硝子窓がらすまど)” の例文
まず、窓際へゆっくり席をとって、硝子窓がらすまどを思いッきり押しあける。と、こころよい五月の微風びふうが、れかかるように流れこんで来た。
香水紳士 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
北の硝子窓がらすまどをしめて、座敷の南縁に立って居ると、ぽつりと一つ大きな白いつぶが落ちて、乾いて黄粉きなこの様になった土にころりところんだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
あなたの二階の硝子窓がらすまどおのずから明るくなれば、青簾あおすだれ波紋なみうつ朝風に虫籠ゆらぎて、思い出したるように啼出なきだ蟋蟀きりぎりすの一声、いずれも凉し。
銀座の朝 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いきいきした友だちの顔色には中学校時代の面影がまだ残っていて、硝子窓がらすまどの下や運動場や湯呑場ゆのみじょうなどで話し合った符牃ふちょうや言葉がたえず出る。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
緑とくれないにていろどりし花毛氈はなもうせんを敷詰めたる一室の正面にはだいなる硝子窓がらすまどありて、異国の旗立てし四、五そうの商船海上にうかびたるさまを見せたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
吃驚びっくりして、ひょいと顔を上げると、横合から硝子窓がらすまど照々てらてらと当る日が、片頬かたほおへかっと射したので、ぱちぱちとまたたいた。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二三分ののちとなりひとの迷惑さうなかほに気がいて、又もとの通りに硝子窓がらすまどげた。硝子がらす表側おもてがはには、はぢけたあめたまたまつて、往来が多少ゆがんで見えた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
が、この部屋の天井の隅には針金細工の鳥籠とりかごが一つ、硝子窓がらすまどの側にぶら下げてあった。その又籠の中には栗鼠りすが二匹、全然何の音も立てずに止まり木を上ったり下ったりしていた。
湖南の扇 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その四かく彼女かれいてる硝子窓がらすまどからは、黄色きいろ落葉松からまつはやしや、紫色むらさきいろ藻岩山さうがんざんえて、いつもまちこしをおろしてなみだぐむときは、黄昏たそがれ夕日ゆふひのおちるとき硝子窓がらすまどあかくそまつてゐた。
追憶 (旧字旧仮名) / 素木しづ(著)
雨漏りのあとが怪しげな形を茶褐色にえがいている紙張の天井、濃淡のある鼠色ねずみいろに汚れた白壁、廊下からのぞかれる処だけ紙を張った硝子窓がらすまどしょうの知れない不潔物が木理もくめに染み込んで、乾いた時は灰色
食堂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それから良平が陸軍大学の予備試験に及第しながら都合上後廻わしにされたをいきどおって、硝子窓がらすまどを打破ったと云う、最後に住んだ官舎の前を通った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「先生、雨です。」という間もなく、硝子窓がらすまどに一千のつぶてばらばらと響き渡って、この建物のゆらぐかと、万斛ばんこくの雨は一注して、ごうとばかりに降って来た。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西の方へ傾いた日が斜めに広い坂を照らして、坂上さかうへの両側にある工科の建築の硝子窓がらすまどが燃える様に輝やいてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
つまが叫んだ。南西からざァっと吹かけて来て、縁はたちまち川になった。妻とおんなあわてゝ書院の雨戸をくる。主人は障子、廊下の硝子窓がらすまどをしめてまわる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
閉込しめこんだ硝子窓がらすまどがびりびりと鳴って、青空へ灰汁あくたたえて、上からゆすって沸立たせるようなすさまじい風が吹く。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その音楽の神といえば、見たまえ、この硝子窓がらすまどの向うに見える、下の外科室の屋根を隔てた煉瓦れんが造りを。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
卓子に相対して、薬局の硝子窓がらすまど背後うしろに、かの白の上服うわぎを着たのと、いま一人洋服を着けた少年と、処方帳をずばと左右に繰広げ、ペン墨汁インキを含ませつつ控えたり。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この硝子窓がらすまどの並びの、運動場のやっぱり窓際に席があって、……もっとも二人並んだ内側の方だが。さっぱり気が着かずにいた。……成程、その席が一ツ穴になっている。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
停車場ステーシヨンの一ぱうはしつて、構内こうないはづれのところに、番小屋ばんごやをからくりでせるやうな硝子窓がらすまど小店こみせがあつて、ふう/\しろ湯気ゆげまど吹出ふきだしては、ともしびうす
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
腰掛こしかけあがんで、つき硝子窓がらすまどに、ほねいて凍付いてついてたのが、あわてて、向直むきなほつて、爪探つまさぐりに下駄げたひろつて、外套ぐわいたうしたで、ずるりとゆるんだおびめると、えり引掻合ひつかきあはせるとき
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
逡巡しりごみをする五助に入交いれかわって作平、突然いきなり手を懸けると、が忘れたか戸締とじまりがないので、硝子窓がらすまどをあけてまたいで入ると、雪あかりの上、月がさすので、明かに見えた真鍮しんちゆうの大薬鑵。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また雲が濃く、大空に乱れ流れて、硝子窓がらすまどの薄暗くなって来たのさえ、しかとは心着かぬ。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日の光に濃く白かった写真館の二階の硝子窓がらすまどを開けて、青黒い顔の長い男が、中折帽をかぶったまま、戸外おもてへ口をあけて、ぺろりと唇をめたのとほとんど同時であったから、窓と
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と謙造はおもてそむけて、硝子窓がらすまど。そのおなじ山がかして見える。日はかたむいたのである。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やすくて深切しんせつなタクシイをばして、硝子窓がらすまどふきつける雨模樣あまもやうも、おもしろく、うまつたり駕籠かごつたり、松並木まつなみきつたり、やまつたり、うそのないところ、溪河たにがはながれたりで
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ほたり/\とちて、ずるりと硝子窓がらすまどながるゝしづくは、どぜうのぞ気勢けはひである。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
言う時、煉瓦造れんがづくりの高い寄宿舎の二階から一文字に懸けてあるくろがねといが鳴って、深い溝を一団の湯気が白々とうずまあがった。硝子窓がらすまど朦朧もうろうとして、夕暮の寒さが身に染みるほど室の煖まるのが感じらるる。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たれ一人ひとりよこるなんど場席ばせきはない。花枕はなまくら草枕くさまくら旅枕たびまくら皮枕かはまくらたてよこに、硝子窓がらすまど押着おしつけたかたたるや、浮嚢うきぶくろ取外とりはづした柄杓ひしやくたぬもののごとく、をりからそとのどしやぶりに、宛然さながら人間にんげん海月くらげる。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
しろえる、莞爾につこりわら面影おもかげさへ、俯向うつむくのも、あふぐのも、かさねるのも微笑ほゝゑとき一人ひとりかたをたゝくのも……つぼみがひら/\ひらくやうにえながら、あつ硝子窓がらすまどへだてたやうに
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
硝子窓がらすまどかぜひたひまつはる、あせばんでさへたらしい。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
硝子窓がらすまどへばらばらと雨が当った。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)