けず)” の例文
なぜならつくえかどは、小刀こがたなかなにかで、不格好ぶかっこうけずとされてまるくされ、そして、かおには、縦横じゅうおうきずがついていたのであります。
春さきの古物店 (新字新仮名) / 小川未明(著)
怨まなかった。こうして苦心惨憺して三年前に脱獄してからというもの、それこそ生命いのちけずる思いをして、お前を探しまわったことを
継子 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「怪しいのはこれだ。……ウーム、かなり重い、どこかの武家屋敷から盗み出した贓品ぞうひんだな。や、入念に、定紋じょうもんまでけずり落してある」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みぎひだりけずったようなたかがけ、そこらじゅうには見上みあげるような常盤木ときわぎしげってり、いかにもしっとりと気分きぶんちついた場所ばしょでした。
何万年のながい間には処々ところどころ水面すいめんから顔を出したりまた引っんだり、火山灰や粘土が上につもったりまたそれがけずられたりしていたのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
戦いは敗れ、国はけずられ、国民の意気鎖沈しなにごとにも手のつかざるときに、かかるときに国民の真の価値ねうちは判明するのであります。
……刃物はきょう、犀角散さいかくさんを、けずることになって居りましたので、がしましたばかり。決して、血を落としたんじゃございません
私には教化とか同化とかいう考えが如何に醜く、如何に愚かな態度に見えるであろう。私はかかる言葉を日鮮の辞書からけずり去りたい。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
玩具おもちゃといっても、木の幹を小刀ナイフ一本でけずって、どうやら舟の形に似せたもので、土人の細工さいく物のように不器用な、小さな独木舟まるきぶねだった。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
これほど小ぢんまりと几帳面きちょうめんに暮らして行く彼らは、おそらく食後に使う楊枝ようじけずかたまで気にかけているのではなかろうかと考える。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
船をこわした古い材木と、けずりぱなしの材木との累々るいるいたる間を、与兵衛に手を引っぱられて行くお玉は気味が悪くてなりませんでした。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
次には紙の美しさ、木をけずって花にした代りに、純白でたけの長いものをいろいろの形にって、到る処に飾るようになったことである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
橋は、丸木をけずって、三、四本並べたものにすぎぬ。合せ目も中透なかすいて、板も朽ちたり、人通りにはほろほろとくずれて落ちる。
海の使者 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若者の心の中には、両方に刃のついたつるぎやら、水晶をけずった勾玉やら、たくましい月毛つきげの馬やらが、はっきりと浮び上って来た。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すぐうしろの席で、がしがしと鉛筆をけずる音が、一層彼の神経をいら立たせた。彼の膝はひとりでに貧乏ゆるぎをはじめた。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
とうとう癇癪かんしゃくをおこしてしまった母親は、けずりかけのコルクをいきなり畳に投げつけて「野郎ぉ……」とわめくのであった。
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
かくて人生は永劫えいごうの戦場である。個人が社会と戦い、青年が老人と戦い、進取と自由が保守と執着に組みつき、新らしき者が旧き者としのぎけずる。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
まっすぐに伸びたミズナラの大木を撰んでその幹にけずばなを下げ、パウチを追い出してくれれば山の神様にたんまりお礼をいたしますと祈って
えぞおばけ列伝 (新字新仮名) / 作者不詳(著)
自分は今天覧の場合の失敗を恐れて骨をけずはらわたしぼる思をしているのである。それに何と昔からさような場合に一度のあやまちも無かったとは。
鵞鳥 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さしずめ、博士邸の裏に、下水を築く為に置いてある、沢山の石塊の内の一つだということは、楔形くさびがたけずられたその恰好から丈けでも明かである。
一枚の切符 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と挨拶してから朝飯を済まし、亭主からかいを一本買受けて、小刀でけずり始めた。が、朝寝をしている間に、可成り小次郎への対策を考えていたらしい。
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
牛の牢という名は、めぐりの石壁いしかべけずりたるようにて、昇降のぼりくだりいとかたければなり。ここに来るには、よこみちを取りて、杉林すぎばやし穿うがち、迂廻うかいしてくだることなり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人工竜巻は、アルプス山をけずりとった岩石が天空高く舞い上っていく姿である。山を削るには、かの怪車輌がある。
幼年学校生は、それをねだり取って、ウドの太いくきを折ると、それでふえけずりあげ、ぴゅうぴゅうき出した。オセロもやはり、ちょっと吹いてみた。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
学校の貧乏なところへもって来て、町や郡からの輔助はけずられる、それでも教員の数はふやさんけりゃ手が足りない。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かえって福沢諭吉先生の開明的な思想に鞭撻べんたつされて欧化に憧れ、非常な勢いで西洋を模倣し、家の柱などはドリックにけずり、ベッドに寝る、バタを食べ
亡び行く江戸趣味 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
