格子こうし)” の例文
日の暮れるころには、村の人たちは本陣の前の街道に集まって来て、梅屋の格子こうし先あたりから問屋の石垣いしがきの辺へかけて黒山を築いた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
比較的間口の広いその玄関の入口はことごとくほそ格子こうしで仕切られているだけで、唐戸からどだのドアだのの装飾はどこにも見られなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
戸を開けようとしましたが、外からじょうがおりています。窓の所へ行ってみましたが、太い鉄棒の格子こうしがついていて、身体からだが通りません。
泥坊 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「いえ。すべてでは千人あまりもござりましょうが、そのうちで太夫たゆう格子こうし局女郎つぼねじょろうなぞと、てまえかってな差別をつけてござります」
あまりの剣幕に驚いたか、ガラッ八は二つ三つお辞儀をすると、おびえた猫の子のように、後ずさりに格子こうしの外へ飛出してしまいました。
じっと源氏のそばへ寄って、この場所がこわくてならぬふうであるのがいかにも若々しい。格子こうしを早くおろしてをつけさせてからも
源氏物語:04 夕顔 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ところがもっと不思議な事には、翌朝、関白の家の格子こうしをあけると、今、山からとれたばかりとしか思えないしきみが、一枝置かれていた。
後になって入口の格子こうしの上に掛けたとか聞きました。日在へは兄はあまり行きませんでしたが、賀古氏は晩年よく行っていられました。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
土蔵くらを脱け出すくらい何でもなかったのよ。妾あんまり口惜しかったから、アノお土蔵くらの二階の窓にまっていた鉄の格子こうしね。
狂人は笑う (新字新仮名) / 夢野久作(著)
室内に一人でいても、この鏡の関係と、天井の通風口の格子こうしとに気がつけば、上下左右に無数の見えない視線を意識したはずだ。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
草葡萄くさぶどうのくすんだ藍地あいじに太い黒の格子こうしが入ったそれは非常に地味な着物であったが、膝頭ひざがしらのあたりから軽く自然に裾をさばいて
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしはごくしずかにまどを開けた。なにがそこにあったか。相変あいかわらず鉄の格子こうしと、高いかべが前にあった。わたしは出ることができない。
陽炎かげろうのような陽影ひかげが、黒い格子こうし天井にうごいている。それを仰いでいる荒木十左衛門の足もとへ、内蔵助はふたたび平伏して
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
くまは、かごの格子こうしから、おおきなからだ比較ひかくして、ばかにちいさくえるあたまをば上下じょうげって、あたりをながめていました。
汽車の中のくまと鶏 (新字新仮名) / 小川未明(著)
並木通りの入口のソバ屋かなんかの格子こうしを後にして一生けんめい叩き合って四五人に手傷を負わせると敵にややヒルミが見えたから、ここだ
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
父親は二階の格子こうしを取りはずしてくれた。光線は流るるように一室にみなぎりわたった。窓の下には足長蜂あしながばちが巣をかもしてブンブン飛んでいた。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
せめて子供に格子こうしから手を出さしてそれにくちびるをつけることだけは許してもらえるように願った。がそれもほとんどしかるようにして拒絶された。
家はもちろん旧式の木造で、二階は格子こうしのはまった部屋になっていたが、下はかなり新式に改造されていた。この土地では、まあ大きい店であった。
私の生まれた家 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
灰色の格子こうしの背広に、黒っぽいグリンのズボンをはいているのは如何にもこの時代の機械屋さんと云った感じだった。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
といつて、れいくるまをさしせると、不思議ふしぎにもかたとざした格子こうし土藏どぞう自然しぜんいて、ひめからだはする/\とました。
竹取物語 (旧字旧仮名) / 和田万吉(著)
行って見ると、玄関の格子こうしの中には、真中まんなかから髪を割って、柄の長い紫のパラソルを持った初子はつこが、いつもよりは一層溌剌はつらつと外光にそむいてたたずんでいた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると、ツグミも窓の格子こうしの所にとまって、ひとばんじゅう、一生けんめい、おもしろい歌をうたって、気をおとさないようにとはげましてくれました。
赤城神社あかぎさま境内なかに阪東三江八ってお踊の師匠さんがあってね、赤城さまへ遊びにゆくと、三江八さんのところの格子こうしにつかまってのぞいてばかりいたのさ。
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
秋のお祭なんかにはよくそんな看板を見るんだがなあ、自転車ですりばちの形になった格子こうしの中を馳けるんだよ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
家中の畳の数や電燈の数は固よりのこと、障子の格子こうし天井てんじょうさんまで数えている。数に兎角興味がある。この間銀座へ行く途中、電車に故障があった時
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
母屋おもやと覚しい建物の所まで行って見ると、そこも今は廃屋はいおくになっているらしく、格子こうしが固くとざしてあって、夕ぐれであるのに一点のも洩れてはいない。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
