無念むねん)” の例文
うつくしきかほ似合にあはぬはこゝろ小學校通せうがくかうがよひに紫袱紗むらさきふくさつゐにせしころ年上としうへ生徒せいと喧嘩いさかひまけて無念むねんこぶしにぎときおなじやうになみだちて
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
しかし何せよ、慓悍無比ひょうかんむひな命しらずである。ただでさえせいのおとろえている伊那丸は、無念むねんや、ジリジリ追われ勝ちになってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その時分じぶん不安ふあん焦燥しょうそう無念むねん痛心つうしん……いまでこそすっかり精神こころ平静へいせいもどし、べつにくやしいとも、かなしいともおもわなくなりましたが
し今日露顯ろけんに及ばんとする事衆怨しうゑんの歸する所にして就中なかんづく道十郎が無念むねん魂魄こんぱくとお光が貞心ていしんを神佛の助け給ふ所ならん恐るべしつゝしむべし。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そのこん水干すゐかんをとこは、わたしをごめにしてしまふと、しばられたをつとながめながら、あざけるやうにわらひました。をつとはどんなに無念むねんだつたでせう。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
一つの作にも我執を慎む教旨や、無念むねんを念とする禅意や、どうして衆生しゅじょうが救われるかのあの他力観が具体的な形において説かれているのである。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
武村兵曹たけむらへいそう眼中がんちう無念むねんなみだうかべて、いま多少たせう仇浪あだなみ立騷たちさわいで海面かいめんにらんでる。日出雄少年ひでをせうねんはいと/\かなさう
海岸に、はいまわっているかにで、そのこうらが、いかにもうらみをのんだ無念むねんそうなひとの顔の形をしたものが、ぞろぞろとでるようになりました。
壇ノ浦の鬼火 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
人の噂に味方みかた敗北はいぼくを聞くごとに、無念むねんさ、もどかしさに耐へ得ず、雙の腕をやくして法體ほつたいの今更變へ難きを恨むのみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
だから其所そこふにしのびない苦痛くつうがあつた。彼等かれら殘酷ざんこく運命うんめい氣紛きまぐれつみもない二人ふたり不意ふいつて、面白おもしろ半分はんぶんおとしあななかおとしたのを無念むねんおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
「いえ、昨日きのうたびめずらしいとりが、ここへやってきましたが、わたしへはまらなかったので、わたしは、かなしくてなりませんでした。」と、とちのきは、さも無念むねんそうに
谷間のしじゅうから (新字新仮名) / 小川未明(著)
ほゝにく引掴ひツつかんで、口惜涙くやしなみだ無念むねんなみだ慚愧ざんきなみだせんずれば、たゞ/\最惜いとをしさのなみだはては、おなじおもひを一所いつしよにしようと、われらこれまたとほり、兩眼りやうがんわれ我手わがて
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
とりちからおよがたく、無念むねんのむ瞋恚しんい
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
無念むねんの報告
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
裾野すそのやみに乗じられて、まんまと、六部ろくぶ龍太郎りゅうたろうのために、大せつな主君を、うばいさられた、かれの無念むねんさは思いやられる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十露盤玉そろばんだま筆先ふでさき帳尻ちやうじりつくろふ溝鼠どぶねづみのみなりけん主家しゆか一大事いちだいじ今日こんにち申合まをしあはせたるやうに富士見ふじみ西行さいぎやうきめ見返みかへるものさへあらざれば無念むねんなみだ
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
見る事ぞ病氣でさへなき物ならば此邊迄も見送みおくやらんに無念むねんの事を仕てけりと前後不覺ぜんごふかくに泣沈み正體しやうたいさらあらざれば其有樣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
玉依姫様たまよりひめさまは一々首肯うなづきながらわたくし物語ものがたり熱心ねっしんみみかたむけてくだされ、最後さいごわたくしひとりさびしく無念むねんなみだれながらわかくて歿なくなったことを申上もうしあげますと
信仰に活くる者は体験したであろう、いかなる意味で宗祖たちが、厚く「我空がくう」を説き「無念むねん」を説いたかを。我執がしゅう有想うそうとは信仰にとっての二つの敵であった。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
かうべあるものこしかして、ぺた/\とつて瞪目たうもくしてこれれば、かしらなき將軍しやうぐんどう屹然きつぜんとして馬上ばじやうにあり。むねなかよりこゑはなつて、さけんでいはく、無念むねんなり、いくさあらず、てきのためにそこなはれぬ。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
りくまで、もう一息ひといきというところで、無念むねんにも弾丸たまけて、徳蔵とくぞうさんは
とびよ鳴け (新字新仮名) / 小川未明(著)
兵曹へいそう無念むねん切齒はがみをなし
小幡民部こばたみんぶも、無念むねんなていに見えたけれど、伊那丸いなまるはあえて、もとめよともいわず、かえって、みなが気のつかぬところに注意をあたえた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
二度まで來りし市之丞が當時の住所ぢうしよ名前等も聞置ざりしは全く文右衞門の無念むねんなり然ば久兵衞其落度に付込みかく難題なんだい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
無念むねん残念ざんねんとで、もうきている心地ここちはなかったのです。
ちょうと怒濤 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかりつけられて我知われしらずあとじさりする意氣地いくぢなさまだしもこほる夜嵐よあらし辻待つじまち提燈ちやうちんえかへるまであんじらるゝは二親ふたおやのことなりれぬ貧苦ひんくめらるゝと懷舊くわいきうじやうのやるかたなさとが老體らうたいどくになりてやなみだがちにおなじやうなわづらかたそれも御尤ごもつともなりわれさへ無念むねんはらわたをさまらぬものを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)