とむら)” の例文
ここに草のいおりを結んで、謀叛むほん人と呼ばれた父の菩提ぼだいとむらいながら、往き来の旅人たびびとに甘酒を施していた。比丘尼塚のぬしはこの尼であると。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
とむらう——と称してきた者をこばむわけにもゆかなかった。魯粛が迎えて対面した。しかし故人周瑜の部下や、呉の諸将も口々に
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼女は、いつのまにか静まり返って了った押入れの前に立って、犠牲者ぎせいしゃの死をとむらう代りに、懐しい恋人のおもかげを描いているのだった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
一日でも半日でも縛られたら少しはりもするだらう。せめては一度ちぎつたお縫のために、精一杯の後世をとむらつてやるが宜からう
しかれども忘れられたる古墳を尋ねとむらはんには、秋の彼岸にはひあし既に傾きやすく、やうやうにして知れがたき断碑を尋出して
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「そうですとも、とむらいはあんなにしてあるし、何も不足はないはずだが」所天ていしゅはこう云ったあとで、傍にいる後妻のほうを見て
藍微塵の衣服 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
喬は孝廉の家へいって、連城をとむらってひどく悲しむと共にそのまま息が絶えてしまった。孝廉はそれをかつがして喬の家へ送りとどけさした。
連城 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
いま自分たちを襲うた強敵がもろくも無惨な最期さいごを遂げたことをとむらうかのように鼬の屍骸しがいを遠くから廻って、ククと鳴いているのであります。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
切られどうさへ見えぬ此形容かたち何卒なにとぞ御情に御とむらひ下され度と涙ながらに頼みければ出家は點頭うなづき其は心やすき事かな早々さう/\生死のまよひを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
しかしそれはもはやこの村からなくなっていたのです。私がその跡をとむらった時、ただ一基の石塔が昔を語ってくさむらの中に捨ててあるばかりでした。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
旅行のついでに芭蕉はこのあわれなる歌人のあとをとむらおうと思ったけれども、何分五月雨が降りしきって不本意ながらも行けなかったのである。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
そして、芦湖あしのこの底ふかく沈んで行った。武士の情を知るわが武田博士は、『富士』のへさきを下げて、敵勇士の最期をとむらった。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
僕の東京をとむらふ気もちもこの一語を出ないことになるのでせう。「落つる涙は」、——これだけではいけないでせうか?
静の菩提ぼだいとむらうために村の西生寺と云う寺へ寄附きふしたが、今はだれの手に渡ったか、寺にもなくなってしまったとのこと。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
昨日きのう奈良ならより宇治に宿りて、平等院を見、扇の芝の昔をとむらい、今日きょう山科やましなの停車場より大津おおつかたへ行かんとするなり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
で龍樹ヶ岳から帰りましてその夜は龍樹ヶ岳に登るのを作り、それから真妙純愛観しんみょうじゅんあいかんならびに雪山にて亡き父をとむら
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
洗いざらい貴方の筆にかけて頂いて、妾の罪深い生涯をとむらって頂こうと思って、そればっかりを楽しみにしていたのよ
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
むらひとたちは、三にん坑夫こうふうえあわれにおもいました。その死骸しがいやまにうずめて、ねんごろにとむらい、そこへ、三ぼんのなしのえたのでありました。
の囚徒と共にいろいろと慰めつつ、この上は一日も早く出獄して良人おっとや子供の菩提ぼだいとむらい給えなど力を添えつ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
両親に別れたんですから現世このよ味気あじきなくぞんじ、また両親やあにあねの冥福をとむらわんために因果塚を建立こんりゅうしたいから、仏門に入れてくれと晋齋にせまります。
『その同じ時、あなた比丘尼びくにとなりましょう。一雄(ちゅう、長男)小さい坊主です。いかに可愛いでしょう。毎日経よむと墓をとむらいするで、よろこぶの生きるです』
二つにはまた引取手のない無縁仏を拾いあげてねんごろに菩提ぼだいとむらってやろうとの侠気きょうきから、身内の乾児達こぶんたちに命じて毎夜こんな風に見廻らしている土左船どざぶねなのでした。
しかのみならず、一片の碑だに、英雄の事蹟を誌しとむらふなきに於ては、誰かはそを憾みとせざらむ。
松浦あがた (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
そして火が消えるとすぐに、急いでおとむらいの道具を持って、きさがしにいらっしゃいました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
その時明融が言うには、「自分は老病で死ぬのも遠くない。しばらく入宋をのばして自分の老病をたすけ、冥福をとむらってほしい。入宋は自分の死後でも遅くはあるまい」
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
その代りには米屋にはひと一倍お経をたんと読んで菩提ぼだいとむらつてやつてもいいと思つてるらしかつた。
犬はこのおつげに力を得て、さらば諸国の霊場を巡礼して、一は、自分が喰い殺したる姨の菩提をとむらい、一は、人間に生れたいという未来の大願を成就じょうじゅしたい、と思うて
