居間いま)” の例文
自分のいない留守の間に、或る知らない人物が忍び込んで、居間いまで何事かをしているということは、考えるだけでも神経を暗くした。
ウォーソン夫人の黒猫 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
妹の居間いまには例の通り壁と云う壁に油画あぶらえがかかり、畳にえた円卓えんたくの上にも黄色い笠をかけた電燈が二年前の光りを放っていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
渡り廊の方に、聴きに寄っているものたちがいる様子で、父は向うの居間いまで聴いている気配だった。ふすまの横には妹たちが来た。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
部屋は十畳の四角な板の間であって、奥の方に古畳二枚を敷いたきりだった。つまりその二畳が私達の寝間ねまであり居間いまであり食堂であった。
家には、小さな玄関げんかんと、小さなりっぱな居間いまと、ベッドのおいてある小べやがありました。それに、台所だいどころ食堂しょくどうもあります。
A院長エーいんちょうは、居間いまで、これから一ぱいやろうとおもっていたのです。そこへはばかるようなちいさい跫音あしおとがして、ぎの女中じょちゅうけん看護婦かんごふはいってきて
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しずかにかたをかけたが、いつもと様子ようすちがったおせんは、はははらうようにして、そのままたたみざわりもあらく、おのが居間いまんでった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
壁塗かべぬりの勘定のことで、ふと思い出したことがあるので、祝いの日ではあるが、忘れないうちにと思って、その時奥の居間いまにいたのが、台所へ出て来て
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
奥の居間いまのすみに、あのランプがおいてあった。しかし、ランプのことを何かいうと、またおじいさんにがみがみいわれるかも知れないので、黙っていた。
おじいさんのランプ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
こういって、為朝ためともはそのままうちにかえって、自分じぶん居間いまにはいると、しずかに切腹せっぷくしてんでしまいました。
鎮西八郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
家は腰高こしだか塗骨ぬりぼね障子を境にして居間いまと台所との二間ふたまのみなれど竹の濡縁ぬれえんそとにはささやかなる小庭ありと覚しく、手水鉢ちょうずばちのほとりより竹の板目はめにはつたをからませ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ことに倉地の帰りのおそい晩などは、葉子は座にもたたまれなかった。倉地の居間いまになっている十畳のに行って、そこに倉地の面影おもかげを少しでも忍ぼうとした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
わたしたちは相変あいかわらずぼろぼろの旅仕度であったが、ホテルでは黒の礼服に白のネクタイをした給仕きゅうじ案内あんないをされた。かれはわたしたちを居間いまれて行った。
乱入者らんにゅうしゃのそうどうのほうも気にかかるが、これまた意外いがいあまくだりの状筥じょうばこ、とにかく一けんしようと、長安ながやすはあたふたと居間いまへはいり、ともしびをかき立ててなかをひらく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こういうわけで、おばあさんはまだにもいかず、居間いままどぎわにすわって、外をながめていました。
玄関を這入はいると二畳で、六畳の客間があり居間いまが六畳、それに四畳半の小部屋こべやが附いている上に、不思議なことには直ぐ部屋続きに八畳敷き位の仕事場とも思われる部屋がある。
施療院でありましたころは、布地きれじおおわれていたのでした。それからまた、私どもの祖母時代に属する壁板細工もあります。けれども特にお目にかけたいのは、私の居間いまなのです。
みんなは、居間いま客間きゃくま、大広間から、小べや、衣裳いしょうべやと、片っぱしから見てあるきましたが、いよいよ奥ぶかく見て行くほど、だんだんりっぱにも、きれいにもなっていくようでした。
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
廊下を博士の居間いまのある、奥のほうへととんでいく途中、田口巡査のほおを斬った。そうでしょう。こう考えて行けば、われわれは金属Qを追跡していることになる。そう思われませんか
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
細君さいくんはたばこぼんに長いきせるを持ちそえて、主人の居間いまにはいってきた。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
ある冬の朝、——それはたしか第四回目の塾生活がはじまろうとする数日前のことだったと思うが、——朝倉先生は、居間いま硝子戸ガラスどごしに、じっと庭のほうに眼をこらし、無言ですわっていた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
ぢやうさまがたはには追羽子おひはご餘念よねんなく、小僧こざうどのはまだお使つかひよりかへらず、おはりは二かいにてしかもつんぼなれば子細しさいなし、若旦那わかだんなはとればお居間いま炬燵こたついまゆめ眞最中まつたゞなかおがみまするかみさまほとけさま
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
風知草ふうちそうあるじ居間いまならん
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
居間いまなかでは、おとうさんとおかあさんとマリちゃんが、食卓テーブルまえすわっていました。そのとき、おとうさんはこういました。
さて稽古けいこんで、おのれの工夫くふう真剣しんけんになる時分じぶんから、ふとについたのは、良人おっと居間いま大事だいじにたたんでいてある、もみじをらした一ぽん女帯おんなおびだった。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
ひめさまは、このとりが、たいそうにいられました。そして、自分じぶん居間いまに、かごにいれてけておかれました。小鳥ことりは、じきにおひめさまになれてしまいました。
お姫さまと乞食の女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
真夏の夕暮、室々のへだてのふすまは取りはらわれて、それぞれのところに御簾みす几帳きちょうめいた軽羅うすものらしてあるばかりで、日常つね居間いままで、広々と押開かれてあった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
あるばん和尚おしょうさんはいつものとおりお居間いまちゃがまをかざったまま、そのそばでうとうと居眠いねむりをしていました。そのうちほんとうにぐっすり、寝込ねこんでしまいました。
文福茶がま (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それは××胡同ことうの社宅の居間いま蝙蝠印こうもりじるし除虫菊じょちゅうぎく二缶ふたかん、ちゃんと具えつけてあるからである。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
居間いま障子しょうじ、その縁に向ったところに、墨黒ぐろと半紙に大書した貼紙はりがみがしてあるのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
メントール侯の居間いまに入りこんだ。
暗号音盤事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あるむすめは、むこや、うちひとたちに、づかれないように、ひそかに居間いまからたのであります。
海ぼたる (新字新仮名) / 小川未明(著)
それからおとうとかみは、ふじはないた弓矢ゆみや少女おとめ居間いままえにたてかけておきますと、少女おとめが出がけにそれをつけて、ふしぎにおもいながら、きれいなものですから
春山秋山 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
ははほうへはかずに、四畳半じょうはんのおのが居間いま這入はいったおせんは、ぐさまかがみふたはずして、薄暮はくぼなかにじっとそのまま見入みいったが、二すじすじえりみだれたびんを、手早てばやげてしまうと
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
同時にまた彼女の居間いまの壁には一週に必ず一枚ずつ新しい油画がかかり出した。油画は六号か八号のカンヴァスに人体ならば顔ばかりを、風景ならば西洋風の建物をえがいたのが多いようだった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
八代様は、静かに立って居間いまへはいりながら
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ごましおねずみはさっそく本堂ほんどうがって、和尚おしょうさんのお居間いままでそっとしのんでいって
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
「いま、ゆくから。」と、しずかに、こたえて、にがかおつきをしながら、居間いまました。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)