平常へいぜい)” の例文
ほんとうに、平常へいぜいは、そんな不安ふあんかんじないほど、このへやのなか平和へいわで、おじょうさんのわらごえなどもして、にぎやかであったのです。
風の寒い世の中へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
また、家中の侍で、平常へいぜい、巌流に師事している人々も、入り代り立ち代り、ここに詰めて、明後日あさっての十三日を待っているのだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
愛は霊からはいったものでなければ本当でない、そして、正しい理智から出発したものでなければならないという、平常へいぜいからの持論が拒んだ。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
……武士は平常へいぜい護身用として、腰に両刀をたばさんでいる。で剣術さえ心得ていたら、まずもって体を守ることが出来る。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
真に志士の天職を、まっとうする者と、しばし讃嘆の念に打たれしが、儂もまた、このこう決死せざれば、到底充分平常へいぜい希望する処の目的を達するあたわず。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
あれほど胸のうちは落ちついていたものをと云いたいくらいに、余は平常へいぜいの心持で苦痛なくその夜を明したのである。——話がついれてしまった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兇行の後一旦平常へいぜいに帰ったときは、たといはかり知れぬ憎悪のために殺したのであるとしても、眼前で、被害者の内臓をさらけ出されては、恐怖のために
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
彼に対する一種すが/\しい、痛快味のこもつた心持だつた。そしてわたしは平常へいぜいの感情の吐け口を得たやうに、口をきはめてあの若者を罵倒ばたうして聞かせた。
愚かな父 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
と云う文治の権幕けんまくを見ると、平常へいぜいごく柔和の顔が、いかり満面にあらわれて身の毛のよだつ程怖い顔になりました。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
よくぞんをりさきにも申上候通りかれは一たい實體じつていなる者にて平常へいぜい慈悲じひふかく又女房と申候は駿府すんぷ二丁町の遊女いうぢよなりしを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
器用な彼は、平常へいぜい暇のあるごとに、色々な仕事を習い覚えていて、今度のような万一の場合には、すぐどんな職人にでも化けられるように訓練を積んであった。
東京要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と思ふと、平常へいぜい四脚よつあしかえつて飛鳥ひちょうごとくに往来へ逃げ去つた。私も続いてうたが、もう影も見せぬ。
雨夜の怪談 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
究竟きうきやうするに紅葉は実を写す特有の天才より移つて、佐太夫なる、或意味に於ての理想的伝記を画き出たるを以て、平常へいぜいの細微巧麗なる紅葉の作を読み慣れたる眼には
平常へいぜいいたいむすめかほずにまする、れをばなん馬鹿々々ばか/\しいおやなしでもひろつてつたやうに大層たいさうらしい、もの出來できるの出來できぬのと其樣そんくちけたもの
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
平野氏は平常へいぜいから馬が好きで、アラブ種の駿馬しゅんめを三頭持っている。交通が不便な場所だし、軽馬車を一台造らせて、この馬をつけては折々のドライブをたのしみにしていた。
天狗岩の殺人魔 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
渠らは豪放なる太夫の平常へいぜいりければ、その言うままに捨て置きて立ち去りけるなり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「人殺しの種類がだよ」深山木はやっぱり考え考え、彼の平常へいぜいに似ず陰気に答えた。「手提げがなくなったからと云って、ただの泥棒の仕業しわざでないことは、君も分っているだろう。 ...
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこで自然商売の方も店員任せにして自宅で床に就いていたが、平常へいぜいでさえ肥っていたのに、素晴らしく腫れ上ってまるで、洪水おおみずで流れて来たみたような色と形になってしまった。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
客は平常へいぜいの通りやつて來ますが、さて風太郎らしいのは一人もありません。
『今日は雨の後で濁つてますが、平常へいぜいはよく澄んでるのですよ。』
村住居の秋 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
平常へいぜいの居間と寢室は大抵その儘に手をつけないで置いた。
「それは、おまえが平常へいぜいんだ子供こどものことばかりおもっているから、ゆめたのだ。そんなことがあるものでない。」と、おっとはいいました。
星の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
質でありまた質のみがきによる。平常へいぜいの修養鍛錬がものをいうことになると、王者と貧者とでも、この違いはどうにもならない。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより本國もしかと相知申さず平常へいぜいは然まで惡人とも心得ざりし處追々おひ/\跡にて承まはるに一體勾引かどはかしなど致せし者との由なりと申ければ大岡殿コレ九郎兵衞八藏の申立を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
せ我慢では無けれど交際つきあひだけは御身分相応に尽して、平常へいぜいは逢いたい娘の顔も見ずにゐまする、それをば何の馬鹿々々しい親なし子でも拾つて行つたやうに大層らしい
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
お延の頭に石火せっかのようなこの暗示がひらめいた時、彼女の意志も平常へいぜいより倍以上の力をもって彼女にせまった。彼女はついに自分をおさえつけた。どんな色をも顔に現さなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
