ちがひ)” の例文
もし、あの新しい墓の主が、兄妹に取つて親しい父か母かであつたならば、此次の日曜にも二人は屹度、お詣りをしてゐるのにちがひない。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
三四郎はひとの文章と、ひとの葬式を余所よそから見た。もしだれて、ついでに美禰子を余所よそから見ろと注意したら、三四郎は驚ろいたにちがひない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
母親お貞はかくと見るよりそれきれそれおさへよといふに太七はふるへ居て役に立ざれば母親はと進みよりとほちがひに太七がたいしたる脇差を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
けてさむからうと、深切しんせつたにちがひないが、未練みれんらしいあきらめろ、と愛想尽あいさうつかしをれたやうで、くわつかほあつくなる。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ナニ、山木、別段不思議無いではないか、労働者が労働者の金を輸入するのと、君等実業家連が外資輸入を遣り居るのと、何のちがひもあるまいではないか」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
まつたく忠臣蔵の原作を知らない仏蘭西フランス人が観れば非常に珍らしいエキゾテイツクの味に富んだ物にちがひない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
錨を抜いた港から、汽笛と共にゆるぎ出て、乗ツてる人の目指す港へ、船首へさきを向けて居る船にはちがひない。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
こみちが恰ど蜘蛛くもの巣のやうになツてゐて、橋がむやみとある土地だから、何んでも橋も渡り違へたのか、こみち曲損まがりそこねたか、此の二つにちがひなかツたのだが、其の時はうは思はず
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
こたへて、かれが『うむ、いよ/\ちがひない、船幽靈ふなゆうれいメー。』と單獨ひとりでぐと/\何事なにごとをかつてるのをながしながら、なほよくその海上かいじやう見渡みわたすと、いまゆる三個さんこ燈光とうくわう
サカンにこの語を両様にかけて用ゐたために、古典研究者の頭には混同せられて、今では殆ど両意融合といふ塩梅になつたのであるが、もと/\別種の語であつたにはちがひなからう。
古歌新釈 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
不安ふあん段々だん/\あがつてた。それ打消うちけさうとするそばから、「あの始終しゞうひと顔色かほいろんでゐるやうなそこには、何等なんらかの秘密ひみつひそんでゐるにちがひない。」と私語さゝやくものがある。
背負揚 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
膃肭臍と女医者、大層なちがひぢや、矢張やつぱやしきにゐるお蔭だと男爵は思つた。
翌日あくるひ代助は平気な顔をして学校へた。あに二日ふつかあたまいたいと云つてにがつてゐた。さうして、これを年齢としちがひだと云つた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それは、貴君あなたが作品と時代と云ふことを考へないからです。現在の文壇の標準から云へば、『金色夜叉』の題目テーマなんか、通俗小説にちがひないです。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
そうじて主人しゆじんうちにあるときと、そとでしのちと、家内かない有樣ありさまは、大抵たいてい天地てんちちがひあるが家並いへなみさふらふなり。
十万石 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
して配達料はと云へば麻布の奥から本郷の奥まで米一俵を配達するにも一人の配達夫と一輛の車とを要しながわづかに四銭か六銭である以上、決して大した実益は無いにちがひない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
致されよ往々は家主の爲にもなるまじと申入たれば大にいかかへつて我々を追立おひたてんとなすゆゑ泥工さくわん棟梁とうりやう家主に異見して相濟あひすみし程の事もあれば馬喰町の隱居殺したるは勘太郎にちがひなしと申を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
受くるよりも与ふるがむしろ幸福ぢやありませんか、貴女が全心を挙げて常に道時さんを愛して居なさるならば必ず慚愧ざんきして、昔日むかしまさる熱き愛憎を貴女に与へなさる時が来るにちがひありません
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
かれんでゐるものは、活字の集合あつまりとして、ある意味を以て、かれあたまえいずるにはちがひないが、かれの肉やまはる気色は一向見えなかつた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
縦令たとひ、自分の現在の苦しみや、悲しみを理解し得る兄ではないにしろ、兄の愚かな、然しながら純な態度は、屹度きつと自分を慰めて呉れるにちがひない。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
諸新聞の批評も概して悪くない。甘い物にはちがひないが、これなら日本に移しても「不如帰ほとゝぎす」で廉価な涙を流させるより功徳の多い事だと思ふから一寸ちよつと簡単に僕の観た所を紹介しよう。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
山脇やまわきと改ため以前の如く外科げくわを業とすれども南都とちがひ新規しんきの場所故何事も思はしからず漸々にほそけふりを立居たるに或日家内の者愛宕あたごへ參りける留宅るす盜人ぬすびと押入おしいり賣殘うりのこりし少しの道具を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
左様さうですねエ——思ひに悩む時、心のさびしい時、気の狂ほしい時、じつと精神をらして祈念しますと、影の如く幻の如く、其のおもても見え、其声も聴こゆるですよ、伯母さんのと格別ちがひありますまい」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「そりやにいさんもいそがしいにはちがひなからうけれども、ぼくもあれがまらないと氣掛きがゝりでいて勉強べんきやう出來できないんだから」とひながら
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「まあ御互にぶたでなくつて仕合せだ。さう欲しいものゝ方へ無暗に鼻が延びて行つたら、今頃は汽車にも乗れない位長くなつて困るにちがひない」
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
また其前そのまへ改革かいかく淘汰たうたおこなはれるにちがひないといふうはさおもおよんだ。さうして自分じぶん何方どつちはう編入へんにふされるのだらうとうたがつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
それからさきんな径路けいろを取つて、生長するかわからないが、到底人間にんげんとして、生存するためには、人間にんげんからきらはれると云ふ運命に到着するにちがひない。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
二人ふたりは半町程無言むげんまゝつてた。其間そのあひだ三四郎は始終美禰子の事を考へてゐる。此女は我儘にそだつたにちがひない。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
本當ほんたうのこんだよ、おくさん。算筆さんぴつ出來できるものは、おれよりほかにねえんだからね。まつた非道ひどところにやちがひない」と眞面目まじめ細君さいくんこと首肯うけがつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)