人足にんそく)” の例文
井戸新いどしんさんは、人足にんそくがいくらいくら、井戸囲いどがこいの土管どかんがいくらいくら、土管どかんのつぎめをめるセメントがいくらと、こまかく説明せつめいして
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
折助おりすけとも人足にんそくともわからない中年の、ふうていのよくない男が二人、穴のある傘をさして、なにかくち早に話しながら、通りすぎていった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その間、葉子は仰向けになって、甲板かんぱんで盛んに荷揚げしている人足にんそくらの騒ぎを聞きながら、やや暗くなりかけた光で木村の顔を見やっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
暁に先立つて草刈くさかりに行く農夫の一人二人がそれを見つけて、村役場へ届ける。村役場では人足にんそくを出して堤防の修理をする。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
「え、ジープに、まさか、ジープにベッドがのるもんですか。そして三階にあげるにはどうするんですか。人足にんそくを十人ぐらい集めるのでしょう」
一坪館 (新字新仮名) / 海野十三(著)
すると人足にんそくの一にんか『かひところ此所こゝばかりぢやアりません。御門ごもんはいつて右手みぎて笹山さゝやまうしろところにも、しろかひ地面ちめんます』と報告ほうこくした。
またあるとき、ケーは土木工事どぼくこうじをしているそばをとおりかかりますと、おおくの人足にんそくつかれてあせながしていました。
眠い町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
むこうで人足にんそくたちが、やきするめと焼米やきごめほおばっているのを見て伊部熊蔵いのべくまぞう、それがしいなぞだろうとさっして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
長吉ちやうきちだ首を頷付うなづかせて、何処どこあてもなしに遠くをながめてゐた。引汐ひきしほ堀割ほりわりつないだ土船つちぶねからは人足にんそくが二三人してつゝみむかうの製造場せいざうばへとしきりに土を運んでゐる。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
韋駄天いだてんを叱する勢いよくまつはなけ付くれば旅立つ人見送る人人足にんそく船頭ののゝしる声々。車の音。端艇きしをはなるれば水棹みさおのしずく屋根板にはら/\と音する。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この、力士のような堂々たる人足にんそくが十人、いっせいに鈴川方の塀の木戸へ眼をあつめていると、はたして、パッと内部から戸を蹴りあげて走り出た五人の火事装束!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
単衣ひとえ一枚でははだがなんとなくヒヤヒヤする。棺はやがて人足にんそくにかつがれて、墓地へと運ばれて行く。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
噺家はなしか、たいこもち、金に糸目をつけぬ、一流の人たちがおもな役柄に扮し、お徒歩かち駕籠かごのもの、仲間ちゅうげん長持ながもちかつぎの人足にんそくにいたるまで、そつのないものが適当に割当てられ
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
道中で人足にんそくをゆすったり、いたるところの旅館で金を絞ったり、あらゆる方法で沿道の人民を苦しめるのも、京都から毎年きまりで下って来るその日光例幣使の一行であった。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
大八車だいはちぐるまが三台、細引ほそびきだの滑車だの手落ちのないよう万事気を附け、岡倉校長を先導に主任の私、山田、後藤、石川、竹内、その他の助手、人足にんそくなど大勢が繰り込みましたことで
ところどころに、人足にんそくの茶飲み所兼監督の詰め所の交番ようのものが「置い」てあった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
「銅像を掘り出したのは人足にんそくで、テニスをしたのは銅像を掘り出さした主人の方です」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かう云ふ人情の矢面やおもてには如何いかなる芸術至上主義も、提燈におしなさいと云ふ忠告と同様、き目のないものと覚悟せねばならぬ。我我は土砂降どしやぶりりの往来に似た人生を辿たど人足にんそくである。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
例えば私は少年の時から人を呼棄よびすてにしたことがない。車夫、馬丁ばてい人足にんそく小商人こあきんどごとき下等社会の者は別にして、いやしくも話の出来る人間らしい人に対して無礼な言葉を用いたことはない。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ちやうどまち場末ばすゑむでる日傭取ひようとり土方どかた人足にんそく、それから、三味線さみせんいたり、太鼓たいこらしてあめつたりするもの越後獅子ゑちごじゝやら、猿廻さるまはしやら、附木つけぎものだの、うたうたふものだの
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
おもいおもいに露店をならべてにぎわしく、生活のために社会と戦う人の右へ走り左へせて、さなきだに熱き日のいよいよ熱く苦しく覚うる頃となれば、水撒みずまき人足にんそくの車の行すぎたる跡より