客は平常へいぜいの通りやって来ますが、さて風太郎らしいのは一人もありません。
平常へいぜいと違ってひどくぞんざいな調子だけれど果して山野夫人の声だった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
わかいものたちは、平常へいぜい、おじいさんが、このとしになるまではたらいているのを、感謝かんしゃしていましたから、みんなが、くちをそろえて
銅像と老人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「叔父というのは水泳指南番しなんばんで、赤組頭あかぐみがしら生島流いくしまりゅうの達人で、平常へいぜいは船預かりという役名で四百石いただいている、海には苦労をしている人間だ」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あたゝまるやうにとふてれしときありし、なつかしきは其昔そのむかし、有難ありがたきはいま奧樣おくさまなさけと、平常へいぜい世話せわりぬることさへ取添とりそへて、いかかたもすぼまるばかりかしこまりてるさまを
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
て駿州木綿島村もめんじまむらへ十月十五日に着たりける然るにじん太夫は平常へいぜい痰持たんもちにて急にせりつめけるが三四日の内に思ひの外全快ぜんくわいし先常體つねていなれば夫婦は早速さつそく對面なせしに甚太夫は兩人が遠方ゑんぱうの所を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「今に御客さんがたら、僕がおくへ知らせに行く。其時挨拶をすればからう」と云つて、矢っ張り平常へいぜいの様な無駄口むだくちたゝいてゐた。けれども佐川の娘に関しては、一言もくちらなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「こんなちいさなねじでも、ないと眼鏡めがねやくにたたぬ。使つかっているものは、平常へいぜいそんなことをかんがえぬが。」と、おじいさんは、わらわれました。
小さなねじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
いや、平常へいぜいの便船がないだけに、こういう場合は、いっそう人が混むのかも知れない。何しろかなり多くの頭数であった。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まりなげ、なわとびのあそびにきやうをそへてながるゝをわすれし、其折そのをりこととや、信如しんによいかにしたるか平常へいぜい沈着おちつきず、いけのほとりのにつまづきて赤土道あかつちみちをつきたれば
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「今に御客さんが来たら、僕が奥へ知らせにく。その時挨拶をすれば好かろう」と云って、やっぱり平常へいぜいの様な無駄口をたたいていた。けれども佐川の娘に関しては、一言いちごんも口を切らなかった。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彼女かのじょにくらべて、ともだちのむすめは、平常へいぜい、はすっぱといわれるほどの、快活かいかつ性質せいしつでありましたから、これをきくと、すぐに
海のまぼろし (新字新仮名) / 小川未明(著)
里民へ徳をほどこしても、平常へいぜい、威がなければ、善政もあたりまえに思い、感謝のうすいもの。……まずこの辺は、新右衛門にまかせておいても安心じゃろ
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
春季の大運動会とてみづの原にせし事ありしが、つな引、まりなげ、縄とびの遊びに興をそへて長き日の暮るるを忘れし、その折の事とや、信如いかにしたるか平常へいぜい沈着おちつきに似ず
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
おじいさんは平常へいぜいいぬねことり大好だいすきであったから、きっとそのいぬをつれて、いまごろは、極楽ごくらくみちあるいていなさるのだ。
おじいさんの家 (新字新仮名) / 小川未明(著)
俄然、平常へいぜい、直胤の一派を支持している者と、ひそかに、それへ反感を抱いている者との感情が、環の一投石に依って、露骨な波瀾はらんをよび起したのであった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほかの道具とうぐたちこそ、なまけたり、ぼんやりしてあそんでいたり、平常へいぜいはなんのやくにもたたなくていばっているのだから、しゃくにさわってしまう。
人間と湯沸かし (新字新仮名) / 小川未明(著)
新陰流の古勢「逆風さかかぜ」の太刀を平常へいぜいから得意としていたので、その働きぶりは、殊にものものしかったとある。彼の従者の森地五郎八も、よく戦ってたおれた。
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これも、小僧こぞうたちが、平常へいぜい小舎こやなかをきれいにかたづけておかないからだと、小僧こぞうたちまでしかられたのであります。
森の中の犬ころ (新字新仮名) / 小川未明(著)
平常へいぜい、道場の会計や、また奥向きの経済のやりくりは、祇園藤次ぎおんとうじが用人役として、切り盛りしていたのであるが、そのかんじんな藤次は数日前に、旅先で寄せた金を持ったまま
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、主人しゅじん平常へいぜい自慢じまんをしていました。そのとりがいなくなってから主人しゅじんは、どんなに落胆らくたんをしたことでありましょう。
こまどりと酒 (新字新仮名) / 小川未明(著)
だがお米の平常へいぜいを思うと、血のみちを起こして泣いたり、わがままをいって飛びだしたり、平気で帰ったりすることは、阿波にいた頃からありがちで、それに、こんな手紙をよこして
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二軒並んでいる一軒は、平常へいぜい戸を閉めて女房かみさんは畑に出ていない。夫というのは旅商人で、海岸を歩いて隣の国の方まで旅をして多くは家にいなかった。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
平常へいぜいの鍛錬を、ここぞと思う間際に当って、一すいの明りを仰ぐと、なにか、暗夜に光でも見つけたように、欣しげに心は揺れ、手はわれを忘れて、この鰐口わにぐちの鈴を振り鳴らそうとしている。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)