おか)” の例文
常念御坊じょうねんごぼうは、村を出はずれました。左右は麦畑のひくいおかで、人っ子ひとりおりません。うしろを見ると、犬がまだついてきています。
のら犬 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
「フーム、面白いな。番頭の言い草は『娘を口説くどけ』と言わぬばかりだ。おかぴきなんてものは、あまり人様に好かれる稼業かぎょうじゃないが」
銭形平次捕物控:282 密室 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
東都の西郊目黒めぐろ夕日ゆうひおかというがあり、大久保おおくぼ西向天神にしむきてんじんというがある。ともに夕日の美しきを見るがために人の知る所となった。
夕陽ゆうひは、おかまちしずみかかっています。そのとき、汽船きせん待合室まちあいしつに、いつかの運転手うんてんしゅは、一人ひとり不思議ふしぎおんなをみとめました。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
懇意な友人の新婚披露ひろうに招かれてほしおか茶寮さりょうに行った時も、着るものがないので、袴羽織ともすべて兄のを借りて間に合せた事もあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ならびおかのさる法師の家にいて、小右京さまと共に、誰やら申す元お公卿の僧を、懸命に毎日さがし歩いているとのことでございましたが」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
坐右ざゆうの柱に半折はんせつに何やら書いてってあるのを、からかいに来た友達が読んでみると、「今はしのぶおか時鳥ほととぎすいつか雲井のよそに名のらむ」
安井夫人 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
場処がらで気らくに暮していたと見え、近所のおかぴきの細君と仲をよくしていたという。自然そんなことから鼠小僧の引廻しも見たのであろう。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この一種の明るみが田園村落をいっそう詩化している。大きくうねをなして西より東へ走った、成東のおかの繁りにはうす蒼く水気がかかっている。
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「いいや、いつかもお前に話したろう、俺らがかくれおかで突き落されて、一ぺん死んだやつを生かしてくれたお医者さんだ」
そこには暗礁あんしょうがあり、そして岸に着いている私をおかへ上げなかった。私たちはお互いに岸の上と岩の上から呼び合った。叫び合った。八年の間。
「どうなさったんだ今ごろこんな所に、……今夜はどうかしている……おかさん、あなたの仲間がもう一人ひとりここにいますよ」
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
人相書は全市の与力よりきおかきにいきわたり、別動隊として、近江之介を殺された上自分は閉門をうけて、切歯扼腕せっしやくわんに耐えない脇坂山城守の手から
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
しのぶおかと太郎稲荷いなりの森の梢には朝陽あさひが際立ッてあたッている。入谷いりやはなお半分もやに包まれ、吉原田甫たんぼは一面の霜である。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
同じ巻でも「の日」と「春駒はるこま」、「だびら雪」と「摩耶まやの高根に雲」、「迎いせわしき」と「風呂ふろ」、「すさまじき女」と「夕月夜おか萱根かやね御廟ごびょう
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
そのつぎには古樫ふるがしおかという岡の上にしげっている、葉の大きなかしの木も、曙立王けたつのみこの祈りによって、同じようにれたりまた生きかえったりしました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
皇儲こうちょ石本陸相の身体を懸念あらせられ、おか侍医を差遣さしつかわせさせ給うと聞き、岡の診察するに先だちて会見せんと岡に申し遣るとあり、四日には、官邸に行き
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「じゃ、もうようござんす! あっしも江戸のおかきだ、手を貸してやろうっていったって頼むことじゃねえんだから、あとでじだんだ踏みなさんなよ!」
目黒の停車場ステーションは、行人坂ぎょうにんざかに近い夕日ゆうひおかを横に断ち切って、大崎村に出るまで狭い長い掘割になっている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
私たちを載せた車は、震災の当時に焼け残ったおかの地勢を降りて、まだバラック建ての家屋の多い、ごちゃごちゃとした広い町のほうへ、一息に走って行った。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
というわけは、きのうの真夜中のことだが、雷鳴らいめいの最中にかきおか病院びょういんに怪人がしのびこんで、谷博士の病室をうちやぶり、博士を連れて、逃げてしまったのだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
其のうち上野のの八ツのかねがボーンとしのぶおかの池に響き、むこうおかの清水の流れる音がそよ/\と聞え、山に当る秋風の音ばかりで、陰々寂寞いん/\せきばく世間がしんとすると
けだし天女ここに嘆き、清躯せいく鶴のごとき黄巾こうきんの道士がきたって、ひそかにたんを練り金を練る、その深妙境しんみょうきょうをしてここに夢み、あるい遊仙ゆうせんおかと名づけられたものであろう。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
とざしてある汽車の窓から外を見れば、空は鼠色ねずみいろで、細かい雨が降っている。立ちめている霧の中を見込むと、時々おかや村が近い所に見える。電信柱が背後うしろへ走ってく。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