仕立屋の格子こうし先に立つと、雨戸がしまってもうすっかり寝しずまっているようだが、コツ、コツと、軽く叩いて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そして、まるで態との様に、玄関の格子こうしをガタピシ云わせて、やっとのことで門の所までたどることが出来た。
灰神楽 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
長さは三フィート半、幅は三フィート、深さは二フィート半あった。鍛鉄たんてつたがでしっかりと締め、びょうを打ってあって、全体に一種の格子こうし細工をなしている。
黄金虫 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
主人はなつかしげに無造作むぞうさにこういって玄関げんかんがりはなに立った。近眼きんがんの、すこぶる度の強そうな眼鏡で格子こうしの外をのぞくように、君、はいらんかという。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
木之助があけようとして手をかけた入口の格子こうし硝子に「諸芸人、物貰ものもらい、押売り、強請ゆすり、一切おことわり、警察電話一五〇番」と書いた判紙はんしってあった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
と、そう思返おもいかえしたものの、やはり失望しつぼうかれこころにいよいよつのって、かれおもわずりょう格子こうしとらえ、力儘ちからまかせに揺動ゆすぶったが、堅固けんご格子こうしはミチリとのおともせぬ。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
格子こうし模様の屋根は蜘蛛くもの巣のようにおどろくほどこまかく、軽々と、そしてしっかり造りあげられていた。
今晩方も店に出ていたら、格子こうしの外を軽そうな下駄げたの音などして、通る人は花のうわさをしていましたよ。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「おかあさん、手塚の家の天井てんじょう格子こうしになって一つ一つに絵をってあります、絹にかいたきれいな絵!」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ちょうど真向いが、石川淡路守いしかわあわじのかみ中屋敷なかやしき、顎十郎は源氏塀げんじべい格子こうし窓の下へ走って行くと、頓狂な声で
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
七兵衛とお松はけむに捲かれて、あとをついて行くと、湯島の高台に近い妻恋坂つまこいざかの西にはずれた裏のところ、三間間口さんげんまぐちを二間の黒塀くろべいで、一間のあいだはくぐりの格子こうし
地には落さじとやうにあわふためき、油紙もて承けんとる、その利腕ききうでをやにはにとらへて直行は格子こうしの外へおしださんと為たり。彼はおされながら格子にすがりて差理無理しやりむり争ひ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二階の明りのついたひとつの窓では、格子こうしの後ろで小さな子供たちが遊んでいたが、まだ自分の場所から動くことができないで、小さな手で互いにさわり合っていた。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
荒い格子こうしおりに閉じこめられて嘆いてる仔牛こうし、青っぽい白目をしてる飛び出した大きい黒い眼、薄赤い眼瞼まぶた、白い睫毛まつげ、額に縮れてる白い尨毛むくげ、紫色の鼻、X形の足
格子こうしが開いたと思うと「今日は」と入って来たのが一人の軍曹。自分をちょっと尻目しりめにかけ
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
妹たちが食事を終わって二人であと始末をしているとまた玄関の格子こうしが静かにあく音がした。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
くれは日曜にちえう終日ひねもすてもとがむるひとし、まくら相手あひて芋虫いもむし眞似まねびて、おもて格子こうしにはでうをおろしたまゝ、人訪ひとゝへともおともせず、いたづらに午後ごゝといふころなりぬれば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すくなくともかの女にはそう感じられ、ささやかな竹垣や、いかめしい石垣、格子こうしのカナメ垣の墓囲いも、人間の小さい、いじらしい生前と死後との境を何か意味するように見える。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこへ、ガラッ! 威勢いせいよくおもての格子こうしがあいて、聞きれない人のおとずれる声がする。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
縁結びの心願の偶像となったものとか、今でもほこら格子こうしに多くの文が附けられてある。
住居の門口かどぐちらしい微暗うすぐらい燈のした処が、右側に三処みところばかりあった。女はその最後の微暗い燈の家へ、門口の格子こうしを開けて入り、建てつけの悪いその戸をガシャリと閉めてしまった。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おれは娘の病気の平癒へいゆを祈るために、ゆうべここに参籠さんろうした。すると夢にお告げがあった。左の格子こうしに寝ているわらわがよい守本尊を持っている。それを借りて拝ませいということじゃ。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
幸子は一人おもて格子こうしさんを両手で握ってごとごとゆすっていた。彼女は二つだ。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
お島は時々こまか格子こうしのはまった二階の窓から、往来を眺めたり、向いの化粧品屋や下駄屋や莫大小屋メリヤスやの店を見たりしていたが、おりのような窮屈な二階にすくんでばかりもいられなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)