しか)” の例文
しかし、其は我々の想像の領分の事で、しかも、歴史に見えるより新しい時代にも、なほ村々・国々の主権者と認められた巫女が多かつた。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
しかもその文体に於て、言葉の調子に於て、場面の動きに於て、つまり全体の「命」と「閃き」に於て、両者に格段の差があるとする。
舞台の言葉 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
国民が集合して、しかして国民的勢力が議会に集注さるるのである。国家的勢力は、何によりて導かるるかというと、即ち輿論である。
憲政に於ける輿論の勢力 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
この実験はその後にマロック(Arnulph Mallock)が完成し、しかしてレーリーの理論的の計算と一致する結果を得た。
レーリー卿(Lord Rayleigh) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
当時の松竹というものは関西では既にを成していたが東京に於てはまだホヤホヤでしかもどの興行も当ったというためしを聞かない
生前身後の事 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殺された女は私の妹でしかも唖であることを、どうしてあなたは発見なさいましたか知りませんが、あなたのその御炯眼けいがんを以てしても
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
あの人達は四里の峠路をしかも夜になるのを承知で、隣村へでも行くように気が軽いのは羨しい、などと話しながら温い食事を始める。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
私は昨夜自動車に出会った場所は、停車場ステーションから海浜旅館ホテルへ出る道路みちとは違っている。しかも汽車が到着ついた時から一時間も経過っていた。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
しかるに形躯けいく変幻へんげんし、そう依附いふし、てんくもり雨湿うるおうの、月落ちしん横たわるのあしたうつばりうそぶいて声あり。其のしつうかがえどもることなし。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
しかしすっかり年をとってしまいましたよ。貴女も随分お変りになった。月の光じゃ一寸見分けがつかない位ですよ。(又切石に坐る)
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
しかしてそれは基督キリスト教徒にとって好都合のことではないと、こう云うのが一の理由となって中止せられたものだと、或る人は云って居た。
釈宗演師を語る (新字新仮名) / 鈴木大拙(著)
しかして今は専門学者の高級にして精到な注釈書が幾つも出来ているから、私の評釈の不備な点は其等それらから自由に補充することが出来る。
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
しかしてその権勢は愈々いよいよ確立せられた。幾度となく欺かれ、裏切られ、蹂躙じゅうりんせられた犠牲者等はひたすら勝利者のためにのみ計つた。
少数と多数 (新字旧仮名) / エマ・ゴールドマン(著)
婦人は、封建的貞操を棄てんとしつつ、しかも、それに代る道徳を見出し得ない。男子は、古き衣を脱いだが、新らしき着物を知らない。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
出づれば、その道まさり、その伴ふ星またまさる、しかしてその己がさがに從ひて世の蝋をとゝのかたすこといよ/\いちじるし 四〇—四二
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
しかしてふ、トラゲヂーの出来事は人物が其力量識見徳行の他に超抜するにもかゝはらず、不幸の末路に終へしむる所の衝突コンフリクトを有し
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
西遊記さいゆうきに似て、しかも其の誇誕こたんは少しくゆずり、水滸伝に近くして、而もの豪快は及ばず、三国志のごとくして、而も其の殺伐はやゝすくなし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いまかならずしも(六四)其身そのみこれもらさざるも、しかも((説者ノ))((適〻))かくところことおよばんに、かくごとものあやふし。
人間性の、あらゆる洗練を経た後のあわれさ、素朴さ、切実さ——それが馬鹿らしい程小児性じみてしかも無性格に表現されている巴里。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
しかも其れが、趣味とか流行とかの問題に関して、何等なんらの教養をも受けた筈のない、貧乏人の子供なのだから一層特筆すべきである。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
しかも、その嗚咽は不思議に、深い感情を伴って居ない軽い発作で、而も余りに大げさな外観を持って居た。彼は自分で自分を卑しんだ。
大島が出来る話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
鼻にぬけた胴間声どうまごえで、しゃべるわしゃべるわ、しかも山岳に対しては、Mönch の発音さえ覚束おぼつかないしろ者なんだからあきれかえる。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
「平和を求めよしかして永遠の平和あれ」と叫んで歩く名もない乞食の姿を彼女は何んとなく考え深く眺めないではいられなかった。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかして——うん、ここをよくきき給え——いくら否認しつづけても、僕が君を殺人犯人也と確信したならば直ちに起訴することが出来る。
