トップ
>
脂
>
あぶら
ふりがな文庫
“
脂
(
あぶら
)” の例文
佐々木小次郎をよく知っている者か、面識でもある間がらでもあれば、たちまち嘘がばれて、
脂
(
あぶら
)
をしぼられるところであったがと——
宮本武蔵:04 火の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
内供は、信用しない医者の手術をうける患者のような顔をして、不承不承に弟子の僧が、鼻の毛穴から
鑷子
(
けぬき
)
で
脂
(
あぶら
)
をとるのを眺めていた。
鼻
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
スタールツェフはますますふとって
脂
(
あぶら
)
ぎって来たので、ふうふう息をつきながら、今では頭をぐいとうしろへ
反
(
そ
)
らして歩いている。
イオーヌィチ
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
脅
(
おび
)
え切つた青い顏ですが、よく
脂
(
あぶら
)
が乘つて、ヒステリツクで、主人半左衞門がこの女を持て餘してゐた消息もよくわかりさうです。
銭形平次捕物控:247 女御用聞き
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
「お嬢さんのお詞によって、注いであげるから、
滴
(
こぼ
)
しちゃいけないよ、一滴でもお
銭
(
あし
)
だ、それも、みんな、私の汗と
脂
(
あぶら
)
が入ってるのだ」
春心
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
▼ もっと見る
「ありません。たゞ、脂肪類を喰わないことですね。肉類や
脂
(
あぶら
)
っこい魚などは、なるべく避けるのですね。淡泊な野菜を喰うのですね。」
マスク
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
「フロムゴリド教授はあなたをよく治療しました。あんまり
脂
(
あぶら
)
っこいものを食べなさるな。ウォツカは一滴もいけませんよ。いいですね」
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
黄色い夏の麻布で作った大きな
脂
(
あぶら
)
じみた外套のポケットに両手をつき入れて、隅から隅へと部屋を歩き回りながら、彼はことばを続けた
カラマゾフの兄弟:01 上
(新字新仮名)
/
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー
(著)
煙草はマドロスパイプを使う舶来の鑵入りでなければ吸えないようになった。弁当は香料の
利
(
き
)
いた、
脂
(
あぶら
)
濃い洋食か支那料理に限られて来た。
鉄鎚
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
この
土器
(
どき
)
を
長
(
なが
)
く
使用
(
しよう
)
してゐるうちに
水垢
(
みづあか
)
がついたり、
魚
(
さかな
)
や
獸
(
けだもの
)
の
脂
(
あぶら
)
がしみ
込
(
こ
)
んだりして、そのために
水氣
(
すいき
)
もしみ
出
(
だ
)
さないようになりますので
博物館
(旧字旧仮名)
/
浜田青陵
(著)
五十近いでっぷり肥った赤ら顔でいつも
脂
(
あぶら
)
ぎって光っていたが、今考えてみるとなかなか頭の善さそうな眼付きをしていた。
重兵衛さんの一家
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
とろりと白い
脂
(
あぶら
)
を流したような
朝凪
(
あさなぎ
)
の海の彼方、水平線上に一本の線が横たわる。これがヤルート
環礁
(
かんしょう
)
の最初の
瞥見
(
べっけん
)
である。
環礁:――ミクロネシヤ巡島記抄――
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
ぬるぬると
脂
(
あぶら
)
の湧いた
掌
(
てのひら
)
を、髪の毛へなすり着けたり、
胸板
(
むないた
)
で押し
拭
(
ぬぐ
)
ったりしながら、己はとろんとした眼つきで、
彼方此方
(
あっちこっち
)
を見廻して居た。
小僧の夢
