敷居しきゐ)” の例文
代助は、一つみせ別々べつ/\品物しなものを買つたあと、平岡とつて其所そこ敷居しきゐまたぎながら互に顔を見合せて笑つた事を記憶してゐる。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
よく見ると戸締りは恐ろしく嚴重げんぢゆうですが、縁側の雨戸が一枚、外からコジ開けた樣子で、敷居しきゐの痛んだところがあります。
唯吉たゞきちは、あたかもいひつけられたやうに、敷居しきゐけたうへへ、よこざまにみゝけたが、可厭いやな、とふはなんこゑか、それかないはうのぞましかつた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
私は、その敷居しきゐを越えて、歩いていつた。よく晴れた秋の朝で、朝早い太陽が、茶色になりかけた森や、まだ緑色をした畑の上に、靜かに輝いてゐた。
るせ、かなんかで、入口いりぐち敷居しきゐこしをかける、れいのがりてくつをぬがせる、ともいほどむつましいとふはれのこと旦那だんなおくとほると小戻こもどりして、おともさん御苦勞ごくらう
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
貢さんは玄関と中の間の敷居しきゐうへに立つて考へた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
老師らうし相見しやうけんになるさうで御座ございますから、御都合ごつがふよろしければまゐりませう」とつて、丁寧ていねい敷居しきゐうへひざいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かたほそく、片袖かたそでをなよ/\とむねにつけた、風通かぜとほしのみなみけた背後姿うしろすがたの、こしのあたりまでほのかえる、敷居しきゐけた半身はんしんおびかみのみあでやかにくろい。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
英吉利をお去りになる? いゝえ、どういたしまして! あの方は家の敷居しきゐを跨ぐこともなさらなかつたのです。
「だがな八、敷居しきゐの穴を詰めた土は少し生濕なまじめりだし、雨戸の隙間すきまは、外からだつて拵へられるぜ」
もうつてはくださらぬかなどヽ敷居しきゐきわにすりつておそのけるもらず、學士がくしはそのときつとつて、今日けふはお名殘なごりなるにめてはわらがほでもせてたまはれとさらり障子しようじくれば
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
細君さいくんつた障子しやうじ半分はんぶんばかりけて、敷居しきゐそとなが物指ものさしして、其先そのさききん縁側えんがはいてせて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
パイロットではないだらうか、彼犬あれは臺所のドアが開け放してあるやうなことがあると、ロチスター氏の部屋の敷居しきゐのところまで上つて來るのは珍らしくないのだから。
「やツ、」とひとツ、棄鉢すてばち掛聲かけごゑおよんで、敷居しきゐ馬乘うまのりに打跨うちまたがつて、太息おほいきをほツとく……
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
笹野新三郎の聲に應じて、敷居しきゐの外からヌツとんがい顏を出しました。
三五らうるか、一寸ちよつときてくれ大急おほいそぎだと、文次ぶんじといふ元結もとゆひよりのよぶに、なん用意よういもなくおいしよ、よしきたがるに敷居しきゐとびこゆるときこの二タまた野郎やらう覺悟かくごをしろ、横町よこてうつらよごしめたゞかぬ
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
平岡の帰りを玄関迄見送つた時、代助はしばらく、障子にを寄せて、敷居しきゐうへに立つてゐた。門野かどのも御附合つきあひに平岡の後姿うしろすがたながめてゐた。が、すぐくちした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
引斷ひきちぎりては舌鼓したうちして咀嚼そしやくし、たゝみともはず、敷居しきゐともいはず、吐出はきいだしてはねぶさまは、ちらとるだに嘔吐おうどもよほし、心弱こゝろよわ婦女子ふぢよし後三日のちみつかしよくはいして、やまひざるはすくなし。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「手紙らしいよ、敷居しきゐの上に置いてあつたが——」
代助はり向きもせず、書斎へもどつた。敷居しきゐを跨いで、なかへ這入るや否や三千代のかほを見ると、三千代は先刻さつきすけいてつた洋盃コツプを膝のうへに両手で持つてゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まあ、おそろしいところからくらゐはなれたらうとおもつて怖々こは/″\振返ふりかへると、ものの五尺ごしやくとはへだたらぬわたし居室ゐま敷居しきゐまたいで明々地あからさま薄紅うすくれなゐのぼやけたきぬからまつて蒼白あをじろをんなあしばかりが歩行あるいてた。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うらには敷居しきゐくさつた物置ものおきからまゝがらんとつてゐるうしろに、となり竹藪たけやぶ便所べんじよ出入ではひりにのぞまれた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……極暑ごくしよみぎりても咽喉のどかわきさうな鹽辛蜻蛉しほからとんぼ炎天えんてん屋根瓦やねがはらにこびりついたのさへ、さはるとあつまど敷居しきゐ頬杖ほゝづゑしてながめるほど、にはのないいへには、どの蜻蛉とんぼおとづれることすくないのに——よくたな
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)