御無沙汰ごぶさた)” の例文
どうも、そうさんもあんまり近頃ちかごろ御出おいででないし、わたし御無沙汰ごぶさたばかりしてゐるのでね、つい御前おまへこと御話おはなしをするわけにもかなかつたんだよ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「おや。喜左衛門さんに富五郎どんかえ。ひさしく御無沙汰ごぶさたをしましたが、おふたりともいつもお達者で何よりですねえ、はい……」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それであるのに二、三年も浄瑠璃に御無沙汰ごぶさたをして、不意にそれを聴いて見ると、それが大変不思議な世界と思えてならない事がある。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
東宮へも久しく御無沙汰ごぶさた申し上げていることが心苦しくてならぬというような話を源氏は命婦にして夜ふけになってから退出した。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「どうも、御無沙汰ごぶさたいたしやした」こう言って、お房の時に頼んだ産婆が復た通って来る頃——この「御無沙汰いたしやした」が
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
あの服屋の女の子がそうなのです。私は上機嫌な顔をして服屋の店へ入ってゆき、「イーダちゃん、御無沙汰ごぶさたしましたね。」
聖アンデルセン (新字新仮名) / 小山清(著)
「をばさん、おかはりもありませんの。ほんとに、ついうちが出にくいものですから、あれツきり御無沙汰ごぶさたしちまつて………。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
床の前に座蒲団ざぶとんを直して、「あんまり御無沙汰ごぶさたをしていましたから」と、つぶやくようにいいながら、違棚ちがいだなにあった葉巻はまきの箱を下して前へ出しました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
ごく親しい仲のよい友だちが久しぶりで偶然出逢であいます。そんな時には、いろんな、めんどうな御無沙汰ごぶさたのおわびや、時候の挨拶あいさつなどはありません。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
(進み入る。)ちょいちょいのぞいて見ようと思うのだけれど、つい御無沙汰ごぶさたになってね。(モデル娘に。)今日こんちは。
「かいって御迷惑か思いましたけど、あんなり御無沙汰ごぶさたしてますし、一ぺんお見舞いに上らんならん思てたとこいちょうどこの前通りかかりましたさかい」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昨年中はあまりに御無沙汰ごぶさた致しそうろうところ伯父さまにはすこやかに月も凍るしべりやの野においでになり露助を
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私しゃね、大変御無沙汰ごぶさたしッちまッて、済まない、済まない、ほんーとうに済まないんだねえ。済まないんだよ、済まないんだよ、知ッてて済まないんだからね。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「帰っていた。その二年ばかり前に分れた切り、人見とはすっかり御無沙汰ごぶさたになっている。だから、彼が小説を書き出したことも、雑誌の広告で知った位なのだよ」
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「さて、どうもあらたまりましては、何んとも申訳もうしわけのない御無沙汰ごぶさたで。いえ、もう、そりゃ実に、からすの鳴かぬ日はあっても、おうわさをしない日はありませんが、なあ、これえ。」
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかしそのは吉江氏を始め、西条君や森口君とはずつと御無沙汰ごぶさたをつづけてゐる。唯鎌倉の大町おほまちにゐた頃、日夏君も長谷はせきよを移してゐたから、君とは時々往来わうらいした。
「仮面」の人々 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ああ、そうそう、今日は珍しく鐙小屋あぶみごやの神主さんが来られたそうで、廊下で先ごろ北原さんから案内を受けたが、行く気にならないものだから御無沙汰ごぶさたをしてしまった。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
媼さんはニコニコしながら、「とうとうお邪魔に出ましたよ。不断は御無沙汰ごぶさたばかりしているくせに、自分の用があると早速こうしてねえ、本当に何という身勝手でしょう」
深川女房 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
裏猿楽町うらさるがくちやう番地ばんち御転住ごてんぢうになつたといふ事でございますから、一寸ちよつといへ見舞みまひにあがるんですが、どうもなに貴方あなたのお座敷ざしきへ出すやうな話がないので、つい御無沙汰ごぶさたいたしました。
塩原多助旅日記 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
近頃ちかごろたいへんに御無沙汰ごぶさたいたしました。いつも御機嫌ごきげんなにより結構けっこうでございます……。』
わたし申譯まをしわけのない御無沙汰ごぶさたしてりましたが貴君あなたもお母樣つかさん御機嫌ごきげんよくいらつしやりますかとへば、いやわしくさみ一つせぬくらゐ、おふくろときたまれいみちやつはじめるがの
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
尊大人そんたいじんのとかくおすぐれなさらないので。御混雑の様子ゆえはばかりまして御無沙汰ごぶさたサ。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
そして私は、例の終業式以来ずっと御無沙汰ごぶさたしていた学校へ再び通えるようになった。
「のろけじゃアないことよ、御無沙汰ごぶさたしているから、おびの手紙だ、わ」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「なあに、いいってことよ。おれもつき合い下手べたで、このごろ、だれにも逢わねえ——御無沙汰ごぶさたはおたげえだ。それにしても、吉、美しい親分を持って、さぞ、働き甲斐があるだろうな——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
御無沙汰ごぶさたをいたしました。今月の初めからぼくは当地に滞在たいざいしております。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