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
クリストフは
脂
(
あぶら
)
じみた踏段に腰を降ろした。胸の中は、憤怒と激情とで心臓がどきついていた。小声で彼は父をののしった。
ジャン・クリストフ:03 第一巻 曙
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
金串に刺した肉は、炉の火に焙られて、肉汁と
脂
(
あぶら
)
とたれの、入混って焦げる、いかにも
美味
(
うま
)
そうな匂いをふりまいていた。
樅ノ木は残った:02 第二部
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その真っ先に立ったのは、年も恥じず赤黄青のさも
華美
(
きらびやか
)
の色模様ある式服を纏った鬼王丸で、その
脂
(
あぶら
)
ぎった
赧
(
あか
)
ら顔には得意の微笑が漂っている。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
或
(
あるひ
)
はラブがなかつた
故
(
せい
)
かも
知
(
し
)
れぬ。
妻
(
つま
)
が
未
(
ま
)
だ
心
(
しん
)
から
私
(
わたし
)
に
触
(
ふ
)
れて
来
(
く
)
るほど、
夫婦
(
ふうふ
)
の
愛情
(
あいじやう
)
に
脂
(
あぶら
)
が
乗
(
の
)
つて
居
(
ゐ
)
ない
故
(
せい
)
かも
知
(
し
)
れぬ。
背負揚
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
全体長一
米
(
メートル
)
半、目方七十五
瓩
(
キロ
)
の大きい魚で、全身は青色に輝いた金属光沢を帯び、魚体は
脂
(
あぶら
)
ぎってぴかぴか光っていた。
イグアノドンの唄:――大人のための童話――
(新字新仮名)
/
中谷宇吉郎
(著)
証明を終ったロジェル・エ・ギャレは、
薔薇
(
ばら
)
材のパイプに丹念に小鼻のわきの
脂
(
あぶら
)
を塗りはじめた。木を古く見せて、光沢を出そうというのである。
踊る地平線:11 白い謝肉祭
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
やがて
意地汚
(
いじきたな
)
の
野良犬
(
のらいぬ
)
が来て
舐
(
な
)
めよう。
這奴
(
しゃつ
)
四足
(
よつあし
)
めに
瀬踏
(
せぶみ
)
をさせて、
可
(
よ
)
いと成つて、其の
後
(
あと
)
で
取蒐
(
とりかか
)
らう。
食
(
くい
)
ものが、悪いかして。
脂
(
あぶら
)
のない人間だ。
紅玉
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
牛の
肝臓
(
かんぞう
)
もケンネ
脂
(
あぶら
)
に包まれている
腎臓
(
じんぞう
)
も心臓も胃袋も料理法次第で結構に戴けますから安直なお料理は沢山出来ます。
食道楽:秋の巻
(新字新仮名)
/
村井弦斎
(著)
体に、
脂
(
あぶら
)
があると見えて、お
風呂
(
ふろ
)
にはいった時も、川で泳いだときも、水から出て見ると、水晶の玉のように、パラパラと水をはじいてしまって——
田沢稲船
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
小鼻の脇に、
綺麗
(
きれい
)
な
脂
(
あぶら
)
の玉が光って、それを吹き出した毛穴共が、まるで
洞穴
(
ほらあな
)
の様に、いとも
艶
(
なまめか
)
しく息づいていた。
火星の運河
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
いつもはっきりと頭に刻まれている十七歳のその可憐な
脆美
(
スレンダー
)
な肉体と、眼前の(やや誇張的に言えば)
脂
(
あぶら
)
ぎったぶよぶよの美佐子の身体とを比較した。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
「ありがたう。かう、
脂
(
あぶら
)
がぬけきつてしまつてはどうにも仕方がありませんよ。すべては過ぎ去つてしまひました」
老残
(新字旧仮名)
/
宮地嘉六
(著)
お辞儀をしながら見た少佐夫人の顔には白粉がこってり塗られており、まるっこい鼻の頭には