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
伊太夫が一人足にんそくに向って、こんな会釈えしゃくを賜わるほどのことは例外でありました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
マルコが目をさますと、荷車の列はとまってしまって、人足にんそくたちは火をたきながらパンをやいて食べているのでした。みんなは食事がすむとしばらくひるねをしてそれからまた出かけました。
金絲のぬひはくをした上衣うはぎきらめかして大買人おほあきんどもあれば、おもさうな荷物を脊負しよつてゆく人足にんそくもある、香料かうれうたへなるかほりり/\生温なまぬくい風につれてはなを打つ、兒童こども極樂ごくらくへでもつた氣になつて
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
梅田のかせて行く大筒おほづゝを、坂本が見付けた時、平八郎はまだ淡路町二丁目の往来の四辻に近い処に立ち止まつてゐた。同勢は見る/\つて、大筒おほづゝの車を人足にんそくにも事をくやうになつて来る。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
「じいや、人足にんそくを多勢呼んで来てくれ。」
九月一日 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
取り裏口うらぐちより忍びいでしは出たれどもいかに行ば街道がいだうならんと思ひながらも一生懸命しやうけんめいの場所なれば足に任せて走る程に何程なにほど來りしかは知らざるうち夏の夜の明安く東雲しのゝめ近く成しと覺えて行先に驛路の鈴の人足にんそくの聲など遙に聞えければ友次郎もお花もはじめて蘇生よみがへりたる心地して扨は街道に近く成しぞと猶も道を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
おほ人足にんそく使用しようしたのを一人ひとり勞作らうさくなをして、一にち平均へいきん時間じかんると、まさに八十餘日よにちつひやした計算けいさんである。
早坂新道と村の人がとなへたのはこの新道である。この新道は僕の生れるずつと前に開通されたものだが、連日の人足にんそくで村の人々の間にも不平の声が高かつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
長吉はだ首を頷付かせて、何処どこあてもなしに遠くを眺めていた。引汐の堀割につないだ土船つちぶねからは人足にんそくが二、三人して堤の向うの製造場へとしきりに土を運んでいる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そればかりか、その時ふと耳についたのは、パチパチとはぜる内部の火の音ではなく、まさしく数十人の人足にんそくとおぼえられる物おとが、小屋の外部をあらしのごとくめぐっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして早速人足にんそくを廻しましょう、といっております。その男の口裡くちうらで見ると、十日位掛かれば出来上がりそうな話。野見さん初め他の友達もこれでいよいよ気乗りがして来ました。
毎日三人で焼けあとに出かけていって、人足にんそくの人なんかに、じゃまだ、あぶないといわれながら、いろいろのものをひろい出して、めいめいで見せあったり、取りかえっこしたりした。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「これは国木田独歩くにきだどっぽです。轢死れきしする人足にんそくの心もちをはっきり知っていた詩人です。しかしそれ以上の説明はあなたには不必要に違いありません。では五番目の龕の中をごらんください。——」
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
宿から宿への継立つぎたてと言えば、人足にんそくや馬の世話から荷物の扱いまで、一通行あるごとに宿役人としての心づかいもかなり多い。多人数の宿泊、もしくはお小休こやすみの用意も忘れてはならなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
人足にんそくに出たって仕事なんぞ、ろくにありやしねえ、番札で働きに出るのが五日に一度くれえだ、それで五合の米が百文するんだから、女房、子のある者は江戸じゃあ食えねえ、田舎のある者はみんな田舎へ帰っちまうさ」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
令息れいそくこゝろよ出迎でむかへられて、萬事ばんじ便誼べんぎあたへられ、人足にんそくにんさへばれたのであつた。
そこに、焼けあとで働いている人足にんそくが来て、ポチが見つかったと知らせてくれた。ぼくたちもだったけれども、おばあさまやおかあさんまで、大さわぎをして「どこにいました」とたずねた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「わたしの難儀なんぎ身代みがわりになって、あの人足にんそくたちに、打たれるやら、られるやら、それでも、おまえさまは手出てだしもせず、ジッとがまんしていなすったから、とうとう気絶きぜつしてしまいなされた」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
カヤ方の仕事師は人足にんそくを使って雛形をたよりに仕事に取り掛かって、大仏の形をやり出したのですが、この仕事について私の考えは、まず雛形を渡して置けば大工と仕事師とで概略あらまし出来るであろう。
不用意ふよういると窒息ちつそくしておそれがあるので、蝋燭らうそくをさしれる必用ひつようがある。人足にんそく一人ひとりすゝんで、あななか片手かたてをさしれると、次第しだいちいさつて、のちには、ふツとえた。