夜毎よごと)” の例文
湯本達のベッドは、赤絵具を溶いて流した血の池地獄のほとりにあった。このサディストとマゾヒストは、そこで夜毎よごとの痴戯を楽しむのだ。
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
馬鹿になってしまったのではないかと疑われるくらい——正月でもあるせいもあろうが——夜毎よごとにぎやかな笑い声にちているのだった。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
家主あるじ壮夫わかもの三五人をともなひ来りて光る物をうつに石なり、皆もつてくわいとし石を竹林に捨つ、その石夜毎よごとに光りあり、村人おそれて夜行ものなし。
同じ悪夢が、夜毎よごと、氾濫したどぶのやうに枕の下を流れて通る。酷い日は白つぽいドロドロの夜を、同じ悪夢で二度に三度に区切られてしまふ。
海の霧 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
歓楽の夢は、夜毎よごとに変りました。が現実の世界は、妻木右太之進を、恐ろしい没落へと引摺って行ったのもまたむを得ないことだったのです。
ヂュリ おゝ、𢌞まは夜毎よごと位置ゐちかは不貞節ふていせつつきなんぞを誓言せいごんにおけなさるな。おまへこゝろつきのやうにかはるとわるい。
おれはキキイがなぜこんな服装みなりをして居るのか、夜毎よごとに盛装して散歩に出る三人の女とキキイとの間にどんな身分の懸隔けんかくがあるのかわからなかつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
「小さい子供だけでも、どこかへ疎開させたら……」康子は夜毎よごとの逃亡以来、しきりに気をむようになっていた。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
今年もいよいよ秋になったと知るが否や、わたくしは今日か明日かと、夜毎よごとに蛼の初音はつねを待つのがためしである。
虫の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ばらりといたお七のおびには、夜毎よごときこめた伽羅きゃらかおりがかなしくこもって、しずかに部屋へやなかながれそめた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
日毎ひごと夜毎よごとに代る枕に仇浪は寄せますが、さて心の底まで許すお客はあんまりないものだそうでござります。
三冬さんとうちつすれば、天狗てんぐおそろし。北海ほくかい荒磯あらいそ金石かないは大野おほのはま轟々ぐわう/\りとゞろくおと夜毎よごとふすまひゞく。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
しや眼前にかばねの山を積まんとも涙一滴こぼさぬ勇士に、世を果敢はかなむ迄に物の哀れを感じさせ、夜毎よごとの秋に浮身うきみをやつす六波羅一の優男やさをとこを物の見事に狂はせながら
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
能を知るほどの凡ての人は、沖縄において、能の本来の姿を更に目撃せられるでしょう。どんな地方に旅したとて、沖縄ほど盛に固有の芝居、踊、唄を夜毎よごと夜毎に見せてくれる所はないのです。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
神経の痛みに負けて泣かねども夜毎よごと寝られねば心弱るなり (改造)
島木赤彦臨終記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
この身とて、今は法師にて、鳥も魚も襲はねど、昔おもへば身も世もあらぬ。あゝ罪業ざいごふのこのからだ、夜毎よごと夜毎の夢とては、同じく夜叉やしゃの業をなす。宿業しゅくごふの恐ろしさ、たゞたゞあきるゝばかりなのぢゃ。
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
彼女自身が、夜毎よごと々々にリリーを放せなくなっているではないか。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
わが見る夜毎よごとの夢、また、すべて海にうかぶ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
夜毎よごと痛むかしらをさゝへてくれるだらう!