脂
(
あぶら
)
が浮いていた。
次郎物語:04 第四部
(新字新仮名)
/
下村湖人
(著)
ことに、あのイヤなおばさん、はちきれるほど
脂
(
あぶら
)
たっぷりなおばさんが、もろくも
魂
(
こん
)
に引かれ死んでしまった。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
三坪程の木小屋に
古畳
(
ふるだたみ
)
を敷いて、眼の少し下って
肥
(
こ
)
え
脂
(
あぶら
)
ぎったおかみは、例の如くだらしなく胸を開けはだけ、おはぐろの
剥
(
は
)
げた歯を桃色の
齦
(
はぐき
)
まで見せて
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
ちょうど具合よく、あの男は
仔鹿
(
かよ
)
の
脂
(
あぶら
)
をうけて、右眼が利かないのですし、
桟
(
さん
)
の間から洩れる月の光が、紙帳の隅の、その所だけを刷いているのですから。
白蟻
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
酒
(
さけ
)
と
脂
(
あぶら
)
のにおいが、
周囲
(
しゅうい
)
の
壁
(
かべ
)
や、
器物
(
きぶつ
)
にしみついていて、
汚
(
よご
)
れたガラス
窓
(
まど
)
から
射
(
さ
)
し
込
(
こ
)
む
光線
(
こうせん
)
が
鈍
(
にぶ
)
る
上
(
うえ
)
に、たばこの
煙
(
けむり
)
で、いつも
空気
(
くうき
)
がどんよりとしていました。
風はささやく
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
そこで田虫の群団は、
鞭毛
(
べんもう
)
を振りながら、雑然と縦横に重なり合い、各々横に分裂しつつ二倍の群団となって、
脂
(
あぶら
)
の
漲
(
みなぎ
)
った細毛の森林の中を食い破っていった。
ナポレオンと田虫
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
脂
(
あぶら
)
ぎった、利口な人たちで、眼は大きな皿のようで、顎は肥えて二重になっていて、ヴァンダーヴォットタイムイティスの普通の住民よりもよほど長い上着を着
鐘塔の悪魔
(新字新仮名)
/
エドガー・アラン・ポー
(著)
猫は約束だとて受け付けず、犬その約束を見たいというから、委細承知と屋根裏に登ると、原来かの誓書に少し
脂
(
あぶら
)
が付きいたので、鼷が食い込んで巣を構えいた。
十二支考:09 犬に関する伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
さらずば一の肉體が
脂
(
あぶら
)
と肉とを
頒
(
わか
)
つごとく、この物もまたその
書
(
ふみ
)
の中に
重
(
かさ
)
ぬる紙を異にせむ 七六—七八
神曲:03 天堂
(旧字旧仮名)
/
アリギエリ・ダンテ
(著)
「でも、自分はもう、このとおり、からだ中から、
脂
(
あぶら
)
がぬけちまって、もうあと、いくらももちません」
地底戦車の怪人
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
椀
(
わん
)
の
蓋
(
ふた
)
をとれば
松茸
(
まつだけ
)
の香の立ち上りて
鯛
(
たい
)
の
脂
(
あぶら
)
の
珠
(
たま
)
と浮かめるをうまげに吸いつつ、田崎は
髯
(
ひげ
)
押しぬぐいて
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
しめて、
室中
(
へやじゅう
)
暗くしなくては、
脂
(
あぶら
)
がうまくかからんじゃないか。それにもうそろそろと肥育をやってもよかろうな、毎日
阿麻仁
(
あまに
)
を少しずつやって置いて
呉
(
く
)
れないか。
フランドン農学校の豚
(新字新仮名)
/
宮沢賢治
(著)
次に國
稚
(
わか
)
く、
浮
(
う
)
かべる
脂
(
あぶら
)
の如くして
水母
(
くらげ
)
なす
漂
(
ただよ
)
へる時に、
葦牙
(
あしかび
)
五
のごと
萠
(
も
)
え
騰
(
あが
)
る物に因りて成りませる神の名は、
宇摩志阿斯訶備比古遲
(
うましあしかびひこぢ
)
の神
六
。次に
天
(
あめ
)
の
常立