しかして、近代になって、長岡半太郎博士は水銀を金に変化する実験に成功して、遂に人類のあこがれていた一種の錬金術を見出したわけです。
科学が臍を曲げた話 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
しかしてこの精神は遂に発して南洋との貿易となり、山原やんばる船ははるかにスマトラの東岸まで航行して葡萄牙ポルトガルの冒険家ピントを驚かしたのである。
琉球史の趨勢 (新字新仮名) / 伊波普猷(著)
家庭に於ては夫婦喧嘩をなし、一杯機嫌で打擲ちょうちゃくをなしてはばからず、しかしてその子弟を聖人たらしめよとは矛盾の甚しきものである。
教育の最大目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
日本人が支那に対してはたらくために必要な知識であってしかも綿密な学術的研究によってでなくては知り得られないことが、極めて多い。
朝に水をかひ、夕に虫をはらふて、しかして、一年なれ、二年なれ、しかる後に静かに其花前にひざまづいて、思へよ、恥ぢよ、悔いよ。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
避けて來た交番だが、西の久保通りの、廣町角にあるのは、どうしてもその前を——しかも挨拶して——通らなければならないのであつた。
しかしてその妖巫の眼力が邪視だ。本邦にも、飛騨ひだ牛蒡ごぼう種てふ家筋あり、その男女が悪意もてにらむと、人は申すに及ばず菜大根すらしぼむ。
一方いつぽう屋外おくがい避難ひなんせんとする場合ばあひおいては、まだきらないうち家屋かおく倒潰とうかいし、しか入口いりぐちおほきな横木よこぎ壓伏あつぷくせられる危險きけんともなふことがある。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
しかして真情の流露する時、至誠の発動するところ、必ずや全身のすべての表現の渾然たる一致を見なければならぬ筈であります。
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「我らは無窮を追ふ無益の探究を捨てなむ。しかうして我らの身を現在の歓楽にゆだねむ。竪琴たてごとのこころよき音にふるふ長き黒髪に触れつつ」
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
……彼はかうして幼年時代の追想にふけりつづけた。しかもそれらはことごとく、今日まで殆んど跡方もなく忘却し尽して居たことばかりであつた。
しかしてそはかの目しひたる少女なりき。われはこの哀むべき少女の我歌を聞きしを知りぬ、我がその限なき不幸を歌ふを聞きしを知りぬ。
各人はみづから己れの生涯を説明せんとて、行為言動を示すものなり、しかして今日に至るまで真に自己を説明し得たるもの、果して幾個かある。
各人心宮内の秘宮 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
しかしてそれが矛盾的自己同一なるが故に、時は過去から未来へ、作られたものから作るものへと、無限に動いて行くのである。
絶対矛盾的自己同一 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
呶鳴どなるような、吐棄はきすてるような、それでいておごそかな響のある声で博士はえるのであった。厳格でしかも凄味のある声であった。
おもうに今度の黒手組事件は、よくある不良青年の気まぐれなどではなくて、非常に頭の鋭いしかも極めて豪胆な連中の仕業しわざに相違ありません。
黒手組 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しかもジリリと心にかぶさつてくる生くわつ問題もんだいの重あつを一方にになひながら、むしろより悲壯ひそうたゝかひをたゝかつてゐると見られぬ事はない。
しかも、乳母として、お清さんと呼び、確か重明が十か十一の年までまめ/\しく仕えていた所の女が、彼の実母であったのだ!
しかし私は恥しがりの子でしたから鹿喰しゝくひと云ふ叔母の家ででも龍源ででも余り座敷へ上つて遊ぶやうなことはありませんでした。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
追って行く。向うから戸川さんがやって来る。ふむ、つまり、挟撃はさみうちだ。しかも道路は、一本道!……ところが、犯人はいない?……すると……
石塀幽霊 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
それは立って歩いている人影で、しかも、レールをはさんで右側を黒っぽい着物を着た男が、そして左側を、瘠形やせがたの女らしい人影があった——。
(新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
うちのアニキと来ては、全くそう言われても仕方がない。彼は本の講義をした時、あの口からじかに「へてしかしてくらふ」
狂人日記 (新字新仮名) / 魯迅(著)
しかしてその指示の原因はいずれよりすと尋ぬるに、一両年間、貿易輸出入の不平均か、もしくは隣国一大臣の進退にすぎず。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
しん少主せうしゆとき婦人ふじんあり。容色ようしよく艷麗えんれい一代いちだいしかしておびしたむなしくりやうあしともにもゝよりなし。常人じやうじんことなるなかりき。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
大獅子尊者センチェン・ドルジェチャン 当時チベット第一の高僧大獅子金剛宝は下獄の上死刑の宣告を受けしかして死刑に処せられた状態を聞きますに
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
こと自分じぶん投宿とうしゆくした中西屋なかにしやといふは部室數へやかずも三十ぢかくあつてはら温泉をんせんではだい一といはれてながらしか空室あきまはイクラもないほど繁盛はんじやうであつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)