幸福が遅く来たなら (新字旧仮名) / 生田春月(著)
日毎ひごと夜毎よごとにかはり
友に (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
家主あるじ壮夫わかもの三五人をともなひ来りて光る物をうつに石なり、皆もつてくわいとし石を竹林に捨つ、その石夜毎よごとに光りあり、村人おそれて夜行ものなし。
私がどうしてあんなにも正確に、夜毎よごとのお前の行為を知ることが出来たか。もうお前にも大方想像がついているだろう。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
天慶二年の夏中は、夜毎よごと夜毎、空也念仏の称名しょうみょうの声と、夢中でたたく鉦の音と、妖しいまでに踊りける人影に、都の辻は、異様な夜景をえがいていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新聞によれば、七十五年間は市の中央には居住できないと報じているし、人の話ではまだ整理のつかない死骸しがいが一万もあって、夜毎よごと焼跡には人魂ひとだまが燃えているという。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
何処のあたりまでぞ、君が薫りを徒らに、夜毎よごと楽屋のおうなの剥ぎとるべき、作りしはだえなるべきか。
舞姫 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
其の御心の強さに、彌増いやます思ひに堪へ難き重景さま、世に時めく身にて、霜枯しもがれ夜毎よごとに只一人、憂身うきみをやつさるゝも戀なればこそ、横笛樣、御身おんみはそを哀れとはおぼさずか。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
ヂュリ いなうとや? はまだきゃせぬのに。こはがってござるおまへみゝきこえたは雲雀ひばりではなうてナイチンゲールであったもの。夜毎よごと彼處あそこ柘榴じゃくろて、あのやうにさへずりをる。
夜毎よごとに盛んな電灯装飾イルミナシヨンを施して客を呼ぶので、だ川風が薄ら寒いにかゝはらず物見だかい巴里パリイの中流以下の市民が押掛けての遊技館も大繁昌である、中に一寸ちよつと痛快に感じるのは
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
で、屋根やねからつきすやうなわけにはかない。其処そこで、かせぎも活計くらしてず、夜毎よごとぬまばん難行なんぎやうは、極楽ごくらくまゐりたさに、身投みなげをるもおなこと、と老爺ぢゞい苦笑にがわらひをしながらつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
この身とて、今は法師にて、鳥も魚もおそわねど、むかしおもえば身も世もあらぬ。ああ罪業ざいごうのこのからだ、夜毎よごと夜毎の夢とては、同じく夜叉の業をなす。宿業しゅくごうの恐ろしさ、ただただあきるるばかりなのじゃ。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
この小さな姪はこの景色を記憶するであろうか。幼い日々が夜毎よごと、夜毎の逃亡にはじまる「ある女の生涯」という小説が、ふと、汗まみれの正三の頭には浮ぶのであった。
壊滅の序曲 (新字新仮名) / 原民喜(著)
被害者が血を吸われている最中に目覚めた時は、吸血鬼との間に身の毛もよだつ闘争が行われるが、多くは目覚めることなく、夜毎よごとに生血を吸いとられ、せ衰えて死んで行く。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
かゝる僧なれば年毎としごと寒念仏かんねんぶつぎやうをつとめ、无言むごんはせざるゆゑ夜毎よごとに念仏してかねうちならし、ものにまゐりしかへるさ二夜に一度はかのはしに立て年頃おぼれしゝたる者の回向ゑかうをなししに
もののけはひを、夜毎よごと心持こゝろもちかんがへると、まだ三にはがあつたので、うあたまがおもいから、そのまゝだまつて、母上はゝうへ御名おんなねんじた。——ひとういふことからちがふのであらう。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
月の夜毎よごとおそくなるにつれての光は段々えて来た。河風かはかぜ湿しめツぽさが次第に強く感じられて来て浴衣ゆかたはだがいやに薄寒うすさむくなつた。月はやがて人の起きてころにはもう昇らなくなつた。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
戀とは言はず、情とも謂はず、ふや柳因りういんわかるゝや絮果ぢよくわ、いづれ迷は同じ流轉るてん世事せじ、今は言ふべきことありとも覺えず。只〻此上は夜毎よごと松風まつかぜ御魂みたますまされて、未來みらい解脱げだつこそ肝要かんえうなれ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
パリス (廟の前へ進みて)なつかしいはな我妹子わぎもこはなこの新床にひどこうへいて……あゝ、天蓋てんがいいし土塊つちくれ……そのいた草花くさはな夜毎よごとかほみづそゝがう。しそれがきたなら、なげきにしぼわしなみだを。
もののけはいを、夜毎よごと心持こころもちで考えると、まだ三時にはがあったので、う最うあたまがおもいから、そのまま黙って、母上の御名おんなを念じた。——人はういうことから気が違うのであろう。
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この辺の心理は可也かなり不思議なものだが、併し、昔の物の本などによく例がある、つまり、それは、何人なんぴととも分らぬ男との、夜毎よごと逢瀬おうせは、恐らく、彼女にとって、一つのお伽噺とぎばなしであったのであろうか。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)