端近はしぢか)” の例文
同月二十三日亦々また/\評定所ひやうぢやうしよに呼び出さる大岡殿端近はしぢかく席を進まれ大目附御目附立合にて留役衆吟味ぎんみ書を改めて差出さるゝに大岡殿やがて白洲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
侍女三、四、両人して白き枝珊瑚えださんごの椅子を捧げ、床の端近はしぢかに据う。大隋円形だえんけいの白き琅玕ろうかんの、沈みたる光沢を帯べる卓子テエブル、上段の中央にあり。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばかにしていやがら、つい端近はしぢかに、この道庵というものが控えているのを知りながら、ほかへ使をやるなんて、胡麻すりのお角もお角じゃねえか
『まだ、装束も昨夜のままにて、あまり尾籠びろうていにござります故、もそっと端近はしぢかにて頂戴いたしとうござる』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母はめったに端近はしぢかいあたりへ姿を現わすことはなく、母屋おもやの奥の方の一と間にめていて、彼が行くと必ず膝の上に載せて頭を撫で、頬ずりをしてくれるので
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
其処そこ端近はしぢかず先ずこれへとも何とも言わぬ中に母はつかつかと上って長火鉢のむこうへむずとばかり
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
内儀かみさんは聳然すつくりたつてはるが到底たうてい枯死こしすべき運命うんめいつて喬木けうぼく數本すうほん端近はしぢか見上みあげていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
母までが端近はしぢかに出て来てみんなの話にばつを合わせる。省作がよく働きさえすれば母は家のものに肩身が広くいつでも愉快なのだ。慈愛の親に孝をするはわけのないものである。
隣の嫁 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
仏蘭西フランス風の女用上靴うわぐつと一しょに端近はしぢかの床にころがっているのを発見したのだが、這入って、黙って手に取ってみると、私は妙に身体からだじゅうがしいんと鳴りをしずめるのを感じた。
踊る地平線:05 白夜幻想曲 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
そうして縁へ両手をつくと、端近はしぢかにいた高坂出羽権守ごんのかみの耳へ、何やらヒソヒソ囁いた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何でも電話のあるところが端近はしぢかで、言ひたいことも思ひ切つて言へないといふ風で、暫く絶句してゐたが、いくらか、小声になつて、「待つてゐたんですの。いつおつきになりましたの?」
時子 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
「先生、そこはあまり端近はしぢかです。まあお上がりください。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何ですか端近はしぢかで……。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
理學士りがくし言掛いひかけて、わたしかほて、して四邊あたりた。うしたみせ端近はしぢかは、おくより、二階にかいより、かへつて椅子いすしづかであつた——
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「……ともあれ、ここはご休息なさるにしては端近はしぢかです。綱条の室までお越し遊ばしませぬか」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若葉の繁みで土庇どびさしの外が小暗いばかりになっている座敷の、わざとすずしい端近はしぢかな方へ席を取ってほっと一と息入れている夫婦のけはいから、それとなく何かを見て取ろうとした老人は
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
なんとなく浮世うきよからはなれた樣子やうすで、滅多めつたかほせない女主人をんなあるじが、でも、端近はしぢかへはないで、座敷ざしきなかほどに一人ひとりた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
端近はしぢかだ、お上がりあれ」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仲の町でもこの大一座は目に立つ処へ、浅間あさま端近はしぢか戸外おもてへ人立ちは、嬉しがらないのを知って、うち姉御あねごが気を着けて、すだれという処を、幕にした。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『こんな、端近はしぢかでは』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
既に、草刈り、しば刈りの女なら知らぬこと、髪、化粧けわいし、色香いろかかたちづくった町の女が、御堂みどう、拝殿とも言わず、このきざはし端近はしぢかく、小春こはる日南ひなたでもある事か。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼方あちらへもお顔をと言われるにも、気がさして、われからすすむともなく廊下を押されて、怪談の席へつらなった。人は居余いあまるのだから、端近はしぢかを求むるにたよりはい。
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
くだん天守てんしゆむねちかい、五階目ごかいめあたりの端近はしぢかところて、かすみひつゝ大欠伸おほあくび坊主ばうずがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
赤坂あかさか見附みつけちかい、ある珈琲店コオヒイてん端近はしぢか卓子テエブルで、工學士こうがくし麥酒ビイル硝子杯コツプひかへてつた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
……いまのおんな門外もんそとまで、それを送ると、入違いに女中が、端近はしぢかへ茶盆を持って出て、座蒲団をと云った工合で?……うしろに古物こぶつ衝立ついたてが立って、山鳥やまどりの剥製が覗いている。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
指が触ると、掌に、おんなの姿はうなじの白い、翼の青い、怪しく美しい鳥が留ったような気がして、巽の腕は萎えたる如く、往来ゆきき端近はしぢかな処に居ながら、振払うことが出来なかった。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
赤帽の言葉を善意に解するにつけても、いやしくも中山高帽やまたかかぶって、外套も服も身に添った、洋行がえりの大学教授が、端近はしぢかへ押出して、その際じたばたすべきではあるまい。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
障子を開けて縁の端近はしぢかに差向いに坐ったのは、わかい人、すなわち黒門の客である。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
電燈のついたばかりの、町店が、一軒、檐下のきしたのごく端近はしぢかで、大蜃おおはまぐり吹出ふきだしたような、湯気をむらむらと立てると、蒸籠せいろうからへぶちまけました、うまそうな、饅頭と、真黄色な?……
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とき御新姐ごしんぞみじか時分じぶんことえん端近はしぢかて、御前ごぜん誕生日たんじやうびにはをつと着換きかへてようとふ、紋服もんぷくを、またうでもない、しつけのいと一筋ひとすぢ間違まちがはぬやう、箪笥たんすからして、とほして
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と云うと、奇異なのは、宵に宰八が一杯——んで来て、——縁の端近はしぢかに置いた手桶ておけが、ひょい、と倒斛斗さかとんぼひっくりかえると、ざぶりと水をこぼしながら、アノ手でつかつかと歩行あるき出した。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とき御新造ごしんぞみじか時分じぶんことえん端近はしぢかて、御前ごぜん誕生日たんじやうびには着換きかへてようとふ、紋服もんぷくを、またうでもない、しつけのいと一筋ひとすぢ間違まちがひのないやうに、箪笥たんすからして、とほして
二た面 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
仮に差置いたような庵ながらかまえは縁が高い、端近はしぢか三宝さんぼうを二つ置いて、一つには横綴の帳一冊、一つには奉納の米袋、ぱらぱらと少しこぼれて、おひねりというのが捧げてある、真中に硯箱が出て
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かまち納涼台すずみだいのやうにして、端近はしぢかに、小造こづくりで二十二三のおんなが、しつとりと夜露よつゆに重さうな縞縮緬しまちりめんつまを投げつゝ、軒下のきしたふ霧を軽く踏んで、すらりと、くの字に腰を掛け、戸外おもてながめて居たのを
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
やかたおくなる夫人ふじんの、つねさへ白鼈甲しろべつかふ眞珠しんじゆちりばめたる毛留ブローチして、つるはだに、孔雀くじやくよそほひにのみれたるが、このたまはるを、けて、とおもふに、いかに、端近はしぢかちや居迎ゐむかふる姿すがたれば、櫛卷くしまき薄化粧うすげしやう
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
えんへはみ出るくらい端近はしぢかに坐ると一緒に
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
端近はしぢかになったがいとわかすずしき声で
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)