あしはこたまはゞしのぶがおか緑樹りよくじゆあさつゆ、寐間着ねまきのまゝにもたまふべし、螢名所ほたるめいしよ田畑たばたちかかり、たゞ天王寺てんわうじちかために、はあまりすくなからねど、はらふにかげ十分じふゞんなり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もって犯人をとらえようという「証拠手段」をとるのが好きで、若いかいなでの与力や同心経験一点張りのおかぴきなど、実にこの点に至っては、その足もとへも寄りつけなかった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
主人の頭にあるものは、つるおかの社頭において、頼朝よりともの面前で舞を舞ったあの静とは限らない。それはこの家の遠い先祖が生きていた昔、———なつかしい古代を象徴しょうちょうする、ある高貴の女性である。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「実は豊島としまおかまでまいりたいのです」
ねんねの小鳥がおかに二羽
まざあ・ぐうす (新字新仮名) / 作者不詳(著)
希望きぼうおか
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ならびおか
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しのぶおか」は上野谷中の高台である。「太郎稲荷」はむかし柳河やながわ藩主立花氏の下屋敷しもやしきにあって、文化のころから流行はやりはじめた。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だから彼の本陣を仮粧坂とはんでも、じっさいには仮粧坂まで進出できず、当夜まだ、葛原くずはらおかの西で形勢を見ていたものとおもわれる。
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小野さんは孤堂こどう先生と小夜子さよこを連れて今この橋を通りつつある。驚ろかんとあせる群集は弁天のやしろを抜けてして来る。むこうおかを下りて圧して来る。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
口をついて出る言葉言葉がどれもこれも絢爛けんらんな色彩に包まれていた。二日目の所にはおかから来た手紙が現われ出た。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
縄がキリキリと肉へ食い込んで、身体からだの各部分が瓢箪ひょうたんのようになっている米友は、かくれおかへ引っぱられて行く道で
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それがしの宮の催したまひしほしおか茶寮さりょう独逸会ドイツかいに、洋行がへりの将校次をうて身の上ばなしせし時のことなりしが、こよひはおん身が物語聞くべきはずなり
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
かぎつけることにしてからが、同心やおかきじゃ手が出ねえんだからな。こういう場合の伊豆守様だよ
出もどりの姉おこよにやらせている名物いろは寿司ずしおかっ引きいろは文次ぶんじが住まいである。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
東金町とうがねまちの中ほどから北後ろのおかへ、少しく経上へあがった所に一区をなせる勝地がある。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
八丁堀はっちょうぼりの旦那方をはじめ、江戸のおかぴきの大部分が、付け届けと役得で、要領よく贅沢ぜいたくに暮している中に、平次と八五郎は江戸中の悪者をふるえ上がらせながらも、相変らず潔癖で呑気のんき
むかしおもへばしのぶおかかなしき上野うへの背面うしろ谷中や かのさとにかたばかりの枝折門しをりもんはるたちどまりて御覽ごらんぜよ、片枝かたえさしかきごしの紅梅こうばいいろゆかしとびあがれど、ゆるはかやぶきの軒端のきばばかり
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その季節きせつぎると、やまには、こんもりとしたみどりがしげって、あたたかな心地ここちよいかぜおかにもふもとにもわたりました。大空おおぞらうつくしくれて、うららかなひかりがみなぎったのであります。
ふるさとの林の歌 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おかのふもとの竹やぶにかこまれた小さい家。
病む子の祭 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
かきおか病院びょういん
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「こうさっそくに、事のはこびがついてきましたのは、まったくお差向けの薬師丸がならびおかへ見えたからでございまする」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しのぶおかと太郎稲荷の森の梢には朝陽あさひが際立ッてあたッている。入谷いりやはなお半分もやに包まれ、吉原田甫よしわらたんぼは一面の霜である。
里の今昔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
灰色の薄曇をしている空の下に、同じ灰色に見えて、しかも透きとおった空気に浸されて、向うの上野の山と自分の立っているむこうがおかとの間の人家のむれが見える。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかし、それにしても、あいつをしょっぴいていこうと気がついたなあ、さすがおめえも江戸のおかきだな。そのおてがらに免じて、逃げたものならほっとくさ。
この鼻唄はかくれおかにいる時分から得意の鼻唄であります。これだけうたうと笠の紐を結び終った米友は、例の棒を取り直して、さっさとここを飛び出してしまいました。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)