夜明よあけ)” の例文
メルルと云つて日本の杜鵑ほとゝぎすうぐひすの間の様な声をする小鳥が夜明よあけには来てくが、五時になると最早もう雀のき声と代つて仕舞しまふ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
だれも私ほど坊ちゃんを知ってる者はありませんよ。私ゃね、これで坊ちゃんに大変御贔屓ごひいきになってるんでさあ。どりゃひとつ夜明よあけうたを歌おう」
(新字新仮名) / 竹久夢二(著)
手前は御当家のお奥に勤めているりよの宿許やどもとから参りました。母親が霍乱かくらん夜明よあけまで持つまいと申すことでござります。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
卯平うへい田圃たんぼいて北側きたがはみちあるいたのでかれにはこと/″\夜明よあけごとしろつめたいしももつおほはれてはたけのみがうつつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
宗助そうすけこのわかそうが、今朝けさ夜明よあけがたにすで參禪さんぜんまして、それからかへつてて、めしかしいでゐるのだといふことつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
夜明よあけまで書を読んで居て、台所の方で塾の飯炊めしたきがコト/\飯を仕度したくをする音が聞えると、それを相図あいずに又寝る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
毎年まいとし冬のはじめに、長吉はこのにぶきいろ夜明よあけのランプの火を見ると、何ともいえぬ悲しいいやな気がするのである。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
男は幽霊か知らとは思つたが、それにしても二人の年齢としが一向合点がてんかないので、そのまゝ夜明よあけを待つた。
あるじが蝋燭を持って彼の後から階段のところまで送って出て、彼が階段を降りるのを照してやった時、夜明よあけの光はもうそこのよごれた窓から寒そうに覗き込んでいた。
眞夜中を過ぎると直ぐに夜明よあけになる。「果さなくてはならない仕事を始めるのに早すぎることはない。」
で、身體からだひどこゞえてしまつたので、詮方せんかたなく、夕方ゆふがたになるのをつて、こツそりと自分じぶんへやにはしのたものゝ、夜明よあけまで身動みうごきもせず、へや眞中まんなかつてゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
日本の小説にはないわけではない。その一つは青木健作あをきけんさく氏のなんとかいふ女工の小説である。駈落かけおちをした女工が二人ふたり干藁ほしわらか何かの中に野宿する。夜明よあけに二人とも目がさめる。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いまう、さつきから荷車にぐるまたゞすべつてあるいて、すこしも轣轆れきろくおときこえなかつたことも念頭ねんとうかないで、はや懊惱あうなうあらながさうと、一直線いつちよくせんに、夜明よあけもないとかんがへたから
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
土佐では槙山まきのやま郷の字筒越つつごしで、与茂次郎という猟師夜明よあけに一頭の大鹿の通るのを打留うちとめたが、たちまちそのあとから背丈せたけじょうにも余るかと思う老女の、髪赤く両眼鏡のごとくなる者が
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
もし今こうして忍び寄って来ているのがシルヴァーと彼の一味の者であったなら、一人だって夜明よあけの光を見られまい。それというのも船長が負傷しているからのことだ、と私は思った。
日田の皿山は大鶴村に属し、小字は小鹿田である。不思議にもこれを「おんだ」と読む。豆田を過ぎて筑後川に沿うて下り、夜明よあけ村から北へと折れれば大鶴村に達する。その行程は四里。
日田の皿山 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
見せられけるに長庵は一みるより死骸に取付扨は十兵衞にてありけるかかゝる事の有るべきとむしが知らせし物にやしきりに夜明よあけて出立致させたく我が止めしをも聞入きゝいれず出立なしたる夫故それゆゑに斯る憂目うきめ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
その母の子らかきおこす声きけば白木蓮はくれんの咲きて夜明よあけちかきか
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
泣いた夜明よあけの黒髪か。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
九時すぎにそつと寄つて戸からのぞくと桃色の寝衣ねまきを着た二十四五の婦人が腰を掛けて金髪を梳いて居た。夜明よあけの光で見た通りの美しい人である。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
にはとり神様かみさま夜明よあけらせること仰付おほせつかつたのがうれしさに、最初さいしよよる、まだお月様つきさまがゆつくりとそらあそびまはつてゐるのに、ときつくつてきました。
初冬はつふゆの暗い夜はまだ明け離れるのに大分だいぶ間があった。彼はその人とその人のかどたた下女げじょの迷惑を察した。しかし夜明よあけまで安閑と待つ勇気がなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
翌朝よくあさ純一は早く起きる積りでもいなかったが、夜明よあけ近く物音がして、人の話声が聞えたので、目をまして便所へ行った。そうすると廊下で早立ちの客に逢った。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
で、身体からだひどこごえてしまったので、詮方せんかたなく、夕方ゆうがたになるのをって、こッそりと自分じぶんへやにはしのたものの、夜明よあけまで身動みうごきもせず、へや真中まんなかっていた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
その画面は絵巻物を繰りひろぐるが如く上巻より下巻まで連続して春夏秋冬の四時しじわたる隅田川両岸の風光を一覧せしむ。開巻第一に現れきたる光景は高輪たかなわ夜明よあけなり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ういふ遠慮ゑんりよのない蔭口かげぐちかれるまでにはくるしいあひだの三四ねんすごしてたのである。かれ生活せいくわつはほつかりと夜明よあけひかりたのであつた。おつぎはこのとき廿はたちこゑいてたのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
しめつた自分の庭のしづくのたれるオレンジの木の下を、そして濡れた柘榴ざくろの木やパインアプルの間を歩く間に、熱帶の輝かしい夜明よあけが私のまはりにかゞやく間に、私は次のやうに考へを進めたのです
あなかそか父と母とは目のさめて何からせり雪の夜明よあけ
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
おき給ふな最早もはや夜明よあけにも間はあるまじ夫まではまづ暫時しばらく此所に休息きうそく致さん又其もとには定めて此近邊きんぺんの御人成んと聞にお粂も此人盜賊たうぞくなどにあらずと安心し打解うちとけさまにてそばへ寄私しは駿州江尻えじりの者なりと云ながらかほ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
夜明よあけのない所爲せゐであらう。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
もう夜明よあけ前ですよ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
主人夫婦もおめかしをして寄席よせ珈琲店キヤツフエへ出掛ける。おれも初めの頃はよく主人夫婦と夜明よあけ近くまで遊び歩いたもんだ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
私の起きた時間は、正確に分らないのですけれども、もう夜明よあけもなかった事だけは明らかです。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずれも今朝方、夜明よあけの一番列車で出て来て、思い思いに知合いの農家をたずね歩き、買出した物を背負って、昼頃には逸早いちはやく東京へ戻り、その日の商いをしようという連中である。
買出し (新字新仮名) / 永井荷風(著)
夜明よあけにひどく冷々ひや/\したつけかんな」おしなはいつて一寸ちよつとくびもたげながら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
砂寒き低山ひくやまの裾をる駱駝後先あとさきの影が夜明よあけいばえつ
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わたしは夜明よあけまでに
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
委敷くはしく言上に及びければ中納言樣には深く御滿悦遊ごまんえつあそばし汝ならでは然樣さやうの働きは成まじとの御賞美の御意なりまた御意には越前はさぞ夜明よあけ待遠成まちどほなるべし明朝は六ツ時登城すべし然樣さやうに計ひ申す可との御意なれば夫々の役々へ御登城の御觸出ふれいだしに及びける夫よりは御寢所しんじよへも入せられず直樣すぐさま御月代を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
空しき夜明よあけを眺むべく夕暮に山を下らん。