(
とこたち
)
の神
七
。
古事記:02 校註 古事記
(その他)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
強
(
しい
)
て評価すれば、第一編はマダ未熟であり、第三編は
脂
(
あぶら
)
が抜けて少しくタルミがあるが、第二編に到っては全部が緊張していて、一語々々が活き活きと生動しておる。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
船長は、こいつ一つ
脂
(
あぶら
)
をすっかりしぼりぬいてやろうと考えた。そして、それからつっ放す! と。
海に生くる人々
(新字新仮名)
/
葉山嘉樹
(著)
事実本を一冊訳しあげるようなワキ目もふらぬ緊張のせいもあったであろうが、顔に表れる
憔悴
(
しょうすい
)
が顕著で、目はくぼみ、顔全体が
脂
(
あぶら
)
でギラギラ
皺
(
しわ
)
だらけで黄色であった。
青い絨毯
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
何杯も何杯も、頭から水をかぶって、遠慮なく
飛沫
(
ひまつ
)
を周囲へ飛ばせ、謡曲らしきものをうなりながら自由体操を行うところの
脂
(
あぶら
)
ぎった男などは、朝風呂に多いのである。
めでたき風景
(新字新仮名)
/
小出楢重
(著)
刀をおいた彼は、無器用な手つきで、ふところをさぐって、はだの
脂
(
あぶら
)
を吸って黒く光っている、胴巻きをとり出した。胴まきは、ずっしりと重そうに、ふくらんでいた。
巷説享保図絵
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
棕櫚
(
しゆろ
)
繩の太いのを握つてゐるお梅の
脂
(
あぶら
)
肥りの赤い手を見ながら、猪之介はこんなことを言つた。
兵隊の宿
(旧字旧仮名)
/
上司小剣
(著)
皆の話し声が段々高くなって来た。天願氏も酔っぱらったと見えて隣の男と何か話しながら笑っている。額に
脂
(
あぶら
)
が出ていて、電灯が小さく映っているのがいやらしかった。
風宴
(新字新仮名)
/
梅崎春生
(著)
黒く染めたる
頭髪
(
かみ
)
を
脂
(
あぶら
)
滴
(
したた
)
るばかりに結びつ「加女さん、今年のやうに
寒
(
かん
)
じますと、
老婆
(
としより
)
の
難渋
(
なんじふ
)
ですよ、お互様にネ——梅子さんの時代が
女性
(
をんな
)
の花と云ふもんですねエ——」
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
しめった草の根から
湧
(
わ
)
きだす
糠
(
ぬか
)
のようなぶよが、
脚絆
(
きゃはん
)
のあいめ、
手甲
(
てっこう
)
の結びめなどのやわらかい皮膚に忍びこんで来た。汗と
垢
(
あか
)
と
脂
(
あぶら
)
と、ふんぷんとした体臭をまき散らした。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
なるほど、彼が
風邪
(
かぜ
)
を引くと、ルピック夫人は、彼の顔へ
蝋燭
(
ろうそく
)
の
脂
(
あぶら
)
を塗り、姉のエルネスチイヌや兄貴のフェリックスが、しまいに
妬
(
や
)
けるほど、べたべたな顔にしてしまう。
にんじん
(新字新仮名)
/
ジュール・ルナール
(著)
やがて、女中は
誂
(
あつら
)
えて置いた鳥の肉を大きな皿に入れて運んで来た。
紅
(
あか
)
くおこった火、熱した
鉄鍋
(
てつなべ
)
、沸き立つ
脂
(
あぶら
)
などを
中央
(
まんなか
)
にして、まだ明るいうちに姉弟は夕飯の
箸
(
はし
)
を取った。
家:02 (下)
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
その美しい
貌
(
かお
)
だちをもった、まだ十七八の少女の顔が、
殊更
(
ことさら
)
、抜けるように白く見え、その滑かな額には、汗のような
脂
(
あぶら
)
が浮き、降りかかった断髪が、べっとりと
附
(
くっ
)
ついていた。
鱗粉
(新字新仮名)
/
蘭郁二郎
(著)
脂
常用漢字
中学
部首:⾁
10画
“脂”を含む語句
樹脂
脂肉
臙脂
松脂
脂肪
凝脂
脂臭
浮脂
豚脂
脂下
脂粉
雲脂
血脂
脂気
煙脂
脱脂綿
脂染
生臙脂
脂光
嚥脂
...