてくものですが、しか生活せいくわつふものは、忌々いま/\しい輪索わなです。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
はい夫でも昨夜探偵吏たんていりのお話に曲者が犬を連れて行たと聞き若しや生田では有る舞いかと思い附き忌々いま/\しくて成ませんでしたが能く考えて見ると生田が其様な事をする筈は無く
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
わたしもどりましたからは御心配ごしんぱいなくお就蓐やすみくだされと洒然さつぱりといひてとなりつまかへしやり、一人ひとりさびしく洋燈らんぷあかりに烟草たばこひて、忌々いま/\しき土産みやげをりねづみべよとこぐなはのまゝ勝手元かつてもと投出なげいだ
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
いよ/\忌々いま/\しくて仕樣しやうがないので、またばかりつゞけた。矢張やはなんごたへもない。もううなつてると此方こつち意地いぢだ。畜生ちくしやう、いつまでゝもめるものかと根氣こんきよくきつゞけた。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
自分の全身にはほとん火焔くわえんを帯びた不動尊もたゞならざる、憎悪ぞうを怨恨ゑんこん嫉妬しつとなどの徹骨の苦々しい情が、寸時もじつとして居られぬほどにむらがつて来て、口惜くやしくつて/\、忌々いま/\しくつて/\
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
後に跡部の手紙で此事を聞いた堀よりは、三人の態度をのあたり見た跡部は、一層切実に忌々いま/\しい陰謀事件がうそかも知れぬと云ふ想像に伴ふ、一種の安心を感じた。そこで逮捕を見合せた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
新聞に宿が出てたから、わざ/\やつて來て、昨夜ゆうべ電話をかけるとペケ、忌々いま/\しいから無理にも押し込んでやらうかと思うたが、まア/\辛抱して、今朝早う來て見ると、次ぎの間で待たしくさる。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
と誠吾は落付おちつき払つてゐた。代助は少し忌々いま/\しくなつたので
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
父は口にするさへ、忌々いま/\しさうに
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
人樣に辛抱人しんばうにんほめたのが今となりては面目めんぼくない二階へなりときくされつらみるのも忌々いま/\しいと口では言ど心では何か容子ようすの有事やと手を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大きいのと小さいのが、仲よく家の中へ入つて行くのを見送つて、眞砂町の喜三郎も、忌々いま/\しさうに立ち去つてしまひました。
このケチン坊、なかなか金を溜めこんでけつかって、人には貸そうとしやがらねえんだ! 中津は、忌々いま/\しげに考えた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
おふくろは眼でもつて、些と忌々いま/\しさうにして見せたが、それでもおこりもしないで、「お前は眞ンとに思遣おもひやりが無いんだよ。」と愚痴ぐちるやうにいふ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
忌々いま/\しさうに頭をふつて、急に急足いそぎあし愛宕町あたごちやうくらい狭い路地ろぢをぐる/\まはつてやつ格子戸かうしどの小さな二階屋かいやに「小川」と薄暗い瓦斯燈がすとうけてあるのを発見めつけた。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
と云いかけて実親じつおやの無慈悲を思うも臓腑はらわたにえかえるほど忌々いま/\しく恨めしいので、唇が痙攣ひきつり、烟管きせるを持った手がぶる/″\ふるえますから、お柳は心配気に長二の顔を見詰めました。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
今は、その眼も寄せた眉も、思ひ通りにならないので忌々いま/\しさうにいら/\してゐた。彼は、青年期を過ぎてゐたが、まだ中年にとゞいてゐなかつた。恐らく三十五位だつたらう。
いつたいあのカルメンの用ゐさうな※でかい櫛は、思ひ切つて野蠻な風をしない限りは、どんな髮にも似合はないものとして三田は忌々いま/\しく思つて居たが、その時以來一層嫌ひになつた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
輕蔑けいべつせられてあいちやんはれず、忌々いま/\しさうにあがつて、さつさとあるしました、福鼠ふくねずみねむつてゐるし、一人ひとりとしてあいちやんのくのをにするものはありませんでした
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
この不快の念、これが起るほど、かれにはつらいことはなく、又これが起るほど、かれには忌々いま/\しい事はない。何故なぜ自分は不具に生れたか、何故自分は他の人と同じ天分を受ける事が出来なかつたか。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
忌々いま/\しくて仕樣しやうがないけれど、まさかナグリにわけにもゆかない。そこで毎日々々まいにち/\催促さいそく葉書はがきした。十つゞけて催促さいそくしたらなんとか返事へんじぐらゐよこすだらうと思つたが、すこしもごたへがない。
ハガキ運動 (旧字旧仮名) / 堺利彦(著)
湯村は忌々いま/\しさうに聖書をドシンとふすまへ投付けた。
茗荷畠 (新字旧仮名) / 真山青果(著)
忌々いま/\しいではありませんか。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「穴の中で提灯が消えたから、引返さうかと思つたが、忌々いま/\しいから手探りで眞つ直ぐに行くと、變なところへ出ましたぜ」
ゆるすなとは此ことなりと空嘯そらうそぶいて居たりけるお文は切齒はがみをなしヱヽ忌々いま/\しい段右衞門未々まだ/\其後も慈恩寺村にていゝ張半ちやうはんが出來たと云つてをつと三五郎を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
近子ちかこくちびるみながら、さも忌々いま/\しさうに、さも心外しんぐわいさうに、默ツて所天をつと長談義ながだんぎを聽いてゐたが、「ですから、貴方あなたはおえらいのでございますよ。」と打突けるやうにツて
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
忌々いま/\しいから強情に無理無体に縁切状を取って出て来ましたの、江戸へ行くにも、小遣がないもんだから、こんな真似をして身装みなりこしらえたり、金の少しも持って行き度いと思って
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
二三杯ぐい/\飲んでホツと嘆息ためいきをしたが、銀之助は如何どうかんがへて見ても忌々いま/\しくつてたまらない。今日けふ平時いつもより遅く故意わざと七時過ぎに帰宅かへつて見たが矢張やはり予想通りさい元子もとこは帰つて居ない。
節操 (新字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼は自分の容貌の、女の目をひく丈美しく無い事を忌々いま/\しく思つた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
忌々いま/\しさうに叫んで、根本の父は一散に駆けて行つた。
重右衛門の最後 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
父親らしい中年男は、茣蓙ござの上に落ちた短かいがたくましい矢を、忌々いま/\しげに拾ひあげて同心久良山三五郎に渡すのです。
長「やア置いて行った…此の金を貰っちゃア済まねえ、チョッ忌々いま/\しい奴だ」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と考へて來て、忌々いま/\しさうに地鞴ぢたゝらを踏みながら
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ガラツ八は忌々いま/\しさうでした。一つでも年中行事の減つて行くのが、江戸つ子には淋しいことだつたのです。
平次はガラツ八にらされると知つて、忌々いま/\しくも煙草入を拔いて一服つけました。
忌々いま/\しいぢやないか。——裏の臆病おくびやう馬吉奴、まだ尺八を吹いてやがる」