たゞよ)” の例文
にごれるみづいろへて極彩色ごくさいしき金屏風きんびやうぶわたるがごとく、秋草模樣あきくさもやうつゆそでは、たか紫苑しをんこずゑりて、おどろてふとともにたゞよへり。
婦人十一題 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
沈んだ冷たい空気が常に家の中にたゞようて居る。暗い重い沈黙が家人の心を圧して居る。あゝこの塊がとれたら如何に胸のすくことであらう……。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
其の晩も二人は町や海岸を散歩して、帰つてからも遅くまで月光のたゞよひ流れてゐる野面のづらを眺めながら話してゐた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
體中の汗が一時に引いたほど、四邊には窈冥えうめいたる冷氣がいつばいたゞようてゐた。傍の立札には、建武元年十一月より翌年七月まで八ヶ月間護良親王こゝに幽閉され給ふ、と書いてあつた。
滑川畔にて (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
むなしく波上はじやうたゞよつてるのは無謀むぼう此上このうへもないことです。
水のまにまにたゞよへば、陸を離れし半島も
雨夜あまよたちばなそれにはないが、よわい、ほつそりした、はなか、空燻そらだきか、なにやらかをりが、たよりなげに屋根やねたゞようて、うやらひと女性によしやうらしい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
白鼠色の縁をとつた黒い厚い雪がむく/\とたゞようて居た。青い空が其間から見られた。太陽は時々強い光を投げた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
ひさしたゞよ羽目はめなびいて、さつみづつる、はゞ二間にけんばかりのむらさきを、高樓たかどのき、欄干らんかんにしぶきをたせてつたもえる、ふぢはななるたきである。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
そしてもとの入江に入つて船をつないだのは、夕映が真赤に海にたゞよふ頃であつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
が、小人数こにんずとはへ、ひとがなかつたら、友染いうぜんそでをのせて、たゞ二人ふたり真暗まつくらみづたゞよおもひがしたらう。
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はな眞紅まつかなのが、ゆる不知火しらぬひ、めらりとんで、荒海あらうみたゞよ風情ふぜいに、日向ひなた大地だいちちたのである。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
飛脚ひきやく大波おほなみたゞよごとく、鬼門關きもんくわんおよがされて、からくも燈明臺とうみやうだいみとめた一基いつき路端みちばたふる石碑せきひ
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二日ふつか三日みつかおなじやうな御惱氣ごなうけつゞいたところ三月さんぐわつ十日とをか午後ごごからしよぼ/\とあめになつて、薄暗うすぐら炬燵こたつ周圍しうゐへ、べつして邪氣じやきたゞよなかで、女房にようばう箪笥たんす抽斗ひきだしをがた/\とけたり
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
いとみだして、はな眞赤まつかる、と淡紅うすべになみなかへ、しろ眞倒まつさかさまつてぬましづんだ。みぎはひろくするらしいしづかなみづいて、血汐ちしほ綿わたがすら/\とみどりいてたゞよながれる……
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
おなたかさにいたゞきならべて、遠近をちこちみねが、東雲しのゝめうごきはじめるかすみうへたゞよつて、水紅色ときいろ薄紫うすむらさき相累あひかさなり、浅黄あさぎ紺青こんじやう対向むかひあふ、かすかなかゆきかついで、明星みやうじやう余波なごりごと晃々きら/\かゞやくのがある。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
切符きつぷつて、改札口かいさつぐちて、精々せい/″\きりすそ泥撥どろはねげないやうに、れた石壇いしだんあがると、一面いちめんあめなかに、不知火しらぬひいてたゞよ都大路みやこおほぢ電燈でんとうながら、横繁吹よこしぶききつけられて
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
冬分ふゆぶん往々わう/\敦賀つるがからふねが、其處そこ金石かないはながら、端舟はしけ便べんがないために、五日いつか七日なぬかたゞよひつゝ、はて佐渡さどしま吹放ふきはなたれたり、思切おもひきつて、もとの敦賀つるが逆戻ぎやくもどりすることさへあつた。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
兩方りやうはうあひだには、そでむすんでまとひつくやうに、ほんのりとならぬかをりたゞよふ。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふわ/\と其処そこなびく、湯気ゆげほそかどの、よこたゞよ消際きえぎはが、こんもりとやさしはなのこして、ぽつといて、衣絵きぬゑさんのまゆくちくちびる白歯しらは。……あゝあのときの、死顔しにがほが、まざ/\と、いまひざへ……
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)