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
これは老人や妻子をとむらうためだとは言ったが、実は下人げにんどもに臆病おくびょうの念を起させぬ用心であった。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
およそこの種の人は遁世とんせい出家しゅっけして死者の菩提ぼだいとむらうの例もあれども、今の世間の風潮にて出家しゅっけ落飾らくしょく不似合ふにあいとならば、ただその身を社会の暗処あんしょかくしてその生活を質素しっそにし
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
わたくしはどこまでも三崎みさきとどまり、良人おっとをはじめ、一ぞくあととむらいたいのでございます……。
この上は心よく、親鸞影像を戻し返してつかわすのみか、他宗ながら忰源兵衛の菩提も、こなたでとむらい追善供養。三密瑜伽ゆがの加持力にて、安養成仏諸共に、即身成仏兼ね得させん。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
丁度扇屋では人々が蓮太郎の遺骸なきがら周囲まはりに集つたところ。親切な亭主の計ひで、焼場の方へ送る前に一応亡くなつた人の霊魂たましひとむらひたいといふ。読経どきやうは法福寺の老僧が来て勤めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
訪問は見合せる事にしたが、昨日きのうの新橋事件を思い出すと、どうも浩さんの事が気に掛ってならない。何らかの手段で親友をとむらってやらねばならん。悼亡とうぼうの句などは出来るがらでない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
汚濁の古巣を焼き払い、笹谷峠のふもとの寺に行き老僧に向って懺悔ざんげしそのころもすそにすがってあけくれ念仏を称え、これまであやめた旅人の菩提ぼだいとむらったとはすこぶる殊勝に似たれども
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
先祖や亡くなった兄姉の菩提ぼだいをもとむらおうという末っ子二人の思いつきなのである。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
棺は死人をとむらうにふさわしく、支那式に、蛇頭や、黒い布でしめやかに飾られていた。喪主らしい男は、一人だけ粗麻の喪帽をかむり、泣き女はわんわんほえながらあとにつゞいていた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
かかる心をもっていしかと責めては後にてとむらわれん、一度はどうせ捨つる身の捨て処よし捨て時よし、仏寺を汚すは恐れあれどわが建てしものこわれしならばその場を一歩立ち去り得べきや
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雲飛うんぴは石をうばはれて落膽らくたんし、其後はうち閉籠とぢこもつて外出しなかつたが、いしかはおち行衞ゆくへ不明ふめいになつたことをつたき、或朝あるあさはやく家を出で石のちたあととむらふべく橋上けうじやうたつて下を見ると、河水かすゐ清徹せいてつ
石清虚 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
父に遇ひたい、が恐るべき病人と一つ家に居るのは、——あゝ思うても慄然とする、苦痛だ、気が晴れぬ、——京都へ行け、姉が居る、死んだ伯父の跡をとむらひたい、色々の人と色々の話をしたい。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
皆さんのお心委こころまかせとし、いまや太平洋を征服し、東洋民族の盟主めいしゅとして仰がれることになりました新日本の光輝こうきある黎明れいめいを迎えるに当り、そのとうとき犠牲となったわが戦士と不幸な市民たちをとむら
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
父のとむらいに大願寺を建て、一生孤独で終わろうとしたのだったが、その並みならぬ容色にこがれて言いよる若者のうちで、ひときわ熱烈なひとりの情にほだされて、河内かわち禁野きんやの里にしたのです。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
悲しみのうちに、おとむらいもすみました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
『同じ死ぬなら、城受取りのよせ手をうけて、思うさまのとむらい合戦をやり、赤穂にも、骨のある人間はいたといわれて死にたいぞ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌る日は燒跡の片付けや、與八郎のとむらひで、多勢の人が出入りし、親類の若者多見治が、女主人に代つて、何彼の指圖役に廻つて居ります。
かの股引の一件があってから半年ほどの後に、蛇吉の母は頓死のように死んで、村じゅうの人々からねんごろにとむらわれた。
青蛙堂鬼談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
濡れたと枯枝とに狼藉ろうぜきとしている庭のさまを生き残った法師蝉ほうしぜみ蟋蟀こおろぎとが雨のれま霽れまに嘆きとむらうばかり。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「そうとはゆめにも知らなんだ、それをきくからは此の世になんのみれんがあろう、ちゝうえのとむらいがっせんをしていさざよくおあとを追うばかりだ」
盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
木魚をたたきたたきその児の後生ごしょうとむらってまわった。……それ程にその児は美しく清らかに育っていたのであった。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なし七日々々の追善つゐぜん供養くやういと念頃ねんごろとむらひ兄弟にぞこもりける然るに半四郎はかねての孝心ゆゑ親の亡後なきあとは兄の半作を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
加藤武雄かとうたけを様。東京をとむらふの文を作れと云ふあふせは正に拝承しました。又おひきうけしたことも事実であります。