盗られてしまっては、配偶つれあいが死んでから十五年の間の、骨をけずるような苦労も、みんな無駄になってしまいました
剣のかわりに算盤そろばんで渡りあうのだ。刀を小判に代えて、斬り結ぶのだ。そうだ、面白い。こいつを向こうにまわして、知恵をけずろう。掛け引きでいこう。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
要するに夫も私も、互いが互いをけしかけ合い、そそのかし合い、しのぎけずり合い、どうにもならない勢いに駆られて夢中でここまで来てしまったのである。………
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その子の頭の上からは、げかかった金看板がぞろりと下り、弾丸にけずられた煉瓦の柱はポスターの剥げあとで、張子はりこのようにゆがんでいた。その横は錠前屋だ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
背の高いお人好の主人は猫背でつんぼである。その猫背は彼が永年盆や膳をけずって来た刳物台くりものだいのせいである。夜彼が細君と一緒に温泉へやって来るときの恰好を見るがいい。
温泉 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
彼はけちでないので、ずいぶん思い切って金を遣った。しかもその縄張りは余り広くないので、収支がとてもつぐなわない。彼の身代はますますけずられてゆくばかりであった。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
大小数百千こと/″\しかくをなしてけずりたてたるごとく(かならずかくをなす事下にべんず)なるもの幾千丈の山の上より一崩頽くづれおつる、そのひゞき百千のいかづちをなし大木ををり大石をたふす。
大病人に飲ませるのはビフチーに限ります。これは上等にすると牛肉のランという処を一斤買って脂身あぶらみのない赤身だけをけずるようにく細かく切って深い壺へ入れます。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
かすかな空の星の光にぼんやり姿を照らしながら四、五人の人影がうごめいている。コンコンというくぎを打つ音、シュッシュッという板をけずる音、いろいろの音が聞こえて来る。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
禾場うちばには村の人達が寄って、板をけず寝棺ねがんこさえて居る。以前もとは耶蘇教信者と嫌われて、次郎さんのお祖父じいさんの葬式の時なぞは誰も来て手伝てつどうてくれる者もなかったそうだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その仕合わせをけずったりしていようなどとは、夢にも思いも考えもしない始末だった。
初めてではあるが、大体見当はつくので、内側からスプーンでけずって食べ始めた。まくわうりの味を少し淡くしたようなものであったが、これがメロンの味かと思って注意して食べた。
寺田先生と銀座 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
中津藩にして古来度々たびたびの改革にて藩士の禄をけずり、その割合をいにしえに比すればすでにおおい減禄げんろくしたるがごとくなるを以て、維新の後にも諸藩同様に更に減少の説をとなえがたき意味もあり
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
表面にけずり出しのような軽くく紅いろの薄雲が一面に散っていて、空の肌質がすっかり刀色に冴えかえる時分を合図のようにして、それ等の雲はかえって雲母うんも色に冴えかえって来た。
金魚撩乱 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
山のけずりて道路みち開かれ、源叔父が家の前には今の車道くるまみちでき、朝夕二度に汽船の笛鳴りつ、昔は網だに干さぬ荒磯あらいそはたちまち今のさまと変わりぬ。されど源叔父が渡船おろしの業は昔のままなり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
山姥やまうば井戸いどのそこをのぞいてみましたが、とても手がとどかないので、くやしがって、物置ものおきからかまをさがしてて、ももの木のびんつけをけずとして、あたらしくがたをつけはじめました。
物のいわれ (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
例の爺さんは今しもけずりあげた木を老眼にあてて覚束おぼつかない見ようをして居る。
車上の春光 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
いささか気がへんで、顔はきれいだが、けずったような平ったい胸をしている。
白雪姫 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
二人は大急ぎでおりて見ますと、大国主神おおくにぬしのかみはまっくろこげになって、山のすそにたおれていらっしゃいました。あかがいはさっそく自分のからをけずって、それを焼いて黒い粉をこしらえました。
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
そうしてその木蔭にしゃがみながらそれまでパレットをけずっていたらしい彼女が、その時つと立ち上って、私にはすこしも気がつかないように、描きかけのカンバスを画架からとりはずすと
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
昆布こぶ鰹節かつおぶし——選定および出汁だしの取り方・けずり方
日本料理の基礎観念 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
また御政治の方針からいっても、大藩の封地ほうちは、できる限り、けずり取るか、取潰とりつぶすか、せねばならぬ。その大きな後始末が残っている
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私には教化とか同化とかいう考えが如何に醜く、如何に愚かな態度に見えるであろう。私はかかる言葉を日鮮の辞書からけずり去りたい。
朝鮮の友に贈る書 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
出ればかまずにはいられません。この作用で骨の左右がけずり取られて細い高い隆起と変化して参ります——実に恐ろしい作用です。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)