其後そのご御無沙汰ごぶさた御機嫌ごきげんよう?』口切くちきりにねこひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
しばら御無沙汰ごぶさた致しました。」
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
祝し合さて久藏言出けるにさて貴殿きでんには備前岡山なる城下によき奉公口ほうこうぐち有て主取なし給ふ由承まはりたるのみにて其後はえて音信いんしんも聞ず其中に我等は御當地へ引越ひきこしたれば猶以て御無沙汰ごぶさた打過うちすぎしに而て此の度如何なる故有て岡山より江戸には下り給ひしといふを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さすがに事の大仰おおぎょうになるのに遠慮されて御無沙汰ごぶさたを申し上げているとこんなことをおりおり歎息たんそくしておいでになるのでございます
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
どうも、宗さんもあんまり近頃は御出おいででないし、私も御無沙汰ごぶさたばかりしているのでね、つい御前の事は御話をする訳にも行かなかったんだよ
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
久しくたずねない鉄胤老先生の隠栖いんせいへも、御無沙汰ごぶさたのおわびをかねてその相談に訪ねて行って見ると、師には引き止められるかと思いのほか
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
図書館へ行けというほどの辻占つじうらかも知れぬ、しばらく御無沙汰ごぶさたしているから、僕はそんなことを思いながら、新刊書の広告など見て行きました。
わが師への書 (新字新仮名) / 小山清(著)
あれからとうとう忙しくて毎日手紙を書く暇がなく御無沙汰ごぶさたしてしまいました。おゆるし下さいませ
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
やや気拙きまずい対面だったので、何かと気を使って、例の巧みな弁口で、池内自身もその後芙蓉とは、まるで御無沙汰ごぶさたになっているていに、云いつくろうのであったが、柾木は
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
久シク御無沙汰ごぶさたノ段ヲイロイロ云ッテ仲直リ同様ニシテ帰ッタラ、又々、兄ガ女房ヨリ文ヲヨコシテ、オレノ妻ヘ礼ヲイッテヨコシタ、ソレカラ不断尋ネテヤッタ、丁度
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
またまた別な酒の店を捜し出さなければならなくなって、君と別れて以後は、ほんの数えるほどしか菊屋に行った事は無く、そうして、やがて全く御無沙汰ごぶさたという形になった。
未帰還の友に (新字新仮名) / 太宰治(著)
大船おほふな停車ていしやときまどつて、逗子づしかたむかひ、うちつけながらそれがしがお馴染なじみにておはします、札所ふだしよ阪東第三番ばんどうだいさんばん岩殿寺いはとのでら觀世音くわんぜおん御無沙汰ごぶさたのおわびまをし、道中だうちう無事ぶじと、ねんまゐらす。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おや/\それくお入来いでだ、さア/\此方これへ、うも御近所ごきんじよながら、御無沙汰ごぶさたをしました、貴方あなた毎日まいにちくおかせぎなさるね朝も早くおきて、だから近所でもお評判へうばんうごすよ。
八百屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「わっはっはっはっは! こりゃ、敷居が高い、御無沙汰ごぶさた、御無沙汰!」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
折から突然まだ格子戸こうしどをあけぬ先から、「御免ごめんなさい。」という華美はでな女の声、母親が驚いて立つもなく上框あがりがまちの障子の外から、「おばさん、わたしよ。御無沙汰ごぶさたしちまって、おびに来たんだわ。」
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふくんでこればかりはわたし幸福しあはせさりとて喧嘩けんくわするときもあり無理むり小言こごといはれまして腹立はらだふこともあれどあとさきもなし海鼠なまこのやうなとわらはれます此頃このごろ施療せれうひまがなうて芝居しばゐ寄席よせもとんと御無沙汰ごぶさたそのうちにおさそまをしますあにはおまへさまを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「いや、御使おつかいをありがとう。わしも、だいぶ御無沙汰ごぶさたをしたから、今日ぐらい来て見ようかと思っとったところじゃ」と云う。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
両宮様いずれへも御無沙汰ごぶさたしておりますので、その際にも上がってみたかったのですが、しばらく宗教的な勉強をしようとその前から思い立っていまして
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「皆さんに宜敷よろしく——実にも御無沙汰ごぶさたするがッて、宜敷言っておくれや——お前さんもまあ折角せっかく御無事で——」
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「———その後は御無沙汰ごぶさたいたしましたが、家内がいつも御厄介になっておりまして、………」
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
是はおよねさん、其ののちついにない存外の御無沙汰ごぶさたをいたしました、嬢様にはお変りもなく、それは/\頂上々々、牛込から此処こゝへお引移ひきうつりになりましてからは、何分にも遠方ゆえ
「わしは、お前さんとこのお松さんはよく知っているのだがね、わけがあって、御無沙汰ごぶさたをしている。明日の朝、わしがお松さんに会いに行くからってね、そう言って置いて下さい」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
をりから突然とつぜんまだ格子戸かうしどをあけぬさきから、「御免ごめんなさい。」と華美はでな女のこゑ、母親がおどろいて立つもなく上框あがりがまち障子しやうじの外から、「をばさん、わたしよ。御無沙汰ごぶさたしちまつて、おびに来たんだわ。」
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その御無沙汰ごぶさた
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)